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魔王と側近のティータイム

「んにゃろう、撤退かよっ! 一か八かで奥へ進めよっ! おまえ、それでも勇者か!? 勇気なさすぎだろ!」


 水晶に映った洞窟から出ていく勇者たちを見て、元勇者魔王は歯噛みしていた。


 せっかく洞窟に出現する魔物を可能な限り強いものにして鬼畜難易度にしたのに、これで苦労も水の泡だ。


 元勇者魔王が勇者時代は、この洞窟をひとりで挑み、状態異常をくらって動けないときはただひたすら攻撃を受け続けた。そして、状態異常が解けるとともに吸血蝙蝠たちに怒りの一撃を食らわせまくったものだ。


「ぬるい、ぬるすぎる……!」


 女連れで冒険して、なおかつ無理をせず洞窟から引き返す。

 まったくもって気にくわない。


「冒険の恐ろしさを教えてやりてぇが……まあ、今の俺が出向いて戦ったら、百パーセント瞬殺だしなぁ……」


 さすがにそれではつまらない。それに勇者を滅ぼしたら世界が闇に包まれる。


(ほんと魔王ってのも面倒くせぇな……勇者に負けるのはむかつくし、勇者に勝つと人類が滅びかねないし……)


 ある意味、どっちに転んでも詰む。自分の命的な意味と、世界の平和的な意味で。


(あー、そうか……つまり、延々と勇者が冒険し続けて魔王城に辿りつかなきゃいいんじゃねぇか? そうすればある意味で、魔王と人間が共存できるな……) 


 昔なら考えもつかないアイディアだ。

 しかし、どちらの命も失われないとなると、それしかない。


(つい夢中になっちまったが、勇者に死なれるのもまずいんだよなぁ……)


 いわば、魔王と勇者は対になる存在。どちらかが死んだらパワーバランスが崩れて、世界は勝者の側に傾くことになる。


(前回は相打ちだったから、どちらも消えてたけど……もし俺が魔王にやられてたら、世界はやばかったんだよな……)


 つまり、自分の命と引き換えに世界を救ったのだが、王様は相打ちで存在ごと消えた勇者を偲んだり讃えたりしている様子はなさそうだ。


(そういや、生き残ったみんなはどうなったかな……いや、どうせアーグルとルナリイのやつらはそのまま結婚してラブラブリア充ライフ送ってるだろうし……根暗でコミュ障なミカゲのその後を見てもなぁ……)


 そんなことを考えているとフードをかぶった側近がやってきた。


 ちなみに現在魔王がいるのは魔王城最上階・魔王の間。

 玉座に座りながら、水晶に映った勇者たちを眺めていたのだ。


「魔王様っ、お茶とケーキをお持ちいたしました!」

「おっ、そんなものあるのか? 気が利くじゃないか」


 側近は魔王の玉座の脇にある魔王の机に、魔王のティーカップと魔王のティーポット、魔王の皿を並べる。いずれも普通の机やティーポットにはない魔王感があった。


 ポットの中身は紅茶のようで、いい香りがする。そして、皿の上にはイチゴの乗ったショートケーキ。


「おおっ、こういう普通のケーキとか出てくるんだな! イチゴのショートケーキとか好物だわ!」

「魔王様に喜んでもらえて、ありがたきしあわせです!」


 表情の見えない側近の声も弾んでいた。


「せっかくだから、おまえも食べろよ」

「いえ、めっそうもございません!」


「いや、俺ひとりで食べてるのもなんかアレじゃないか。実質、俺の話相手おまえしかいないんだし、ちょっと話そうぜ」


 ちなみに魔王様の部下に四天王などもいるのだが、バリバリの武闘派で脳筋な四人はそれぞれの拠点にこもって訓練に余念がない。

 常に魔王城にいて水晶を覗いているのは、魔王と側近ぐらいだった。


「し、しかし……」

「いいからいいから、俺はこれまでの固定観念に縛られない新しい魔王を目指してるから。ほら、おまえのぶんのケーキと食器も持ってこいって」


「は、はい……それでは……まことに畏れ多いことですが、ご相伴にあずからせていただきます!」


 こうして、魔王と側近のティータイムが実現することになった――。


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