せかいで一番の夜けいが見たい
「これが世界一の夜景の街、ボルヤルです」
かれは言いました。
「長かったお嬢様の旅もようやく終わりです」
わたしの旅はどうやらおわったらしいです。
「お疲れ様です」
ええ、つかれましたとも。
よくここまでがんばったと、そう自分をほめたいと思います。
思いかえせば、ほんとうに長い旅でした。
はじめにわたしたちがおとずれた氷のイース国は、その二つ名の通りとってもさむいところでした。
持っていった食べもののほとんどがこおってしまいました。
イース国の人が火の点け方をおしえてくれなかったら、しんでしまうところでした。
やまないふぶきの音を聞きながら、毎日みんなでふるえて夜を明かしたのをおぼえています。
雪山をこえるときに、ヴァットはなだれにのまれてしんでしまいました。
私たちはさばくにあるウーケン国にもおとずれました。
かんそうしているこの国は、その大きな土地の半分ほどがさばくになってしまっています。
さばくとは、あたり一面がすなだけの大地のことを言います。
食べものはもちろん、水もあまりありません。
それにくわえてとってもあついのです。
さばくをこえるとちゅう、そのあつさに負けてアーはしんでしまいました。
そうそう、ジョンゲルにおとずれたこともありました。
ええ、ここは国ではありません。
ふかい森が広がるこのちいきのことをそうよぶのだそうです。
あそこはウーケン国みたいにとてもあついばしょでした。
ウーケン国のときからずっとあつく、イース国がこいしくかんじられました。
それでもここはしめっているきこうだったので、木や草だけでなく虫やけものやらがたくさんいました。
ディンはフェーというけものにおそわれて、しんでしまいました。
でも一番よくおぼえているのはレッルンサです。
私たちがおとずれたとき、レッルンサは大国オンスキャのせいふとないせんちゅうでした。
私たちの国フィクホンはとても平和な国なので、どうしてせんそうをするのかぎもんでしかありませんでした。
しかも同じ国どうしで。
レッルンサのちいきの人々が王さまにはんらんを起こしたのだとききました。
もうすぐせんそうがはじまって一年がたつそうです。
ミアナンデとアットはじゅうでうたれてしんでしまいました。
そんな旅をつづけてついにわたしはここ、せかいのはしっこボルヤルにたどりつきました。
わたしはかれに言います。
「まあとってもきれいなけしきね。きっと私はこれを見るために生きてきたんだわ」
かれはこたえます。
「ええ、とっても美しい眺めです」
わたしはかれにききます。
「ねえリーアバ、あの海のむこうには何があるの?」
かれはこたえます。
「お嬢様がフィクホンの隣国、グランネにございます。あの大海を越えると私たちは、いえお嬢様は世界を一周なさったことになるのです」
わたしはおどろきをかくせません。
「一周? ここはせかいのはしっこの国でしょう?」
かれはこたえます。
「ええ。しかしながら端とは、私達フィクホンでの呼び名です。この世界に果てなどないのです」
あたまがついていきません。
「なにをいってるの? リーアバ」
かれはこたえます。
「世にはお嬢様のまだご存知ないことがたくさんあるのです」
わたしのことばをさえぎり、かれはつづけます。
ヴァット、アー、ディン、ミアナンデ、アット、そして私リーアバ六名はお嬢様の父上、フィクホンの国王陛下に仕えるよう、幼少の頃より養育されて参りました。私達は孤児のところを拾われた身ゆえ、それ以外の生き方どころか自分の本当の名も、両親の名も顔すらもわかりませんでした。それでも周りからは、王家に仕える名誉ある仕事だと、お前たちは運がいい恵まれていると、そう言われて育ってきました。私達もそう思っていましたし、それ以外の考えなど浮かんできもしなかったのです。
お嬢様がお生まれになって、直接仕えることになってからも、この旅路についてからもそこに変わりはありませんでした。
しかし、イース国での最後の晩のことです。
ヴァットに一通の手紙が届きました。
実の母親が見つかったという報せでした。
彼の母はどこにでもいそうな平凡な町娘でした。
変わっているところといえば、端正な容姿を持ち合わせていたこと、そして彼女には物心ついた頃から両親がいなかったことでしょうか。それでも彼女は自分を一人で育て上げてくれた祖母と二人で、貧しくも静かに仲良く暮らしていました。
小さい頃なんかは特に、自分に両親がいないことをよく周りから言われたものでしたが、彼女が気にすることはありませんでした。彼女には大好きな祖母がいてくれるだけで十分幸せだったのです。
そんなある日のこと。
彼女がいつもの様に買い物をしていると、一人の男が彼女を後ろから呼び止めました。
少し小太りな中年の男ではありましたが、整えられた髪とあご髭、程よくくたびれた上質なスーツ、その袖から覗く黄金色の腕時計、汚れ一つない黒光りした革靴、そのどれもがこの町には似つかわしくなく、彼女とは生きる世界が違うのだということを物語っていました。
「この町には珍しい、別嬪な娘だ。この前のは見間違いではなかったようだ。どうだ、私の元で働いてみる気はないか」
翌日から彼女の収入は、三倍以上に膨れ上がることとなります。
最初は祖母を思って町に残ろうかと考えた彼女でしたが、生活が苦しいのは事実で祖母も彼女の背中を押してくれたため、彼女は故郷を離れることを決めました。
男は大企業の社長を務めていたため裕福ではありましたが、私的な出会いも時間もなく未だ独り身でありました。彼女が目をつけられたのはそのためだったのです。
二人に子ができるまでそう時間はかかりませんでした。
身ごもったことを祖母に知らせに故郷の家へ彼女は帰りました。しかしそこには祖母はおろか家すらもなかったのです。
引っ越したのだろうと思った彼女でしたが、祖母は一人でそんなことができる歳でもありません。不思議に思って彼女は近所の人に尋ねると、彼らは答えます。
「おばあさん? 何言ってるんだ、病気で亡くなったって聞いたけど違うのか? 家が壊される前によく綺麗な真っ黒い車が来ていたから、あんたが看病するために連れてったんだと思ってたよ」
もちろん彼女には祖母が病に侵されたり、ましてや亡くなった知らせなど届いていません。 それを聞いた彼女の旦那は答えます。
「それは残念だ。でもよかったじゃないか、これからはあんな町も忘れて私に集中できる」
彼女はもう二度と彼に会うことも、故郷に戻ることもありませんでした。
遠くの国に逃げた彼女は腹の子を産み落とし、また別の国へと、もっと遠くへと去って行きました。
ええ、その子供がヴァットだったのです。
手紙には王家のものとは思えない、手書きの異国の言葉が書かれた小さな紙切れが付いていました。
「謝りたい、償えるとは思っていない、ただ会いたい、愛している」アットが訳します。
その最後には、ハイルへ、とそう書かれていました。
ヴァットにつけられたはずの名だそうです。
異国の言葉で「愛」を意味する名でした。
ヴァットは泣いていました。
会ったことなどない女性からの手紙に。
会いたい、そう言っていました。
彼が雪崩に巻き込まれたのは、その翌日のことでした。
ヴァットだけではありません。
アーは元々体が弱い奴でした。それに加えて温厚な性格でしたから、幼少の時をいじめられて過ごしました。
体が弱いってだけでなんでいじめられなくちゃいけないんだ、好きでこうなったわけじゃないのに。
両親を恨むことはあれど感謝することなどない、自分の体と両親を卑しむ日々です。
「強くなりたい」
それが彼の唯一の願いであり、王家の養育施設に入った理由でもありました。
しかし彼の体はその願いに応えることはできませんでした。訓練ですぐに体を壊してしまう彼は、最初の頃は怪我をした体を引きずってまでも訓練に参加していましたが、途中からは養生のために見学している時間の方が長くなっていました。
結局、彼の配属は調理人に決まりました。王家直属の調理人というだけで十分すごいのですが、私は彼が喜んでいる顔を一度も見せなかったのを覚えています。そして、配属が決められる前日まで誰よりも訓練を積んでいたことも。
もちろんご存知のようにこの旅路でも彼の配属は調理人でした。彼の素晴らしい料理の味、お嬢様も覚えていることと思います。
しかし、もう味わうことはできないのです。
彼はウーケン国の暑さに弱り、持病が悪化して亡くなりました。
激しい運動等をすることで進行が進む心臓の稀な先天性の病だそうです。彼が亡くなる直前、彼の口から聞いて初めて知りました。今までずっと隠していたそうです。
それは施設に入ってすぐの検査で発覚したものでした。その病には先天性なこともあり特効薬がなく、進行を遅らせることしかできない上、運動等で病気を無理に進行させなくてもそのほとんどの場合が幼いうちに亡くなってしまうのだそうです。本来、幼児の頃に親が発見するべきもの、いいえ発見していたのかもしれません。
彼はそこで、この先どれくらい生きられるかわからない、持って五年程度だろう、訓練などしてはもっと早まる、そう言われました。無理に訓練せずとも調理人とかを目指せばいい、そうとも言われました。しかし彼は、今までの惨めな人生を変えるために来たんだ、そう言って聞かなかったそうです。
「どう、強くなったもんでしょ」
彼がその言葉を発しその人生を終えるまで、施設に入ったあの日から、十年以上の月日が流れていました。
ディンには恋人がいました。もちろん仕事仲間の女性です。初めて聞いた時は、それはそれはもう大変驚いたものでした。
「おいディン、恋人できたって本当か? どういうことだよそれ」
「あの防具の仕立て屋の子なんだろ?」
「なんて、なんていわれたんだよディン!」
「それがさぁ、」
「付き合ってほしい?」
「そうなの! わかってる、わかってるよ。六人は施設育ちだから恋愛なんてわかんないんでしょ?」
「そうだよ、なんで俺なんか」
「なんでなんだろね。わかんないよそんなの…。でもそういうもんなの! ごめんね、迷惑ならいいんだよ全然」
「いやぁ別に迷惑ではないけどさぁ。君はいいの?」
「当たり前じゃん! ディンがいいの。ディンじゃなきゃだめなの!」
「そう言われてもなぁ」
「絶っ対楽しませるから! ディンに恋の楽しさを私で知ってほしいの。私のことなんか好きじゃないんだろうし、女の子のこと好きになったことなんてないと思うけどさ、私が好きにさせるから! 私がディンの初めての好きな人になりたいの!」
休みの日になる度に彼女は、部屋にこもってばかりいるディンを引っ張り出しては街を連れ回し、一緒に夕食を食べたり、カフェや映画館、遊園地なんていうところにも連れて行ったと言っていました。
恋愛や、ましてやろくに街で遊んだこともないディンに、彼女は多くを与えたのです。
「今日は珍しいね、公園だなんて」
「たまにはいいでしょこーゆーのんびりしたのも」
「まあね」
「何? またパンケーキでも食べたかった?」
「いや、」
「もー素直じゃないなあ。すっかりディンも甘いもの大好きだもんね」
「まああんなの王家の食事じゃ出てこないからね」
「そうだよねえ。じゃあほらこの前の遊園地は? すっごい楽しそうだったじゃん。ジェットコースターなんて叫びまくってたよね」
「まあ」
「どう? また行きたい?」
「んー、」
「ふふっ可愛いね」
「うざい」
「ははは。でも私はねー、こうやってディンとおしゃべりしてるだけでもすっごい幸せなんだあ。なんなら、ディンとはなかなか休み合わないからさ、会えるだけでとっても嬉しいんだよ、私は。ディンもそうでしょ?」
「どうだろうね」
「ははっ。いっつも無愛想で真面目な家臣様なのに、こうやって素直じゃないけどたまに可愛いところが好きなんだあ私。」
「そうですか」
「そうなの! あ、そういえば来週からお姫様の旅のお供なんでしょ?」
「そうそう、大陸横断してボルヤルまで」
「そっかあ。じゃあ次はいつ会えるかな」
「いつだろうね」
「また、すぐ会いたいね」
「………」
「ふふっ」
パンケーキも遊園地も公園でのお喋りも人を好きになるということすらも、私達には到底理解のし難いものばかりでした。
「ねえディン? ディンは私のこと好きになってくれた?」
「…わかんないよそんなの」
「ふふっ。またまたー」
それはディンにとっても同じなのだと思っていました。
しかし。
「くそっ血が止まらない!」
「もっとだもっと強く抑えろ!」
「やってるよ! 傷が深すぎるんだ! そうだ、お嬢様は?」
「大丈夫だミアナンデと安全な場所に避難した」
「良かった。畜生、あんな獣までいたのかこの森は!」
「はぁ…はぁ…」
「ディン! しっかりしろ! もういい、もう喋るな!」
「はぁ…はぁ…」
しかし、彼が死の際に繰り返しつぶやいていた恋人の名を聞いて、彼女の努力はすでに実っていたことを知りました。
ミアナンデとアットは仕事仲間であるだけでなく、とても仲のいい友人でもありました。
私達四人が施設に入る前は彼ら二人だけが育てられていた上、私達とは違って歳が同じでとても仲のいい間柄でした。
「よう、初めましてだな!」
「こいつはアット、おれはミアナンデってんだ。よろしくな」
「お前、名前は?」
私が初めて施設に入った時から彼らの威勢の良さは変わらず、彼らのその高圧的な態度に気圧されたものです。ええ、正直言って気に入りませんでした。
「あり…ません」
「ない? また王様も変なやつを送ってきたもんだなー」
「じゃあおれらで決めてやろうぜアット」
「いいねそれ、何がいいかなあ」
「あ、昨日たしか食堂でおっさんが読んでたあれあったじゃん、なんつったっけ、雑誌?」
「あったね! あーあの表紙のかっこいい文字か!」
「そうそれよ。なんて読むんだっけ?」
「えーっと確か…」
リーアバ。かつてこれほど雑に名を授かった子供がいたでしょうか。
彼らの態度は決して変わることはなく、その後入ってきた残りの三人もきっと当時は嫌っていたことでしょう。アーなんかは文字通り命の危険を感じたに違いありません。
ろくに遊び方も知らない彼らだったので、休みの日でも格闘で競っては訓練時よりも多く傷を作ることも多々ありました。この旅の途中でも彼らの会話といえば、お嬢様を一番笑わせられるのは俺だ、この料理は俺の方が上手い、俺の方が多くの異国の言葉を話せるんだ、そんなことばかりだった気がします。
そしてオンスキャを抜ける時、ちょうどレッルンサの近くを通った時のことでした。
「止まれ貴様ら! どこへ行くつもりだ、逃しはせんぞ裏切り者ども!」
無骨な機関銃を肩にかけた男が僕らの歩みを止めました。その男の後ろには同じような装備を身につけた屈強な男たちが四人ほど仕えています。
「な、何をおっしゃっているんですか!」
アットが咄嗟に反応します。
「黙れ! レッルンサ風情が王に盾突きおって…!」
「レッルンサ? 違いますよ僕らはフィクホンの王家です!」
「フィクホンだと…? ここから何万キロ離れていると思っているんだ! たわけが…撃ち殺せ!」
「待ってくれ! 信じないのなら撃ち殺せばいい。でも一つだけ聞かせてくれ!」
ミアナンデが叫びます。
「何言ってんだミアナンデ! ちゃんと説明すれば…」
ミアナンデが背で、兵士に見えぬよう私達にハンドサインを送ります。逃げろ、と。姫様がお忍びでの旅をしたい、とのことでしたので王家と証明できるようなものは特にほとんど持って行かなかった上、ヴァットと共に雪崩に飲まれたのでした。
彼ら兵士が私達を殺さない理由はあっても、見逃す理由はありません。戦場での知識と経験に富んだミアナンデなりの考えなのでしょう。
覚悟を決めているのか、こちらに顔を向けない彼のその背には、一切の迷いがありませんでした。
「てめえ、何舐めたことぬかしてんだ…!」
アットが語気を荒げて言います。
「僕らは大丈夫でも、君はどうするんだミアナンデ」
「お願いします!」
私達が小声で彼に訴えるのを遮るかのように、彼は念を押しました。
「分隊長、どうしますか」
「ふん…いいだろう! 言ってみろ!」
兵士の長のような一人が答えます。
「ありがとうございます! では、」
再び、ミアナンデは私達にハンドサインをしました。先程と違うのは、もう片方の手に銃を握りしめていることです。
「では、なぜ、なぜ同族で争うのですか! 同じ血の通った国民ではないですか!」
「はははは! 愚問だ! それが貴様の最後の言葉でいいのか⁉︎」
ミアナンデは銃の安全装置を外しました。
「答えは、国民ではないからだ! 彼らは六十年前に我が国と併合した小国の分際で、ずっとひそかに王家の転覆を図っておった! 粛清されるのは当然だろう!」
「それでも六十年を共にした同じ仲間ではないですか! それだけ長ければ、同僚や親族にレッルンサの方々がいる人も大勢いるのでしょう。話し合うという道も選べたはずでしょう。あなたは友を、家族を撃てるのですか?」
「ふっ、平和な大国フィクホンの王家を自称するだけあって考えが生温いな。そもそもこのクーデターのもくろみが発覚したのは、レッルンサ出身の密偵からの情報だ。それも一つや二つではない。友? 家族? 笑わせるな、自らを売ったのは奴ら自身だ! 逆に貴様は自分を裏切った友や家族を許せるのか?」
「そ、そんなもの本当の友でも家族でもない!」
「本当のだと…? ははは面白いことを言うな。それが『真実』であると誰が決めるのだ? 例が多い方か? 平和な国家お得意の多数決というやつか? ならばこの国ではこの現状が『事実』であり『真実』だ! 現に貴様らが本当にフィクホンの王家だったとして、それは『真実』でありこの場においては『事実』ではない! 家族に至っては、現に血が繋がっているのだぞ? どう覆すというのだ!」
ミアナンデの顔が歪んでいくのが顔を見ずともわかりました。
「レッルンサが弱いから悪いのだ。彼らが友や家族などというくだらんものを信じたのが悪いのだ! だから裏切られる。だから弱い! どうやら我々を悪者にしたいようだが、弱い者が食われる、世の真理だとは思わんか? 自分の胃で溶けてゆく豚になぜいちいち思いを巡らせねばらなぬのだ」
「姫様を連れて逃げろ、アット、リーアバ」
ついにミアナンデがその口からそう私達に告げました。
「見たところ貴様も隣にいる豚共をよく肥やしたようだな。はははそうだ、そいつらを撃ち殺せば貴様は逃してやろう! どうだ? そろそろ食らい時ではないか? きっと良い味が」
ドンッ
その兵士を撃ったのはアットでした。
「貴様ぁ!」
残りの兵士がアットに銃口を向けます。
ドドンッ
次の瞬間、地面に倒れたのはミアナンデでした。アットをかばい、その命を無残な姿で終えました。
「…逃げろ。リーアバ」
アットの目はすでに私を見ていませんでした。
「ああああああああ‼︎」
ドドドド
彼の叫び声と銃声を背に私は走りました。お嬢様を背に乗せて。走り続けました。
私達は王家に仕えるために育てられてきました。
それが私達の生きる意味であり、使命でした。
しかし私はこの旅路で、仲間の死から多くを感じました。
今ならヴァットの涙の意味がわかります。
今ならアーが訓練に命を懸けた理由がわかります。
今ならディンにとっての恋人の大切さがわかります。
今ならミアナンデとアットの彼らを想う気持ちがわかります。
揺らぐのです。
どうにも揺らぐのです。
何か、まるで地面のように大きな、自分が今まで信じ続けてきたものが。
教えてください。お嬢様。
私の本当の名を。
私の強さを。
恋人との幸せを。
友人との日々を。
なぜ彼らは死ななければならなかったのですか。
お嬢様の旅路で、お嬢様のために、王家のために命を捧げて死んでいった彼らは、本当に使命を全うしたと言えるのですか。
この夜景のために生きてきたのだと、そうお嬢様はおっしゃいました。
では私は、
「何のために生きているのですか」
かれはききました。
わたしは答えます。
「わかんない」
リーアバはがけからとびおりて、しんでしまいました。
「おい、見たかよフィクホンの革命のニュース」
「ああ見た見た。ありゃあひでえな。独裁君主に終止符をって王城に攻め込むわ火放つわで散々なこった…」
「にしてもあの独裁政府も怖いもんだよな」
「孤児拾って養う代わりに洗脳教育までしてんだったっけ。そりゃあ反乱も起こるわ」
「オンスキャの内戦でレッルンサが優勢なのに奮起されたらしいな」
「怖いなあほんと。うちはとっくに民主制で助かったよ」
「でもなんでか知らねえがお姫様は無事だって聞いたなあ」
「ああ聞いたよそれ、なんでも専属の家来と旅に出てたんで免れたらしいわ。今もどっか国外にいるって聞いたな」
「なんだよそりゃすげえな。家来は革命のこと知ってたのかい」
「いやあそこまではわからんが、旅路でオンスキャの内戦に巻き込まれて死んだってやつまでいるらしいんだわ」
「命を賭しても姫様逃すってかい。大層なもんだな」
「ああ、これこそ『使命全う』ってやつだな」
「ちげえねえや。ははっ」




