表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

売れないことは罪。売れない奴は罪人。

初参加での成功からくる勢いで次の夏コミへ参加申請書を送りました。今回は実績(50冊売った)があるので8割方受かると思っていました。そして無事当選。今回は『アイドルマスター』の4コマ漫画でチャレンジです。


結果から言えば惨敗。10冊だけ売れて、残り40冊は持ち帰ることになりました。


前回と同じように描いて、同じように接客したはずです。さらに私には「一度参加した」という経験値が積まれています。しかもこれは成功体験なのです。上がることがあっても、下がることはないと思っていました。完売しないパターンなんて頭のどこにもありませんでした。


2回目、夏コミも当日朝までは、ほぼ同じです。再びコピー本を選択したので、ギリギリのL字ホッチキスでの製本を徹夜でやっていました。


前回と違ったのは、まず両隣のサークルの存在でした。年末は最初の挨拶以外、記憶にも残らない方々でした。今回は左隣のおじさんが妙に馴れ馴れしく話しかけてきます。それは私にだけではなく、様々な人に挨拶をしたり、話し込んだりしていました。聞いてみると、色んなサークルの手伝いをしているうちにコミケの常連になり、自然と顔が広くなってしまったとのことでした。


10時となり開場します。最初の30分は、やはり人がきません。これは前回と同じです。しかし違った点もありました。両隣のサークルにはそこそこ人が来ているのです。つまり、元々のコミケの目的がそこにあったということでしょう。これには焦りました。しかし本当の焦りはこれからです。客足が落ち着く時間帯になっても、私の本は売れないのです。そもそも見本を見てくれる人が少ない。たまに見てくれても、スッと戻して消えていってしまう。開場から2時間。12時になった時の売り上げは、ゼロでした。


昼過ぎに私の友人がやってきました。彼は一般参加で、コミケに来るのは初めてでした。そんな彼を呼んだのは、他ならぬ私。一度の成功で強気になっていた自分が恥ずかしい。ここにきてようやく一冊目が売れました。友人の前で多少見せ場が作れたことが、この夏コミでの唯一の救いでした。


さて、友人は帰っていきました。気づくと右隣のサークルが凄い人気です。「Twitterのファロワーさんが予想以上に来てくれた」とのこと。さらに人が集まり列をなします。通路には広がれないから隣の私のスペースに並ぶ。これはどうしたものかな。とりあえずは屈辱。だって私のブースにお客さんがいたら、こうはなりませんもの。ガラガラだからこそなるわけです。私には「君たち、マナーを守りたまえ」と言う権利はあります。しかし、そうやって開けたスペースに人はやってこないのです。情けなくて嫌になりますね。「すいませーん、前が塞がってしまうので・・・」と柔らかい注意を小さく繰り返しました。


16時になり客足が出口へ向かう時間帯になって「これ以上は売れない」と判断し、少し早く撤退しました。残り1時間なのだから、居てもいいかと思うでしょうが、その時の私は「早くこの場を去りたい」とばかり考えていました。売れない本売るという立場になれば、誰だって同じ考えになりますよ。私が16時まで耐えたのは人気のあった両隣から「逃げた」と思われたくなかったからです。それも限界を迎えました


帰り道は14時に退場した前回とは比べらないほど混んでいました。一般参加者の帰りのピークに、私のような早上がりサークルが混じってのことでしょう。売れない奴にはこんな仕打ちまであるのか・・・。


総武線に乗り換えて、シートに座りました。疲労困憊です。なんでこんな思いをしないといけないんだろう。あんなに頑張ったのに・・・。小学生並みの感情でしたが、ずっとそんなことを考えていました。泣かなかっただけマシなほどのへこみ具合です。


何気なく、バッグから100円玉が大量に入った袋を取り出しました。前日に用意した釣銭です。近所のゲームセンターの両替機で50枚ほど100円玉を量産しました。「すぐに、いくらでもお釣り出せるように」って。ばーか。


あの夏コミのことを思い出すときは、先ずこの100円玉が思い起こされます。


惨めさってこういうこと。虚しさってこういうもの。


それからは、コミケに出ていないです。しかし、ふとしたことで再びサークル参加する日が来るかもしれません。その時はやはり一人で全てをやるでしょう。あの惨めな空気を誰かに共有させるなんて、それはもう犯罪ですもの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全部自分自身でやるということは、成功の喜びも失敗の惨めさも全て引き受けるってことですものね。 良い経験となったのか、単なるトラウマになったのか、うーん、難しいところですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ