邂逅 前編
おっさんはこの異世界にきて気づいたことがあった。
『この世界の生物は若干弱い』ということ。
おっさんはこの異世界に三人組の妖精による儀式での「転移」という形でやってきた。
命だけでの異世界転生ではないため転生ボーナスとやらの特典とかは受けていない。
そのためおっさんはおっさんのまま異世界に連れてこられあれよあれよと
結界の中で殺されまくり、燃やされまくり、凍らされまくった。
死にたくない→死にたい→やっぱ死にたくない→死ににくくするには?→
あの炎出す前に、あの吹雪防ぐには、あれ躱すためにどう動けば→
あれ?なんとかなってきてね?→あれ?もしかして『この世界の生き物少し弱くね?』
と気づいたのだ。
実際は魔女(聖女)による結界内での転生を繰り返すたびに肉体的に強化の効果を
施し続けた結果なのだが誰もそれに気づくことなく魔女も何も言わない。
しかしそれを差し引いてもおっさんの思い込みの強さによるヌンチャクを振る際の
驚異的な爆発力は異常なものだったため、結界内での戦闘は
それでなんとでもなったようなものだった。おっさんが勘違いしても仕方ないことだったのだ。
それ以降の結界を出たおっさんは村の安全な場所で筋トレやら練習やら散歩やら
現実でせっせと働いていた時以上にストレスフリーにやっていた。
そのある日にこの日の事を聞かされていた。おっさんの許容はそういう理由だった。
一人平原を歩くおっさん。後ろを振り返り
「・・・うわ本当に誰もついてきてない。ん?ラグナロクの三人は来ようとしてるな」
『それにしても・・・巨人の来る日、それがあなたの運命の日で?
一人で受けて立つことができれば俺の願いが一つ叶います。か。
本当に今日きやがった・・・。酒の勢いでやってやるって言っちゃったあれも
魔女のいう予定通りだったのか・・・?」
振り返ったおっさんとの距離数十メートル。普通の会話の声は聞こえないだろう距離。
真ん中に依然襲ってきたギドルというオッサン。
その横に一見すると尖がったゴミ袋のような赤黒いローブを深く被った聖女(魔女)ラナー。
ギドルを挟んだ反対側に少しこっちに近づいてそうな三匹の妖精が見える。
サイズの距離感で三匹の妖精が後ろの連中のサイズと同じように見える。が、
別に引き留められてるような事はない。中継的に何かしてくれるのか?それとも別の何かか?
なんにしても何の役にも立ちそうにない。ため息をついて前に向き直るおっさん。
一瞬びくっとなったがひと際大きく深呼吸をする。巨人は予想より早く近づいてきていた。
「ぃよし!やるか!効くかはともかくぶつけてみよう!」
おっさんはヌンチャクを腰帯から外して右手で器用に数回回してから右構えで左手で
握り腰を落とした。ヌンチャクは構えた瞬間直線体のようにまっすぐぶら下がりもせず
空中でまっすぐ伸びた。
この世界の力がおっさんの意志の強さの作用でヌンチャクをおっさんの意志で
自由に動かせることをおっさんは体得していたのだ。
たいして物覚えがいい方でもなく年齢も40ちょいの何かをやるには
到底手遅れなおっさん。文字通り死に物狂いで手に入れた新しい力だった。
以前、牛丼屋のトイレからこの世界に入り込んだ時、
牛丼屋のトイレから使った水の入ったバケツで水のヌンチャクを作り一振りに
必死の思いを乗せて水圧による切断をやってのけたアレ。
今は水はないが愛用のヌンチャクが手にある。
それは武器にもならない軽いアルミにスポンジを巻いたパフォーマンス演武用のヌンチャクだ。
が、その愛用を使い続け、壊れても同じように作り続け常に同じ鎖をつなぎ部分に使い
鎖以外別物で作っても同じものと思い込み振り続けた愛用のヌンチャク。
その人生の相棒が手にあるのだ。あの時の水に込めた思い以上のエネルギーをおっさんは
ヌンチャクを握るその手に込めている。あの巨人に向けて。
巨人との距離は50メートルをきる。位置としては軍隊がとどまっていた土の面の多い場所。
巨人はおっさんに何かを感じ取ったか、歩みを止め手にした棍棒を諸手で持ち
大きく大上段に振り上げる。バックラーをかけている腕を含めた残りの腕はまるで
何も入ってないように力なくぶら下がっているだけ。力を振り上げた腕全てに込めている様だった。
お互いそこからにじり寄る。まだお互い50メートルあるのに。
おっさんの技はどう考えても近距離の技。なのに最初に止まって構えたのはおっさん。
そのあとに巨人も止まっている。巨人は動かない。が、大上段に構えた体がぶるぶる震えている。
ラグ「あいつ震えてないか?」
ナー「寒いのかな?」
ロック「おいもう壁張るぞ。あれがくるんだよあれが」
ラグ&ナー「「ああ!あの震えって・・・はあ!」」
2匹が1匹のツッコミに何かを気づいたようにうなづいたと同時に3匹の前に
オレンジ色の光沢のガラスのような壁が張られた。大きさは村前面ぎりぎり足りない面積。
今出ている人物全員は守れているくらい。おっさん除いて。
おっさんはそれをチラ見して『あの三匹そのためか・・・』と変な期待をした自分に呆れた。
おっさんは不敵に構えながら背中がぞわぞわし続けていた。そのぞわぞわは大きく気を抜くと
膀胱が緩みちびってしまいそうだった。あの死にまくれた結界内ではない。次は死ぬ。
現実でぱっとせず、今、異世界とよばれた世界にひょんなことでとびこんで
いろんな体験をしながら死に物狂いでヌンチャクが振れる。死ぬまでヌンチャクを振る。
この気持ちは、ギャンブルやったりエロイこと考えたりしても忘れる事のない本心。
この世界で死ぬ時までヌンチャクを振れる。ヌンチャク使い冥利に尽きていいもんだ。
悔いのありまくりの人生ながらこの期に及んでぞわぞわしながら
なぜか落ち着いて今を受け入れている。おっさんはそんな自分に納得していた。
おっさんがそんな心境に自己陶酔しながらも力を込めて巨人を見続けていると
震える巨人が振り上げた棍棒をより後ろに振り上げる。
『くる』
おっさんはその巨人の挙動で顔が少し上に上がったのを見て
ヒン・・・ビュバ
40代のおっさんの振りとは思えない速さのヌンチャクが円盤のように
オッサンの手からアンダースローで巨人めがけて飛んで行った。
50メートルなどあっという間である。
ドオォォォォーン!!!
巨人は棍棒を振り下ろすことさえできず後ろに吹き飛んだ。
ヌンチャクは巨人の鳩尾あたりに直撃。振り下ろす速さも相当だったが棍棒が初速の段階で
ヌンチャクが先にヒットしたのだ。円盤のように見えても2本の棒がつながっただけ。
おっさんの強く持ったイメージは最大限に振り上げたヌンチャクの勢いで巨人の股間を
潰す作戦だった。距離とぶっつけ本番のせいで位置は外れたのだった。
「やったか?」
たった一振り。一回振り上げただけなのになぜか汗びっしょりのおっさん。
おっさんの言葉だった。その言葉を言った瞬間
『あ、これ言っちゃうんだな』と内心で納得した。手応えはあった。がフラグも立っていた。
巨人の片手が何かをつまんで横に投げたのが見える。おっさんのヌンチャクだ。
ゆっくりと上体を起こす巨人。体の真ん中が大きくへこんでいる。が、それでも立ち上がる巨人。
「おいシシマ!もう一本あったろ!まだいけるぞ!負けんな!」
ギドルが熱くなって檄を飛ばす。その檄に振り返るオッサン。しかしその顏は現実でよく見えた
情けない時の顔をしていた。オッサンの手にはもう何もない。服や帯にも何もない。
ギドルは襲った後とくに理由はないがこの村に滞在していた。その時おっさんと仲良くなり
練習なり組手なりをやっていたがもっぱら酒盛りが多かった。
その時におっさんはヌンチャクを2本常備していることを知っていた。
その情けない顔に気づいたギドル。その時見るおっさんの体全体が
もう丸腰なことに血の気がひいて
「シシマー!こっちに(ドカ
おっさんに駆けだそうとしたギドルの背後から相当重い棒で殴りつけたような音を立てて
ギドルは気絶して倒れた。そこに立っていたのは聖女。
手にはおっさんのもう1本のヌンチャクがたたまれて握られている。
「予定通り、そう・・・もうすぐ、はあ、やっとはじまる」
聖女自身にしか聞こえないような独り言。恍惚と確信の響きが混ざり合った声が
ローブの陰からのぞく妖艶な唇から聞こえた。
お久しぶりです。読んでくださってる方にはいつもニヤニヤさせていただいてます^^;
ゆっくりですが更新します。読みづらかったらすみません><




