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もしも

作者: Luu

昔のことを思い出して

自分のことを思い出して書きました

もしも明日私が、いなくなったら私といたことを幸せだったって、おもってくれる?


その時になってみないとわかんないな。


普通そこはうんって、言ってくれるところだよ。




僕と彩花が出会ったのは5年前の春でした。当時高校生だった僕らは、新しいクラスの一員として出会いました。

彩花はかわいくて、明るくて、優しくて。

とても僕なんかじゃ相手にしてもらえないような高嶺の花でした。

その花はとても小さく、すぐに散ってしまうのではないかと思うほど柔らかで、いつしか僕は、夢中になっていました。


「佐藤君風邪で休んでたでしょ?私のノート見せてあげようか?」

不意に話しかけられたその声は少し特徴的で、すぐに彼女だと気付きました。

「見せるんだ!と思って丁寧に書いたんだよ!ありがたく写してねーー!」

ケラケラと笑うその姿からは、なんの淀みもない子なんだ。そんな事がひしひしと伝わってきます。

まるで、自分が真っ黒に思えるほどに。

その日の夜、自分の部屋で写そうと開いたノートには誤字脱字が満載で、後々少し複雑な気持ちになっていたのは今でも内緒です。


夏の風はジメジメと、まるで僕らを家から出すまいと嫌がらせしているかのようにゆっくりと、吹き抜けていきました。

春先に見つけた小さな花は、そんな風でも戯れて楽しんでいるようでした。

「暑いねー、こんな日差しじゃ焼けちゃうよー。いっそ真っ黒ならどう?女子力ない?あはは」

この花は最近よく僕に笑いかけてくれます。

「佐藤君ってさー、なんで陸上部なの?走るの辛くないの?」

他愛ない話であっても僕にとってそれは、何もかもの闇を吹き飛ばしてくれる薫風となります。

心地よい薫風にあてられて、8月頭のジメジメした空気は甘い匂いに変わり僕の気持ちをふわふわと、ふわふわと。


「気持ちは嬉しいけど、私今好きな人がいるんだ。佐藤君はいい人って言うのはすごくわかるし、楽しいけどごめんね。」


こんなにもひどい食人植物だったなんて。好きな人がいるなら、どうしてあんなキラキラした笑顔を振りまくんだ。どうしていい匂いで僕を誘い出したんだ。


落ち葉が足元を隠しガサガサと、邪魔だなと思うようになったのはいつからだったか。

昔は落ち葉に埋れて喜んでいたのに。

親が嫌いになったのはいつからだったか。

昔はいつだって正しくて正義だったはずなのに。

世間になにも望まなくなったのはいつからだったか。

昔は夢なんていくつもあったのに。

逃げて逃げて追いつかなくなって

幾つも諦めて、幾つも捨ててきた。

17歳のくせに格好付けてスカして生きて。

大したものも目指してないのに、勝手に諦めて。

大したものももってこなかったくせに、自らそれを捨ててきた。

すぐに投げてしまう、逃げる癖が着いてしまったんだ。

けれど、この自暴自棄の連鎖から抜け出したくはなかった。

抜け出してしまったら、自分の薄さに向かわされてしまうから。


「なんか、暗い顔してるね。もしかして私のせい?あはは、そうだよね?そんな暗い顔しないでよー、もっといい人いっぱいいるって!」


君はなにもわかってないんだ。またそうして僕を誘い出すつもりかい。だまされないぞ。


「またお話ししようね!私も、がんばるから。」


ん?


「またねー!」


あれ。今一瞬見たことのない顔が見えた。

暗くて、深い、悲しい顔を。

背中からではわからないなにか変なものを。


それからたまに彼女は、その顔を見せるようになりました。何度か見つけては見失ってしまうその顔に、何か自分と同じ物を感じました。

彼女もまた、自暴自棄の連鎖に困っているのでしょうか。


時間は何もかもを許してくれるようです。

「また風邪引いたでしょ!ほい、ノート!」

あれからも何度か写させてくれたノート

「なに?変な顔して、お!毎度毎度申し訳ないって顔かな?」

こういうことなんです。複雑ってのは。

「なんか奢ってよー!」

その一言に隙を見た僕はようやっとデートの日取りを獲得したのです。


「私男の人と遊びに行くの久しぶり!」

どうしてだろう。

「映画なに見る?ホラーはやだよ?」

あんなにもすっぱり振られてるじゃないか。

「女の子ですけど?アクションなんて…」

どうしてまたこの甘い匂いに踊らされてる。

「ジャッキーつええ!!!楽しかった!!」


冬の日差しと、流れる流行りの失恋ソングに身を任せ。


「うん。本当は好きな人なんていなかったよ。けど、どうしても佐藤君とは付き合えない。私、小学6年生の時始めて彼氏ができたの。幼馴染。子供だったけど、キスもしたかったし、ぎゅって苦しくなる位抱きしめても欲しかった。けど、遠くに進学した。サッカーが上手でね、超々進学校に推薦で。その時に、待っててって言われたの。だからバカみたいに待ってた。けど、死んだの。飲酒運転の車に引かれて即死。」


冬だってのに暖かすぎる


「そんなの、言われなくてもわかってるよ。Twitterも見つけた。女の子とのツーショットもあった。どうしても、信じたかった。だって私が忘れたら、あいつ消えちゃうかもしれないじゃん。」

こぼれていた涙を他人事のように眺めている自分がいました。どうしてそんな誓いを守っているかなんて、そして、どうして泣いているかなんて、考えたってわかりませんでした。


「最近、佐藤君のこと考えちゃうの。いつの間にか、好きになっていて、そのことが自分でもすごく嬉しくて、悲しい。」


どうしてか、僕もないていました。二人で号泣しながら好きだ好きだといいあって笑いながら泣きました。漫画とかドラマとか、そういう世界でありがちな死に別れが、僕の目の前のこの子の目の前を、埋め尽くしていたのだと思うと、どこかこの子は変なところから来たお姫様なんじゃないかとも思わせました。


「だいすき」


それから僕らはいろんなことをして、いろんなところにいきました。

自転車で40キロ走ったり、スノーボードに同時初体験したり。

普通のデートも、おかしなデートも彼女と一緒なら果てしない冒険に思えました。

拾ってきたって言うと怒られる、以外と高かったらしい針金でできた可愛くないキャラクターの置物の、はしっこを

「ぴよーんぴよーん」

といつも伸ばして遊んでいました。

歯ブラシはおそろい!と言って同じのを買ってきたのでどっちがどっちかわからなくなってしまいました。

自分が食べようとドーナツを買ってきても、最終的に僕が食べるのは彩花用に買ってきた自分ではあまり好きではない種類ばかりだったり。

あっという間に僕らは大人になっていました。


僕らが付き合い始めてから2年が経った頃、大きな喧嘩をしました。それはもう、別れるんじゃないだろうか位の大きいものを。理由は覚えていません。けれど、そんなもんなんでしょう。積もり積もったものと、プライド、それに2年間の信頼で、言っていいことも悪いことも。双方屈せず罵詈雑言の雨あられでした。

「黙れ若ハゲ」

僕は負けました。一撃必殺でした。そして、僕が謝ると、彼女も泣きながら謝ってきました。そんな彼女を見ているとなんだか幸せで、少し泣いたのもこれまた内緒です。


「もしも明日私が、いなくなったら私といたことを幸せだったって、おもってくれる?」


喧嘩が終わって彼女は言ってきました。凛と咲く花は今、僕の方に傾げています。美しくて見とれてしまいそうだったけど、それはなんか悔しかったのでぷいと背けました。


「普通そこはうんって、言ってくれるところだよ。」


僕だって素直ならいってたもん。当たり前だろうって。

僕が素直になれないのは、素直になって傷付くのが怖いから。だけど、大丈夫かな。彩花なら全てを、全てを。彩花に僕の思いの、考えの、決意の全てを。今まで落胆してきた分の熱量をありがとうに変えて、今僕がこうして普通に笑えているのは彩花のおかげだから、素直になってみようかな。次こそは。





時間は何もかも。





去年の夏休み。僕らは大学生でした。自転車に二人乗りしてちょっとそこまで。


だけど、僕らはそのちょっとの間に脇見運転に引かれた。

僕は無事だが、

彩花は遠くで倒れていた。




「私、交通事故に呪われてるのかな」


「痛いよ、裕ちゃん」


言葉がでて来ないんだ。


「楽しかったね、京都も、沖縄も。」


「まだ山登りしてないね、行かなきゃ」


「裕ちゃんは怪我してない?」


してないよ。


「よかった、顎に砂ついてるよ」


「そうだ、私、裕ちゃんの好きそうなキャンドル買っておいたよ」


いつのはなししてんだよ、それは火がつかないって自分で怒ってたじゃないか。


「あ、飛行機雲」


早く救急車こいよ!


「ねぇ裕ちゃん」


「もしも明日私が、いなくなったら私といたことを幸せだったって、おもってくれる?」


やめてくれ。いやだよ。

答えてしまったら、彩花はどこかにいっちゃいそうで。何処か遠くにはじけてしまいそうで。笑っていれば、笑ってくれていそうで。

「その時になってみないとわかんないな。」


「普通そこはうんって、言ってくれるところだよ。」





蝉の暑苦しい声に包まれて、僕はレンタルビデオ屋さんのアルバイトをしている。

唯一残した針金の置物は、奴がいじりすぎて端っこがもう戻らなくなってる。



彩花さん、

僕は君に出会えたことが幸せだった。

だから、君に会えなくても、君といることができた事を幸せだと思う。

僕は世界で一番の幸せ者だよ。


夏なのに、花の甘い香りがさらさらと流れてきます。

薫る風にのり

どこまでも、どこまでも。

綺麗に書き切れたと思います。

少し加筆もしましたがよく思い出しながら行えました。

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