プロローグ
早速だけどアタシの名前はラジアル・アキシャル・スラスト。
誇り高きドワーフのアキシャル部族、スラスト家の一人娘だ。今年で15歳、つまり成人を迎える。
婿を取り父親を越える立派な族長になるのがアタシの目標……だったんだけど、鉱山の崩落に巻き込まれたと思ったら不思議な世界にいた。
そこではニンゲンが見たこともないような服を着て、見たことも無いような技術を使って生活していた。
そう、この世界では魔法なんかは無い代わりに、技術が物凄く発達していたんだ。
蛇口を捻ると綺麗な水が出てくる。
両手で掬って顔を洗うと気持ちがいい。飲んでもすごく美味しいのに、何にでもこの水を使ってるらしい。
そして側に掛けてあったふわふわのタオルで顔を拭く。
これも有り得ないくらい肌触りがいい。服も下着も、もう昔のものは着たいと思えないくらいにすごい。
「おう、起きたかい」
「あ、シャチョーさん、おはようございます!」
ここは洗面所。のっそりと顔を出したのは、ニンゲンの割に背の低いナカタ・シャチョー。
猿に似てるけど体つきはがっしりしている。
行くあてのないアタシを拾ってくれた恩人だ。
「ああおはよう。ゆっくり寝られたかい?」
「はい、シャチョーさんのお陰でぐっすりでした! それで、あの……」
「そうかそうか。積もる話もあるだろうけどよ、とりあえず飯にしようや」
「あ、はい! ありがとうございます!」
実は拾われてからあれよあれよという間にお風呂に入らせてくれた上に食事も取らせてくれて、食後はそのまま熟睡してしまったせいで何も話せていない。
シャチョーさんの器のでかさが良く分かる。
しかしそれではいけない。
誇り高きアキシャル部族の族長の娘として、受けた恩は返す。元の世界に帰れるかも分からないけど、目の前のことからやっていくんだ。
朝食も終わり、食後のお茶もいただいてから、シャチョーさんとじっくり話をした。
色々伝えたし、色々聞いた。アタシのことや、この世界のこと。恩返しがしたい、せめて何かの役に立ちたいことを。
シャチョーさんの工房であるここは、幸いにも金属の加工や機械の修理なんかを請け負っているらしい。
好都合だった。
アタシはアキシャル部族の族長の娘。手先の器用さでは同じドワーフの中でも抜きんでている筈だ。
だから手伝いをさせてほしいと頼み込んだ。
最初は困ったような顔をしていたものの、最終的には認めてくれた。
だけど、条件を出された。
それは工房を案内されたアタシが初めて見る技術や機械を全く理解出来なくて呆然としていたせいだ。
アキシャル部族の族長スラスト家の娘として情けないったらなかった。
「うちの手伝いをしながら機械保全技能検定の勉強をすること。いいかい?」
「キカイホゼンギノーケンテー……?」
「機械のメンテナンスなんかをする連中が取る資格だ。こいつに合格出来るくらいの知識と理解がありゃあ、うちのうちの新人よりも役に立つだろうよ」
「分かりました。勉強させていただきます!!」
「おう。まぁ、無理はするんじゃないぞ」
「はい!!」
こうして、アタシの新たな生活が始まった。
目指せキカイホゼンギノーケンテー合格!!