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今回、岡野君の変態っぷりにドン引くこと間違いなしです。

ご注意ください!



 やっちゃった。とうとうやってしまった――――――。


 どうしよう。もう牧田さんに会わせる顔がない。


 誰にも言えない。もし知られたら絶対に嫌われる。軽蔑される。



 なんでこんなことしちゃったんだよ、俺…。



+:+:+:+:+:+


 あの電車での出来事から数日経っても、俺の中の嫉妬心は治まらなかった。むしろ悪化の一途を辿っていたと言ってもいい。

 今までにも何回か牧田さんに男がいるんじゃないかという疑惑はあって(その度に勘違いだとわかったが)、でもここまで黒い感情に支配されることはなかった。たぶん、牧田さんとあの男が密着していたのがいけなかったんだと思う。

 

 牧田さんが欲しい。牧田さんの全部が。そう願ってはいても、他の男の影に怯えて何もできなかった。

 そんな意気地なしな俺を嘲笑うかのように、あいつは牧田さんに触れていた。俺が触れたくて俺のものにしたくて、焦がれてどうしようもない彼女に。

 もしかしたら本当に彼氏なのかもしれない。でもそれはそれで仕方ない。今まで彼女に好かれようと努力しなかった俺がいけないんだから。

 でももし、今回も勘違いだったら。彼氏でも好きな人でもないんだとしたら。そんな男に易々と触れさせるなんて我慢できない。たぶんまた同じ場面に遭遇したら、迷わず割り込むだろう。


 そんな感じで鬱々と過ごしていたからだろうか。まさに魔が差したとしか言えない…いや、これじゃあ言い訳だ。つまり、俺は牧田さんに、取り返しのつかないことをやらかしてしまったわけである。



+:+:+:+:+:+


 あと少しで一学期も終わろうとしている日の放課後。部活動中、今日締め切りの合宿に関するプリントを教室に忘れたことを思い出した俺は、休憩時間に入ってから自分の教室に向かった。ついでに、同じように忘れたという橘の分も頼まれたため、面倒だが八組にも寄ったわけだ。

 午後四時にもなると教室には全く人が居らず、途中二、三人の生徒を見かけるだけだった。放課後独特の静けさに包まれた廊下を進み、八組のドアを開けようとした時だった。教室内に牧田さんがいるのに気付いたのは。


 教室のドアは一部がガラスになっていて、そこから教室内の様子が見えるのだが、どうやら一番奥の自分の席に座っているようだ。ここからだと後ろ姿だけど、俺が牧田さんを見間違えるはずないし。

 もしかして二人っきりのチャンス?とドキドキする胸を抑え、そっとドアを開ける。しかし音は聞こえたはずなのに何の反応もない牧田さんにあれ?という疑問が湧いた。てっきり振り返るだろうと思ったのに。…寝てる?


 こそこそと音を立てないように牧田さんの前に回り込んで見れば、壁に頭をつけて眠りこんでいる。


 …これはやばい。


 何がやばいって、なんつーか無防備なんだよ。少し下を向いたせいで影ができている目元とか。うっすら開いた唇とか。穏やかに上下する肩とか。

 なんだこれ!ちょっ、心臓に悪すぎる!


 しかし写メりたい欲望を必死に抑えていた俺の目に、更なる衝撃が。


 俺の目の前に神々しくも投げ出された牧田さんのひざこぞう。


 え、いいのこれ。なんで牧田さん、俺の前でこんな無防備に晒しちゃってんの。


 


 触りたい。この時の俺は、このことしか考えられなかった。

 もしばれたらどうするとか、それは男として(人として)やっちゃいけないだろとか、いろいろ頭では分かってんだ。でもダメだった。目の前にずっとずっと触れたかった牧田さんのひざこぞうがあるんだから。


 ごくりと自分の咽から音が鳴るのをひどく遠くに感じる。もどかしいぐらいのスピードで牧田さんの前に跪き…そして右手をゆっくりと憧れの牧田さんのひざこぞうへ。


 

 触れるか触れないかくらいの力でそっと撫でる。牧田さんのひざこぞうは、想像していた以上にすべすべで柔らかくて…もうこれだけで(いろんな意味で)昇天できそうだった。はあ、と熱い吐息がこぼれる。

 そのまましばらく俺は牧田さんの膝を撫でていたらしい。正気に返ったのは、牧田さんの口から「んっ」という声が聞こえた時だった。


 俺、今何してた?牧田さんに触ってた?



 咄嗟に立ち上がり、慌てて教室を飛び出す。

 まずい。これはダメだろう。本人に何の断りもなく、いや例え断っていたとしても、膝を撫で回すとか…どうしよう、自分の変態ぶりに滅茶苦茶へこむ。なんだよ、そこまで切羽詰まってたのかよ。そりゃ牧田さんと近づきたいとは思ってたけど。


 とにかくこれは誰にも知られちゃいけない。絶対に。


 こんなことしておいて今更だけど、牧田さんに嫌われることだけは―――――――。



 

 その後は部活に戻ったもののぼんやりして使い物にならず、その上取りに行ったはずのプリントはどこかに置き忘れ。もちろん橘に頼まれていたことも忘れていたため、散々馬鹿にされた。だけど俺の様子がおかしいと思ったのか、最後の方は心配されてしまった。ごめんな、橘。今の俺は、そんな優しさをもらえるような人間じゃないんだ。



 ああ、もう一回、あの時からやり直せたらいいのに。



 



 夢を見た。岡野君と一緒にいる夢。


 なんて都合のいい夢なんだろう。手を繋いで…これは家への帰り道?夕日が眩しくて彼の顔が半分見えない。でも二人とも笑ってるのが分かる。


 なんて幸せな夢。最近仲良くなれたと思ってるから、ちょっと欲張りになっちゃったのかな。夢だって分かってるのにおかしいな。


「牧田さん、触ってもいい?」


 いつの間にか何もない空間にいた。ただ、椅子と私たちだけが存在する不思議な世界。

 黙って椅子に座って、目の前に座る岡野君に膝を見せる。


「ん。」と小さく頷いた岡野君の右手が私の膝を包んだ。そしてゆっくりと形を確かめるように優しく動かされる。

 くすぐったくて唇を噛みしめれば、くすりと笑ってひざこぞうにキスされた。


 もうやだ。あとちょっと。そんなどこまでも本気でないことを言い合って、二人でくすくすと笑う。

 やがて彼の輪郭がぼんやりとして、不思議な空気がどんどん薄れていく。



 そっと目を開ければ、どうやら教室で友達を待っているうちに寝てしまったらしい。

 …恥ずかしい。こんな夢を見るなんて、私ってもしかしていやらしいのかも。


 誰にも言えない、私だけの秘密。



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