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魔王のくせに神の加護があると思ってるとか(笑)

 まさかの理力テスト0点――


 その結果に俺がうちひしがれながら戻ると、先にテストを終わらせていたルシフェルが戻ってきていた。


「お疲れ様です、魔王さま」

「お、おう……」


 俺は手を上げて挨拶するが――どう説明したものか。


 ――理力テストは適当にやってください。どうせ結果はわかりきっていますから。


 そう言ってルシフェルは俺を送り出してくれた。

 魔王さまならできますよ。

 部下からの圧倒的な信頼――それを俺は裏切ったのだ。

 アンニュイな俺の様子に気づいたのだろう、ルシフェルが首をかしげた。


「どうしましたか?」

「え、いや……理力テストの結果がな……」

「はい?」

「あの、その、な、七〇〇点くらいだったんだ……」


 少しばかりサバを読んだ。

 しかし、ルシフェルは――


「え? ゼロ点ですよね?」


 何を言っているんだという顔でのたまう。

 ぐ、げ、ばれた!?


「え、ど、どうしてそれを!? おおお前、見てたのか!?」

「見てませんけど?」


 ルシフェルが理解できないような口調で続けた。


「え、だって魔王さまに理力があるはずありませんよね?」

「いや、ある、あるよ! ……ん? ない? ないの?」

「はい」

「そ、そうなの?」

「はい。テスト前にも説明しましたが、理力とは名前を口走るのも虫酸が走るあのクソ野郎からの加護の力です」


 もう一度解説しておこう。

『名前を口走るのも虫酸が走るあのクソ野郎』とは、堕天使ルシフェルが元の上司である神を呼ぶときの呼称である。


「ああ、そう言っていたな」

「まさか敵である魔族、それらを統べる魔王のあなたが、名前を口走るのも虫酸が走るあのクソ野郎の祝福を得られるとでも?」

「あっ、そうなんだ!」


 俺は腑に落ちた。

 ルシフェルの言っていることはもっともだ。俺の理力はゼロに決まっている。そんなこと当たり前じゃないか。

 理由がわかって、俺はすっきりした。


「だから言ったじゃないですか。どうせ結果はわかりきっていますから、と」

「そうだな……」


 てっきりルシフェルは俺の勝利を信じている意味だと思っていたんだが……。そういう意味ではなかったらしい。俺は少しばかり落ち込んだ。

 そんな落ち込む俺にルシフェルは容赦のない声をかける。


「……? そう言えば七〇〇点って何ですか?」

「え、いや、その、あれは……」

「あー、ひょっとして――見栄、ですか?」


 くっくっくっくとルシフェルがおかしげに笑う。


「だあ! もういいだろ! 言い間違いだよ!」

「ああ、そうですか、言い間違い。言い間違いですよね。ゼロ点を七〇〇点って言い間違えること、ありますよね。ありますあります」


 言いながら、ずっとくっくっくっくと笑っている。

 こいつ……とんでもないドエスやで……。


「ていうか! お前もゼロ点なんだろ!」

「わたしが? まさか。わたしはゼロ点ではありませんよ」

「なんでだよ。お前、堕天使だろ。神とは嫌い嫌われる仲なんじゃないの?」

「ああ……理力の有無は生まれ落ちた瞬間に決まるので、その後に裏切ろうが嫌われようが消えません。……まあ、わたし個人としては名前を口走るのも虫酸が走るあのクソ野郎の力なんてあまり使いたくないのですけどね」

「……じゃあ、何点なんだよ、お前は」

「わたしですか? 五〇〇〇です」

「ごっ……!?」


 ご、五〇〇〇!

 平均値の一〇倍。なかなかのいい数値ではないか。

 平時の俺ならばよくやったなーと言ってやるところだが、今の俺はやり返したくて仕方がないので簡単には認めてやらない。


「だが、五〇〇〇程度で満足されては困るな。さっき人間の小僧が八〇〇〇をたたき出していたのだぞ。お前は最強である魔王の副官なのだ。その程度で満足してもらっては――」

「魔王さま、握手」


 俺の言葉を遮り、ルシフェルが手を差し出す。

 ……?

 俺はよくわからずその手を握り返した。

 瞬間。


「あうち!?」


 手に雷でも直撃したかのような痛みが走り、俺はのけぞった。


「え、何したの、今?」

「わたしの理力で攻撃しました」

「すっげー痛かったんだけど」


 聖剣で殴られてもノーダメージの俺なんだけど……。


「わたしの本気の理力は五三万です」

「は!?」

「わたしの本気の理力は五三万です。さらに三回変身できます」

「変身するの!?」

「変身は嘘です」


 なんだ、そこは嘘なのか……。


「ですが、五三万は本当です。一応、元天界の最高位天使ですから。計測時は目立つのが嫌だったので加減しただけです」


 五三万ってすごいな……。八〇〇〇とかザコレベルである。


「なんだっけ、あの勇者。お前に呼んできてもらった……」

「グリムラス……でしたっけ」

「そう。そのグリムラスの理力はいくらくらいなんだろ?」

「詳細に計測したわけではないのでよくわかりませんが、二万四〇〇〇くらいかと」


 当代最強の勇者の二五倍くらいの戦力差。

 それが人と、天界でも最高峰とうたわれた堕天使の力の差。

 圧倒的じゃないか。


「いやー……お前ってすごいんだな」


 俺はしみじみと感心した。

 味方でよかったなあと思ったのだが、よくよく考えるとこいつは対魔族のスペシャリストである。俺の天敵なわけだが、そんなのを身近に置いておいていいのだろうか?

 俺の心を見透かしたかのようにルシフェルが言った。


「まあ、せいぜい――わたしを怒らせないことですね」


 怖……怖!


「ところで、俺はゼロ点なんだけど、合格できるわけ?」

「絶望的です」

「おいおいおい……」

「ですが、不可能ではありません。我に策ありです」

「おお! ど、どんな策がある――」


 という俺の声は割り込んできた別の声によって打ち消された。


「やあ、五〇〇〇点」


 三人の男たちが立っていた。

 三人とも身なりのいい服装で、一目で貴族とわかる。声をかけてきたのは、その中でもひときわ派手な服を着た男だった。年は一五歳くらいで緑色の髪。非常に整った顔立ちだが、尊大という文字を貼りつけた表情がすべてを台無しにしている。

 うん?

 こいつの顔、どこかで見覚えがあるような……。


「五〇〇〇点? わたしのことですか?」


 ルシフェルが首をかしげる。


「そう、お前だ。その身なり、平民だろう? 平民のくせになかなか高い理力を持っているではないか?」


 なんだこいつは。第一声から全力でケンカを売っているのか?


「はあ……あなたは?」


 ルシフェルが首をかしげる。

 そう言った瞬間、横にいた痩せた少年がくってかかってきた。


「貴様! 平民の分際で! 貴族の名を問うなど無礼だろう!」

「……俺は気にしないさ。そもそも平民に礼儀を問うても仕方がないだろ?」


 いちいち一言一言が頭にくる野郎だ。

 男があごをしゃくり、痩せた少年に指図する。


「覚えておけ! こちらの方はこのガルダ王国を支える伝統ある五公爵家のひとつ、ファーブル家のラーロットさまだ!」


 名前を聞いて思い出した。

 さっき、テストで騒がれていた男だ。


「そう、八〇〇〇点のラーロットだ。よろしく」


 だれもお前の点数なんて聞いてないんだがな……。

 ルシフェルが冷たい瞳を向けたままラーロットに答えた。


「わたしはルシフと申します」

「あ、俺の名前は――」


 俺が名乗ろうとするとラーロットが手で制した。


「君には興味がないよ」

「なっ!」


 なんて失礼なやつなんだ、こいつは!


「だって、君は学校に入学すらできないからね。覚えておく必要なんてないだろ、ゼロ点くん?」

「くっ……何で俺の点数を知ってるんだよ?」

「はははは! ゼロ点だぞ!? 話題にならないほうがおかしい。どうしてここに来ているんだ? 迷子なのか?」

「……殴っていいか、こいつ?」

「ご自重ください」


 そんな会話はもちろんラーロットに聞こえていた。

 取り巻きが激高する。


「貴様! 聞こえているぞ! 平民のくせに貴族を、しかも大貴族であるラーロットさまに無礼を働くだと!?」

「くくく……面白いな。この俺を? 八〇〇〇点のこの俺を? ゼロ点のお前が? 心意気だけは充分に勇者だな。お前なぞ俺に触れることすらできんよ」


 ……勘違いしているバカというのは実に滑稽だ。

 俺は小指一本でお前の存在を跡形もなくこの世から消し去ることができるんだがな……。

 ルシフェルが口を挟む。


「ご無礼をお許しください。それで――何のご用ですか?」

「ああ、そうだった。ゼロ点男はどうでもいい。ルシフ、お前は将来有望だ。俺と一緒に来ないか?」

「ラーロットさまがお声がけしてくれるのだぞ! 普通なら平民ごときが一生預かれぬ幸運であるぞ!」

「本当は平民など近くに置きたくはないのだがな。お前のその美しい顔は別だ。俺とともに来い。公爵家の人間とツテを作れる――平民のお前にはいい話だと思うが?」


 なるほど。こいつは優秀かつ美人な手駒をゲットしたいわけか。

 というか、理力はただの口実でスケベ根性のほうが本音なのかもしれないが。上司の俺が言うのもなんだが、ルシフェルは神が創造しただけあって屈指の美貌の持ち主なのだ。

 まあ……誇り高いルシフェルがこんなザコにつくとは思えないが。


「そうですか。ではお願いします」


 え!?


「ほう、話がわかるじゃないか?」

「ただし――こちらの兄が入学できなかった場合は、ですが」


 ちなみに、こちらの兄、というのは俺のことだ。俺たちは兄妹という設定にしている。

 ルシフェルの物言いに噛みついたのは取り巻きだ。


「非礼であろう! 平民が貴族に条件をつけるなど!」

「いや、構わんぞ」


 大爆笑しながらラーロットが続ける。


「条件ですらないからな。ゼロ点の男が合格するわけないだろ。いいだろう。それでいい。だが、気が変わりましたは許さん。いいな?」


 そう言い捨てると、ラーロットたちは立ち去った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王とルシフェルの会話が面白いですね。 五十三万という数値に吹き出しました。 [一言] この話に興味を持ったので読んでみます。 215話まで読めるのはいつになるか分かりませんが。(笑)
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