歯車の損傷と対策~摩耗~
「さて、歯車ってのはこれな。見たことあるかい?」
「ないです。これはどういうものなんですか?」
「これは動力を伝えるためのもので、この歯と歯を噛ませた状態でこっちを回すとこっちの歯車も回るってわけだ」
「なるほど」
「で、金属が合わさっててしかも回ってるわけだから、損傷もしやすい上に種類も多い。現物と照らし合わせながらしっかり覚えていきなさい」
「は、はい!」
軸受の損傷が終わったと思ったら歯車……。
でも大事な知識みたいだし頑張らないと!
「まずは摩耗からだな。摩耗はその状態によって大きく5種類に分けてるぞ。正常摩耗、アブレシブ摩耗、スクラッチング、フレッティング、過度の摩耗、だ。順番に説明していくぞ」
「はい」
「正常摩耗だが、これは歯車を使用する上で避けられない摩耗だな。全体的に同じような当たりをして表面が綺麗になってるだろう? この状態で使い続ければ歯車の耐用寿命の限界まで使うことが出来る」
「良い状態なんですね」
「そういうことだな」
正常摩耗は避けられないもので、そのまま最後まで使うことが出来る状態。
「次がアブレシブ摩耗。別名すりみがき摩耗とも言われてて、砂や潤滑油の中の不純物、歯車自体や周りの金属摩耗粉なんかの異物が歯に縦方向につけちまったすりきずのことだ」
「細かくて浅い擦り傷ですか。軸受の時にもありましたね」
「そうそう、それと同じようなもんだ。続けて三つ目のスクラッチング。アブレシブ摩耗に比べて深くてはっきりした傷で、これはアブレシブ摩耗よりも大きい異物が噛み込むとこうなっちまうんだな。そんで歯の接触面に縦方向のひっかき状の線や傷が出来る」
「確かにこっちと比べるとかなりはっきりしてますね」
「そうだろう。対策は両方同じで、潤滑油の清浄化を行うこと。歯車装置内、貯油タンク、配管の清掃やらで外部からの異物の混入を防ぐことだな」
「なるほど」
アブレシブ摩耗とスクラッチングは異物を噛み込んだことによる擦り傷やひっかき傷。
アブレシブ摩耗の方が薄くて、スクラッチングの方が激しい。
対策はどちらも同じで潤滑油の清浄化、ってことだね。
「次がフレッティング。金属が薄い層もしくは薄い欠片になってはがされる損傷だな。対策としては運転荷重の低減、潤滑剤の適正化、軸の回転精度の確保、ミスアライメントの修正だ」
「ミスアライメントも軸受の時に聞いた気がします!」
「よく覚えてたな。ミスアライメントっていうのは傾いたり位置が悪かったりして、ずれてることを言う。こんな風に同じ意味の言葉が何度も出てくることがあるから意味も理解しておくんだよ」
「はい!」
フレッティングは金属が薄く剥がれる損傷。
対策は荷重の低減、潤滑剤の適正化、軸の回転精度の確保。
「最後が過度の摩耗。文字通りすごく摩耗してる状態だ。歯がかなり削れて、相手の歯車の歯の跡がくっきり出るくらい削れてるだろう」
「こんなに削れるものなんですね……」
「荷重に対して油が足りていないと金属同士が直接接触してしまって、えらい勢いで削れちまうんだよ」
「普通は直接接触しないんですか?」
「ああ、給油が十分だと油膜が直接の接触を防いでくれるから、損傷が抑えられるってわけだ」
「なるほど。油ってやっぱり大事ですね」
「そうだぞ。潤滑剤が合ってなかったり足りてなかったりすると色々なトラブルを引き起こすからな」
「ははー」
油は大事。
アタシも潤滑剤みたいな大人を目指そうかな。
「てなわけで対策は潤滑油の粘度アップ、清浄化、供給量の増加な」
「いつもの、って感じですね」
「そうだな。マジで潤滑剤は大事だからな。学科の方では詳しく勉強しないといけないから頑張れよ」
「はい!」
過度の摩耗は歯の跡がくっきり出るくらい酷い摩耗。
原因は潤滑剤の不足と、潤滑油の中の小さい異物。
対策は潤滑油の粘度アップ、清浄化、供給量の増加。
「摩耗は以上。次は塑性流れだ」
「はい!」