異世界編②
先に謝っておきます。
全国のタカシさん申し訳ございません。でも次回はすごいカッコいいので許してください
森を抜けた二人は城下町へと辿り着いていた。
道中モンスターとか出てきたりはしたが今の降旗は勇者故特に何事もなくぶち殺していった。
途中「えっターン制じゃないの」とか言っている意味不明なスライムも出てくるもお約束を無視する彼らの辞書にターンという言葉などなかった。
「それにしてもこうも簡単に城下町に入れていいんですかね。珠希さん並にガバガバでユルユルじゃないですか」
「お前、人が透明になっているからって………次の世界では娼婦役決定な」
珠希の姿は流石に目立つため光学迷彩を使用していた。だがもし彼女の姿が見えていたならそれはもう恐ろしい顔だっただろう。
勿論そんな姿は降旗には全く見えていない為に平気な顔で話を続ける。
「それにしてもなんで城下町に来たんですか?」
「それはな、屈強な男共にお前のケツ穴を女の子みたいにしてもらうためだよ」
「真面目に答えて下さい。次の世界で娼婦やりませんよ」
「真面目に答えるから絶対に娼婦やれよ」
「あーはいはい俺が次の世界に行けばですけどねー」
「意地でも連れて行ってやるからな………ここは言ってしまえばこの周辺の地域の中心部、色々な人がここに来るんだよ」
「それがどうしたんですか」
「だからな、ここには『お約束的展開』が沢山あるってことだよ。ほらあそこにも」
「あーあそこですか……どこですか?」
あそこだよと珠希の声だけが城下町の道に響く。彼女的には丁寧に指まで差しているつもりなのだがあいにくと降旗にはその姿は見えていない。
「あの、透明人間になっていることを忘れてません?」
「あっ………いやほら、あそこの2人組だよ」
「横着しないでさっさとステルスを解除してください。2人組ってどの2人組ですか?」
「あいつら、だ!」
珠希はそう叫ぶと降旗の頭を全力でひねった。
彼の首はその際グキリと嫌な音を立てたが人間の体は案外丈夫にできているらしく何事もなかったかのように話を続けた。
「あのイチャイチャしてる2人組ですか。男『僕はどこにでもいる普通の…』って語り口から始まりそうなくらい普通ですけど女の方はめっちゃ可愛いですね」
「そうそうその2人組だ。私の予想が正しければ男の方はこの世界に"転生"してきた人間だぞ」
「なんでそんなこと分かるんですか?」
「だって普通の男があんな美少女捕まえられるわけないだろ」
「そんなの夢も希望もないじゃないですか……もしかしたらあの美少女のタイプが"たまたま"隣にいるみるからに普通の男だったのかもしれませんよ」
「確かにそうかもしれないが、周りを見回せば分かるよ」
降旗はそう言われてとりあえず辺りを見回し、そして納得する。
先ほどまでは意識していなかったが、言われてみればこんな感じのカップルがそこら中にゴロゴロと転がっているのだ。しかも中には複数人の美少女に取り囲まれた普通の男というのもいる、というよりそちらの方が多いかもしれない。
「多分あの女共は『ハーレム系主人公』という『属性』に蝕まれたんだろうな」
「『属性』?また新しい用語が出てきましたがそれは一体どういった意味で」
「『属性』とは人々が持つポテンシャルのことだ。例えば汗だくの『美少女』には興奮するけど汗だくの『不細工』なんて見ただけで吐き気がするだろ?」
「分かり易いけど女性としては2点位の例えを出してきましたね。この場合は『美少女』という属性が世の男性を蝕んでいるわけですね」
「まあそういうことだな。とりあえずあそこの集団にでも話を聞いてみようじゃないか」
降旗with透明の珠希はとりあえずハーレムの中心にいる男性に話しかけることにした。
普通の人間なら直視することすら躊躇いそうだが降旗はコミュニケーション能力には自信がある。それ故に彼は臆することなく向かっていけた。
「すいません、ちょっとだけお話を伺えないでしょうか?」
「おやおや、これはこれはエリート中のエリートの家系に産まれた勇者様じゃないですか。そんなあなたが一体こんな僕に何の用でしょう?」
ハーレムの中心は初っ端から降旗に噛み付いてきた。それに釣られて周りの女共も降旗に対して構えを取る。
何が何だか分からない降旗の耳に珠希の声がやけに優しく響いた。
「(お前の『エリート』という属性に奴の『普通』という属性が反発しているんだろうな。しょうがない、ここも私が行こう)」
刹那、何もないはずの中空に突如として珠希の姿が現れた。珠希は気持ち悪いほどの愛想笑いを浮かべながら彼に話しかける。
「すみません、私達ちょっと迷子なものでして」
「は、はあ、そうだったんですか。それにしてもそのスーツ凄まじいですね」
どうやら男は珠希が突然現れたことにではなくスーツに困惑しているようだった。そんな男の姿を見て周りの女の一人が不満そうに口を開く。
「まーたタカシ君は女の子と知り合うわけ?そうやって何人たぶらかせば気が済むのよ」
「い、いや、今回はあっちから出てきたんだぞ!」
タカシと呼ばれた男はすごい勢いで、だが満更でもなさそうな顔で否定をした。
こういうやりとりは間近で見たらすごいイライラするものなんだなと降旗は歯を食いしばる。
多分同じことを思ったのか隣の珠希は先ほどの笑顔を歪める。
「あの、タカシさんにお尋ねしたいことがございまして」
「へ?僕にですか?」
タカシはわざとらしく頭を振って疑問の感情を表す。周りの女共がそれにまた文句を言い始め遂にはイチャイチャタイムが始まった。
画面の外で見るのと中で見るのではこれほどまでにイライラ度が違うのかと降旗は怒りを通り越して驚愕を覚えた。
「(あの珠希さん、こいつらぶちのめしたいんですけど)」
「(それは私も同感だが私達では多分勝てないぞ。多分あいつチート級に強いから)」
「(なんでそんなことが分かるんですか?)」
「(そりゃ異世界に転生したらチート級に強くなるのが『お約束的展開』だろ)」
「(そういうことか……くっそータカシとかいう名前のくせに調子に乗りやがって)」
そんなやりとりをしているとタカシはにやけながら話の再開を求めてきた。珠希は笑顔をぐしゃぐしゃに潰してしまうギリギリで対応する。
「タカシさんってチート級の力とか持ってますよね?」
「そうだよ。タカシ君は多分世界でもトップクラスに強力な魔力を持ってるの。でもそれが何?」
タカシに質問をしたはずが取り巻きが答えやがった。そもそもトップクラスの力持ってるならエリートに噛み付いてくるなよと降旗のこめかみはブチ切れ寸前になる。
隣にいる珠希の笑顔ももう既に笑顔と呼べないものになってきていた。
「私はタカシさんに質問をしているのですが」
「別に私が答えたっていいでしょ?文句あるの?」
「全くあいつは…………まあまあ二人とも落ち着いて」
「タカシ君は黙ってて!」
一触即発の二人をなだめようと仲裁に入ったタカシのおかげでついにその場は爆発した。
但しキレたのは取り巻きの女一人のみ。そのことにタカシとその周りは何故か驚く。
「あ、あれ?この流れってあなたとこの女が一緒に僕に対してキレるっていうパターン…ですよね?」
「普通の奴ならそうだろうな。だが私はそんな『お約束的展開』はごめんなんでね」
いつの間にかいつもの口調に戻った珠希は世界の何よりも黒いであろう笑みを浮かべた。
「さあ質問に戻ろうじゃないか。タカシはこの"異世界"に転生する前は何をやっていたんだ?」
「な、何故そのことを……?」
「いいから質問にだけ答えろ」
タカシは珠希のその圧倒的なプレッシャーに圧されて後ろへと仰け反る。
観念したタカシが口を開こうとする、そんな乱入するなら絶好のタイミングでそれは起きた
「「「「「そこまでだ『イレギュラー』!!!!!」」」」」
そんな謎のかけ声をきっかけに降旗と珠希は上を仰ぎ、それぞれ別の理由で顔を歪める。
具体的には降旗は建物の屋上になんかカラフルな人が五人も立っていたため顔を歪め、珠希はその五人に見覚えがあるため顔を歪めたのだ。
そんな二人の見るからに嫌そうな顔に満足したのか、五人はお互いに頷くと「「「「「とうっ!!!!!」」」」」というかけ声で一斉に地面に飛び降り綺麗に並んで着地した。
一瞬の間の後、その五人は息ぴったりにカッコ良く決め台詞を放つ。
「「「「「宇宙の秩序を守る為、今日もお約束的展開を貫いていく!そんな我ら『オーダー』只今ここに見参!!!!!」」」」」
ドドーンと、彼らのカッコいい決めポーズとともに赤青緑黄ピンクとやたらカラフルな爆発が背後で起こる。
随分とタイミングのいい登場だな、情報量が多すぎてショートした降旗の頭ではそんなことしか考えられなかった。
遂に出てきた敵対組織。いやあこれもお約束ですよね