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ご無沙汰しています。やっと八話が書けました…長かった。文章がまとまるまで。

どなたか自分の頭の中をすらすらと小説にできる魔法のペンをください…(;一_一)

 もう終わりだ。完全に終わった。


 まさか、牧田さんの好きな男があいつだったなんて――――――。



+:+:+:+:+:+


 悪夢の日から早二カ月、俺は完全に行き詰っていた。いや、ただ単にヘタレていただけか…。

 

 あの時のことは誰にも知られていないとはいえ、牧田さんに対しての罪悪感や羞恥心が大きすぎてとてもじゃないけど今まで通りとはいかなかった。話しかけることはもちろん、顔を見ることすらできないという重症さ。かといって顔を見なければ当然のように目線が牧田さんの膝に行ってしまい、のたうち回りたい程の後悔とほんの少しの喜びを感じ、そんな自分にますます自己嫌悪に陥るという、もうどうしようもない負のループだった。

 その上、俺としてはただ恥ずかしかったり申し訳なかったりという気持ちだったのだが、だんだんと牧田さんを避けるような態度になってしまったのが良くなかった。あの日から数日で夏休みだったのだが、その少ない日々で、なんとなく…いやはっきり言ってしまえば、牧田さんからも距離を置かれているような気がした。俺の言動が以前と全く違うから気を使ってくれたんだと思いたい。そして夏休みは牧田さんの所属する調理部の活動はないので、当然学校で会うこともなく。かといって地元で偶然ばったり、なんてこともゼロ。

 あまりの牧田さん不足で無意識に牧田さんの家の方角へ向かっていた時は、自分で自分が恐ろしかった。俺ってどんだけ牧田さんが好きなんだよ。これじゃストーカーだろ…。


 こんな感じで楽しいはずの高校初めての夏休みは、後悔ばかりの毎日だった。

 俺ってほんとバカ…。



 しかしまだ負のループは終わらない。心機一転と臨んだ二学期も思うようには行かなかった。

 俺としてはあの日のことは心の奥にしまって、体育祭後のイイ感じの関係くらいには戻りたいと思っていたんだが。甘かった。


 声を掛ければ一応会話はしてくれる。目は合わせてくれないし会話もすぐに終わるけど。

 校内ですれ違えば会釈してくれる。笑顔はないけど。

 忘れ物をしたと言えば貸してくれる。なぜか橘経由だけど。


 うん、確かに先におかしな態度とったのは俺だよ。それは間違いない。でもさ…ここまで来るともう泣きそうなくらい切ないんですけど!!はぁぁ、俺の癒しが…。いっそのこと全部ぶちまけたら楽になれるんじゃないかと本気で考えた。



 しかし今日、俺は決定的な場面を目撃してしまう。


 夕暮れ時の廊下で向き合う男女。女子生徒が恥ずかしそうに差し出した物を笑顔で受け取る男子生徒。



 ………牧田さん、と…橘??


 え?何だその牧田さんの表情。恥ずかしそうで嬉しそうでそわそわして…まるで好きな男を前にしたみたいだ。あれ?俺にもその顔見せてくれてたと思ってたんだけど、気のせいだった?


 その時今更ながらに思い出した。正確には考えないようにしていただけだけど。

 牧田さん、好きなやつがいるって言ってたよな。それって…橘?もしかして俺かもとか思って調子乗ってる場合じゃなかった?

 もう訳わかんねえよ。何なんだよ…。


 そんな混乱している俺になんて気付かず、二人はまだ何か話している。(橘相手に)はにかむ牧田さんは死ぬほど可愛いが、正直今はそれどころじゃない。

 牧田さんの好きなのが橘なんじゃないかと思えば思うほど、今までのことがそれらしく見えてくる。


 つーか、橘も橘だろ。牧田さんが自分のこと好きだって知ってたくせに、俺のこと応援してるなんて言ってたのか?…いやいや、橘はそんな性格の悪い奴じゃない。きっとあいつにとっても寝耳に水の出来事だったに違いない。…だよな?


 混乱している俺をよそに、二人はまだ何か話している。


「………好き……すれば?」

「うん……好きだよ。でも…………ダメだもん。」

「そんなこと………大丈夫。」


 何何何??やっぱり牧田さんは橘が好きなわけ?でも健気な牧田さんは自分じゃ橘には釣り合わないとか、そんな可愛らしい理由で身を引こうとして、それを止める橘…。あれ、二人は両想いなのか。俺が一人で盛り上がってただけなのか。マジで俺、失恋ってこと?



 絶望感で一杯になりそうだったその時、橘がこっちへ歩いてくるのが見えた。咄嗟にロッカーの影に隠れやり過ごす。

 橘の後ろ姿を確認し、八組の教室へ向かう。


 

 もし牧田さんが橘のことが好きだとしても、せめて俺の気持ちだけは伝えたい…。


 そうでもしなきゃ諦めるなんてできねえよ。



+:+:+:+:+


 そっと八組の扉を開ければ、びくりと肩を跳ねさせながら振り返る牧田さん。

 そこにいるのが俺だとわかると、落ち着きなく視線を彷徨わせている。無言で牧田さんを見つめていれば、居たたまれなくなったのか手をわたわたさせながら話し始めた。


「お、おお、岡野君?!どうしたの?…あっ、もしかして橘君を探しに来たとか?それならさっき行ったばっかりだから今から追いかければすぐ…」


「ねえ、牧田さんの好きなやつって橘なの?」

 

 牧田さんの言葉を遮って、自分でも思っていた以上に鋭い声が出る。いや違うって。もっと優しく話しかけなきゃダメだろ?!ああああごめんよ牧田さん。

 しかし俺の言葉が図星だったのか、顔を赤くして固まってしまった彼女を見て失望感に襲われる。やっぱりそうなんだ…。予想していたこととはいえ、けっこうキツいな。

 心に相当のダメージを食らったが、それに反して彼女を傷つけるような言葉が口から飛び出すのを止められない。

 

「なんで橘なの?牧田さんじゃ無理だって。それに橘って彼女いるよ?中学一緒だから知ってると思うけど。はっきり言って勝ち目ないでしょ。さっさと諦めた方がいいんじゃない?」


 違う。こんなこと言いたいんじゃないんだよ。


「俺と仲良くしてたのも橘に近付くためだったりするわけ?…まあ無駄だと思うけど。」


 だんだん牧田さんの顔色が悪くなっていく。…くそっ、止まれよ俺の口!牧田さん傷つけてどーすんだよ!


「もしかしてここの高校選んだのも橘がいるからだったりして?すごいね、そんなにあいつのこと好きなんだ。でも相手にされないんじゃ虚しいだけだよね。」


 そりゃ俺のことじゃねーか!自分で言ってて自分が傷つくわ!!


「さっさと諦めればいーのに。橘が牧田さんのこと好きになる可能性なんてゼロだよ、ゼロ!」



 しーんと静まりかえった教室に、俺の荒い溜息だけが響く。

 ああああどうしよう。完っ全に嫌われたよな、これ。俺の大馬鹿野郎。何でこんなこと言っちゃったんだよ。告白しようとしてたはずなのにどこをどうしたらこうなるんだよ!?

 もう嫌われた。絶対嫌われた。


 本当はこんなこと思ってない。牧田さんは可愛い。俺以外にも好きになる奴は絶対にいる(実際告白されてたし)。友達思いで優しいところも好きだ。努力家で聞き上手だし。料理もお菓子作りもできて牧田さんの作ったものは全部食べたいとか思ってるし、むしろ牧田さんそのものを食べちゃいたい!誰にも渡したくなくて、ずっとずっと大好きで…だから、だからこんな風に傷つけるつもりなんてなかったのに。

 

 取り返しのつかないことをしてしまったと分かっていても、これからは牧田さんと関わることもできなくなったと理解していても、せめて謝らないと。本心じゃないって、全部反対のことだって言わないと…


「ま、牧田さん…ごめん、ほんとは俺、こんなこと思ってな…」


 でも遅かったみたいだ。きっと真っ青になっているだろう俺を正面から見据えて、牧田さんが謝罪なんて必要ない、とばかりに俺の言葉をぶった切る。


「いいよ、岡野君の言いたいことは分かったから。…言っとくけど、私が好きなのは橘君じゃない。」


 ………え?俺、また早とちりしてやらかした??

 今にも泣き出してしまいそうに目を赤くした牧田さんと視線が絡む。違うんだ、傷つけるつもりも泣かせるつもりもなかったんだ。


「どこ見てそんな風に思ったの?もう!岡野君なんて最低!鈍感!女ったらし!!」


 

 ………どうしよう、悪口(って言っても可愛いもんだけど)言われてもただ嬉しいだけとか、いよいよ俺ってば変態の域に達してしまったかもしれない。でももう嫌われただろうから、牧田さんが俺に向かって話しかけて(この場合は罵倒?)くれるだけでも嬉しいんだ。だって牧田さんの視界に俺が入ってるってことだもんな。


 しかし、ある意味現実逃避中だった俺に更なる衝撃の言葉が降りかかる―――――――。



「なんっでこんな…あぁもう!ばか!…好きだよ、ばか!」


 

 そんな言葉と同時に何かが俺に向かって投げつけられ、それは俺の顔に見事にクリーンヒット!

 突然のことで避けるひまもなく、しかし本能的に落としてはまずいと慌ててキャッチしてみれば…すでに牧田さんは教室から逃げ出していた。


 え、何これ。っていうか、さっきの牧田さんは夢……?


 教室には、茫然と立ち尽くす俺と、俺の手の中にあるラッピングされた袋だけが取り残されていた。



「淳哉、今は彼女いないよ?」


 にやりと笑う橘君に顔が赤くなる。…やっぱりバレバレだよね、私が岡野君のこと好きってこと。


 ざわざわと騒がしい自習中のはずの教室で、隣の席の橘君がからかうような目を向けてくる。


「ああそれと、あいつ最近、新しいタオル欲しがってたなー。部活用のスポーツタオル。もうすぐあいつの誕生日だし、誰かプレゼントしてやればいいのにね♪」


 ぐぬぬぬ。くっそう、人が強く出れないと思って面白がってるな?!タチバナめ!


「そういえばこの前調理部が差し入れしてくれたパウンドケーキ、あいつすっごい嬉しそうに食べてたなー♪」


 きいいい!なんなのこのにったにったぐひひな人は!いつもの爽やかさどこいった?!


 でもそっか、もうすぐ岡野君の誕生日だ。中学の時よりは話せるようになったし、プレゼントあげてみようかな。でも最近避けられてからどうもうまく話せないし…



「そんな考え込まないでさ、してみればいいじゃん告白☆」


 誰かこのエセイケメンどうにかして。



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