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短編「だから私は忘れられない」の続編となります。こちらの主人公は彼です。


有難くも短編の評価や感想をたくさん頂いたので、思い切って連載としてみました。




「ちょっと聞いてー!女子は体育祭本番まで毎日放課後練習するから!」

「部活とかある時はしょうがないけどー、基本全員参加ね!」


 二年生に進級して連休も終わり、漸くクラスが落ち着き始めた頃、来月初めに行われる体育祭に向けて(一部の)クラスメイトたちが盛り上がっていた。「絶対優勝!」という気合がこっちまで伝わってくるような熱さだったわけだ。

 学年種目は男子が騎馬戦、女子が小むかで競争(二人組か三人組でやるむかで競争のこと)だった。騎馬戦に関しては、「危ない」という理由で体育の授業以外での練習が禁止されていたため作戦を練るくらいしかできなかったが、反対に女子は体育で使うはちまきを使っての練習が許可されていた。確かにむかで競争はタイミングとかが大事だろうし、練習することで上手くなるだろうけど、それが毎日参加してまでやることかといえば、そうでもないと思う。

 しかし、放課後練習を言い出したのが、学年でも屈指のきつい性格の斉藤たちのグループだったことから、この練習はほぼ強制となってしまったのだった。部活がある人は仕方ないとか言っているが、できるだけ参加しなければ後からねちねち言われるのは目に見えているからだ。この時は自分が男で良かった、くらいにしか思わなかったんだが。そうこの時は。



 五月も残り少なくなり、体育祭へ向けて各クラスがまとまりを見せる中、うちのクラスも例外ではなかった。斉藤たちの提案による放課後練習はますます熱を帯び、初めは及び腰だった他の女子たちもその頃になると優勝に向かって頑張っているのが分かる。


 体育祭の前々日、体育委員だった俺は、本番前最後の会議に出席して帰ろうとしているところだった。三年の昇降口で靴を履き替えていると、校庭の方から誰かがひょこひょこと歩いてくるのに気付いた。何気なく見てみると、それは同じクラスの牧田さんで、どうやら転んで膝を擦りむいてしまったようだ。昇降口近くの水道に来た牧田さんは、そこで靴と靴下を脱いで、膝を洗い始めた。

 

 正直言って、牧田さんとは同じクラスになってから一度も話したことがない。席は名簿順だからほぼ端と端だし、そもそも俺と牧田さんは人間のタイプが違うのだ。俺は自分で言うのもなんだけど、クラスのお調子者とかムードメーカーだと思っているけど、牧田さんはそんな俺を気にもしないで静かに本を読んだり、仲のいい女子と話しているイメージだ。つまり、言い方は悪いが、地味な女の子なんである。


 いつもの俺だったら、そんなクラスメイトには「お疲れー!」とか一方的に声を掛けてさっさと家に帰るはずなのだが、その時の俺はなぜか昇降口から一歩も動けず、牧田さんをじっと見つめていた。

 傷口に水がしみて痛いのか、きゅっと結ばれた口。膝についた土を払う細い指。癖の強い髪を一本に束ね、反対の手で額の汗を拭っている。

 

 おかしいな。牧田さんは全然俺のタイプじゃないはずなのに。俺が好きなのは明るくて俺とテンションが一緒の、クラスのリーダー的な女の子だったのに。


 牧田さんから目が離せなかった。



 次の日、俺はさりげなく且つこっそりと隣の席の江川さんに聞いてみた。江川さんは牧田さんと話しているのをよく見るからだ。


「昨日さー、牧田さんが怪我してるの見たんだけど、明日の本番大丈夫そう?」

「まきちゃん?朝聞いた時は「大丈夫」って言ってたけど。」

「そっか。もう本番近いのに怪我なんかしたらあいつら煩そうだもんなー。」

「そうなの!まきちゃんが昨日怪我したのだって、斉藤さん達の指示出しがおかしくなっちゃったからなんだよ。なのに「ちゃんとやってよ!」とか超理不尽。まきちゃんすっごく頑張ってるのに!」

「まあ斉藤たちが優勝したいって気持ちもわかるけどな。あんまりがみがみやられてもやりにくいだろ?」

「だよねー。しかも斉藤さん達が「毎日」って言ってたくせに、半分くらいしか出て来ないんだよ?まきちゃんなんて部活も生徒会もあるけど毎回来てるのに。」

「…牧田さんって偉いんだな。俺だったら絶対さぼるわー。」

「私だってそうだよ。でもまきちゃんはさ、「毎日少しでも練習しないと上手くなれないから」とか言って律儀に参加してるんだもん。ほんと偉いよ。」


 そっか。牧田さんってそういう人なんだ。 

 なんだか胸が温かくなる。これ何だろ。



 そして体育祭本番。体育委員の俺は、クラスの先頭に立って開会式での校長やらPTA会長やらの話をぼんやりと聞いていた。しかし牧田さんが壇上に上がったのに気付いた途端、思わず叫びたくなるほどの衝撃を受けることになる。


 壇上の牧田さんは、生徒会からの注意を恥ずかしそうに読んでいる。その声もいいな、と思いつつ俺の視線は牧田さんの膝から離れない。

 

 男の俺とは違って小さなひざこぞう。その上半分が絆創膏で覆われている。

 

 何だよ、たかが怪我した膝じゃないか。特に目新しいものじゃない。


 なのに、俺は考えてしまう。



 頑張り屋な牧田さん、この子の足をそっと持ち上げて―――――



 その可愛いひざこぞうにキスしたい―――――――。


おかしいな。こんな変態チックな終わり方になるはずでは…(-_-;)


第二話は明日です。

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