外伝(0話)
【馬鹿なあいつ】
私には、馬鹿な幼馴染が居る
どうしようもない奴だ。
始めてあったのは、小学3年生の時に私があいつの近所の家に引越してきた事が原因だ。
あいつは友達も少なくて、何時も1人で居た。
転校してきて私もなかなか周囲に溶け込めないでいたから調度良かった。
きっと暗い奴だと思っていたら、意外に口が悪い奴だった、でも馬鹿にすると面白かったから、次第に仲良くなっていった。
私が周りの子達に溶け込めた後も、時々遊んでいた。
私があいつに恋心がなかった、と言ったら嘘になる。
でも、あいつへの想いが冷める決定的な出来事があった。
中学一年の時だったかな、あいつ珍しく学校を休む事があった、暇だったし見舞いに行こうと思ったんだ。
あいつはお爺ちゃんと一緒に住んでいた、怖い人だったけど優しい人だった。
当時あいつの家は一軒家で、私の家から数分で行くことができた。
玄関の前で呼び鈴を鳴らしたけど、誰も出て来なかった。
慣れた家だったから、裏の庭から入ろうとした。
その時だった、木と木がぶつかる様な音がしたから、こっそり覗き込むと凄い光景を見てしまう。
・・・・ビックリした、お爺ちゃんと一郎が木刀で打ち合っていた、お爺さんは容赦なく一郎を叩きのめしていた、一郎はそれでも何度も立ち上がって、お爺さんに飛び掛る。
ショックだった・・・一郎がそんな事してるなんて知らなかった、それもだけど・・・
もっと、ショックな事があった。
私は・・・あんなに楽しそうな、あいつの顔を見た事が・・・一度も無かった。
最近は遊ぶ事も前より少ないけど、一番あいつの近くに居たのは、私だったのに・・・。
その時・・・気付いたんだ・・・一郎は何処か狂ってる・・・一郎は私だけじゃない、誰も見ていない・・・・。
一郎は人じゃない、そんな風に想ってしまった。
それからの一郎は少しずつ変になっていった。
学校を休んだのは、その一回だけだったけど、学校が終ると直ぐに居なくなった。
学校では自分の机から動かないし・・・何時も怖い目をしていた。
私が話しかけても、返事すらまともに返してくれない。
それだけじゃない、一郎は誰にも話し掛けなくなる。
次第に誰も、あいつに関わろうとしなくなって・・あいつは孤立していった。
中学を卒業して私とあいつは別々の高校に行った。
それでも、私は一郎には会うようにしていた。
以外だった、高校に入ってからの、あいつは一見元に戻った、人と普通に話すし、たまに笑顔も見えた。
だけどね・・・私はあいつと長く居たから分かるんだ・・・あいつの目は
その奥深くで・・・今まで以上に・・・狂っていた。
一郎が・・・完全に変わったのは・・・お爺さんが亡くなってからだ。
お葬式の時、あいつは怖いくらい無表情で、ずっとお爺さんの顔を眺めていた。
それからの一郎は家から出なくなった。
高校も退学して、引き篭もるようになる。
少しして、私のお母さんが心配して今のアパートに引越さないか、と一郎に相談した。
私は一郎は、断ると思っていたんだけど・・・何故か承諾した・・・。
お母さんは、お金は入らないって言ったんだけど、あいつは譲らなかった。
あいつが家のアパートに住むようになって、一つ分かった事がある、一郎は滅多に外には出ないのに・・・夜中に時々外出する事があった。
気になるけど・・・私には・・聴く事が出来なかった。
一郎は日に日に狂って行った。
前は、偽者でも笑顔を造っていた、それすら無くなって無表情になる。
中学生の時の方が・・・まだ人間らしかった。
居なくなって数週間帰らない事も何度かあった。
それでも必ず帰ってきて、また引き篭もる。
私はそんな一郎に・・・関わる事が出来なかった。
その頃、彼と出逢った
その人は私と同じだった・・・何故だか、そう思った。
私達は惹かれあい、結婚した。
洋一さんが、一郎と始めて出逢った時の事は忘れられない。
だって、一郎と少し言葉を交わすと、直ぐに逃げるように何処かに行っちゃって・・・
・・・洋一さん・・・影で、嬉しそうに泣いていた。
彼は自分の両親の反対を押し切って・・・私の家に婿養子に来た・・・。
洋一さんは時間を見ては、一郎と接した・・・。
彼と出逢って、一郎・・・少しだけど変わった、表情が顔に出るようになったし、何より笑うようになった。
そして・・・亜紀が生まれてから、あいつは本当に幸せそうな顔をするようになった。
また、馬鹿にすると面白くなったし、自分から馬鹿なことをするようになった。
私・・・今のままで良い。
一郎・・・昔より今のほうが楽しそうだもん。
私は・・・・このままで良い・・・
洋一さんと亜紀が居るだけで幸せ。
あいつが・・・馬鹿で居てくれるだけで、たとえそれが嘘でも・・・
私は今、幸せだもん。
私は・・・お爺ちゃんと一郎が木刀で打ち合いをしていた事は・・・絶対に誰にも言わない。
だって・・・そんな事、もし言ったら・・・私の幸せが・・・消えちゃう・・気がするから。
こんな事を思ってる私は・・・愚かなのかな?
どうも作者です、此処まで読んで頂ありです。
次回は最終話になります。
時間掛が掛かると思いますが宜しくです。