絶対に”敗北”の4文字のない幼馴染ラブコメ
ありがちな青春幼馴染ラブコメですが、作者の性癖なので何度でも書きます。
私、姫宮光と幼稚園からの縁になる幼馴染、勇のことを少し語ろう。
高校までずっと学校が同じどころか、住処も隣同士で、私の部屋の壁の向こうが彼の部屋だなんて、なんて幼馴染同士っぷり。
マンガとかに出る幼馴染のキャラでさえ、ここまで幼馴染幼馴染してるか?とすら思える私たちの仲だが、しかしどうしてマンガのようにならず、高校3年になっても別に進展も無な状況であった。
幼馴染を好きになるだなんて、マンガの中だけのこと。
隣にあるのが当たり前すぎて、まるで兄のように思える人に、そんな感情を向けられるわけ。
先日までの私も、そう信じてた。
幼馴染の勇のことも、それこそまだ彼がおねしょをしてたころから知ってたし、彼と小中高とずっと共に過ごしてきて、私にとってまさに“兄”なのだ。
そんな彼のことを、ここにきてどうこう思うつもりも、これからどうこう思うつもりも、ゼロのつもりだった。
この仲もなんだかんだで、ずっとこのままなのだろうと、そんなことを考えながら何となしに日々を過ごしてた。
でも、違った。
キッカケなんてベタな出来事で、高3になりたてのある日の授業後、彼が女子に呼び出されてる姿を見てしまったことだった。
今年受験なのに、ここでそんなことをする人の気持ちがちっともわからん、ってこともそれとして、一人の女子が決心して気持ちを私の幼馴染にぶつけてるのが、妙に私の心に刺さった。
……どうだろう。もしかすると、好きと告げられてまんざらでもなさそうだった勇の顔が刺さったのだろうか。
それもそうと、これまで微塵も考えたことすらなかった「勇に彼女ができる」かもなんて事実が、私を完全に打ちのめした。
彼がそれにどんな返事をしたのか聞けず、そこから逃げ出した私だったが、そしてさらにその後も彼にそのことを聞けず、そのままこうして悩んでるわけだが……
彼に尋ねるチャンスがなかった、なんて五分事実だが、五分責任転嫁だろう。
その実聞こうと思ったら聞けたのだろうし、でも聞けなかった──その理由なんて、私に勇気がなかったからに決まってる。
でも、彼と好きな人のことを語り合うなんて。
もしできたところで、私が語れることなんて、彼のことだけだし、彼の語りを耳にするだなんて、とても無理だ。
私の勝利ルートを目指すための道──そんなもの、ただ黙ることのその他に何があるのだろう。
そこまで考えて、思わず頭を抱えてしまう。
我知らず、私、なんてことを考えてるんだ。
私にとって、彼にとって、私達幼馴染の仲なんてただの──。
「……ただの、何なんだろう」
幼馴染、と片付けてしまったら簡単だ。
これからもその距離感も続き、滅多なことがなけりゃ変わることもなかろう。
けれど、もし、彼に妻ができても、帰るところができて子供が生まれても、私にできることなんて、それを陰から見守ることだけだ。
私じゃ、彼の隣に──。。
このままじゃ、彼を見てるだけだ。
「……そんなの、やだ……」
そこまで考えてから、一つの結論に達する。
これ、もう誤魔化すのも無理がある。
完全に、これ──。
これまで散々「彼なんて兄同然で」「そんな目で見るなんて」などと抗弁を並べてきたが、しかし、こうなってしまうともう認めるしか──。
まだ彼のことを、文言を考慮せずに述るのなら、美的かどうかなんて考えたことも全然で、彼とキスだのなんだの、その先までするのなんて考えるより前の段だ。
けど、きっとそんなもんなのだと考え直す。
ただ、彼と共に。
彼に求められ、彼と共にこの先も。
その気持ちこそ、きっと私がこれからも見つめ続けるべきものなのだろう。
「……なんか、急にきたな……」
我ながら大真面目に何を語ってるのだろうと心から思う。
でも、もう認めよう。
そして、ならもう立ち止まってる時も終わりだ。
「やれやれ、我ながら困ったもんだ」
今日も、きっと学校までの道で勇に会うだろう。
その時に、勇気を出してこの前の女の子のことを尋ねてみよう。
寸劇風にでも、雑談を装ってでも、どんな形であろうとも、なんとか彼に尋ねてみよう。
そして、たとえどれだけ時間がかかろうとも、彼の隣に立ってみせよう。
自分の気持ちを騙すのもやめよう。
「これが、私の至上の気持ちだから──」
か弱げな声で漏らしたそんな台詞が、ゆるりと夏の蒸し暑げな空に消え沈んだのだった。
はい、あらすじにも書いてあったので今更ネタバラシもなにもないんですが、この作品、「はいぼく」というひらがな4文字(正確には「ば」や「ほ」も含む)を一切文中に使用しないで書き上げた作品です。
特に「は」と「い」が使えないのがきつかった……
やり方としては一旦作品を普通に書ききってから、wardの置き換え機能で4文字を全て抜き出して、そこから文章を通じるように書き直していく…って感じですね。
大変なりに結構楽しかったし、言い回しとかも研究できたので、よかったら他の作者様もやってみてはいかがでしょうか?
もし万一文中にこの4文字のいずれかを発見したぜ!って方は至急誤字報告お願いします。
まあ、ないとは思いますが(自信満々)
見つけた方には何か賞品を差し上げてもいいくらいの気持ちですので、是非(?)
では、またどこかで。