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転生処刑人  作者: ふじわらしのぶ
第一章 エピローグ
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ここではない。別の世界のどこかで

エピローグです。即興で仕上げたので文章の酷さはいつも三倍くらいです。読んで下さった方々、本当にごめんなさい。

 それは現世ここではないどこか別の場所の出来事。


 夕暮れを浴びて茜色に染まる古寺のような建物の中で佇む一人の大男。

 

 僧衣に身を包んだ巨漢の左掌には赤い炎のようなものが新たに宿していた。この男の名は獏という。

 

 九怨春歌に影のようにつき従い、彼の率いる転生者の手段においては参謀役として活躍していた。


 そして、彼の左手に宿る赤い炎の正体こそが鳳凰だった。


 鳳凰は瑞鳥や聖なるものとして多く知られているが、獏の知る限りでは妖魔の仲間だった。


 愚かな人間たちは鳳凰の見目麗しさと彼の持つ永遠の命に心を囚われているだけにすぎない。


 妖魔の本質とは常に人類社会と利益を同じくするものではないというのに。


 現にこの鳳凰とて例外では無い。

 

 永遠の命を蓄える為に一体どれほどの命を必要とするかを知れば、人間どもは鳳凰へのものの味方を変えてしまうことだろう。


 獏は背後に人の気配を感じて、鳳凰の化身を自らの体内に隠す。


 獏の背後から現れたのは九怨春歌だった。


 今まで風呂にでも入っていたのだろうか。ほっそりとした体から湯気を立てている。


 彼は獏の不審な態度におかまいなしにして部屋に上がりこんでいた。


 半空きになった窓から入って来る風を気持ちよさげに受けていた。傍目には妙齢の女性にしか映らないが、九怨春歌はれっきとした男だった。


 「義王天狼が裏切った。この不始末どうつけてくれるつもりだ、九怨春歌。あの老人を仲間に引き込もうと言って来たのはお前だ」


 「僕に八つ当たりは止めてくれよ。じゃあ聞くけど彼以上の適任者を人間事情に疎い君が見つけることができたのかい?」


 獏は舌打ちした。


 たしかに獏は数百年を生きる怪物だが、人間の姿を真似るようになったのはここ十数年のことだった。


 正直、自分がどれほど人類社会に精通しているかと聞かれれば自信はない。


 むしろ人間という生き物に関してはわからないことが多かった。


 九怨春歌も虫の居所が悪かったわけではない。


 口論した方が楽しそうだったから、とかそんな理由だったのだろう。


 彼は暢気にも自慢の長い髪を櫛を使ってといでいる。


 その艶やかな長く黒い髪を見せたい相手でもいるのだろうか。


 獏にとって一番の理解しがたい相手は九怨春歌だったのかもしれない。


 「それで鳳凰はどうしたのさ」


 九怨春歌はさも興味がなさそうに尋ねる。実際、興味などないのだろう。


 獏と春歌はわずかなつき合いだが、こういうこをはわかるくらいの間柄になっていた。


 「別の場所に移しておいた。計画は万事滞り無く進行している」


  獏にとって九怨春歌とは信用に足る人物ではない。むしろ彼の行動には常に警戒しているくらいである。


 そもそも人間の九怨春歌が妖怪である獏の考えに賛同するごうがおかしいことなのだ。


 だが、九怨春歌が加わってから獏の計画は順調に進んでいる。手放すには惜しい駒だ。


 しかし、それ以上に敵に回したくないという気持ちもあった。


 故に嘘をつくことはないが、ありのままをそのまま伝えるようなことはしないという形で今回の報告を済ませることにした。


 獏とて全て欺ききれているとは思っていないが、今はまだこの天邪鬼な協力者を敵に回すわけにはいかないのだ。


 「それで義王先生はどうしたの?」


 「転生管理局の人間相手にいろいろと喋られては厄介だからな。消えてもらうことにした」


 いかに義王天狼が優秀な武人であろうとも彼が力を失った状態で亡者の大群を相手にするのは不可能だろう。

 獏は義王に対して春歌とは別種の嫌悪感を抱いていた。


 自分が持ちかけた不老長生の話だけではなく妖怪は転生する話も蹴ったことが気に食わなかったのだ。


 この手の都合の良い話に対してすぐに食いつかない聖人気取りの人間を獏は何よりも嫌った。


 人間ごときが何様のつもりだと考えていたのだ。


 人間は欲深く身勝手で矮小な邪悪さを秘めている生物と妖怪の獏は決め付けている。


 九怨春歌からは人里から離れた山村で身を隠すようにして生きている老人だと聞いていたので、適当に構ってやれば与し易くなるだろうと考えていたが行く先々で獏の手の内を勘繰られる始末。


 実際の義王は人間にしておくのが勿体ないほどの逸材だったが、こちらを裏切る様子を見せれば協力関係を切らざるを得ぬばかりだったのである。


 さらにどういうわけか義王の屋敷にあの何かと喧しい転生管理局の人間の姿があったのだ。


 今回の一連の不祥事は獏にとって痛恨の極みだった。


 獏は春歌を睨みつける。


 この男が転生管理局の人間をわざわざ招き入れた可能性も低くはないのだ。


 例えこの件に関していくつか問いただしたところで何の問題があろうか。


 獏は苛立ちを隠そうともせず手で束ねた長い髪に櫛を当てている春歌に尋ねた。


 獏のいかつい顔は今にも食ってかかりそうな様相である。


 「転生管理局の人間がなぜ義王の屋敷をうろついているか、その理由に心当たりはないか?」


 「偶然でしょ」


 春歌は触れれば爆ぜそうなくらい激昂している獏の質問を軽く流した。


 獏は舌打ちし、一歩また一歩と春歌の方に接近して来る。春歌の方はまるで気にしていない様子だ。


 「そもそもあの忌々しい九怨天山の後裔たる貴様を生かしている理由をよく考えてみろ。俺は前々から貴様の態度には反感不満を通り越して殺意さえ抱いているのだ」


 その時、突然獏の足元の影が、ぐわっと広がった。


 彼の足もとに広がる頭部のあたりにはいつの間にか角のようなものが生え、影の背丈は二倍くらいに大きくなっている。


 妖魔の巨影は大きな口を裂けるように開かせて、全身を陽炎のように揺らめかせる。


 何かがあれば今にも春歌に飛び掛りそうになっていた。


 「僕を殺せば君たちの王様を目覚めさせるきっかけが作れる箱が手に入らなくなるよ」


 九怨春歌は懐から出した小箱をこれ見よがしとばかりに獏に見せつけた。


 これは以前に義王を殺害した後に彼の屋敷から見つけ出した物である。獏の目の色が黒から赤に変わる。


 怒りが頂点に達した獏を見て春歌はくすりと笑い、その潤んだ唇を緩ませる。


 九怨春歌は最初からこれを見たかったのだ。


 「四軍を相手にしても果たしてその強気が続くかどうか。試してみるか?」


 獏は四軍と呼ばれる妖怪の軍勢を召喚する特殊な印を結んだ手を春歌に向けた。


 これで彼が九怨春歌を襲うように念じれば魔界から四軍と呼ばれる選りすぐりの精鋭たちによって構成された四種の妖怪たちから成る軍勢が現れるのだ。


 単に敵を葬るだけならは獏の妖術の中では最強の術だった。


 その時、どこからともなく鳥の鳴き声が聞こえてきた。それはとらつぐみの声だった。


 獏は声を聞いた瞬間にその場から飛び退いていた。まさか、こんな近くに小箱の守護者がいるとは夢にも思わなかったのだ。


 「駄目だよ、鵺。獏は僕の大切な仲間なんだから」


 あたり一体を一瞬にして支配する圧倒的な殺意。それらは全て獏に向けられたものだった。


 獏も妖怪たちの中ではかなりの実力者である。


 その力は、義王に憑依していた鳳凰くらいなら支配する事も容易いくらいに。しかし、小箱の守護者である鵺は別格だった。


 鵺は獏の主人である妖魔の王でさえ手を焼くような厄介者だったのだ。


 獏の歯軋りは止まらない。


 あの時、九怨春歌を伴って義王の家に来訪した時に小箱の中で眠っていた鵺に獏は半身を食いちぎられてしまったのだ。


 大昔、九怨天山が妖魔の王の意識を封じた小箱には邪悪なる者が小箱に近づかないよう守護者として鵺も一緒に封じ込められていたのである。


 獏もこの事実を知らなかったわけではないが、悲願の宝物が目の前にあった為に思わず手が出てしまったのだ。


 悔やむに悔やみきれぬ過去だった。


 不幸中の幸いだったのが、鵺は九怨一族の後裔である九怨春歌に懐いたことだった。


 これで鵺は獏を襲うようなことは無くなったが、逆に九怨春歌を容易に切り捨てることができなくなってしまったのだ。


 「それで一体どうするのさ。鳳凰を回収したから、他の三つもさっさと回収するのかい?」


 獏の最終的な目的達成の為にはどうしても妖魔の王を解放することが重要になって来るのだ。


 ゆえにその妖魔の王を封じる龍神、その周囲を守る者たちが作り出した結界の存在が邪魔だった。


 これらの盤石の備えを崩すことは容易ではない。


 獏は龍神の警戒を逸らすために一計を案じた。それは守護者たちと同等の妖怪たちを使って結界を無効化して、九怨春歌の使う天夢剣で龍神を眠らせてしまうという計画だった。


 その為に彼らはいくつにも分かれた世界という世界を渡り妖怪たちの魂を降ろすに相応しい特別な人間たちを探していたのだ。


 計画の中でも鳳凰、玄武、白虎、応竜といった妖怪たちの扱いは特別だった。


 これらの妖怪たちは龍神の配下である守護者たちと同格の力をもった強力な妖怪たちである。


 並の人間では魂を降ろしただけで発狂してすぐに死んでしまう。そこで獏は協力者の助言で転生者と呼ばれる存在に目をつける。


 転生者と呼ばれる強力な魂の持ち主ならばそれらの妖怪の器に成り得ると確信したのだ。


 義王天狼もそうやって獏によって見出された人間の一人だった。


 彼の並外れた才能は妖怪の魂をいち早く成熟させ、先のダイムとの戦いの時分には回収しても問題ない程度に鳳凰が成長していたのだ。欲を言えば義王の肉体も欲しかったのだが。


 「その件はまだ伏せておこう。今一度、奴等と連絡を取り合って転生管理局の動向を探らねばならん」


 「そうかい。なら僕は一眠りさせてもらうよ。後の事はよろしく」


 さして興味もなさそうにしながら九怨春歌は自室へ戻っていった。


 戸を閉めていけ、と注意したかったが春歌が戻ってきてまた顔を合わせるのが嫌だったので言わないでおいていたのである。


 獏は九怨春歌の姿を見えなくなった後に周囲を見渡した。鵺がまだこの部屋にいるのではないかと警戒しているのである。


 やがて完全に鵺の気配がしなくなったのを確認すると深い溜息を吐く。


 義王を倒したダイム・コールなる新米の役人ずれのことは故意に伏せておいた。


 ただでさえも九怨春歌と同じく天夢剣の使い手であるというのだから春歌がダイムに興味を持つのは至極当然の流れともいえる。故に一切の情報を漏らさなかったのだ。


 他の三人の協力者たちも曲者揃いだというのに、これ以上引っ掻き回されてたまるものか。


 獏は再び大きく嘆息する。大願成就までの道のりは未だに前途多難だったのだ。


 一方、九怨春歌は自室に戻ると家族の写真を見ていた。


 写真の中には父、母、妹の織羽、そして九怨の家に来たばかりのダイム・コールこと綿貫勇治の姿があった。


 「早く君に会いたいよ。勇治」


 九怨春歌は部屋の隅に向かって写真立てを投げる。


 板の間に投げられた写真立ては九怨春歌の影から生じた妖怪 獏によってすぐに喰らい尽くされる。


 これが春歌にとっての家族との最後の別れだったのだ。


 死んだ家族への身を焦がすような憎しみの為にもう涙を流すこともない。


 今もまた夕闇の中にとらつぐみの声が木霊する。

次章、白虎の祠( びゃっこのほこら )に続く。少し書き溜めてから投稿しようと思います。いろいろすいません。マジで反省してます。それではまた


おうりょうという架空の動物の漢字が応竜でも良いという確認が取れたので、以降応竜と表記します。

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