歯車の損傷と対策~塑性流れ~
「次は塑性流れだ。まず塑性流れってのは強い力が加わって材料が降伏して出来た表面の塑性変形のことだ。プラスチックフローとも言うぞ。これも状態によって大きく6つに分けられるから順に紹介していく」
「あの、塑性変形っていうのはどういうことですか?」
「塑性変形ってのは、物に力を加えて形を変えた後に、その力を取り除いても元に戻らずにそのまま残る変形のことだ。簡単に言えば、凹んだり伸ばしたり曲げたりして、戻らずにそのままの形が残れば塑性変形ってわけだな」
「なるほど」
「この塑性変形って言葉もよく使うから、覚えときなさい」
「はい!」
力を加えて力を抜いても戻らない変形のこと。
切ったり削ったりするのは違うらしい。
「じゃあ最初はローリング。過負荷があってすべりが起こり、棒でパン生地を伸ばした時みたいに歯先に表面が大きく押し出されたような現象が起こった状態の歯面のことだ」
「確かに無理に押し込まれたみたいになってますね」
「それが特徴だな。続けてピーニング。繰り返し衝撃荷重により接触した相手に凹みが出来て、歯たけや歯幅方向に表面が押し出されたような状態が出た歯面をこう呼ぶ」
「これもローリングに似た形をしてますね」
「そうだな。だから原因も対策も大体同じだ。まず原因は歯車の計画荷重に対する過負荷、歯車の設計の不適切、歯車の材質の欠陥または熱処理の不適切なんかだな」
「力が掛かり過ぎてたり、材料が弱かったりってことですね」
「おう、そうだな」
歯車が弱いか力が強すぎるかする、どちらにせよ歯車が力に耐えられないと発生するってことだね。
「対策は運転荷重の低減、または歯車強度の改善だ。これは分かりやすいな」
「そのままですもんね」
ローリングとピーニング。
押し出されたような跡が特徴。
原因は過負荷、設計の不備、歯車の材質の欠陥や熱処理の不適切。
対策は荷重の低減、もしくは歯車強度の改善。
対策はどれも原因の反対の事だけど、これは特にそのままって感じがするね。
「次はリップリングだ。歯面の同時接触線方向に波形あるいは魚の鱗みたいな模様が出てくるもので、浸炭焼き入れって処理をしたハイポイドピニオンによく見られるな」
「ハイポイドピニオン……?」
「特殊な歯車の一種だな。今は気にしなくて大丈夫だ」
「はい」
「リップリングの原因は大きい負荷や振動がある場合、あとは潤滑が不適当な場合だな」
「ふむふむ」
「似たのにリッジングってのもあるんだが、これもハイポイドギアだから置いといて大丈夫だろう」
「はい」
リップリングは波型や魚の鱗状の模様が出る。
原因は大きい負荷や振動、それか潤滑が不適当な場合。
「どんどん行くぞ。次は歯の倒れだ。強すぎる負荷が歯元の弾性限度を越えちまって、文字通り歯が全体的に倒れることだな。対策としてはまずこうなったらもう使えないから歯車を変える。同じものじゃなくて、強度が足りてるものに更新するわけだな」
「なるほど」
「熱なんかの影響があった場合は潤滑条件を変えたりなんかの、熱の影響を除外する対策も取る必要があるぞ」
「なるほど!」
歯の倒れはそのまま歯が倒れること。
原因は過大な負荷。
対策は強度が確保された歯車への更新。熱の影響があった場合は潤滑条件を変えるなどの熱影響の除外も必要になる。
「最後はバリ。歯にかかる荷重に対して歯面の硬度が不足して歯先や歯幅の端に伸びた材料がはみ出した状態のことだ。歯面の硬度が足りてない場合、潤滑剤が不適当な場合、歯車の材料に焼入れがされていない場合なんかが原因だな」
「焼入れって熱処理のことですよね。歯車も焼入れをして硬くしてるんですね!」
「そういうこったな」
焼入れはアタシのいた世界でもあった技術だからね。
危機馴染のある言葉が出てくるとちょっと嬉しい。
「てなわけで対策は焼入れを適性に行い、粘度の高い潤滑剤を使用することだ」
「はい」
バリは先端や横に塑性変形した材料がはみ出した状態。
原因は歯面の強度不足、潤滑剤が不適当、歯車の材料に焼入れがされていない。
対策は焼入れを行う、粘度の高い潤滑剤を使用する。
「それじゃあ次は表面疲労だ」
「はい!」




