掃除用バケツ消失事件
おっさんには夢があった。その夢のために、はじめ役者を志していた。
ある程度は熱心でそこそこの舞台も踏んできた。が生活が苦しくなり、少しでも
演技の方向を考えればうまく進めたかもしれないが、変なとこがめんどくさいオッサンは
生活を重視する事を考えて自分から身を引いてしまう。
その原因・・・大元はまぁ、本人の自業自得なのだが、ゲームや漫画、そういった
サブカル趣味が強く夢と天秤にかけてしまうと僅差で釣り合ってしまうのだ。
その趣味をやめたくないからと役者重視の生活から逃げてしまう。
今にしてはそれと並行しながらも追えた夢かもしれない。が、そういうとこを
振り返らないのもオッサンのいいところであり悪いところでもあった。
その後、その中で唯一手にしていたヌンチャクという武器術。他の人はなかなか
うまく扱えないそれを、ほかにない武器と信じて、数少なかった動画や
いろいろなものを見ては覚え、そのさまざまな型を明後日の方向を向いた努力で
自分のものにした技を大道芸という形で、自分を表現しながら生きていこうと思い至る。
がそれもまた鳴かず飛ばず、このままでは一向に夢には進めない・・・。
40を越えその覚悟の末の今の人生を後悔しながらもそれでも進まざるを得ない自分を
歪んだ思考でかっこよく思いながら時にみじめに感じながらの今。とある牛丼屋のトイレ。
おっさん「おい!あのでかい声はなんだ!」
?1、2、3「・・・どうする?」
おっさん「お前ら、こ、言葉わかるんだろ?」
?1「言葉わかるよ。あんた、強いか?」o。
?2「さっきなんか練習してたでしょ?」
おっさん「さっき?あの公園いたのか?あれは練習だけど強いかどうかとか」
?3「あいつ倒せる?」
おっさん「あんなん無理だろ!多少は武術やってっけど我流だし対人は3年前に
日本拳法の人と3ラウンド手合わせしたくらいだ。強いかどうかだと多分弱い・・・
というよりあんな巨人普通の格闘家でもどうしようも」
?1「普通じゃなきゃいい」
?2,3、おっさん「「「?」」」
?1「おっさん、俺たちはあんたを見込んでお願いがあってきたんだ。
ただ、それを知ったあいつらにここを感づかれて・・・」
?2「そ、そう!私たちはあなたの力を見抜いてここに来たんです!」
?3「え?なにそれ?どういうk」
口を背後から押さえられてるのか?3は急に黙らされている。
おっさん「ん゛ん?な、なんだいきなり?さっき生贄がどうとか」
?1「俺たちの世界で今戦争が起きてんだ。それはこの世界、
今のあんたのここの事な。この世界にも影響する事なんだ!」
後ろに移動した?2.3の光はなにやらやっている。
?1「そこで・・・俺の姉ちゃんが生贄にされそうなんだ・・・グス」
?2「それで私たち、その前線の村である伝説にすがったの。
この世界と最初につながった世界にいる壮年ながら夢を終える男、
命をもってしてこの世界に降りたとき、すべては終わりを告げるであろう。と」
おっさん「それが・・・俺なのか?」
?3「おじさんはいい歳こいて未だに誰も見もしない大道芸でグムム」
?1「おっさんは年齢を重ねても自分の芸を貫いていますよね!?ね?」
?2「その姿勢と能力に私たちは可能性を見たんです!!これホント!」
おっさん「・・・」
おっさんは若干泣きそうになっていながらなにかしらの思いに駆られたのか
おっさん「・・・ふー、で、俺があいつを倒せるかもってことか?」
?1「あ、うん!」
おっさん「でもどうやってだ?俺の武術は我流だけど型はできてるって褒めてくれたそれを
10年前くらい続けてるのをやってる。手合わせと酔っ払いに対応できる程度だけど
あんなフィクションなやつに通じるとは思えないんだけど」
?2「あのヌンチャクってやつ!氷の塊バーンって割っちゃうヤツは?」
おっさん「あれはそれ用のヌンチャクがあってだな、それは人に向けるような・・・
ああ、あれに・・・でもそれぞれのサイズがな~」
?1「おっさんはあのキャラ好きなの?あの水から剣をだすやつ」
おっさん「??何で知ってんだ?それに俺の氷割の事まで?」
?1「こうしてても俺たちおっさんの記憶除いてんだよ。少しでも時間稼ぎの材りょ」
?2「少しでもあいつを倒す材料になればいいのにな~ってね!」
おっさん「時間稼ぎか・・・そういやなんであいつこっちこないんだ?気配はあるけど?」
?3「ああ、扉閉じ切ってるからこの空間とあっちの領域と別の次元になってんだよ。
もっかい扉開けたらアッチにいけるよ。で、閉じたらまた消えるの」
おっさん「へー。で、どうやったら戻れるんだ?・もう戻れないのか?」
?2「多分、戻れると思う。あいつから私たちと同じ力が伝わってくるの。
たぶん私たちと繋がったからあいつの領域がつながったんだと思う」
おっさん「どうやったら戻るんだ?」
?2「たぶんあいつのどこかにある私たちの力がある部分を壊せば・・・私たちの力が
勝ってあっちの領域は消えると思う」
おっさん「お前らを消すと?」 ?1,2,3「「「!!!」」」
おっさん「・・・あっちの領域が広がってこっちもあっちになりそうだな・・・」
?1,2,3「「「そうそうそれそう!!」」」
3つの光は必死にうなずく。3つの光もわかってないから答えられないのだ。
おっさん「でも現実的にあんなのと素手でどうすれば?」
?1「だからさっきのあのキャラみたいに、そこの水で剣、
んーおっさんはヌンチャクってのがいいかも。それであいつを」
おっさん「だからそんなどうやって・・・ん?なんだ?」
おっさんのしゃべりの途中から?3がおっさんの頭に乗ってきた。
少し強めに光る。髪のない頭はそのまま光っているように見える。
?2「ぷっくくっハゲが光ってる(笑」
?1「おい! おっさんの記憶も覗けるけど俺らの力をおっさんに見せることもできるんだ。
「伝える」っつったほうがいいのかな?」
おっさん「へー、あーするとできるのか。どれ」
おっさんは横の手洗い場の蛇口に手をかざす。自動で流れるタイプのそこから水が出てくる。
手を濡らすその手に何かしらの力をためる。すると
シュ~~~~~イィィ~~――ン
おっさん「うお!」
手を離すおっさん。手に流れていた水が不自然に手にまとわりつきながら
何かの形になろうとしていた途端、ビビッて手を引っ込めたのだ。
?1「あーおしい!なんで手を抜いたんだよ!」
おっさん「あ、ああ、本当にできた。こっちの、俺らの現実の世界なのに」
?2「私たちがこっちにいて、それをつなげたアッチ世界のあいつがこっちと繋がった領域に
いるからできるんだけどね」
?3「僕は3人の中でもこういう力が強いんだ。だから伝えることができたんだよ」
おっさん「イメージ、か、なるほど。イメージ、イメージ、イメージ・・・」
?1「ん?な、なんだおっさん?」
?2「急にどうしたの?ちょっと」
?3「うわきも」
急に静かにぶつぶつ言いだしたおっさんに言い知れぬ不安を覚える3つの光。そして
おっさんがいきなり手洗いの下の扉を開けた。
おっさん「やっぱあったな」
扉の中には掃除用のバケツや雑巾、補充用のペーパータオルが入っている。
おっさん「これに水をためればかなりでかい水のヌンチャクができるはずだ。
それをぶち込んでやるさ!」
?1,2,3「「「え!!!本当にやるの???」」」
おっさん「イメージなんだろ?なんかわかってきた。気がする」
?1「気のせいじゃないか!いや、まぁそうなんだけど。ちょっと落ち着こうよ」
?2「そ、そうよ!ちょっと冷静になって!確かにあのヌンチャクってので
強いイメージをしてもあいつの通じるか」
おっさん「通じるイメージを持てばいいんだ。シンプルなもんさ」
?1,2,3『『『あ、このおっさんなんかを諦めてる・・・?』』』
おっさんの表情を見て3つの光はなにか言葉にできない気持ちになった。
?1「でも作戦を立ててからでも」
おっさん「そうだな。じゃあ俺が一瞬外に出てあいつを近寄らせる。
その時にあいつにあるっていう、お前らと同じ力の何かを探してくれ。
あいつに捕まる前にまた扉に逃げる。それで様子見しよう」
?2「・・・な、なんかいい気がする」
?3「それでどうするの?」
?1「と、とりあえずはそうしようか。あいつもしびれを切らすだろうし」
おっさん「よし!」
そういうとバケツを手洗いに載せる。手洗いのセンサーはちょうど反応して水を出す。
ジョボボボボボ・・・
おっさん「いっぱいになる手前で出よう」
?1「な、なあ」
おっさん「どうした?ラグ」
ラグ「!」
おっさん「いろいろ伝えあいすぎたな。名前もいきさつも俺の使い方も・・・
全部わかっちゃったよ」
?2「え?じゃあ今なんで・・・」
おっさん「どうしようもないこの状況を何にすがればいいんだ?できることをやるだけだろ?
お前らが俺を捨て駒にするみたいに。な?ナー」
ナー「!う・・・」
おっさん「どーせ俺の人生なんて、現実でどうしようもなかったんだ・・・。
このまま生きててもどうせ何もできやせんわな・・・。
どうせならこんな現実じゃないこういう世界で死ぬのも面白いだろ?」
?3「・・・ししま
おっさん「おっさんでいいよロック」
ロック「・・・おっさん・・・」
おっさん「ただな、妙な気持ちだ。手も足も震えてんだけど。思い込みが強ければ強いほど
このイメージは強くなるっていう力・・・なんかできそうな気がするよ」
バケツの水は半分を超えた。
おっさん「よし、じゃあ開けるぞ」
ガチャ
扉が開きおっさんはそこから外に出る。段差はさほどない。
でかいのが気付いた。
?「お?なんだ?あそこ次元転移できてなかったのか?」
突然開いた次元の裂け目から人間が出てきた。それに近寄る巨人。
巨人が近づいてくる。
おっさん『うおおやっぱでけえ!この距離からでもかなりでけえ。そしてこええ!
でも現実に思えなさ過ぎて、あ、ダメだ、近づいてくる振動と圧迫感本物だ・・・
それに・・・あれっぽいな・・・・』
ズシズシズシ・・・
小走りでゆれる地面。近づくたびに全身の震えが大きくなる。ちびりそうだ。
今にもまた扉の中に飛び込みたい。扉の中を見ると3つの光が表情もないのに
心配そうにのぞいてきているように見える。
それを見ておっさんは何故かにやついてみせた。
そして息を吸い込んで
おっさん「 とまれ!!! 」
かなりでかい声がおっさんの立っている領域に響いた。
地平線がのびるその領域の先まで届くと錯覚するほどに。
声のでかさに巨人も思わずビビった。
虫みたいなサイズの人間がいきなり大きな音で鳴きだしたような感じ。
バケツの水がたまった。おっさんは少し力を込めてバケツを持ち上げて
おっさん「なあ、信じるぞ、今の事。どうせこの先
このまま進んでもどうにもできないんなら・・・」
ラグ「お、おう、でも、とりあえず作戦通りに早く戻って」
ナー「あ!」
バケツを抜いた直後扉はそのまま閉まってしまった。
?「お?ああ!お前!空間閉じやがった!こんにゃろ!ぜってぇ食ってやるぁああ!!」
おっさんはバケツを置きながら膝まづいた。
おっさん『結婚もできず、夢もかなえられず、ただのんべんだらりと女々しく
中途半端な大道芸やりながら死ぬだけだったかもしれんが・・・
まさかこんな最期を迎えられるなんてな・・・人生って変なの(笑」
?「ああ゛!?なに笑ってんだ?命乞いしながら笑ってんじゃねーよ!
その水はドリンクだぁ!ぶっつぶした枯れたおっさんの肉だが
水飲みながらおやつに食ってやるわああぁ!!」
巨人の、おっさんの身長ほどもあろう手にした棍棒を振りかぶる。まだ膝まづいているおっさん。
間合いのためにじり下がる巨人振りかぶりがちょうどいい伸びに達するまでもう数秒もない。
?「なんか言えよおっさんがあああああ!!」
その言葉のさなか、一瞬の動作。おっさんは顔を上げ膝を浮かした瞬間、
さらに一歩踏み込みながら、左手をつけたバケツの水は一滴の水もついてない
カラのバケツを置き去りに、左手を動作にすればボーリングのストロークのような
下から上に振り上げる様。巨人に振れたかも確認できない速さで左手を振り上げた。
ビュシャァァァッッ!!! カランガランカラン・・・
?「ああぁあが!?」
股間に圧迫感を感じたかと思った刹那の巨人の最後の声。
巨人は下から上に真っ二つに裂け千切れた。
おっさんの姿勢は上がった左手、右手はその左手の下。顔は・・・
おっさん「うう゛!ぅげろおぉぉぉうぇ!おぇぇ!」
盛大にえづいていた。昼から仕事終わりに練習し夕食前だったので
たいして吐くものもないので当然と言えば当然。漂う裂けた巨人からの死臭。
人はおろか生き物の死骸なんかめったにない現代のおっさん。
目の前の現実に蒼白になってえづいていた。
気配がなくなって扉トイレの扉から出てくる3つの光。
ナー「嘘・・・」
ロック「死んでる・・・」
ラグ「あれ?こいつ・・・」
?「お、お客さん!どうしたんですか!大丈夫ですか!?」
3つの光「「「!?」」」
おっさん「ううえぇぇ!え?あ、あれ?」
気づいたおっさんはうずくまる自分の肩を押さえてくる牛丼屋の店員に驚いた。
漂っていた死臭は牛丼の匂いに変わっている。
ラグ「戻ってたのか・・・」
ナー「嘘・・・」
ロック「思い込み・・・すげえ・・・」
いきなりそこに現れたのかそばのカウンターのお客が驚いている。
お客1「ん?あの人いた?」
配膳していた店員「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
テーブルを拭いていた店員「大丈夫ですか?救急車呼びますか?」
ただでさえ飲食店である。キッカケ不明でも思い切り吐きそうなポーズされてはたまらない。
店員たちは過剰なほど心配してくれている。
おっさん「あ、ああ大丈夫です。すいませんすいません大丈夫です」
自分の席だったろう場所には牛丼の大盛とサラダが待ちくたびれている。テーブル下には道具袋。
おっさん「お騒がせしてすんません。すいませんがあのセット、持ち帰りに変更できますか?」
状態が状態である。気持ち悪そうなおっさんに配慮してかおっさんの牛丼セットはうまいこと
持ち帰りに切り替えてもらえた。が、あったかさは戻らなかった。
おっさんはそのままペコペコお辞儀を繰り返しながらお店を後にした。
それを見送った店員はそのおっさんに蛍がくっついてるような光を見た気がしたが
自分にはどうでもいいのでそのまま店の中に戻っていった。
後日再びおっさんはその牛丼屋にお詫びのように来店した折、
バケツがなくなったことをかなり執拗に問い詰められた。
そしてまたペコペコお辞儀を繰り返すのだった。
おっさん「え?僕がトイレに入った後にですか?バケツが?いやーすいません、
なんかよくわかりません、すいません」
遅くなりました。なるべく月曜としたいところですが
こんな感じです。
次回は来週、ないし2週間後。すいませんすいません。




