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実力チートなのにスコア0って主人公の特権じゃん?

 勇者学校に入学したい。

 暇をもてあます魔王――俺の提案に、副官のルシフェルは顔を手で押さえた。


「バカだとは思っていましたが、そこまでバカでしたか」

「えっ!?」


 いきなりぼろくそである。


「だってそうでしょう? 勇者の育成機関――敵の本拠地ですよ? そこに大将みずから乗り込むとかバカでしょう?」

「だから面白いんだろ?」


 俺は余裕で答える。


「……まあ、勇者の卵どもが魔王さまをどうこうできるとは思えませんが」

「だったら問題ないだろ?」

「……確認しますが、本気なんですね?」

「ああ」

「その前にせめてせっせと立てていた計画が無駄に終わった部下にかける言葉くらいあるのでは?」


 むなしそうな声でルシフェルが言う。

 そう言えば――勇者学校殲滅計画みたいなのを立ててたな……。


「す、すまん! でもほら! 閃いちゃって! 行きたいんだよ!」

「わかりました。わかりましたよ。魔王さまの思いつき行動はいつものことですからね……」


 そう言いつつ、ルシフェルがため息をつく。


 だが、そこからはさすがはルシフェル。ぼやきながらも方針が決まると手回しが早い。

 数日後――

 あっという間に俺とルシフェルはガリア王国の王都にやってきた。


 俺たちの城がある『最果て』からだと結構な距離があるのだが、俺もルシフェルも転移の魔法が使えるので移動は一瞬である。


 俺たちは試験会場の前に立っていた。

 おそらくは国の建物であろう、大きくて立派な建物だ。


 ちなみに、俺たちの服装だが、普通の旅人っぽい感じでまとめている。シャツとズボンとブーツ、以上! みたいな。コンセプトが『目立たないこと』だからだ。

 黒髪黒目で普通の人間とほとんど変わらない俺はそれで充分。

 残った問題はルシフェルの背中のバカでかい翼だが、こちらは「ああ、これって消せるんですよ」の一言で解決した。


 というわけで、俺とルシフェルはどう見ても普通の人間だった。

 便利だね、天使。


「ところで、なんでそんな翼を消すなんて変な機能あるの?」

「天使の仕事には人間界に潜入して言動を監視するというのもありまして。羽があると擬態できませんよね」


 というブラックな返事をもらった。

 いやー、神さまホントに人類を愛してますよね?


 俺は試験会場を見上げた。


「ふぅん……試験があるんだな。誰でも受けれるの?」

「有力者の推薦状がなければ門前払いとなります」

「え!? 推薦状!? そんなのいるのか?」

「慌てないでください。用意していますから」


 そう言って、ルシフェルが二枚の封筒を取り出した。

 おお! これでやましいことなくテストが受けられるぞ!


「すげえな。いつの間に人間の有力者と仲良くなったの?」

「偽造です」


 初っぱなから直球で違反していた。


 大丈夫かよと心配だったが、さすがはルシフェル。受付に推薦状を見せると特に疑われることなく「奥へどうぞ」と通された。

 試験会場は緊張気味な顔の少年少女たちがたくさんいた。


「ほー、ライバルたちか」

「そうなりますね」

「やたらと身なりのいい連中がいるな」

「貴族の子供たちでしょう」

「貴族ね……」


 そいつらは仕立てのいい服を着て、表情もきらきらしていた。他のいわゆる地味で普通な量産型町人服の連中とはまとっている雰囲気が違う。そいつらのグループからは、


 俺たち選ばれたものだからね?

 平民とは違うからね?

 的な謎の自信満々オーラがあふれている。


 ちなみに、魔界に貴族という概念はない。

 もともと力こそ正義、力こそ階級の世界なので肩書きにほとんど意味がない。魔王以下フラット! みたいな感じである。


 一応、ある程度の領土を手に入れた連中が「そろそろ地獄伯爵とか名乗ろうかな」みたいなノリで勝手に名乗っている程度だ。自称だったら遠慮せずに一番偉い公爵にしろよとは思うのだが、そこは「あいつが公爵だったら俺は伯爵かな」とか「これから成り上がるから男爵スタートで」とか思うらしい。なんだかちょっぴりかわいいね。


 いずれにせよ自称している時点でアレなので『肩書き持ちはイタイやつ』というのが魔界の通説である。

 というわけで、魔界の人間は肩書きを気にしない。


 さらに最底辺から魔界の王に成り上がった俺からすれば親から身分を引き継ぐ人間界の貴族制度など貴族(笑)程度の認識である。


「人間の貴族ってのはてっきり下を働かせて贅沢しているイメージだったんだがな。勇者になって最前線で敵と戦うのか。なかなか殊勝じゃないか」

「まあ、そういう貴族もいるようですが――」


 ルシフェルが首を横に傾ける。


「少数派のようですよ」

「は?」

「調べたところ、箔をつけたい人たちも多いようで。勇者学校に出たよ、勇者の免状をもらったよ、という自慢のために入学してくる貴族の子女も多いとか」

「……くだらないな」


 俺は吐き捨てた。

 舐めた態度の貴族たちは遠慮せずにボコってやろう。

 そうして、試験が始まった。

 試験は大きく分けて三段階にわかれる。理力テスト、身体能力テスト、模擬戦テストである。


「理力テストってなに?」

「理力というのは名前を口走るのも虫酸が走るあのクソ野郎の加護を受ける力ですね」


 解説しよう。

 ルシフェルが『名前を口走るのも虫酸が走るあのクソ野郎』と言うと、それは神を意味している。

 ルシフェルは堕天使だけあって神が大嫌いだった。ちなみに神と呼ばないのは徹底していて、俺は一度も聞いたことがない。何をしたらそれだけ嫌われちゃうの? 神さま?


「理力が高いといいことあるの?」

「身体能力の向上や魔族へのダメージ強化などです。聖剣の力を引き出すのにも役立ちます。勇者の必須能力であり高ければ高いほど勇者としての素養があるとみなされます」


 すでに理力テストは始まっていた。

 志願者が棒のようなものを握り、まるで握力でも測るかのように「ううううう!」と気合いを入れる。そうすると、棒につながれた機械に数値が出る。どうやらその数値が理力らしい。


「勇者の能力の基礎値ってわけか……いきなり重要なテストだな」

「そうですね」

「理力ってどうやって出す感じなの?」

「うーん……理力出ろーって感じですかね」


 適当だな、おい。

 俺はこぶしを握り、つぶやいた。


「理力出ろ!」


 何も変わらない。


「出たの?」

「いや、出てませんけど」


 根性が足りなかったのだろうか。


「……まあ、理力テストは適当にやってください。どうせ結果はわかりきっていますから」


 俺は少しばかり嬉しかった。

 結果はわかりきっている――

 それはすなわちルシフェルが俺の実力を信用していると言うことだ。いつもは俺に辛辣しんらつな物言いのルシフェルだが、根っこの部分では俺への敬愛があったのだ。


 それを知って俺は上司冥利に尽きていた。


「ふふふ、よぉし、頑張るかあ!」


 そこで俺はルシフェルと別れて指定された列に並んだ。

 並んでいる間に見ていると、他の試験者の平均は五〇〇前後くらいだった。一〇〇〇近くが出ると、おおお! という感じだった。


 そんななか――

 ものすごいどよめきが会場で起こった。


 さざなみのように驚きの声が伝わってくる。


「は、八〇〇〇!」

「八〇〇〇ってのが出たぞ!」


 平均値のざっと一六倍。

 どよめきの中心に目を向けると、どこからどう見ても貴族然とした服装の小生意気そうな緑色の髪の少年が立っていた。

 さぞかし気分でもいいのか、俺の場所でも聞こえるような大声で笑いながらその場を離れていった。

 後ろの奴らの話し声が聞こえてくる。


「すげえ、確か公爵家のラーロットさまだよな……。やっぱ一流貴族さまってのは違うんだなあ……」


 へっ。何がだ。

 俺は鼻で笑った。


 特に根拠はなかったが、俺はあいつの数値をぶち抜く自信があった。当たり前だ。俺は魔界の王であり、力こそすべてのあの世界での絶対最強なのだ。

 人間界の貴族のぼんぼんに負けるはずがない。

 ようやく俺の順番がやってきた。

 俺はわくわくした気持ちで棒に手を伸ばした。

 とんでもない数値を出して連中の度肝を抜いてやろう。その喝采と畏怖を俺の人間界の第一歩として刻み込んでやろう。


 俺は棒を握り、強く念じた。

 理力、出ろ!

 ――

 ――ふぅ。


 俺はことりと棒を置き、数値に目をやった。そこには八〇〇〇を大幅に上回る、最強魔王にふさわしい圧倒的な数値が――


「ゼロだね」


 係員のおっさんが首をひねりながらそう言った。

 ゼロ?

 確かに数値はゼロのままだった。


「おかしいな。一般人でもゼロってのはないんだけどな」


 おっさんが棒を手にとった。

 ぴぴぴぴぴ。

 軽い音がして一〇という数値が出ていた。


「機械は壊れてないな」


 おっさんは数値をリセットしてから、俺に棒を渡した。


「君、ちゃんとやってる? はい、計り直し」


 俺は本気なのだが……。

 そんなこと言っても仕方がない。俺は棒を受け取ると、再び強く念じた。

 理力、出ろ! 理力、出ろ! 理力、出ろ! 理力、出ろ! 理力、出ろ! 理力、出ろ! 理力、出ろ! 理力、出ろ! 理力、出ろ!

 むっちゃ念じた。

 しかし――

 ぴくりとも数値は動かない。ゼロのままだ。


 そ、そんなバカな……。

 あの貴族のがきんちょの八〇〇〇どころか、一般受験生の五〇〇ですら遠く届かない。

 ていうか、ゼロ。

 おっさんは首をひねりながらも、俺のスコアをメモした。

 ゼロと。


 俺は焦った。俺の記念すべき第一歩が――

 最高位ではなくて最下位というのは!


「ちょっと待ってくれ! 具合が悪いというか何というか……! もう一回だけやらせてくれ!」

「確かに変なんだけどね……勇者候補者がゼロなんて。でも機械が壊れていない以上、これが結果だから。諦めて。はい、次の人」


 俺に興味を失ったとばかりに、おっさんは次の候補者を呼んだ。

 俺はわざとゆっくり立ち去りながら、候補者の計測を見ていた。

 機械の問題だろ?

 そいつもゼロだったら、すぐにおっさんにクレームをつけよう。

 そう思っていた俺だが、その期待は外れた。

 ぴぴぴぴぴ、という音ともに『六一二』の数値が表示される。

 うぐ……!

 ぐうの出ない証拠だった。俺はきびすを返すと列から離れた。


 理力ゼロ――

 それが俺の数値だ。


 数値自体がショックだが、それ以上にショックなことがある。理力とは勇者の力を示す基礎値だとルシフェルが言っていた。


 ということは、それがゼロの俺は――

 この学校に入れないのか?


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