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フリーダムな元勇者魔王

★★★


 その頃、魔王城前では――。

 元勇者魔王が己の力を堪能していた。


 試しに魔王城前の大岩に向かって、火の魔法、氷の魔法、雷の魔法、土魔法、いずれも最強レベルの魔法を使ってみたのだが――もちろん、巨大な大岩は木っ端微塵。

 レベル99はダテではなかった。


(やっぱり魔王の魔力TUEEEEEEEEEEEEE! いきなりレベル99とかチートかよっ! 勇者のときの俺みたいにレベル1から苦労してステータス上げろよっ!)


 膨大な時間をかけてレベリングした苦労を思い出して、元勇者魔王は心の中でブチギレていた。


(というか、最初からここまで強いとつまらねーかもな……)


 それに魔王は基本的に魔王城に引きこもっていて、自らは冒険に出ない。ただひたすら勇者を待つだけの日々だ。


(魔王のやつ、かなり退屈な毎日を送ってたんだろうなぁ……)


 こちらが魔王城最上階の魔王の間にたどり着いたときの魔王は、芝居がかった台詞を長々と口にしてから楽しそうに戦い始めたが、その気持ちはわかる気がした。

 ずっと勇者が来るまで日々なにをしゃべるか考えていたのだろうと、今ならわかる。


(つうか、魔王が自ら出向いてレベルが上がりきってない勇者と対峙したら、勇者瞬殺じゃねぇか……?)


 そう考えると、毎回、律儀に魔王城で待っててくれる魔王はなんと勇者思いの魔王なのだろうか。

 そんなことを考えている元勇者魔王のもとフードを目深にかぶった側近がやってきた。


 相変わらず顔のあたりは闇に包まれて表情はわからない。ちなみに性別もわからない。

 声はどちらともとれるような中性的なものであった。

 ただ、どこかで聞いたことのあるような声だと思うのだが……。


「魔王様! 勇者めが王と会い、畏れ多くも魔王様を討伐するための旅に出ることを了承したようでございます!」


 手に持った水晶には、まるで天井から王城を覗き見するかのように王と勇者の会話が映しだされていた。実はこの水晶、リアルタイムだけでなくあとからでも映像をリピートできるというスグレモノである。


 その便利さと悪用しようと思えばどんなことでも覗けてしまう危険さによって、水晶の使用を許可されているのは魔王と側近と一部の高級幹部だけだ。


「あー、あの儀式か。ほんと、茶番みたいもんだよなぁ」


 つい、元勇者魔王は勇者時代の口調でしゃべってしまった。


「ま、魔王様……?」


 側近はフランクな口調の魔王に、驚いた表情を浮かべる。


「ん、いい機会だ。俺、今回はこの口調で通すからな? たまにはこういう魔王がいてもいいだろ? あのしゃべり方、硬苦っしくて。しゃべってるだけで思考まで硬くなっちまいそうだ」


「ま、魔王様……しかし、それでは部下や配下たちにたいして、威厳が……」


「そういう堅苦しい上下関係とか威厳とかプライドとかそんなものにこだわってたから、前回も勇者にやられちまったんじゃねーのか? 俺は今回、これまでの魔王とは違うやり方でやってみるわ」


「さ、左様でございますか……」


 側近はショックを受けているようだが、フードの奥は闇そのものであり表情はうかがい知れない。


(そういえば、こんなやついたっけ? 魔王の側近って、なんか女の魔術使いだった気がするんだが……まぁ、毎回同じ奴が出てくるとは限らないか)


 気を取り直して、元勇者魔王は側近にある提案をする。


「というわけで、俺は、ちょっと外に出てくるわ。魔王城にずっといるのも暇だし」

「なっ!?  魔王様、いけません 魔王とは勇者を迎え撃つためにどっしりと待ち構えるものと決まっております。もし勇者が魔王城に乗り込んだときに魔王様が不在だったらどうするのですか!」


 想像してみると、なかなかシュールな光景だ。


 苦労して魔王城最深部までいってみたら、ラスボスの魔王様は不在。

 一度魔王城を出て、再びチャレンジしたときにまた不在だったりしたら、怒りマックスだろう。


(そう考えると魔王は本当に律儀な奴だったなぁ……一日も離れず魔王城にいたってことだろ? 俺には絶対できねーわ)


 つい感嘆してしまう元勇者魔王であった。


「いや、そのときは転移の魔法で帰ってくればいいだろ? 留守はおまえに任せるわ。魔物の配置やダンジョンの通路とかは前回のままでいいや。考えるの面倒くさいし。んじゃ、俺はちょっと外に出てくるから、どうしても俺の決裁が必要なときは呼んでくれ。おまえも転移の魔法ぐらい使えるだろ?」


「転移の魔法は使えますが、しかし、魔王様、こんなことは前代未聞ですっ!」


「これまでの戦い、全部勇者に負けてるだろ? なら、変えないと、ずっとこのままだ。おまえは座して敗北を待つのか?」

「……っ!」


 魔王の言葉に側近は胸を打たれたようだ。表情こそ見えないが、尊敬の眼差しを向けているような気がする。


「はは、とかなんとか言って、ずっと魔王城にいるのも飽きるだけってのが大きいんだけどな! それじゃ、ちょっと最初のほうの村まで行ってくるわ!」


 側近に告げて、元勇者魔王は転移の魔法を使ったのだった。


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