よん 後輩のタバコ
12:35
昼休憩の時間は唯一の息抜き
俺はタバコを吹かしながら、ゆっくり流れる雲を眺めていた
「失礼します」
他部署の先輩が入ってきた。
俺よりも社歴は長いのにどんな社内の人間にも丁寧な対応で尊敬する先輩でもある。
まあ、ほとんど関わる事はないけど
「今日、天気いいですよね」
俺は言った。
先輩はコーヒーを片手にタバコをふかしながら、遠くを眺めて言った
「こんな日はデートでもしたいですよね」
先輩はちょっと何かを思い出したように微笑んでいた。
「そうっすね。デート日和ですね…」
それ以上の会話もなく俺と先輩はタバコを吹かしながら、空を眺めていた。
先輩はタバコを吸い終えると
「では、失礼」
軽く俺にお辞儀をして喫煙所を出た。
同時に別の人が入ってきた
「ねぇ、さっき先輩と何話してたの!?」
先ほどの先輩の後輩にあたる、女子社員が話しかけてきた。
タバコもろくに吸わないのに先輩と話したいがためにこの喫煙所にやってくる、健気な女の子である
「いや、天気いいですね、デート日和ですねって話してただけだよ」
「ん、先輩ってやっぱり彼女いるのかな?」
「俺は知らないけど、いるんじゃない?」
「…やっぱ、いるのかぁ。いるよね…カッコいいし仕事出来るし」
「先輩に聞いた事ないの?」
「嫌ですよ、怖くて普通の話ししかした事ないですもん」
後輩はポケットからタバコを取り出して吸い始めた
「えっ、タバコ吸い始めたの⁉︎」
「ここは喫煙所でしょ」
そうだけど…と思いつつ、俺はタバコを吹かした
「好きな人と同じ事をするって言ってもそういう、努力は要らないと思うよ」
俺の言葉を聞いて、後輩は俺を睨みつける
「余計なお世話ですっ!」
後輩はタバコの火を雑に消して、怒ったように喫煙所を出た。
「はぁ…」
努力は時に間違った方向に向いてるように第三者からは見えるが
本人にとってはきっと、間違ってないのだろう。
それを否定、肯定したところで受け入れる人は少ないのが世の人々だと俺は感じた。