第一話
終業直後。HPが終わり、じっとしていることに慣れないクラスが動き出す瞬間がくる。
皆が思い思いに喋り出したり、部活に向かったり、又は帰宅したり。中学二年生の放課後は前からこんなものだった。音心美――――立木中学校二年B組、月音湖音心美もその一員ではないとは言い切れない。
(ねぇむぃ……)
あくびを噛み殺そうともせず、涙目になりながら鞄に教科書類を突っ込む。折れ曲がったページが彼女の性格の大雑把さを存分に表現しているのだろう。
(帰ったら、宿題いっぱいある……もうやだ、宿題のない南国の島に行って一生暮らしたいっ!)
無謀な願いだ。そんなの分かってるよ、心の中でぐらいでっかい夢持ちましょうよぉ、と自分で応答。そろそろ終業3分後になる。
3分後。
―――ということは、《いつもの時間》だ。
どことなく廊下がざわつき始めた。嘘、マジかよ、めっちゃ可愛いじゃん、などと黄色い声が聞こえてくる。廊下を駆けてくる足音。その音は二年A組へとまっすぐに向かってきていて。
「ねーこーみさんっ!」
やっぱりというか何というか、顔見知りの少女が笑顔で立っていた。
長い茶髪をポニーテールに束ね、大きな瞳が可愛らしい。しかしどこか芯の強そうなところが表情に滲み出ている。
「あ、ははは……。おはよう、ミクア?」
「おはよう、じゃありません!さぁさぁ特訓しますよ!帰りましょう!」
「……うげ」
「うげ、じゃありません!」
がしっ、と力強く腕を捕まれる。華奢な見かけと違って凄まじい力だ。
「に・が・し・ま・せ・ん・よ?」
彼女は笑っていた。それはもう、彼女のもう一つの顔を彷彿とさせるような笑顔で。