第29話 ディメンションルーム開拓
フィフスにある協会でアニーは椅子に座り机の上に置かれたクッキーを齧っている。そこへシスターが紅茶を淹れて戻ってきた。
「で?コビーくんはどうなの?ユウキに気に入られちゃったんでしょう?まだまだ先だと思うけど無茶な試練とか吹っかけてくるんじゃないの?」
紅茶をテーブルに置き、アニーの向かいに座りながらシスターは声をかけた。
「そうなのよ〜。この間ハングリーベアが出たじゃない?コビーが死にそうな目にあったらしくて、ユウキの出した試練だったらとっちめてやろうと思って連絡してみたら、今回のは違うって言う訳。嘘くさかったから乗り込んでやろうかと思ったんだけどマッスルに止められてさ・・・。カオリからもユウキにビシッと言ってやってよ〜!」
カオリと呼ばれたシスターはお茶を一口飲み『ふぅ』と一息つくと優しい言葉で話し始めた。
「私が言っても聞かないと思うわよ?ユウキはわがままだからね〜?いざとなったら私達でコビーくんに手を貸すしかないわね?コビーくんに腕輪は渡したんでしょ?あれを装備してくれている限りは大丈夫じゃない?何かあれば私も一緒に出張ってあげるからさ。今は安心して冒険に送り出してあげなよ?」
「そうなんだけどさ。大事に大事〜に育ててきたコビーが危ない目に合うなんて・・・耐えられない!なんなら一緒にパーティ組もうかしら?」
「こらこら!今のあなたは商人さんでしょ?仲間が一緒にいるんだから信用してあげなさいな?見守るのも両親の務めよ?」
「むぅ・・・」
アニーは拗ねた感じを見せながらも紅茶を一口飲んだ。アニーがこんな表情を見せるのは親友であり元パーティのカオリだけだろう。
「あ!やば!そろそろ帰らなきゃマッスルに怒られちゃう!ごちそうさま!じゃあカオリまたね!」
そうしてバタバタとアニーは帰っていった。そんなアニーを見送りながらカオリは呟く。
「まったくあの子は変わらないなぁ。けど変わらないで居てくれる事が私としては嬉しいけどね・・・。さ!私もお仕事に戻らなきゃ。」
そうしてシスターカオリも仕事へと戻っていった。
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コビーは母に渡された腕輪を見ながらニヤニヤしながら街道を歩いていた。
「母さんがパーティ設立のお祝いで全員分くれた腕輪・・・。なんだかパーティ組んでるって実感できて嬉しいなぁ。」
「マスター。この腕輪魔道具になってますよ。念話の機能と防御力魔法防御力10%向上と・・・あとはロックされてて見れませんね。ともかくこれを装着していればある程度の距離なら念話で会話が出来ます。」
「本当?それは今後活動するに当たっても便利だね!」
そんな話をしながらコビーは広場に来ていた。今日はみんなと待ち合わせをし、先日得た報酬で今後の為にディメンションルームの中を充実させる為だ。
「皆んなお待たせ〜。」
「コビーおはよう。いつも通りマイルはまだだよ」
サニーは呆れたように言った。
「・・・ごめん。いつも声かけに行くんだけど今日は僕も寝坊しちゃって直接来たんだ。」
アントニオは昨日帰ってから錬金術で色々作っていて寝るのが遅かったらしい。
「あ!みんなごめんごめん!」
そうこう話しているうちにマイルが走ってきた。
「珍しいわね?マイルが走ってくるなんて?」
「だって今日は秘密基地を作る日じゃん!楽しみで楽しみで!走って来ちゃった!」
3人とも呆れて声も出ない。そんな3人を気にも止めず「行こう行こう」と背中を押してくる。子供かっ!
「あ!そうだ!忘れないうちにこれ渡しておくね?うちの母さんがパーティ設立祝いにくれたんだ。シスに聞いたら魔道具になってて念話を使う事ができるらしい。今後依頼の時はこれを使った念話での連係も練習して行こう。」
「かっっっこいいじゃん!!ありがとう!」
マイルは目を見開いて受け取ると飛び跳ねて喜んだ。
「じゃあ後で早速使ってみましょうよ。楽しみだわ。」
「・・・」
アントニオは腕輪を見つめて目を輝かせている。
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必要なのは釘などの細かな材料、金槌などの工具、あとは木材だ。用意しておきたい物を見て回りどんどんディメンションボックスへ入れていく。
気付けば昼を回っていたので屋台を回り様々な物を買い食いする。気に入ったものがあればディメンションボックスへと人数分しまい次回出かけた時のご飯用にする。
ご飯を食べた後、町を出て森まで向かう道中念話を試しながら進む。最初は戸惑っていたが森に着く頃には4人で念話を繋ぎ会話を出来るようになった。森に着くとディメンションルームを開き中へと入っていく。
「いやぁ、何度見ても・・・広くて何もないね!ここに色々なものを設置出来るなんてワクワクするね!」
マイルはそこら辺走りまわりながら言った。
「そうだね!冒険者になったら研究できないと思ってたから、ここに研究所作れたらコビーさえ居れば何処でも研究が出来る・・・。」
アントニオはニヤリと不敵に笑った。
「じゃあそれぞれの小屋を建てていこうと思うんだけどベッドといくつかの棚とテーブルとイスは置けるくらいのものを建てようと思います。あとはトニーの研究所と調理場も一つ作ろうと思う。水は魔法で出して排水は出来ないから貯めておいてルームから外へ捨てる様にするよ。トイレは作れないから外でお願いね?」
コビーは建築士の様々なスキルを駆使して工具を持ちどんどん木材をカットしていく。そしてカットされた木材を他の3人でそれぞれ建てる場所まで移動する。それを繰り返す事2時間、木材のカットが終わり、小屋を建てる工程に移行した。
小屋は丸太で作っていく。まずは丸太を敷き詰め土台をきちんと作る。そして支柱を四隅に立て骨組みを作り、丸太を積み上げて壁を作っていく。 屋根は丸太をエアカッターで縦に薄く切りそれを骨組みに留めていき、最後に扉を作り取り付けたら完成だ。コビーには建築スキルと魔法がある為スムーズに作業は進み、夕方には4件の小屋が建ち並んだ。あとは研究所と調理場を作るだけだ。夜遅くなると帰れなくなるので残りの作業は明日に回す事にした。
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2日目
朝からみんなで集まり買い物に来ていた。今日は家具や消耗品、研究に必要な物や雑貨などを買いに来ていた。買ったものはどんどんコビーが収納していく。買い出しが終わったのはまたしても昼過ぎで屋台巡りをしたあと町を出て森へと行き、ディメンションルームへと入っていく。
今日の作業も基本的には昨日と同じだ。ただ、昨日と違い今日は小屋を1つに支柱と屋根と長テーブルを作った簡易的な調理場の作成なのでそこまで時間はかからない。残った時間で買ってきた家具などを設置していく。
「そうだ!コビー!お願いがあるんだけど・・・。お風呂って作れない?」
サニーは恥ずかしそうにモジモジとしている。
「良いけど前も言った通り排水は出来ないからその都度外に捨てることになるよ?それで良ければ良いよ。お湯は作り置きしておけば良いしね。」
と、言う事で急遽お風呂を作ることにした。風呂桶の材料は土とこの森の中に生えている「ミノキ」という香りのいい木を使うことにした。この木は湿気に強く折れにくい。これをエアカッターで切り、アントニオにあらかじめ土魔法で作ってもらった5人くらい入れる大きな楕円形の土の箱の内側と手すり部分など全体に隙間なく貼っていく。こうする事で漏れを防止する為だ。これの横に小屋を設置し脱衣所として、外には囲いを作って設置していくと露天風呂の完成だ。
こうして快適な冒険者生活をする為の準備を終えたコビー達は、せっかくなのでワイルドボアの発生状況を確認してから帰る事にした。
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森の奥に行くとコビーは探索スキルを使用する。すると奥に6体の反応を確認した。
「6体反応がある。1日3匹ペースで出てきてるのかな?だとすると結構早いペースだね・・・。3日に一度は依頼を受ける感じになりそうかな?いつまで続くかわからないけど・・・。」
「私達にとっては都合いいんじゃない?それにCランクの魔物なだけあって報酬も高いしね。」
「そうだよ!なんならもっといっぱい出てくれても良いくらいだよ!そうしたらもっとも〜っとレベル上げられるじゃん!」
「まぁそうだけどさ、いつまで続くかわからない以上この位のペースが良いかもね。さて、とりあえずマイルと僕で3匹づつ誘導してサニーは僕の方へ、トニーはマイルの方で一緒に戦うって感じで良いかな?」
「いいよ〜」
「いいわよ」
「・・・僕も大丈夫」
「ワイルドボアだったらそのまま突っ込む、指示出しは折角だから念話を使おう。よし!じゃあ行くよ!」
コビー達は駆け出して魔物の反応があった所まで行くとやはり6匹のワイルドボアがいた。
「(まず僕とマイルで突っ込んで分断する。マイルは右の3匹をお願い。サニーとトニーは分断した後一度僕らが下がったら魔法を放って。じゃあ行くよ!)」
コビーとマイルはワイルドボアの中に突っ込みスキルは使わずに3匹づつ攻撃を仕掛ける。攻撃されたワイルドボアは攻撃してきた相手にして向かって突進してくる。それを利用してコビーとマイルは攻撃を仕掛けながら別々にバラけて行く。お互いの距離が離れた事を確認した2人は一度大きく距離を取った。すると2人の後方から魔法が放たれる。
「ファイアランス」
「ガイアランス」
今回は1本ではなく通常通り5本のランスを生成し攻撃を仕掛けた。
ファイアランスを受けた3匹の内1匹は3本のランスを受けて霧散し、残りの2匹はフラフラながらもコビーとサニーに向かって突進しようと準備していた。
「「ぶぎゃぁぁぉ!!」」
突進しようと人吠えした瞬間コビーは瞬身で近づきスキルを放つ。
「ライトニングソード!」
するとワイルドボアは2匹とも細切れになり霧散していきドロップアイテムが出現し、その横には1つの親指大の魔石が残されていた。
一方でガイアランスを受けたワイルドボアは1匹に4本命中しそのまま倒したが、無傷のワイルドボアがマイルに突進して行く。
マイルは焦る事なくその1匹に突っ込んでいきヒラリと突進を交わすと首元目掛けて攻撃を仕掛ける。
「パワースラッシュ!」
攻撃を受けたワイルドボアは首がスッパリと切り落とされ胴体だけが突進の勢いでそのまま進みながら霧散して行った。
1本のガイアランスを受けたワイルドボアはアントニオに向かい突進する仕草を見せたが、1撃では倒せないと察していたアントニオはすかさず魔法を放った。
「アースボム」
アントニオの放った小さな岩の塊はワイルドボアに当たると破裂し地面から尖った岩が隆起し串刺しにすると、地面にはドロップアイテムと魔石が1つ転がっていた。
ドロップアイテムを回収すると街へと戻りギルドへ行きミリアに報告した。
「今度は6匹も討伐してきたんですか!?とりあえず報酬を用意するので待っていてください。」
ミリアは奥へと入って行き、5分ほどで戻って来たが後ろにギルドマスターも一緒について来ていた。
「お前らまたやってくれたらしいな?この2日でどうやったらワイルドボアなんてCランクの魔物を討伐出来るんだ?・・・まぁいい。しかし、Cランクの魔物を狩ることの出来る奴らをEランクにしておくわけにはいかん!今回の実績でDランクへと昇格させる。もちろん個人もパーティもだ!今後も頼むぞ!」
そう言うとギルドマスターはミリアへと目配せをしたあと奥へと戻って行った。
その後ミリアに全員分のギルドカードを渡し、ランクアップをしてもらった。その後、報酬をもらいアイテムを買い取ってもらうと帰路に着いた。
そして翌日から3日に一度はワイルドボア討伐の依頼を受け、他の日は街で買い物したり薬草を取りに行ったりして過ごした。
そんな日々を過ごしながら半年が過ぎ去って行った。




