軸受の損傷と対策~クリープ、電食、錆・腐食~
「どんどん行くぞー。次はクリープ。軌道輪がラジアル荷重を受けて移動することで、まぁ有害なすべりのことだな。この微妙な移動を繰り返すことで錆に似た摩耗粉が出る摩耗も一緒に起きる」
「滑っちゃうんですねー」
「そうだな。だから原因は締め代不足や、締め付け不足だ。防止策は締め付け力の適正化、締め代を大きくすることだな」
「固定が大事ってことですね」
ふらふらしてる男はやめとけって母さんがよく言ってたなー。
どうしてもとなったらがっちり捕まえとかないと苦労するって。もしかして父さんがそうだったのかな?
「次は電食。この連続してたり断続してたりの点状のくぼみがよくあるやつなんだけどな、こっちを見てくれ
」
「細かい縞々みたいになってますね」
「これは熱で表面が柔らかくなったところに振動荷重でこういう細かいみぞが出来ることもある。ちなみにこれはリッジマークって呼ばれてんな」
「なんだか模様みたいで綺麗ですね」
「確かにな。わざと加工したみたいに見えなくもない」
「いいですね、これ」
こういう模様の指輪なんかも素敵だなー。
アタシも婿に相応しい立派な男と出会って、こういうのをもらって家を継いで……いやいや、今はこの世界で生きて行くことを考えないと。
その為にもまずは恩返し。だからたくさん勉強しないと!
「さて、原因は文字通り電気が通ったことだな。電気分かるかい?」
「はい、分かりますよ! 伝説のドワーフは電撃の魔法で神剣ブリネリングを作ったとされています!」
「圧こん……」
「え?」
「いや、すまん、なんでもない。電気が通って薄い油膜を通してスパークが発生。その熱効果で接触表面が溶けて噴火口みたいなくぼみを作るってわけだ」
「なるほど」
「防止策はずばり電気を流れないようにする事だ。電気を余所に逃がすアース用意するのが一般的だな。アースってのは電気の逃げ道のことな。またその内詳しく説明すっから」
「はい!」
雷を避ける為の避雷針みたいなものだよね?
父さんも母さんからの雷を避ける為によく叔父さんを身代りにしてたっけ。
結局二人揃って怒られてることがほとんどだったと思うけど。
「次は錆と腐食だな。まず錆ってのは酸化物なり水酸化物が金属表面に発生することだな。原因は大体水分だったり、手に着いた汗や手垢。腐食の方は潤滑剤の水分や極圧剤と水が反応して腐食を起こしたり、腐食性の液やガスが侵入することだ」
「錆はなじみ深い言葉ですね……」
錆だらけの武器や防具を持ち込まれて依頼人を叩きだすドワーフの多い事多い事。
勿論そんなもの持ち込んでくる方が悪いので、どんどん叩き出せばいいと思ってるし、アタシも何度か叩きだしたことあるからね。
「防止策はまずは密封装置の強化。次に完全に放置しないこと。運転に期間が空く場合はたまに短時間でも回してやったり、手で回して位置をずらしておく。あとは潤滑剤に流動性のある油を使って接触部に入り込みやすくする。軸受の保管は湿気が少なくて風通しの良い場所でな」
「はい」