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魔王が勇者で勇者が魔王


 勇者は、あるとき、神託によって選出される。

 このたび選ばれた勇者は、とある村の十七歳の若者。


 だが、その若者は選ばれた喜びなど感じていなかった。

 なぜなら――


(我は魔王の生まれ変わりなのだが……)


 そう。ひと世代前に世界をどん底の恐怖に突き落とした魔王グエルド……その転生こそが、今回勇者として選ばれたルーファだった。


(魔王という大役から解き放たれて人間の村人に転生したのだから、人間の暮らしとやらを一生送ってみたかったのだが……そうはいかぬか)


 村は王都の神官からこのたびルーファが勇者に選ばれたという吉報に沸いていて、どこも大盛り上がり。これまで魔王の転生ということを隠して生きていたが、まさか「魔王の転生なので勇者になるのはお断りします」とは言えない。


 そもそも、神託に背いて勇者を辞すことはできない。そんな例はこれまでの歴史において存在しない。


(ふむ……そもそも我は、勇者と相打ちになって果てたはず……。その我が勇者となったということは……まさか、勇者が魔王になっているのであろうか……いやいや、そんなバカげたことはあるまい)


 そんなふうに自分の考えを苦笑とともに打ち消す元魔王勇者であったが――。


★ ★ ★


 勇者が神託によって選ばれのと時を同じくして、魔王城では――。


「魔王様が復活あそばされた!」

「第九十九代魔王様が、ついに!」

「魔王様、このときを待っておりましたぞ!」


 魔王の玉座にどっかりと座る第九十九代魔王グエルド――名前は世襲である――は、呆然としていた。なぜならば、


(なんで勇者の俺が魔王に転生してんだよ!?)


 そう。魔王の正体は、元勇者――正確には、第九十八代勇者だったのだ。

 魔王城に闇夜を切り裂く真紅の雷が落ちるとともに、魔王は復活を果たした。

 その瞬間まで、第九十八代勇者リュータは記憶を失っていた。


 あのとき魔王城で第九十八代魔王と死闘を繰り広げ、最期は――相打ちになったはずだ。


(えぇえ……というか、世界はどうなったんだ……? いまこの瞬間魔王が復活したってことは、それまで魔王はこの世界にいなかったってことだよな?)


 これまでの例では、魔王が滅ぶとともに魔族と魔物もともに世界から消え去ることになっていた。

 つまり、魔王が復活するとともに世界に再び魔物が現れたということになる。

 ここに居並ぶ部下も、魔王復活と同時に復活したということだ。


(ちょ、待てよ……ということは、魔王を倒すことに命を賭けていた俺が、今度は世界に災厄をもたらすってことになるのかっ……!)


 それだけは防がねばならない。それでは、なんのために前世の勇者時代に戦っていたのかわからない。


「魔王様、ついに人間どもに復讐をするときが到来しましたな!」

「魔王様、我々に下知を!」

「今度こそ人間どもを皆殺しにしましょうぞ!」


「勇者めも、おそらくよみがえったはず……ここは奴がレベルを上げる前に、さっさと始末してしまうのもよろしいかと。卑怯と言われようと汚いと言われようと、レベル1の勇者なら、たやすく倒せるはずです!」


 部下の魔族たちは次々と意見具申してくる。

 なお、基本的に二足歩行して言語をしゃべるのが魔族であり、獣のような風貌をして言語による意思疎通ができないものは魔物と分類される。


「あー、確かにレベル1のときだったらたやすく倒せるよな……勇者がレベルを上げるまで待っててくれるんだから、今までの魔王って良心的だったのかも……」


 つい、部下の意見にうならされる元勇者魔王であった。そんなことが実行されたら、文字通り勇者は瞬殺だろう。


「そうです、魔王様っ。これまでの魔王のように守勢に徹せず、攻勢に出れば勇者もひとたまりもありませぬ!」


 なかなか今代の魔族の中には切れ者がいるようだ。


 「レベル1の勇者襲撃」という、まさに外道な計画を立案した部下を元勇者魔王は注視する。

 その魔族はフードを深くかぶっており顔のあたりが闇に包まれている。


 いかにも魔法が得意な側近タイプの魔族だが、こいつの意見を取り入れたらレベル1の勇者は瞬殺、世界は闇に包まれるだろう。


 だから、元勇者魔王は一喝する。


「愚か者めがっ! 魔に生きる者が、そんな器の小さいことでどうする! せっかく作り出したダンジョンも、強さごとに配置した魔物も、緻密な計画のもとに置いてある宝箱も、すべてが無駄になるのだぞっ! すべての魔物に活躍の機会を与えてやるという我の深謀遠慮がわからぬのかっ!」


 元勇者魔王は、極力魔王っぽい口調で叱責して、側近の意見を押さえつける。

 魔王の怒声を浴びた側近は、その場ですぐさま土下座した。


「申し訳ございません、魔王様っ! さしでがましい口を聞きましたっ! 魔王様の魔族や魔物を思う気持ちに思い至らぬとは、わたしはなんと愚かだったのでしょうか! 真に申し訳ございませぬ!」


 やはり魔族の世界の上下関係は絶対なようだ。


(あいつも魔族に偉そうな口聞いてたもんなぁ……)


 元勇者は、ふと旧魔王のことを思い出す。


(というか、あいつ……まさか、勇者として転生してたりしないよな……)


 そのまさかが起こっていることを、勇者も魔王もまだ知らない――。



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