軸受の損傷と対策~ピッチング、フレーキング~
説明は工房に戻ってからということで、少しの時間待つことになった。
その間にシャチョーさんは色々な場所の軸受を交換してきた。
今回異常があった軸受は一つではなく、ある程度たまってからまとめてお願いするのがいつものことだそうだ。
「ある程度たまるかすぐ対応しなきゃならんのが出たらまとめてって感じだな」
とはシャチョーさんのお言葉。
この軸受一個直す為だけに呼ぶのも来るのも手間なのはアタシでもなんとなく分かるけど、異常が出てもしばらく放置される軸受達……あんた達は働き者だよ。
シャチョーさんも一仕事終えて帰宅。
次の予定もすぐにはないとのことなので台所でお茶をいただきながらのお勉強開始だ!
「よし、じゃあまずはこれな」
「これは……細かい傷?」
「よーく見るとここに細かい穴がいくつもあんだろ。ピットっつってこういうこまかーい孔が出来てる状態をピッチングってんだ」
シャチョーさんから手渡されたのは転がり軸受の外輪だけ。
玉が通る場所である軌道面をよく見ると、確かに小さな粒粒が出来ている。
「これはこういう小さい部分に力が加わってこうなってるわけなんだが、主な原因としては砂粒・サビ・金属粉なんかの異物が噛み込んだりだとか、衝撃を受けて逆に盛り上がっちまった場所なんかで精度不良を起こしたことだったりするな」
「ふむふむ」
「防止策は、潤滑油膜つって……まぁしっかり給油された状態を維持出来るように粘度を増やすとかだな。あとは異物が入らないようにする。これは環境を整えたり、それが無理ならこんな感じでシールつきの軸受を使ったりすりゃあいいな」
ゴトリと置かれたのは両側も金属の蓋で覆われている玉軸受。
内部のベアリングが全く露出していない。重装甲、って感じがしてかっこいいねこれは。
「次はフレーキングだ。これは表面がうろこ状にはがれることだな。正常な状態でも負荷がかかる場所は起きたりするが、異常な要因も多いからきっちり覚えとけよ」
「はい!」
「とはいえ、簡単に言えばフレーキングってのは表面に変な力がかかった時に起こる現象だ。それがどういう掛かり方をしたか、ってだけだから難しく考える必要はないぞ」
「なるほど」
「じゃあ分かりやすく伝える為に、この棒を軽く握ってみてくれ」
差し出された棒の先端を右手で軽く掴む。
反対側はいつかと同じくシャチョーさんが持っている。
「持ちました!」
「じゃあお前さんのその手が軸受だとするだろ」
「はい」
「そのまま手は固定しといてな。それで、こう棒が傾いた状態で取り付けたとする」
「力のかかり方が偏ってますね」
「これが傾いた状態で取り付けちまって、応力が均等になってない状態だな。これをミスアライメントっつわけだ」
「なるほど」
「じゃあ次は握ってる手に力を入れてみてくれ」
「はい!」
隙間なくでも力は入れていない状態だったのを、キュッと握る。
その状態でシャチョーさんが棒を回転させると、掌で棒が擦れて棒が苦しそうだ。
痛かったりはしないけど。アタシはドワーフらしく掌の皮が厚いからね。
「無理して回転してる感じですね」
「これが軸受すき間が負、つまり予圧をかけすぎちまってる予圧過大っつう状態な」
「ふむふむ」
「次はこの砂利と一緒に握ってくれ」
「じゃりじゃりします」
「異物の噛み込みだな。圧こんや打こんがあるのも同じような状態っつうことで一括りにされてる」
「出っ張りがあったら異物があるのと一緒ってことですね」
「そういうこったな。砂利はゴミ箱に捨てといてくれ」
「はい」
ゴミ箱に向かって手をはたく。
実演は一旦終わりらしく着席してお茶を飲む。
添えてあったおせんべいを一口ぱくり。うん美味しい。
「あとは潤滑剤に水分が混ざってたり、サビが浮いてたりとかもある。あとはそもそも荷重が大きすぎる場合だったり、軸の精度が悪かったりだな」
「なるほど」
はい、なるほど、ばっかり言ってる気がするけどちゃんと聞いてるよ。
初めてのこと過ぎて感想がこれしか出ないだけなんだよ。
とりあえずここまでをまとめると、フレーキングは表面にうろこ状のはくりが起こること。
原因としては正常な回転の結果として起こるもので、これは正常なフレーキング。
異常な要因はが結構沢山ある。
傾いて取り付けられたことによる応力分布が異常な時。
軸受すき間がマイナス状態になってる場合(予圧過大)。
異物の噛み込み、傷、圧こん、打こん。
軸、ハウジングの精度不良。
潤滑剤に水分が混入したり、軌道面上にサビがある場合。
過大荷重が負かされた場合。
ほんと多いね
「これらがフレーキングの主な原因ってわけだ。んで防止策な」
「はい」
「まずは定格荷重の大きい軸受を使う。単純に荷重に負けてる場合はこれだな」
「はい」
「次は異常荷重が加わってないかを調べる。どういうものか分かるか?」
「取り付けの不備だったり、異物が入ってないか、ですか?」
「そうだな。傾いてたり、予圧が大きすぎないか確認するのと、異物が入るような状態にないかの確認だな、えらいぞ」
「へへへー、やりました!」
「よしよし。で三つ目が潤滑油の粘度を上げたりして潤滑法を改善する、だな」
定格荷重の大きい軸受を使う。
異常荷重が加わってないかを調べる。
潤滑法を改善する。
これがフレーキングの防止策だね。