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転生処刑人  作者: ふじわらしのぶ
第二章 白虎の祠(びゃっこのほこら)
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凶兆

すぐにでも千年城で天水たちと四軍のバトルの話にするつもりだったのですが敵側の動向を知っていただく為にもこういう話を挿入することにしました。まわりくどくてすいません。

 「侵入者とは賊か」


 「うん。そういう感じ。目的はよくわかんねえけど」


 獏は不快さを微塵も隠さぬような口調で答えた。笠の下の表情はさぞ怒りに満ちたものなのだろう。凶宮まがみや栄華えいがは獏の予想通りの対応に思わずほくそ笑む。


 「そうカッカするなよ。俺たちは悪い事をしてるんだから、正義の味方っぽい連中が妨害に来るのはむしろ普通っぽくねえか」


 「白虎め、何をやっておるか。ここは貴様の膝元であろうが」


 獏は修験者の持つ如何にもそれっぽい感じの錫杖を地面に打ち付ける。もはや不快感から生じた怒りを隠そうともしない。ただでさえ人間がしたり顔で山に立ち入るだけでも決して許しがたい行為なのに、それを咎めようともしない先達の態度が獏の癇に障ったのだ。たとえ白虎が獏よりも起源の旧い妖怪とはいえこの不始末はどうしてくれようか。


 「おいおい。いくら何でも御山の主様とケンカするのは勘弁してくれよ、獏ちゃん。命がいくつあっても足りねえや」


 放っておけば本性を晒して、白虎に向かって行きそうなほど苛立った獏に釘を刺す。白虎は化身の銅垣どうかき武智たけともほど荒い気性ではないにせよ獏がいきなり彼の領域で妖怪としての正体を現すようなことになれば怒りもするだろう。もしも仮にこの場で白虎と対決することになれば負けることはなだろうが相応の対価を支払わされることになる。確たる敵対勢力が存在する以上は周囲を騒がせるような行動は是が非でも避けたいのが凶宮の本心だった。加えて、現時点では気分屋の九怨くおん春歌はるか、上昇志向の強すぎる銅垣どうかき武智たけとも、普段から何を考えているかよくわからない光河こうがりつに足並みを揃えろというのは究めて難しい。彼らを納得させる為にも計画が次の段階に進んでいるという確かな実績が必要とされる時期だった。つまり獏や凶宮が自ら進んで動かなければならない状況なのだ。


 「それくらいは心得ている。ワシを侮るな、凶宮」


 「だといいんだがねえ」


 獏は再び黙々と頂上に向かって歩き出した。凶宮も獏を追って歩き出す。


 「凶宮。賊の正体に心当たりはあるか?」


 「行く先々で術の痕跡らしいものをいくつか見かけたけどさ。隠し方が巧妙というか、とにかくやり方が上手いんだよね。もしかするとここに来たのが初めてじゃない奴かもしれないよ」


 実は銅垣の手下がこちらの同行を見張っている可能性も十分に考えられた。獏や凶宮の思惑には彼を裏切っているつもりも、出し抜くつもりもない。だが、凶宮を含めて五人の理外が偶然一致した寄せ集めにすぎないのだ。つまり、今後のつき合い方を間違えれば空中分解という事態も十分に考えられる。


 凶宮は知らずのうちに爪を噛んでいた。実家にいた頃に両親から注意された彼がものを考える時のクセである。


 凶宮はとりあえず銅垣がこちらを裏切っているという線は外すことに決めた。銅垣は若く荒々しい気性の持ち主だが、目的の為ならば手段を選ばぬ冷徹な一面も持つ。少なくとも利害の衝突が表面化しなければ下手に勘繰ってくることもあるまい。やはりイチオシは銅垣が関わる以前から白虎の守護する隠しみやこを出入りしていた存在だ。もしかすると焼け落ちる前の都の姿を知っているものかもしれない。正体は定かではないが軽く見積もっても千年以上は現世に留まっている妖怪なのだろう。


 しかし、またここで問題が生じてくる。妖怪同士の関係は起源が異なってしまえば実に希薄なものなのだ。獏のように大陸の大妖怪が起源となっている妖怪ならば何も知らないだろう。凶宮にしても要人暗殺や妖しげな薬を作るのが本業なのだ。妖怪の知り合いはいないに等しい。


 凶宮は赤茶に染めた頭をボリボリ掻く。手詰まりではないにせよ厄介な状況だった。血気に逸る獏に一度引き返そうというのも難儀な話だ。だからといって齢千歳以上の妖怪に戦力が整っていない状況で遭遇することも避けたい。凶宮は思いがけず呟く。


 「いっそ賊を白虎に襲わせるか」


 白虎が外敵として認識する状況を意図的に作り出し、侵入者を排除させる。思いつきとはいえ妙案だった。訝しげな表情で獏が凶宮に尋ねる。いつもながらに道化じみた態度を取り続ける凶宮の腹の奥底が見えて来ないことに腹を立てているようだった。


 「何ぞ思いついたか、凶宮」


 「ああ。まあボチボチとね。獏ちゃん、多分必要になるからさ四軍の用意をしておいてくれ」


 四軍とは、かつて獏の主が支配していた魔界と呼ばれる異世界に存在する四種の妖怪たちから構成される精鋭たちのことである。いろいろな制限はあるが獏は肉体を通用門にして妖怪の軍勢を呼び出すことが出来る。


 「ここで四軍を出せば白虎の怒りに触れることになるぞ。どう使うつもりだ」


 獏は巨木のような腕を組んで、凶宮に尋ねる。獏の自慢の四軍を頼りにされることは嬉しい限りだが、白虎が怒り狂って山の出入り口を閉じてしまうということも考えられた。山という異界においては白虎は絶対的な支配者である。如何に妖怪王混成の側近である獏でもここから無事生還出来るという可能性は低い。


 「みやこに四軍を解き放ち、適当に暴れさせた後に敵を燻り出す。どうよ、俺の天才的な思いつきは。なかなかのもんだろ?」


 さも得意げに軽口を叩く凶宮を前に獏は怒りを通り越して呆れていた。凶宮栄華、知恵者を装っていても所詮は愚かな人の子か。そもそも隠しみやこを守るために存在する白虎の支配領域テリトリーで獏が四軍を召喚すればたちまち彼の怒りを買うことになるのは必至だろう。獏の擁する魔界の四軍は不浄な気に毒された妖怪の軍勢、白虎のような自然の清浄な精気から生まれた妖怪がもっとも嫌う存在なのだ。これらの情報は以前に凶宮に教授したものである。放し飼いのニワトリでももう少しマシな記憶力を持っているだろうに。


 獏はかような愚策は論外と言わんばかりに、凶宮に背を向けた。心なしか歩幅は前よりも感覚が広くそして分配が速くなっている。


 「おいおいおい!どうしたのよ、獏ちゃん!」


 急に速度を上げた獏を追いかける為に凶宮は走らなければならくなっていた。凶宮は白いロングコートの裾をひらひらさせながら懸命に獏の方に向かって走る。油断すれば凶宮が山中に一人取り残されそうな速度で獏は黙々と歩き続けた。


 「これ以上の問答は無用だ。さっさと大門に向かうぞ」


 「正体不明の敵と遭遇したらどうすんの?」


 獏は一旦、止まって凶宮の到着を待った。何か妙案があるというのだろうか。獏にとって人界は未だに不慣れな場所である。ゆえに不測の事態に備えて凶宮を頼らざるを得ない場面が多く存在するのだ。


 肩を上下させて荒々しい息をしながら凶宮はようやく獏の隣まで辿り着く。消耗した凶宮の頬を彩る白化粧が流した汗で剥がれかけている。今ここで指摘すれば手鏡を持ち出して、この場で化粧を直そうとするに違いないので獏はあえて口に出さないようにした。


 「戦って倒すのみだ。まだ何かあるならばさっさと話せ。凶宮」


 凶宮自身の戦闘能力といえば他の三人や九怨春歌に比べればかなり低い。今回、銅垣との取引で彼を随伴させた理由は凶宮の持つ知識が何かの役に立つかもしれないという懸念からである。もしも、これで獏と組んで戦えばまず足手まといにはなるまい。


 「俺さっきさ、お客さんが前にもここに来たことがある可能性ってやつを提示しただろ。あの線で話を進めてみないかってわけ」


 赤いサングラスごしに凶宮の瞳が輝いているように見えた。


 「良かろう。それで賊徒が何度か都に立ち入った事がある輩だとすると何か問題が生じるのか?」


 こちらの話題に興味を持ってくれたか。


 やれやれと苦笑しながら凶宮は言葉を続ける。獏は意固地な部分もあるが基本的には素直な性格なのだ。おそらくは九怨春歌と二人きりにした時間の中でかなり春歌にいじられたのだろう。不機嫌の理由はきっとそれに違いあるまい。


 「一つ、こちらの戦力を大幅に上回っている可能性。もう一つは俺らよりも現状を把握している可能性だ。戦力の話だが、妖怪ってのは基本的には起源の旧さが実力に結びつくケースが多いんだよな。獏ちゃんと俺が組んで敵さんと戦えばさ、俺の中の玄武の存在に気がついた白虎が干渉してくるに決まってる。俺の中の玄武とここの白虎の相性は最悪。今回に限ってはバトルで俺のアシストは期待しないでくれ」


 凶宮が持ち上げてきた疑問については獏も考えていなかったわけではなかった。この地で獏や白虎以上の実力を持った妖怪の存在など限られている。背水の陣ではないにせよ万に一つという要素を見逃すわけにもいかないので、獏はおとなしく凶宮の話の続きを聞くことにした。


 獏の無言の状態を肯定と捉えた凶宮は、次に自分たちが置かれている状況についての話をすることにした。むしろこちらの方が本題に近い。


 「次に敵が俺たちよりも現状の多くを理解している可能性についての話になるんだが、ぶっちゃけこれは覚悟しておいた方がいいと思う」


 「それは銅垣の正体や我らとの取引が敵に漏れているということか。つまり銅垣が我らを裏切って、敵と内通しているとでもいうのか?」


 銅垣武智は己の野心を隠そうともしない尊大な性格の男だ。しかし私的な理由で裏切るような真似をするだろうか。やがて凶宮は肩をすくめて頭を左右に振る。


 「たけちーが俺らを裏切るって線は無いと思う。双方メリットがゼロだしな。だが敵が転生管理局側という可能性は考えられるだろう?」


 転生管理局の妨害は十分に考えられる。現場を任せた以上は咎めるような真似はしないが、銅垣は義王以上にこの世界の統治機構に干渉しているのだ。獏としては不確定要素を排除すべく転生管理局から縁遠い世界を選んだつもりだったのだがそうはいかなかったらしい。現に転生管理局という組織の全貌は未だに知られていない。


 「九怨春歌が小箱の所在を明かさない以上は転生管理局と正面きって争うのは避けたい。凶宮、どうすればいい?」


 「四軍を使って京に火を放ち、敵を千年城に追い込む。結構な仕事だぜ、こりゃあ」


 京の千年城にはおそらく白虎の起源に関係する宝物が存在する。これを持ち出そうとする者がいれば、都に火を放つよりも白虎に憎まれることになるだろう。上手くいけば正体不明の敵が凶宮と獏をそこまで誘導することができるかもしれない。


 「なるほど。敵を本物の賊にするつもりか」


 「そういうことだ」


 かくして魔人と妖怪は山頂に向かった。

次回からは千年城で天水たちが大活躍です!

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