表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark seeker  作者: 縁側 熊男
序章 化け物との対峙
2/5

解説と宣告

 同時に不可解なことが起こりすぎて、軽くパニック状態であった。

 ただ、ほうけたようにその女性を見ていた。

「結構聞きたいこととかあるだろうが、今は寝とけ」

 そう言いながら、彼女は椅子を戻す。

 何も考えず、私はその指示に従った。

 ただ、寝転がったところで、頭は動く。

 いくつかの疑問符が、冴え始めた私の頭の中を飛び交っていた。


 まず、あの"化け物"。どう考えてもこの世の異物のような感じだった。見たことも聞いたこともない。

 そして、私の右腕が一瞬でえぐり取られた……。

 完全に説明がつかない。

 次に、この女性だ。神崎愛かんざきあい、とか言っていたな。

 意識が亡くなる直前に見えた"あの人"だと思うが。

 あの時、化け物と戦っているように見えた。あんな化け物と。

 とりあえず、命の恩人であることに間違いはなさそうだ。その点は感謝しなければ。

 しかし、情報がなさすぎる。どう対応するべきなのか……。


「ありがとうございます 助けていただいたんですよね」

 私はそうはっきりと伝えた。

「あぁ、一応はそうだな 私は医療知識がほとんどないから、"室長"のおかげだ」

 椅子に座りながら彼女は適当に応える。

 右腕の包帯をよく見ると、巻き方がめちゃくちゃだった。助けてもらって言うのもなんだが、酷い。すぐ取れてしまいそうだ。

 それよりも、"室長"とは……。

「とりあえず、こちらからお前に話さないといけないことがある お前はただ、巻き込まれただけだがな」

 そう彼女は何かを語ろうとしていた。

 向こうから何か言ってくれるならば問題はない。私は軽く「おねがいします」と口に出した。


「まずは、あの化け物についてだが、私たちはあれを『アノン』と呼んでいる」

 彼女はそう語り始めた。

「『アノン』ですか…… 聞いたことないですね」

 適度に応答すれば、しゃべりやすいかもと思った。

「そうだろうな 政府が全力で隠してるし、もし見つけたとしても、基本見つけたやつは死ぬ お前、私がいてよかったな」

 ……。 さらっと恐ろしいことを彼女は言い放った。

 やはりあの化け物と戦っていたのは彼女だったのだ。あんなのに出くわして生きているということは彼女が追い払ってくれたのだろう。確かに運がよかった。

 この時は、そんな呑気のんきなことを考えていた。

「詳しいことは言えないし面倒くさいから言わないが、あいつらの戦闘能力は人間をはるかに超えている 皮膚や肉も硬くて普通の弾丸ぐらいなら通らない しかも凶暴性が強いから、ほぼ確実に襲ってくる」

 淡々と彼女は話を続ける。


 そんなものがいることを、今まで知りもしなかった。

 何か、久しぶりに感じる興奮のようなものが沸き上がっていた。


「でも、あなたは違うんですよね 軍人さんか何かですか?」

「軍人かどうかといわれるとよくわからないが、ともかく"一般人"でないのは正解だろうな」

 適当に流された気がする。


「それよりも、お前の話だ 結構お前の状況やばいからな」

 彼女は話を急にそらしたが、さっきまでより少し圧迫感があった。私は無言で彼女の話を聞き続ける。

「そのアノンを構成している細胞にはいくつか特徴があってな そのうちの一つはその再生力 回復力が高くて、細胞の入れ替わりも激しい」

 急に話が飛んで、ついていくのが難しい。 情報量が多すぎる。

「あと、その細胞のもう一つの特徴なんだが……」

 彼女は立ち上がり、私の右腕を持ち上げた。

「めっちゃ痛いんですけど」

「分かってるよ、そんなことぐらい」

 彼女はそう言いながら、乱雑に巻かれた包帯をほどいていった。


 痛々しい右手が見え始めた。

 赤く、深い傷口が右腕の肘から指の付け根まで刻まれているのが分かった。

「よく傷口を見ろ」彼女はそう呟いた。

 正直、見るのも嫌なほど酷いものだったが、言われた通りに傷口を観察してみた。

 すると、肘と手首のちょうど間のあたりに、何か入り込んでいるのが見えた。


 例えるのなら、まるで、小さなミミズのような……。

 視認できる範囲で五つほど、うねうねと気味悪く動いていた。

 痛む右腕に無理矢理意識を集中させると、鋭い痛みとは別の感覚があった。

 変なのが、私の右腕の中で……。


 絶句。


 私の状態は、いつぞやのパニックをはるかに超えたところにあった。

「その細胞はな、自分以外の細胞を侵食し食い尽くす しかも、超急速にな このままだとあと一週間で、全身に回る そうなりゃ、あの世行きだな」

 彼女はそう告げながら、乱雑に包帯を巻き直した。

「あのサルの爪の細胞でも入ったのだろう アノン細胞は頑丈だが、分離しやすいんだ」

 いきなりすぎる死の宣告で、何が何だかよくわからなかった。

 一度、あの化け物の前で死を覚悟した身ではあったが、それでも、言葉に変えられない恐怖があった

「だから、お前をうちにつれていく」

 そう彼女は言い放った。

「どういう、ことですか」

 声を絞り出すようにして私は尋ねた。

「ちょっと特殊だが、初期段階ならその細胞を完全に取り除ける 助かるってことだ」

「…… えっ?」

 突然の希望に、安心よりも混乱の方が大きかった。結局は助かるというのがオチなのか?

「明日の朝出るからな それまで寝とけ 現段階で急ぐことはないって言ってたし」

 そう言うと彼女は立ち上がった。

「お前に親がいなくてよかった こういう時は厄介になるからな」

 彼女が私の状況を把握していることに、違和感を感じている余裕はなかった。

「風呂借りるぞ 少し疲れたからな」

 私はほぼ無意識に首を縦に振った。それぐらい別にどうでもいい。


 感じていた高揚感は、一瞬で困惑につぶされた。

 色々と情報量が多すぎる。頭の中で整理はついたものの、その事実に常識がついていかない。加えて、最後に聞かされた自分の命の危機とかいうやつが、思考を鈍らせていた。

 しかし、理解できないに興味が向くのが私の性のようなものだ。そんな自分の命の危機よりも、気になっていることが一つ。

 さっきははぐらかされたが、なぜ彼女は無傷であの化け物、いや、"アノン"と戦えたのか。家の前だとはいえ、私を担いでここまで運ぶのには気を逸らす程度じゃ無理だろう。そもそも、あの怪力なら家など無意味だろうが。

 アノンに対する戦闘方法があるのと考えるべきだ。それで倒せはしないにしろ、追い払うことはできるのだろう。何かアノンの嫌な臭いがするものでも持っているのか。それとも物理的な武器が使えるのか。

 後者はないな。弾丸が通らないとさっき言っていた。やはり追い払ったと考えるのが妥当だろう。


 結論のようなものが出たところで、私は時計を見る。

 今は午後8時少し前、夜だな。日付もわかる。あの日、アノンに襲われてから3日後の夜だ。


 ……。

 多少時間はかかったが、冴えきっていない頭でもわかった。

 つまりだ、3日間連絡もなしに学校を休んだということだ。

 で、現在夜8時前……。

 "3日間学校を休む"×(かける)"その日の夜8時"

 この計算式の答えは……。


 ピンポーン


 呼び鈴が無情にも響いた。

 というか、なぜいつも8時なんだ。夜に訪ねてくる非常識野郎が……。

 さすがに玄関に出るぐらいの体力は戻ってきた。応対しないってのもあれだし、出よう。

 だが、この状況をあいつが悟ったら、どうなるかわからない。


 全力で追い返してやろう。



「よう龍牙 久しぶりに学校休んだんじゃねぇか? 何かあったか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ