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12 ルシア その3 

「お城が見えてきたね」

「あぁ」


 クレンカ領主アラン・エドワーズ侯爵はクレンカ城が別にあるにも関わらず、バレンタイン城を居城とした。

 巨大なクレンカ城よりも隣の州である砦に毛が生えたようなバレンタイン城のほうが経費がかからないというのが理由らしい。

 その代わりに私設の騎士団を抱えて魔物狩りに勤しんだりと、先代から武人としても有名だった。


「城が見えてきたって」

「うん」

「うん。じゃなくて」


 馬車が止まったら、出迎えやグレンが降りる時に手伝いに来るに決まっている。

 ルシアはほとんど抱き合っているような姿を見せたくなった。


「もう寒くないでしょっ!」


 レイを突き押してしまう。

 ルシアは反対側の扉が無くなっていたのを忘れていた。


「え?」

「あ」


 レイの体が馬車の横で宙に浮く。

 その数秒後、レイの悲鳴が響き渡った。


「ぐわああああぁ」


 レイはまた馬車に戻ってきてもらって乗り込んだ。

 走り出した馬車のなかでルシアに心配される。


「だ、大丈夫? 怪我なかった?」

「まあ……」


 体は聖剣の自動回復スキルで治っていくが、自分から飛び降りたときと違って受け身も取れなかったので相当痛い。

 レイはルシアの優しさを感じた気がしたが、やっぱりただ単に寒かっただけだと思い直した。


「どこか怪我してるかもしれないでしょ。戦闘もあったんだし。体を見せて」

「いや、大丈夫だから」

「見せなさい」

「本当に大丈夫だって」


 そんなやり取りをしていると咳払いが聞こえた。


「コホン。お取り込み中のところすいませんが、城に着きました」


 グレンがレイ達を見ないように横を向いて言った。

 馬車はもう城門の前に止まっていた。

 バレンタイン城は数度の戦乱に巻き込まれた傷が無数に残されている。

 防御力に影響を及ぼさないところは敢えて直していないという噂があった。

 グレンに案内されてレイとルシアは城の廊下を歩いた。

 城の中も華美な装飾品や内装は無い。

 レイは仕事で遠征に行く際に泊まる高級ホテルのほうが派手かもしれない思う。

 ルシアが小さな声でレイに話しかけた。


「外見はともかく内装はもっと凄いものを想像してたわ」

「そうだな。アンジェやリンスが泊まろうっていうホテルのほうが……」

『レイさん。見てみて! うわーーーシャンデリアですよ!』


 ティファとルシアは同じものを見ているはずなのに反応がまるで違うなとレイがクスリと笑った。

 ルシアは首をひねる。


「どうしたの?」

「いや別に」


 グレンが部屋が並ぶ廊下で止まった。

 部屋はどうやら客室のようだ。


「侯爵は会食を望まれています。それまでレイ殿はこちらの部屋で、ルシア殿はこちらの部屋でおくつろぎください」

「ありがとうございます」

「なにかありましたら扉の前に衛士とメイドが待機していますので。お風呂もありますよ」


 客室は少し豪華で調度品などもあり、ベッドは天蓋付きだった。


『お城~!!!』

「はは。そりゃ、お城だよ」 

『会食もきっと美味しいものが出るよね!』

「え? ティファ、食べられるの?」

『あ……』


 食べれるつもりでいたらしい。ティファはたまに剣であることを忘れる。


「いつか俺が魔貴族を斬ってやるから……そしたら食べような?」


 山鳥の肉を一欠片食わせるだけで、苦労したのだ。

 さすがに会食の時間を稼ぐことはできない。


『あい……ぐす……ありがとうございます……』


 何千年も生きていたとはとても思えない純粋さだ。


「二回も馬車から転がった、いや一回は転がされたんだけど、ともかくお風呂に入ろうかな」

『いいな~お風呂。私も入りたいな』

「魔貴族を斬ったら入ろうね」

『え、いや、一緒に入ろうって意味じゃないですからね』

「誰もそんなこと言ってないよ」


◆◆◆


「いや~いい湯だなあ」


 聖剣はサビないということなのでティファも試しに湯につけている。


『サビはしないけど神鉄はお湯の感触は味わえないようです。羨ましい』

「ところでさ。ティファって目がないのにどうやって見てるの?」


 レイは裸なのでそれが気になってしまった。


『私もよくわからないんですけど、剣身と一緒に透明な人間の体が動いているような感じです。眼をつぶることもできます』

「なるほど」


 レイは体を拭く布で前を隠した。


『目をつぶってるのでわざわざ隠さなくても大丈夫ですよ』

「見てるじゃないか……」

『あ……』


 ティファは嘘をつけない性格のようだ。

 というかそもそも最初から好奇の感情が漏れていてバレバレだったのだ。


『だって! 私なんかいつも裸見られてるみたいなもんなんですからねっ!』

「裸って。ただの鉄なんですけど」

『森で見られました!』

「そう言われれば、そう……」

『ちょっと可愛いし、見ても良いじゃないですか』


 レイはティファの体を思い出してしまった。

 布で隠している今の状態を見てもはたして可愛いと言ってくれるだろうか。

 静まってから前を隠しながらお風呂から出ると脱衣所に若いメイドが二人いてギョッとする。


「お着替えを手伝います。主人が急いだらしく、もう会食に来るそうなのでタキシードに」

「わ、わかりました。わかりました。服だけ置いていってください」


 レイが強く着替えの手伝いを拒否するとメイド達が出ていった。


『ちょっと残念だったでしょ?』

「いや、そんなことないよ。庶民のおっさんだよ」

『レイさんが私を人間に戻せる時間を増やしてくれたらお礼に着替えるの手伝いましょうか? ふふふ』

「ははは。いいね~」


 タキシードのような服を着るレイ。


「ティファ、どう? カッコイイ?」

『はいはい。カッコイイカッコイイ』


 ティファはいかにも棒読みで言う。


「棒読みで言ったって伝わってるぜ」

『もうっ! カッコイイです! いじわるっ! 聞かないでください!!!』

「ははは」

『もう人間に戻ったらやることが決まりました』

「え? なに?」

『レイさんの頭をポカッってすることです』


 脱衣所を出てメイドに会食の場所に案内して貰おうとするとグレンが走ってきた。


「レイ殿」

「ん? グレンさん、どうしました?」

「実はルシアさんが急に会食には出ないと言い始めて」

「え? そうなんですか?」

「はい。侯爵はワイルドローズの皆様に会うのを本当に楽しみにしているので、レイ殿から説得していただけませんか?」


 できるかなと思うが、断るわけにもいかないだろう。


「わかりました」


 レイはグレンと一緒にルシアが使っている客室の前に行く。ノックをする。


「おーい。ルシア。会食がはじまるってさ」

「レイ? 入ってこないで! 会食にはいかないから」


 扉の前に立っている若いメイドが目に涙をためて謝る。


「お着替えをお手伝いしたのですが、着替え終わると私はいかないと言い出されまして。私がそそうをしてしまったのかも。申し訳ございません」

「あ、いや。アナタのせいじゃないですよ。俺が説得してきますから心配しないで」


 メイドを泣かせるなんてと思いながらレイが部屋に入る。


「ルシア。我儘言うな」

「レイ!?」


 レイの顔を見るなり、ルシアは耳を両手で隠す。

 肩出しの黒いドレスが彼女の白い肌が際立たせよく似合っていた。


「何やってんの?」

「見た?」

「何言ってるかわからん。女の子、責任感じて泣いてたぞ。行くぞ」


 レイがルシアの腕を掴む。

 すると尖った耳が出てきた。


「あ!」

「見ちゃったのね……」

「お前、エルフだったの?」

「〝半分〟ね」

「ハーフエルフか」


 ルシアは人間とエルフのハーフエルフだった。

 人間とエルフは戦争をした歴史もあり、ハーフエルフはどちらの種族からも差別の対象にされる。

 彼女は家でもずっとツバ広の帽子をかぶってその事実をレイにも発覚しないように隠していたのだ。

 きっと彼女が12歳で冒険者の門を叩いたことにも関係あるんだろう。


「それで綺麗な切れ長の目だったり、鼻筋がすっとしていたんだな。エルフは美人が多いもんな」

「え?」

「魔力も強い理由がわかったよワイルドローズの仲間は皆助かってる」

「……レイ。ありがとうね」


 レイがルシアの手のとってうやうやしく言った。


「さあ。ルシア様。会食に行きましょう。侯爵がお待ちです。」

「で、でも……侯爵が嫌がるかもハーフエルフなんか」

「そしたら侯爵をぶっ飛ばしてやる」

『うんうん』

「ちょっとちょっと現実的に考えてよね」


 ルシアも少し余裕が出てきたようでレイの口真似をした。


「伝説の聖剣からも剣のサビにしていいって許可が出たよ。まあ、それは冗談として……」

「冗談として?」

「少しでも腹立つ事を言われたら途中で帰ってやろうぜ。俺達の家にさ」

「俺達の家……」

「それでいいか?」

「うん!」


 ルシアは満面の笑みでレイの腕をとって歩き出した。

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[良い点] なし [気になる点] ルシアにとって自分がハーフエルフというのは相当な負い目やトラウマを抱えたストレスであったはずなのにその描写はこれまで全く無かったし、その解決ももっと丁寧に章を割いて語…
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