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僕は友達がいない

 勇者学校に入学してから二週間が過ぎた。

 慌ただしい日々がだんだんと日常へと落ち着いていく。ぎくしゃくとした生徒たちも少しずつ新しい人間関係を築き、自分たちの居場所を見つけ出す。

 なのに。


「俺にはどうして友達ができないんだああああああッ!」


 俺は絶叫した。

 ここは俺たちに割り振られた部屋だ。俺たち。そう俺とルシフェルの部屋。この学校は寮生活のため、生徒たちに部屋が割り当てられる。俺たちは兄妹で申請しているので同じ部屋となった。


「友達とか(笑)あなた魔族で魔王ですよね?」


 テーブルの反対側に座って本を読んでいたルシフェルがぷくくくくと笑いをこらえつつ俺を煽る。


「い、いいじゃないか! 魔族で魔王でも友達くらい!」

「利用して利用されて裏切って裏切られるのが魔界の常じゃないですか。友達とかそういうお花畑単語に興味がおありなんですか?」

「いやさ、ここは魔界じゃないだろ。せっかく人間界に来たわけだからさ」


 そもそも俺は魔界でも穏健派なのだ。それほど血まみれの道を歩いてきたつもりはない。


「そうですか。ではひとつだけ言わせていただきますね」

「おう」

「今のところ友達ができる可能性はゼロ%です」

「言い切りやがりましたか……こいつ……!」

「いや、むしろ、マイナス……?」

「それ言い直す必要ある? 俺をいじって楽しんでる?」

「生徒みなさんの魔王さまを見る様子はどんな感じだと思います?」

「いや……なんつーか、よそよそしいよね……」


 俺だってそれなりに努力はした。

 積極的――とは言わないが、俺から何度か声をかけたり挨拶したりした。だけど反応はいまいち。


「あ、ああ、そうだね……」

「おはよう……じゃあ……」


 みたいな。目すらあわせてくれない。

 まるで俺と一〇文字以上話すと死ぬ呪いにでもかかってるんじゃないかって感じの生返事で俺から逃げていく。

 ルシフェルが本をパタンと閉じ、脇に置いた。


「簡単に言うとですね。魔王さまは嫌われています」


 ぐさっと俺の胸に見えないナイフが刺さった。


「ちょ、直接的ですね、ルシフェルさん」

「冗談です。さすがに嫌われていません」

「ほ、本当か!?」

「正しくは煙たがられていますね。近づかないでください、というやつです。嫌う以前に視界に入れたくないというか」

「まさか嫌われる以上のキツい表現が待っているとは思わなかったぜ……」


 恐るべしルシフェルの悪口力。


「そもそもご自分がなされたことを自覚していますか?」

「いや……ぶっちゃけ何も覚えがないんだが……だいたい入学して二週間だぞ。ていうか、入学の日からずっと同じ反応なんだが」


 何かやらかす以前にやらかす時間がない。


「そこまでわかっていてどうしてわからないんですか? ならば答えは入学前にあるじゃないですか」

「入学前……?」

「ほら、貴族のバカ息子をぶっ飛ばしたじゃないですか」

「あー」


 見てくれは超絶美人のルシフェルを勧誘しにきた貴族のバカ息子がいた。名前は忘れたが。そいつが俺を挑発したので、俺は返り討ちにしたのだ。

 ちなみにあいつはまだ入院中らしく学校には来ていない。


「え? あいつはあいつだろ? あいつの取り巻きに嫌われるのならともかく、他の奴らに何の関係があるんだ?」

「はー……これだから最強生物は。みんながみんなあなたのように力で何でも解決できるものではないのです。いいですか。あの貴族のバカ息子の実家は非常に大きな影響力を持っています。ここにいる人間は誰も彼のことを無視できないのです」


 ルシフェルが人差し指を立てる。


「教室には我々をのぞけば三つの勢力があります。まずひとつ目はバカ息子と個人的または親が親しい貴族のグループ。彼らは自動的に魔王さまの敵に回ります。ちなみにほとんどの貴族たちはこちらに属します」


 ルシフェルが二本目の指を立てる。


「次に、バカ息子とは親しくない貴族のグループ。ああいう横暴な性格ですからね。距離を置きたい人はいるでしょう。彼らは内心でざまぁみろという気持ちでいますが、バカ息子の実家を敵に回したくはないですから表には出せません。よって中立ではありますが、魔王さまと親しくもできません」


 ルシフェルが三本目の指を立てる。


「最後が平民グループ。こちらは内心で魔王さまに友好的です。なぜなら平民が貴族をぶっ飛ばす。そんなありえないことをやってのけたのですからね。ですが彼らも貴族ににらまれたくありません。よって魔王さまと親しくはできません」


 ルシフェルが手をテーブルの上に置いた。


「というのがクラスの勢力図となります」

「お、お前……すごいな。いつの間にそんなこと……」

「魔王さまの副官ですから当然です」

「……とりあえず、あの貴族のぼんぼんの実家にビビってるってのはわかったよ。それで俺はどうしたらいいんだ?」

「もちろん、解決策もあります」

「お、おお! マジか!?」

「魔王さまの副官ですから当然です」


 本当に俺の副官は頼りになるなあ。


「で、どうするの?」

「あの貴族のバカ息子の実家を皆殺しにします」

「は?」

「一族郎党、刃向かう気もなくすくらいに殲滅し、あらゆる家財を焼き尽くして領土もすべて焦土と化します」

「お、おーい、ルシフェルさん?」

「そこまでやればあの貴族の実家も力を失います。結果、誰も遠慮することなく魔王さまと話すことができるようになります」

「没」

「え、ええええ!?」


 何でそんな判断になるの、という感じでルシフェルが驚く。


「か、完璧な作戦だと存じますが!?」

「被害がでかいわッ! 俺は流血の上に友達作りなんてしたくねーよ!」


 あの貴族のバカ息子はムカつくやつだがそれとこれとは別だ。


「手っ取り早い作戦だと思ったのですが……仕方がない。次善の策でいきましょう」

「あるのかよ。先に言っておくが、人が死ぬ系はダメだからな」

「死にません。クラスメイトにまず一人、魔王さまの理解者を作ってその人間に魔王さまの素晴らしさを代弁してもらうのです」

「ああ……なるほど。だけど……その一人が遠いよなあ……」

「ならやっぱり、一族郎党大虐殺しか!」

「それはないから! よし、その友達一人できるかな作戦で行こう」


 友達一人できるかな作戦……。

 なんというか悲しい作戦名だ。

 だが、ドエスな堕天使に丸投げすると確実に人が死んでしまうので俺が何とか頑張るしかない。


「まず攻めるとすれば、平民グループの誰かかな。あいつら俺に友好的なんだろ?」

「いえ……狙うならば反バカ息子派の貴族たちですね」

「そっちなの?」

「はい。平民たちの貴族に対する服従心は根が深いですからね。平民から落とすのは難しいかと。それよりは独立独歩で自分で判断できる人間を狙ったほうがいいでしょう。力のある人間、すなわち貴族が魔王さまを認めればおのずと状況は動きます」

「そういうものかね……」

「そういうものです」

「よし、わかった」


 俺は立ち上がった。俺の副官はドエスなのが難点だが、立てる計画に狂いはない。

 ならば俺はそれに乗っかるだけ。

 ドアへと向かう俺にルシフェルが声をかけた。


「どこへ行かれるので?」

「ちょっと散歩。考え事がしたい」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 外に出るともうすっかり夜になっていた。

 月明かりの下、俺は学校の敷地内をぶらりぶらりと歩いていた。あちこちに『照明ライト』の魔法が補助照明としてかけられていて意外と暗くはない。

 俺が歩いていると、人のかけ声らしきものが聞こえてきた。

 誰だろう?

 そう思って、木立からそっとのぞくと――


 年の頃は一五歳くらいだろうか。ダークレッドの髪をした少女が一心不乱に剣を振るっていた。


「ふっ! はっ! たっ!」


 その息のひと吐きごとにすさまじい速度で剣が振るわれ、びゅわっという音ともに空気が断ち切られる。

 相当の練度がうかがわれる太刀筋だった。

 どこかで見た顔だな……。

 俺はそう思った。クラスメイトかもしれないが、それとは違う、他のどこかで見たような……。


「彼女はフレイア・パーティキュル。パーティキュル伯爵のご令嬢で、非常に優秀な生徒です」

「どわっ!?」


 いきなりの声に振り返るとルシフェルがいた。

 おいおい、俺は一人で散歩に出たと思ったんだが……。


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