推理の世界編 序 〜死亡フラグは突然に〜
推理編です。
ここではコナンとか相棒とか金田一とか出てきます。
冒頭は古畑任三郎のあのテーマをイメージしてください。
「えー、皆さんは今日日『フラグ』というのが大体二種類の『お約束的展開』の前兆になっていることをご存知でしょうか?」
「例えば『謎の美少女との出会い』、こんな出来事に遭遇した主人公には『フラグ』が立ちます」
テテッテ ドン テテッテ ドン テテッテ ドン テテッテ ドン~♪
「ただ、そこでどんな『フラグ』が立ったのかまでは分かりません。恋愛フラグなのか、はたまた事件フラグなのか、少なくともサスペンスの世界では大体後者が立ちます」
テテッテ ドン テテッテ ドン テテッテ ドン テテッテ ドン~♪
「おっと、どうやら私にも『フラグ』が立ったようです。どんなフラグかって?それは――」
パパパパパパパパパパー \ドンッ タララッ ドン タララッ ドン タラッ/~♪
「あのー珠希さん?ちょっといいですかね?」
「………今泉君、今はアヴァンタイトルの撮影ですよ」
「今泉ではありません降旗です。黒い背景の前で何やってるかと思えば………というか古畑任◯郎なら苗字的に俺がやった方が良かったのでは?」
「そんなベタな真似を私が許すと思うか?。さて、オープニングも撮り終えたし早速現場に向かおうか」
以上回想終わり。
そんなわけで降旗と珠希はタクシーでとあるペンションに向かっていた。
久々に休暇がとれたので何処かで羽を伸ばそうという設定らしい。
「珠希さん、今回は『推理』ということですけど探偵ドラマとか刑事ドラマ、サスペンス、またそれらのアニメも含んでいると考えていいんでしょうか」
「うんまあそんな感じだな、サスペンスの方はちょっと微妙だが」
「あれは御都合主義的なところがありますしね。ところであのタクシードライバーってもしかして役で髪型が変わる例のお方では?」
「ああそうだ。だが渡瀬恒彦さんの推理日誌は年齢層的に知っている人も少ないだろうし今回は触れないでおけ」
「後でサインくらいは貰ってもいいですよね?しかしそれにしても細い一本道が続きますけどこれって必要なんですか?」
「これは『密室』を作るための必要条件だからな。ここに大雪が積もったり土砂崩れが起きることで現場に出入りする人間を0にできるんだな」
「成る程、でもなんでそんな事する必要が」
「『犯人はたまたま屋敷に忍び込もうとした泥棒でした』では推理もクソもないだろ」
「あーそういうことですか」
そんなやりとりをしていると痺れを切らしたのか有名タクシードライバーがこちらに話しかける。
「あのー、こちらには観光でいらしたんですか?」
「まあそんな感じです。久しぶりに休暇が取れたのでたまには助手にも休ませてやろうと」
助手とは俺の事だろうかと降旗は首を傾げる。もしかして今回の役割はあれなのか?そんなイヤナヨカンが彼の脳裏を掠める。
降旗がもやもやしてる間にタクシーは例のペンションへと辿り着いた。
「うわあ、推理の世界だから大体予想はついていましたがやっぱり山奥なんですね。あの一本道もどうせ何らかの理由で通行止めになるし、こんなところで殺人犯と過ごすのは気が滅入るなあ」
「ふっふっふ、お約束は例外なくぶち壊す私がそんなベタな展開を許すと思うかね?」
「何か対策でもしてあるんですか?」
「もちろんのことよ。今は12月でペンションは瀬戸内にある。雪はおろか雨すら降らないだろうな」
「さすがぶち壊し隊、フラグの時点でへし折ることができましたね」
二人は爆笑しながらペンションの中へと入っていく。この時点では、これから起きる出来事などまだ知る由もなかった。
「それにしても、今回はここでどんな『お約束的展開』を壊すんですか」
受付を終え、ロビーで一休みしている降旗がそんなことを聞いた。
珠希はやれやれと頭を振る。
「ここは推理の世界だぞ?行き着く展開とか決まってるだろ」
「あー、殺人ですか………でもどうやってそれを?人が死ぬのは分かっていても誰が死ぬかは分からなくないですか?」
「降旗はともかく私は『お約束的展開』のプロだぞ?死亡フラグが立った時点で見抜くことなど造作でもない」
「じゃあ珠希さんが今回やろうとしていることって…」
「ああ、殺人自体を阻止することだ」
「それって推理物として成り立たなくないですか?」
「じゃあお前は目の前で起こるであろう殺人をそのままにするのか?」
「それはそうですけど………」
そんな二人の会話を聞いている一人の男がいた。
何処か英国紳士のような雰囲気を漂わせ、しかしカリフォルニアが似合いそうなその人物は二人を一瞥すると自身の部屋へと向かって行った。
ペンションの夕食というのは宿泊している人々が同じ場所で取ることが多い。少なくとも降旗達が泊まるペンションはそうだった。
二人が家庭的な料理に舌鼓を打つダイニングでは、高校生くらいのカップルや柄の悪そうなスーツの男とその子供達、長髪がやけに似合う中年の男性などなどたくさんの人物がいた。
そこまではいい、しかしこの状況はまずいんじゃないか降旗は思う。
彼ら全員テレビや漫画で見たことがあるような人物だった。
例えば高校生カップル、男の方はじっちゃんが凄い人で自らも並外れた推理力を持つ天才のはずだ。
例えばスーツの男、彼の連れている小学校一年生位の男の子は薬を飲まされて縮んだ元天才高校生のはずだ。
例えば中年の男、彼は万年警部補ながらも様々な難事件を解決してきた天才のはずだ。
普通ならば歴史に残る大惨事が起こりそうなこの状況で、珠希は一体どうやって殺人すら起こさないようにするのだろうか。
ここで降旗はあることに気づいた。
この面子の中で一体誰が死に、誰が犯人となるのだろうか?
普通に考えたらこの人達が被害者或いは加害者になるはずがない。
ということは考えられるパターンはただ一つ、降旗と珠希が今回の話の中心というものだ。
いやしかし、そんなことになってしまったらこの物語が早くも終わってしまうのではないか、なんて思っていた降旗の隣に一人の人物が腰をかけた。
「すみませんが、相席をさせていただいてもよろしいでしょうか?あいにくとどの席も空いていないようでして」
その人物は英国紳士のような雰囲気を醸し出していた。そんな雰囲気に吞まれた降旗は思わず向かいにいる珠希に判断を仰ぐ。
「私は全然構いませんよ。おっとそうなると降旗が邪魔になるな、こっちにきなさい」
「いえいえ、私は構いませんよ」
「いいんですよ。こんな時じゃないと彼は私の隣に座ってくれませんから」
「少しは俺の意思も尊重して下さい。俺は食事中は席を立ちたくない派なんですよ」
「では私が珠希さんと席を交換すれば…」
そんなやり取りをしていたその時、ペンションに二組のカップルがやってきた。
何やら揉めていそうな感じのカップル集団にダイニングにいた人間の全ての目が集まる。
「珠希さん、今回の事件の被害者と加害者が分かっちゃったですけど」
「奇遇だな。私にもたった今事件の真相が見えたよ」
終わりです。
この時点で今回の事件の犯人に気づけたらすごいですね。