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3 聖剣伝説 その3 最強の剣……抜く!

「感じた先に。いや、声の先に……本当にあった……」


 レイは皮の水筒に泉の水を入れる。

 自分の喉も死ぬほど乾いていた。

 アンジェに飲ませる水を水筒に入れながら、自分も犬のように這いつくばって飲んだ。


「ふ~。生き返るな」

『ちょっと、ちょっと、どうして水なんですか? 普通はまず剣を抜こうとするでしょう!』

「へ?」


 レイが水を飲むの止めて頭を上げると目の前に剣があった。

 今は剣はどうでもよかった。聖剣と呼ばれる剣なので興味が無くはないが、今はアンジェを救えるという聖水がこの手にあるのだ。

 これを今晩までに持ち帰ることが第一だ。


 とはいえ、剣は目の前にある。

 斥候職のスキルでも辺りに罠がないことも確認でした。


「とりあえず、試してみるか? 抜けたら儲けもんだし」


 レイは剣に手をかけた。

 しかし、岩に根が生えたようにビクともしない。


「やっぱり俺じゃ抜けないよな。ははは」


 レイは笑う。古代図書館の文献にもあった。

 聖剣を抜けるのは選ばれしもの、と。

 勇者とか英雄とか讃えられる人物が抜くのだろうとレイは思う。


『そんな……アナタの強くなりたいという気持ちがさっきより、小さくなっている』


 レイは幻聴に同意する。そりゃそうだろう。

 ここに来るまでは泉を探すために魔物とも戦わなくてはならないから強さを求めたが、聖水を手に入れてしまえば逃げ帰るだけだ。

 逃げるのだけはちょっとだけ自信がある。


 レイは声を極限状態におかれた冒険者としての自分のカンが強く顕現したものだろうぐらいに考えている。

 しかし、不可能と思われた任務も幻聴のおかげで山場を超えることができた。

 お礼を言うことにした。


「ありがとう。助かったよ。それじゃ」

『危ないっ!』


 声の叫びで、レイは反射的に身をよじった。

 レイの上半身が存在した場所に鋼鉄の塊のような剛剣が振り下ろされ、近くにあった大岩と巨木が吹っ飛んだ。

 レイははじけ飛んだ大岩の散弾に吹き飛ばされながら敵を見る。


「こ、こいつはっ?」

『デュラハンです!』

「んだって……」


 レイはデュラハンを知っていた。

 3mはあろうかという頭のない巨大な鎧が剣を振り下す。

 レイの哨戒スキルが一切効かなかった。

 彼我のレベルの差が絶望的にあることを現していた。


 デュラハンはこの地方に極稀に現れる最強の魔物として50年ほど前から語り草になっている。

 軍隊も時代時代の最強冒険者も敗れている。

 一度だけ、当代の最強のパーティーが、追い払ったという話は聞いた。

 レイは洞察する。追い払ったのではなく、ただ単にこの森に帰って行っただけだったろうと。


 また剛剣が振り下ろされた。剣自体は躱しつつも、やはり土石の散弾を食らう。

 だが、レイは吹き飛ばされつつもニヤリと笑う。

 どんなに強かろうが関係ない。聖水を手に入れれば、逃げ帰れば良いだけなのだから。

 吹き飛ばされた勢いをスタートダッシュに利用して脱兎のごとく走る。

 あんなくそ重そうな鎧の化物に追いつかれるはずがない。


『後ろ!』

「え?」


 振り向くとデュラハンはいつの間にか青白い鎧馬がいばに跨っていた。

 剛剣の長大な間合いがすぐ側に迫る。

 デュラハンが剛剣を振り下ろすとほとんど同時にレイは走る方向を急旋回する。

 なんとか剛剣を躱し、巻き上がった土砂に紛れて、大木の裏に隠れた。


「し、死ぬかと思った……どうなってるんだよ。あの化物」

『地獄から死馬を召喚したのです。デュラハンは強力なアンデッドです』


 声は本当に俺の第六感なんだろうかと思うレイだったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「どうやって切り抜ける?」


 あの馬のスピード……撒くのは無理だ。

 既に隠行スキルを発動している。

 隠行スキルを発動して木や茂みに隠れながら移動すれば、やり過ごせるかもしれない。


『ダメ。止血してッ』


 声が止血しろと叫ぶ。

 レイはグレイスライムの酸やアルラウネのツタのムチ攻撃、デュラハンの剛剣による岩や土砂の散弾で既に満身創痍だ。

 だが、ここで止血なんてしてどうする。

 ともかくアンジェの待つエステオの街にたどり着ければいいのだ。

 そんなことを考えていると地面から不意に円形の口に牙が生えている巨大なミミズが現れる。


『ブラッディワームです!』


 レイは悲鳴をあげるのをなんとか飲み込みながらワームを切断する。

 こいつも古代図書館の文献で見た。

 吸血モンスターで血の匂いに反応する魔物だ。

 大木の影からデュラハンを見る。

 幸い離れた場所を探していて気が付かれていないようだが、次にワームと戦闘したら気取られない保証はない。

 それにグレイスライムも人の温度を感知して襲ってくる。

 服の布を破いて出血箇所に当てるが、血の匂いが漏れるまでは止血できてるかは心許ない。

 どうやら、隠れて撒くことも、早さで逃げることも不可能のようだ。

 なら倒すしかない! が……。


「おっさんにはキツイぜ……あんな鎧、現実的に考えて斬れるだろうか……」


 仲間やエンチャント魔法のサポートを受けたアンジェならば、ひょっとしてできるかもしれないというところだろう。


『デュラハンには弱点があります。左手に持っている兜です』

「なに?」


 声のいうように、右手に持つ剛剣に気を取られて気が付かなかったが、デュラハンは確かに左手に兜を持っていた。目の位置が赤く光っている。

 古代の魔物デュラハンは確かに文献で読んだ。

 しかし、本当に兜が弱点なんだろうか? 

 なんの確証もない声をレイは信じることにした。それこそが極限下で研ぎ澄まされた第六感だったかもしれない。

 レイは、デュラハンの右手に回り込み、切断したワームの頭の口を掴んで放り投げた。

 デュラハンはまるで試し切りのようにワームの頭に鉄塊を振り落とす。


「今だ!」


 レイは攻撃の隙をついて鎧馬の脚をスライディングで潜り抜けた。

 馬を潜り抜け、デュラハンの左手側に出る。

 デュラハンは一瞬、レイを見失い、レイのすぐ頭上にはデュラハンが左手に持っている頭部があった。


 ()った!


 と確信したレイ。全盛期と言われた頃の静かで鋭い斬撃を放つ。

 だが、デュラハンの頭部に触れた瞬間、アンジェのミスリルの剣はパァンッと軽い音を立ててはじけ折れた。


「勘弁してくれよ……」


 そう口にしながら、ミスリルの剣と言えども限界が来ていたのだと理解した。

 レイはとりあえずの距離を取るために走り抜けた。反撃されたら死ぬことも覚悟して。

 だが、デュラハンの弱点が兜というのは事実だったようだ。斬撃の衝撃で、本体の兜を落とした巨大な鎧が、拾い上げる時間があったのだ。

 その間にレイはまた大木の陰に隠れた。

 だが、弱点を攻撃されたデュラハンは憤ったのか、見境なく辺りを剛剣で破壊している。

 岩も大木も一撃で吹き飛んだ。もちろんレイが隠れている大木を攻撃されたらもろともにバラバラにされてしまうだろう。

 現実的に考えてワームやスライムに見つかる前に死んだなとレイは思う。

 だが、その思いを首を振って否定する。


「アンジェが待ってるんだ! 剣鬼と言われた頃の強さを一瞬だけでも!」

『っ! オジサマ! 今なら私を抜けます!』


 声が聞こえた。

 その時、レイはなぜか私を抜けますという声を聖剣を抜けと受け取れたのだ。

 気が付けば、聖剣の場所はレイのすぐ後ろだった。

 迷ってる暇はない。

 レイが大木を飛び出て聖剣に走る。

 それに気付き迫るデュラハン。

 レイは先ほどビクともしなかった聖剣に無心で手をかけた。



――聖剣が何の抵抗もなく泉の岩から抜ける。



 だがレイの頭上には剛剣が迫っていた。もう躱す時間はない。

 デュラハンの剛剣を聖剣で防ぐしかなかった。

 瞬間、なにかが砕けたかのような轟音が鳴り響く。

 またしても剣は折れたのだ。城の柱のような大きさの剛剣が!

 剛剣は中空に飛び、グルングルンと回転して地に刺さる。

 レイは剛剣が宙を舞っている間も行動していた。死馬を蹴り上がり、上段から聖剣をデュラハンに振り下ろす。

 青白い鎧が何の抵抗もなく左右に斬り割れた。

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