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転生処刑人  作者: ふじわらしのぶ
第一章 鳳凰の檻(ほうおうのおり)
1/17

ダイム・コール

注意、女の子は回想シーンにしか出ません。後、オブジェみたいな扱いのみです。

 ざしゅっ。ざしゅっ。鋭い刃が白い肌を切り裂く。深く、浅く。非情に、無情に。

 

 狂った宴は今日も続く。


 片手に刀を持った着流し一丁の老人が額に汗を流しながら狂気の欲するままに、縄で縛り上げられた少女を思うがままに切り裂いていった。


 何という悪逆非道。

 

 この広大な私邸は老人の城であり、城の中では神のように振舞うことが許されていた。


 人の皮を被った悪鬼には違いないが、この場限りでは誰もがみな彼の凶行を咎める者はいない。ここは法の目の届かぬ特別な領域なのだから。


 もしも、この光景を見て老いたけだものの悪行を止めようとするものがいるとすれば、それはこの世界の人間ではないものにちがいあるまい。


 そう、彼ダイム・コールのような転生者と呼ばれる特別な存在以外は。




 今回の案件で、ダイム・コールが受けた指令は、対象の監視だ。


 彼のような入って間もない新人には懲罰対象を確保する資格は与えられない。なぜならば、蘇ったばかりの転生者は善悪のような一時的な衝動に支配されやすいという性質を持っている為だ。


 人間より高位の存在から命を受けた転生管理局の人間は、聖なる使命をただの私刑リンチにしないためにも新人を現場に出すような真似は絶対にしない。今回のような特例中の特例でもなければ。


 さらに凶行は続く。少女の体に流れる血の最後の一滴まで絞り尽くすまで、この狂気に支配された悪魔は誰かに止められない限りは決して止まらないのだろう。


 「こんなモノ見せられて黙っていられるほど腐っちゃあいねえよ」


 ダンッッ!!!

 

 ダイムはわざと入り口の扉を蹴破った。何か意図することがあってこうしたわけではない。

単純にぶち切れた。ただ、それだけのことだ。


 「無礼者が。ここをどこだと思っている?」


 命を失った者をさらに嬲り者にする悪鬼外道。


 それが今回の粛清対象、百年に一人の英傑として知られる義王天狼(|ぎおう・てんろう|)の正体だった。


 この事実が確認されたのは昨日今日の話ではない。義王が英傑として国の平和を脅かす悪党を退治していたころからだ。


 「女の自由を奪って、さらにその身を切り刻んで喜んでいる胸糞の悪い下衆の隠れ家だな。まあ、もうすぐ屋敷の主は死ぬが」


 ダイム・コールは善人ではない。だがしかし、目の前で当然のように繰り返される凶行許せないというわかりやすい性格の持ち主であり、それだけが取り得の男でもあったのだ。


 床を踏み抜いてしまいそうな大きな足音を立てて、悪漢の前に立ちはだかる。


「わざわざ他人の屋敷に押し入ってその言い草は何だ、下郎。そんなに命が要らぬというのか」


 義王天狼は下町から無理矢理連れて来た哀れな少女の死体を地面に放り投げた。無礼な侵入者にも、死者にも一片の同情など持ち得ないといった様子で。


 その暴君のような振る舞いがダイムのこころをさらに熱くした。


 何が救国の英雄だ。この無残な少女の死体を見ろ。一体どのような酷い仕打ちを受けていたのだろうか。



 その時、霞がかった過去がダイムの脳裏を蝕む。忌まわしく、愛おしく、そして哀しいだけのダイム・コールが綿貫勇治というどこにでもいる普通の男だったころの過去が。


 それは、季節は春のころ。場所は九怨の道場の片隅で、幼い頃から同じ時間を過ごしてきた婚約者の九怨織羽(|くおん・おりは|)が生きていたころの思い出。


 「勇治は優しいから。一生、兄さんには叶わないよ」


 「何だよ。それ」


 彼女は兄の春歌のことを心配しているのか。それとも綿貫勇治が変わってしまうことを心配しているのか。今となっては確かめようがない。


 だけど、その横顔を忘れることは決してない。春の若草を思わせる優しい横顔を綿貫勇治は、過去を捨てた今でも。転生者の処刑人ダイム・コールとなってしまった今でも。



 傷つけられた少女の姿が、ダイムの義兄である九怨春歌(|くおん・はるか|)によってダイムの目の前で斬殺された婚約者の姿を思い出させた。


 怒り心頭、発す。感情を優先して動くダイムほど感情を廃し任務を最優先にするこの仕事に向いていない男もいまい。偏に彼をここまで突き動かすのは今は亡き婚約者への思慕ゆえか。


 その時、ダイムは義王天狼に怨敵の姿を重ねた。もはや容赦など必要無しといわんばかりに。


 無形からの縮地。太古から引き継がれる武門、九怨の技である。引き絞られた弓弦から放たれた矢が如く、一瞬にして敵との間合いを殺す必殺の歩法。


 されど相手は老いたりとはいえ世紀の英雄と称えられる義王天狼。七十の老人とは思えぬ恐るべき対応力をもってこれに応える。


 交差する刃と刃。ダイムの大量生産することを目的に作られた刀と、老獪の名工によて鍛え抜かれた名刀が火花を散らす。奇しくも等しく、互いの刀には鍔が無かった。


 「この技。何と憎らしい。あの男の再来ではないか。おれを二度も殺してみせた悪鬼羅刹と同じ技ではないか」


 流星乱舞。天地乖離。人であることをを捨てた剣鬼と剣鬼が互いの命を最後の一片まで削り、削って、削り尽くす。散らす火花は散り散りに舞う花の盛りを終えた桜のように。


 「無駄口を叩くな。クソジジイッ!」

 

 「剣から激情が伝わって来るぞ。若すぎるな。小僧ッ!」


 ダイムは唾を吐き捨てた。接戦に次ぐ接戦の最中、右脇腹に当て身を喰らってしまったのだ。


 腹部に重い鈍痛を覚える。今のダイムは立っているのがやっとのことだった。


 「さて、この未熟者をどうしてくれようか」


 その時、老人の背後で起き上がる少女のむくろ。それは夢遊病者のように背後から老人に抱きつき、姦婦が己の主に寵愛を求めるような少女とは思えぬ蕩けるような表情をしていた。


 「おお。愛いやつよ。黄泉返ってまでおれの寵愛が欲しいのか?」


 「うふふふ」


 先程までに死闘を繰り広げてきた敵の享楽ぶりに流石のダイムも舌を巻く。最初から自分など眼中に無かったということのだろうか。


 「小僧。お前は勘違いしているようだな。おれはここで誰一人として殺してはいない。ほれ、この通り」


 奥の間で、義王天狼に遊興で切り捨てられていた半裸の少女たちが次々と起き上がってくる。これは如何なる妖術か。この手の光景に見慣れたはずのダイムも思わず驚愕を隠せない。


 ダイムは己の心中を悟らせないために、ゴクリと唾を飲んだ。怪物は所詮、怪物だ。彼奴は既に人を辞めている。


 「ここは楽園だ。ここに居る限り誰一人として死ぬないのだよ」


 天狼はこの上なく愛おしい恋人を抱きしめるようにして死の淵から蘇った少女を抱きとめて、また刺し殺した。鮮血で出来た、たまりに一人立つ魔人の姿。


 見ているだけで吐き気を催すような悪行。どうしてこの悪漢を討たずにいられようか。


 「何度もこうして殺しているうちに殺されることに快楽を覚えてしまうらしいな。浅ましい奴等よ。そうは思わぬか?」


 老いた悪魔は現世に帰ったばかりの死人に再び死の寵愛を与える。


 ダイムはその光景を見てあまりの胸糞の悪さに地面に向かって血の混じった唾を吐いた。

 

 「悪趣味にもほどがあるぞ」


 「それは残念。だが、おれにもう少し付き合え。最後に良い見世物を御覧に入れよう」


 今しがた再殺され、地面の上で折り重なり屍鬼となった少女たちが溶けて一つとなり、義王天狼は老人から巨人の姿に変身する。


 なんとおぞましい姿だろうか。


 ダイムはすっかり悦に入った老人の芝居につき合うふりをしながら体力の回復に努めた。今はわずかな間でも利用して元通りにしなければならないのだ。


 「さて、続けるかね?」


 「千手観音のマネかよ。芸が無いな」


 千本の腕を持つ奇怪な姿の巨人。頭からは若返った義王天狼の上半身が生えている。


 「そうかね。もう貴様に勝ち目があるとは思わないのだが?」


 「へえ。そうなのかい」


 いまだに闘志を失わぬ瞳、ダイムの苦し紛れの憎まれ口。義王天狼は若き挑戦者を嘲弄する。こいつも口先だけの若造か、と。


 そして、千本の腕がそれぞれ持つ、千本もの名刀。それらがダイムの脳天に向かって一斉に振り降ろされた。


 危うし、ダイム・コール。


 彼の復讐の旅は本懐を遂げぬまま、ここで終わってしまうのか。

 

 果たして正義は悪に勝つことが出来ないのか。


 「貴様の旅はここで終わりだ。小僧」


 山河さえも押し潰してしまいそうな千手千剣の豪撃。これではいくらダイムでもかわしようがないというものだ。ダイムは目を閉じて剣を手放し、最後の時を待った。


 魔人の哄笑。彼の必勝を疑うものはいない。


 己の運命を諦めた若き剣士。勝利を確信を終えた魔人。

 

 一体、何をどうすればいいというのだ。おお、この世に救いの神はいないのか。正義は見捨てられてしまったのか。


 「そうだな。全て終わりさ」


 そして、千の剣峰が圧倒的速度で彼の頭上に迫り、天地を揺るがしかねない轟々たる騒音と共にダイムの命は失われた。


多分、出ている野郎は全員ゲイ。

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