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七話 君の手は・・真っ赤ッ赤



廃工場、実はアパートから、徒歩で30分くらいの場所にある。


其処の一角で、それは行われている、金の為に剣を振るう刀人。


決して世間に自慢できる事ではない、だが一度の勝利を収めるだけで、物凄い金が手に入る。



ただし・・・敗北し、取り返しのつかない事になる者も多い。



でもこの金で、俺は生きている、汚い金だけど、俺は今日まで生きて来た。


コンビニで働いて貯めた金は綺麗なお金だ・・・不細工なぬいぐるみは、綺麗な金で買った。


馬鹿げた話だ、ただの気休めでしかない・・・俺が汚い物体である事には変わらない。


俺は・・・それでも・・・このままでいたい。


愚者と斬り合う時だけは・・・寂しくないんだ。





金の賭け合いは・・・あまり好きじゃない。


金をどう使うのか、良く分からない。


生きていけるお金があればいい。





そもそも俺は、生まれてこの方、趣味がなかった。


周りの人たちとの、話題について行けない。


流行の服や、人気の役者や、歌手も興味がない。


スポーツも、ルールが邪魔で覚えられない。


本を読んでも理解できない。






周りの人間に馴染めない。







上手く周囲に溶け込めない。








ずっと、俺は空っぽだった。


一人・・周りの人達から取り残されて行った・・・。




あの人達はなんであんな風に笑えるんだ?


なんで、誰かが死ぬだけで、泣く事ができるんだ?


何故・・怒ってるのか分からない。





俺は・・・間違いなく浮いていた。






周りの人達に気付かれないよう、俺は必死に普通を演じた。




好きでもない芸能人を、好きだと言った。


服は良く分からない。


スポーツはルールが分からない。


本も訳が分からない。


色々と挑戦したが・・・どれも上手くいかない、それでも周りに合わせようとした。





だけど・・・どんなに頑張っても・・・俺は周りの人達に、溶け込めなかった。




泣こうとしても、涙がでない


笑おうとしても、上手く表情が造れない


怒ろうとしても、何に対して怒れば良いのか分からない。







そんな頃、爺さんに始めて剣を教わった。


それが・・・俺のはじめて出来た・・・趣味?だった。


楽しかった、嬉しかった、痛かった、悔しかった。


剣は・・・俺に始めて感情を教えてくれた。


もっと知りたい、もっと教えて、もっと・・・強くなりたい


俺が欲を覚えた瞬間だった。





でも・・・爺さん以外、周りに剣が好きな人が居なかったんだ。


俺は周りに馴染む事は出来なかった。




結局・・・俺は1人だった。



そんな時だったかな、あいつと出逢った。


何時も俺に話しかけてくれた、俺を馬鹿にしてくれた、それが嬉しかった。


良く遊んだ・・・友達だと思った。


でも、秋子も周りの人達と同じだった、時が過ぎると周りと馴染んだ。


それでも、たまに俺と遊んでくれた。




・・・でも・・・なんか・・・惨めだった。





俺は・・・自分が嫌いになった。


もう、周りに合わすのを止めよう、俺には無理だ、難しすぎる、





なんで人は・・・こんな事・・・当たり前のように出来るんだ?










一つの箪笥があった。





箪笥の中をみて、空だった。




恐る恐る、奥を見た・・・


隠れてたそれを、手に取るその瞬間、俺は・・・・【魅せられた】




輝きが俺の中へ入ってくる







空っぽの・・・俺が・・・【満たされた】




もう何も、はいらない。



爺さんに見つかって殴られる、痛かったな。



でも、その後に爺さんが教えてくれた、殺しの剣は楽しかった。


ルールが無くて、馬鹿な俺でも良く分かった。


深くて、深くて、先が見えなくて、どんどん奥へ進んでいった・・・・


奥に・・・入りすぎて・・・戻れなくなった。


あれ・・・ここ何処だ?



気付いたら、誰も居なく成っていた。


「爺さん!!!」


爺さんすら、何処かに逝ってしまった。



寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、





暗い・・・暗くて前が見えない、自分が立っているのか、蹲っているのか、歩いているのか、止まっているのかすら分からない・・・そんな時、目の前に光が射した・・・それは点の様に小さくて、瞬きすれば見失ってしまいそうな光だった・・・でも、俺は救われた。


俺は眼を開けている・・・俺は立っている・・・これで・・・再び、光に向かって歩き出す事が出来るんだ。



たとえ・・・一点の光・・・その先に・・・何も無かったとしても・・・・。













廃工場の一角・・・


男は立っていた、彼の手には木刀が・・・その木刀は血塗れだった。


やってしまった・・・金を賭けていた筈なのに・・・殺してしまった・・・。




呆然としている男に、小林が容赦なく話しかける


「あ~あ、殺しちゃったね^^」


「でも相手は降参しなかったから、お金は君の物だよ、良かったね」


「もっとも、降参する暇もなかったか^^」


「・・・」


男は掌を、ただ眺めていた。


「まさかして気付いてない? 君、凄く楽しそうだったよ^^」


「僕、前から思っていたんだけどさ?^^」


「こんな事が平気で出来る、君が何でまだ・・・正気を保って、日常に居られるのかな?」


「・・・」


「あの家族にそんな力が、有るのかな?^^」




「技も体も、既に一線を越えているのに、君は何でまだ・・・刀人なの?^^」


「・・・一線を越えるって、どう言う意味だ・・・」


「はは、こっちの話さ^^」




・・・人を・・・今回は、相手だって死ぬ覚悟が出来ていないのに・・・謝って許される事じゃない。


相手は刀人であって、愚者じゃない・・・殺し合う事なんて望んでなかった筈だ。


俺は・・・ただの・・・人殺しだ・・・そんな事は分かっている。


でも・・・この道を歩むと決めたのは、俺なんだ。


俺には此処にしか居場所がない。


でも・・ここに居ると・・気が狂いそうになる、これ以上狂うのは嫌だ。




あそこは・・・俺が逃げる事の出来る、たった一つの場所なんだ。


自分の事しか考えてないさ、俺は屑だよ、それでも良い、俺は・・・・あそこに・・・帰りたいんだ・・・。




何時までも、あそこに俺が居ては駄目だと、頭では理解しているんだ・・・


・・・でも、あの家族と居たいんだ・・・。






俺の所為で・・大切な3人を、巻き込んでしまう可能性が有ると分かっていながら・・・




愚かで汚く、惨めで、屑な俺は・・・まだ、あの家族と共にいる。


人殺しである事を隠して。








・・・数日後・・・。





日課の散歩を終えて、用もなく自分の部屋でダラダラしていたところで、呼び鈴が鳴る。



鈴木はドアを開ける。


2人の大と小の人影


「秋子・・と亜紀か、何か用か」


「いまからね、ママとお買い物行くの」


「そうか、それは良かったな、俺は此処で君達の無事を祈ってるよ」


「あんたも来なさい、荷物持ちと、亜紀見てて」


秋子の言葉に亜紀は怒る


「わたし子供じゃないもん、それに面倒を見るのは亜紀の方だもん」


亜紀よ、俺は迷子で放送されたくないぞ。


「残念だ、俺は今から妄想の世界で、神様と一戦交える必要があるんだ」


鈴木の発言を無視して、秋子は


「もう直ぐ洋一さんの誕生日なんだ、あんたも感謝の気持ちがあるなら、なんか買ったら?」


・・そうか・・・知らなかったな・・・


「亜紀はね、もうプレゼント作ったよ」


威張って亜紀が言う


「ほう、何を作ったんだ?」


亜紀は満面の笑顔で


「ええっとね~ 似顔絵」


「それは良いな、良し俺も似顔絵にしよう」


「まねしちゃ駄目!」


「良いじゃないか、俺の絵を受け取ったら、きっと洋一さん喜んで、居間に飾ってくれるな」


亜紀が、とても怒ってる


「ちょっと、いい加減にしなよ、一郎の絵なんか、ただの嫌がらせだよ」


秋子にも怒られた


「分かったよ・・・」


「一郎、さっさと出掛ける準備して」


「え、俺も行くの?」


「さっきから、そう言ってるでしょ」


しょうがない、行くしかないか


「はいよ、行きますよ・・・ちょっと着替えるから、庭で待ってろ・・・覘くなよ」



秋子に殴られた







秋子と亜紀は庭で待つ。


実は今回の事は、洋一さんが言い出した事だった。


洋一さんとは18時頃に合流して、4人でご飯を食べる・・・それが目的らしい。


「ママ・・いちろう、嬉しそうだったね」


「うん・・あいつ、何だかんだ言って、本当は嬉しいんだよ」


「いちろうと、お出掛けするの久しぶりだね」


「うん、そうだね」


一郎は、私達と話す時、何時も楽しそうなのに何処か・・・私達を避けている気がする。




暫く時が過ぎ、一郎が現れる・・・クタクタの地味な格好だ。


「一郎、遅いよ」


「俺は、準備に時間が掛かるの、しょうがないでしょ」


そんな格好で何言ってんだか・・・。



3人は歩き始める、母と娘が手を繋ぎ、他人の男は少し後ろを。



「なあ、ところで何処に買い物行くんだ?」


「ん~とね、電車に乗ってデパートに行くの」


「デパートか・・・随分と行ってないな」


「いちろう、何買うの?」


「洋一さんにか?」


「うん」


「・・・考えてないな・・・そう言えば洋一さん、何か趣味有るのか?」


「洋一さん、釣が好きだよ・・・昔お兄さんに、良く釣り堀に連れて行って貰ったんだって」


「へ~ 知らなかったな・・・じゃあ、何があるか分からないけど、釣関係の物にするかな」


鈴木がそう言うと、亜紀が困った事を言う


「ね~ いちろうは何にか好きな事ないの?」


「え、俺か?」


「確かに一郎の趣味は私も知らない・・・」


本当は1つだけ・・・知っている・・・。


「・・・・そうだな・・・趣味かどうか分からないけど・・・昔、爺さんが生きていた頃は将棋に付き合わされたな」


「あんた、馬鹿の癖に良くルール覚えられたね」


「そうなんだよな・・・何故か将棋だけは覚えられた・・・って、馬鹿とは失礼だな」


将棋を好きな人には失礼な事かも知れないが、


刀での斬り合いの際、相手の先を読み、次の一手を考える・・・この修練に置いて、将棋は先を読む修行に使わせて頂いた。


将棋を愛している方達からすれば、人殺しの為に利用したと、思われても仕方ない事だ。


俺の将棋の力量は隠させてもらうが、一つだけ言える事は・・・爺さんに一度も勝った事がない。





秋子は思い出すように、


「でも・・・お爺ちゃんの事、一郎久しぶりに喋ったね」


「・・・・まあ、感謝してるさ、爺さんのお陰で今日まで生きて来られたんだからな・・・」


「・・ママ、お爺ちゃんって誰?」


「ああ、亜紀は知らないよね、一郎のお爺ちゃんの事だよ」


「いちろうの家族?」


「ああ・・・俺の、たった一人の肉親だ・・・おっかない人だったけどな」


「そうなんだ・・・」


亜紀は何処か寂しそうだった・・・。




3人は駅に着き、電車に乗る。


電車の窓から見える景色が動いている、ここは一つ亜紀に、先を越される前にやっておこう。


鈴木は電車の席に膝を立てて座り、窓を見ながら


「秋子ー!! 凄いぞ、景色が動いているぞ!! 一体何が起こってるんだ?」


秋子は冷めた目をして


「亜紀・・・こんな大人に成っちゃ駄目だよ」


「・・・うん・・わかった」


俺は自らを犠牲にして、亜紀の反面教師になった。






電車から降りて、数分でデパートに到着する。


平日でも意外と込んでいるんだな。



「で、秋子さんよ・・・何買うんだ?」


「亜紀の服と、洋一さんへのプレゼント・・・あと、内緒」


「じゃ、俺は地下で試食巡りと、言う事でさいなら・・・・」


秋子に殴られた、俺の頭が悪いのは、こいつの所為だ。


「荷物持ち!!」


「・・・分かりました・・・」





子供服売り場・・・亜紀と秋子が服を選んでいるのを、ボーっと眺めている。


暖かい光景だ


これが・・・俺の幸せだ・・・。



そして・・・この時・・罪悪感が心に広がる・・・・。



時間が・・・掛かるな・・・立ってるのエライ・・・疲れた・・帰りたいな・・・。


秋子に近づき声を掛ける




「秋子・・・まだか、俺は帰りたい」


「もうちょっと、今いいところなの」


「いちろう、あっち行ってて」




何て扱だ、優しさの欠片もない。


もういい・・・ちょっと散歩に行こう。




折角だから、洋一さんのプレゼントでも探そう。


何が良いかな、釣関係ね・・・デパートにあるのか?


とりあえず、適当に歩き回ろう・・・


決めた、釣関係は諦めた・・・俺のイメージと、独断と偏見で買おう。


俺の洋一さんのイメージ・・・スーツ姿だな、スーツを誕生日のプレゼントってのもオカシイのかな?


あっそうだ、ネクタイなんか良いんじゃないか?


鈴木は売り場を探す、少し歩いて見つけた。




不味いな・・・俺、全くセンスない・・・秋子に頼むかなネクタイ選び、


いや、俺からのプレゼントだしな・・・自分で決めよう。



鈴木はネクタイをあさり、レジへ。



ネクタイを買いました・・・分からないから、無難な地味なネクタイにしました。


目的の物を買う事ができて、意気揚々と子供服売り場に向かったら、あいつらまだ選んでるよ。



もう良いや、そこらへんのベンチにでも座ってよう・・・ ・ ・。



1時間後、どうやら終ったようだ。


2人の下に行く。


「遅い・・・ダルイ・・・疲れた」


「ごめんね・・・はい、荷物」


「流石に子供服貰っても、俺は着たくないぞ」


「馬鹿な事言ってないで、さっさと持って」


なんて理不尽な・・・。


渋々荷物を受け取る


「それで次は、何を買うんだ?」


「洋一さんのプレゼント買うの」


「そうかい、じゃあ行こう」


俺がそう言うと、秋子はとんでもない事を言い出した


「1人でじっくり選びたいの・・・亜紀お願いね」


「無理」


「亜紀だって、いちろうと2人きりなんてやだ!」


失礼な・・・でも俺も亜紀と同意権だ。


「一郎が何か美味しい物、食べさせてくれるって」


「ほんと?」


亜紀・・・そんな目で俺を見るな。


「秋子、無理言うな」


「いいでしょ、直ぐ終るから・・ね、お願い」


「いちろう、亜紀甘いもの食べたい」


亜紀め、食い物に釣られたな。


「わかったよ、直ぐ戻って来いよ」


「ありがとう、終ったら電話するね」


「あと、ネクタイ買うなよ」






秋子と離れて、亜紀と二人歩く。


「いちろう、クレープ」


「おう、任せとけ、甘いものだな」


亜紀は笑顔、鈴木は不気味な笑顔。




暫く歩いて外に出ると


「亜紀、今買ってくるから、ここで待ってろ、いいな?」


「うん」


一郎は少し離れて、甘いものを買いに行く。



「亜紀~ 甘いもの買ってきたぞー」


鈴木は亜紀に、たい焼きを渡す


「・・・クレープ・・・」


「これぞ日本の味、あり難く食べてくれ、ささっ遠慮するな」


亜紀は見るからに不満そうだ、駄目だぞ好き嫌い言っちゃ。




「これ・・・いちろう・・ありがとう」


・・・・


予想外の反応に、罪悪感が芽生えてしまった・・・。


「く、クレープ買って来ましょうか?」


「いいよ、たい焼き美味しいよ」


「・・・ごめんね・・・亜紀」


2人は無言でモグモグと、たい焼きを食べる。


「・・・ねえ、いちろう」


「ん、なんだ?」


「いちろうのお爺ちゃんって、もう居ないの?」


「爺さんか? そうさな、亜紀が生まれる前に、逝っちまったな・・・」


「いちろう・・寂しくない?」


「・・・寂しくないよ、俺には秋子に洋一さん、それに亜紀が居るからな」


「・・・・いちろう・・何処にも行かないよね?」


「なんだよ、急に・・・」


「この前ね、夢みたの・・・いちろうが消えちゃう夢」


「はは、また縁起の悪い夢だな」


「いちろう・・・消えちゃやだよ・・・」


「・・・消えないさ、俺の帰る場所は、此処しかないからよ」


鈴木は亜紀の頭を撫でようとした・・・だけど、思い止まった。


だって俺の手は・・・汚いから




時が流れて、秋子から連絡があった


秋子と合流。


「遅いぞ、秋子・・・僕もうお家に帰りたい」


「ママ~ いちろうと2人で怖かったよ~」


な、亜紀さっきまで2人で仲良く遊んでたのに酷い


「亜紀、ごめんね~ 怖かったね、一郎と2人っきりにするなんて私が間違ってた」


こ、この親子・・・こうなったら


「グヘヘ~ 亜紀、僕ちゃんともっと遊ぼうよ」


「きゃー変態」


「あっち行け、変質者」


その時の一郎の顔は本当に楽しそうだった。






時刻は18時10分




駅に着くと、洋一さんがいた。


「あれ洋一さん、なんで此処に居るんですか?」


「今から、皆でご飯食べに行くんだよ」


鈴木は秋子を見る


「あ・・ごめんね、言うの忘れてた」


「鈴木君も、良かったら一緒にどうだい?」


「・・・いや、俺はいいですよ、折角の家族水入らずを邪魔する訳には行きませんから」


鈴木は荷物を洋一に渡す


「気にする事ないさ・・・鈴木君と知り合って、もう数年になるのに、一度もご飯食べた事ないじゃないか」


「そうだよ、一郎あんた普段コンビニのご飯しか食べてないでしょ?」


「たまには、外食でもちゃんとした物たべなきゃ駄目だよ」


正直、行きたくない・・・この前、秋子の家に入れなかった時と、同じ感覚が心の内に広がっている。


「いちろう、行こうよ」


嬉しいんだ・・・それでも・・・俺は・・・。




「お金が・・・」


「そんな事、気にしなくていいよ、今日は秋子と亜紀の買い物に付き合ってくれた、お礼だと思って」


俺が・・・行っていいのか?


「・・・」


「行こ、一郎」


「・・・ああ・・・行くか」




4人で近くのファミリーレストランに入る。






店員に誘導されて、席に着く。


「鈴木君、何でも良いよ、頼んで・・」


「・・良いんですか?」


「ああ、ファミレスだから、そんなに気にしないで良いよ」


「そうだよ一郎、あんた私には何時も容赦ないくせに、洋一さんには変に気を使うんだから」


そうだな・・そこまで気を使う必要ないか・・・・。


「亜紀ね、これがいい~」


亜紀はお子様ランチB、玩具が付いて来るらしい。


「・・・亜紀、玩具は俺にくれ・・・」


「駄目!! 亜紀の!!」


「それじゃあ何か、俺にお子様ランチを頼めと言うのか? そんな恥ずかしい事できないぞ俺には」


秋子は呆れ顔で


「あんたね、子供の玩具を欲しがる時点で十分恥ずかしいわよ」


洋一は秋子に小さな声で


「・・・なんか、鈴木君・・話には聞いてたけど、何時も君や亜紀の前だと、こんな感じなのかい?」


「そうだよ、基本的に何時もふざけてて馬鹿な事しか言わないもん」


・・・ますます彼が兄さんに、見えてきた。


4人は注文をして、ドリンクバーを頼む。


「洋一さんの分は飲み物、俺が持ってきますよ」


「あんた、なんで洋一さんだけなのよ?」


「4人も纏めて、運べないだろ」


「亜紀の分はお前が運べ」


鈴木の言葉に亜紀は


「やだ、亜紀自分で運べるもん」


「亜紀偉いね、それじゃあお母さんと一緒に行こうか」


「は~い」




洋一は1人席から3人を眺めている、あんなに楽しそうな鈴木君は始めて見たな。


きっと彼は此処に居たいと、思ってくれている筈だ。



3人は席に戻り、暫く雑談をする。


「そう言えば、洋一さん釣が好きなんですね」


「ああ、秋子から聞いたのかい?」


「ええ、まあ」


「そうだね、本格的にやってる訳じゃないけどね、結構好きだよ」


洋一は思い出すように


「昔、良く兄さんに近所の釣堀に連れて行って貰ってね、そう言えば始めて行った時に、兄さんに泣かされたな」


洋一は楽しそうに話す


「ここの魚を5匹釣らないと帰らせてもらえないって兄さんに騙されてね、何時になっても僕は一匹も釣れないで、泣いていた覚えがある」


なんか洋一さんのお兄さん、酷い人だな


「・・・なんかさ、前から思ってたんだけど、洋一さんのお兄さんって、一郎に似てない?」


秋子、俺はそんな酷い事した覚えないぞ


「たしかさ、亜紀が小学校に上がる前に、一郎馬鹿なこと言って亜紀泣かせたよね?」


「え、俺なんか言ったっけ?」


「確か・・・お昼の給食と言う物を残すと、学校から出られなくなる・・・だったかな」


「あ、亜紀、俺はそんな事言ってないよな?」


亜紀は思い出したのか、機嫌が悪そうに


「・・・放課後までに食べ終わらないと、オバケが出てくるって、いちろうに言われた」


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」


「これはもう、今度から鈴木君の事、兄さんって呼ばないと駄目かな」


「どっちかって言うと、洋一さんの方がお兄さんだよ」


「はは、でも僕にとっての兄さんは、何時もふざけた人だからね」


なんか・・・言われまくってるな・・・返す言葉もないけど。




雑談していると、あっという間に食事が運ばれてきた。



4人全員に運ばれると、食前の挨拶? をして食べ始める。



「こら、亜紀玩具で遊んでないで、ご飯食べなさい」


おお、洋一さんが亜紀をしかってる、よし俺も


「そうだぞ、亜紀・・・玩具は俺が貰ってやるから、ご飯を食べなさい」


「駄目!! これ亜紀の!!」


「こら、あんた亜紀の玩具欲しがらないの」


何故か俺が秋子に怒られた。




鈴木はご飯を食べる。


・・・美味いな・・・こんな美味い飯、久しぶりだな。


誰かと飯食うのも・・・本当に久しぶりだ。



昔は爺さんと2人で食ってたな・・・爺さんが飯、つくってくれたんだけど


爺さんの飯・・・不味かったな、それで文句いうと殴られるんだよ、どうしようもない爺さんだった。


でも・・・爺さんは、たまにラーメン屋に連れてってくれた。


今思うと・・・それは俺の楽しみだったんだ・・・・。






気付いたら、なぜか3人とも俺を見ていた。


亜紀が俺に泣きそうな顔をしながら話しかける


「いちろう・・・なんで・・・泣いてるの?」


ん?


泣きそうなのは、お前じゃないのか亜紀・・・。


「・・・一郎・・・無表情で泣かないでよ・・・気持ち悪いよ・・・」


秋子、何言ってんだ?


「鈴木君・・・もし辛い事があったら、何でも言うんだ・・・力になれるか分からないけど、話聞くから」



鈴木は自分の顔を手で触る・・・ぬれていた。



「すんません、なんか爺さんの事、想い出していたら・・・」


「僕は・・・君に、こんな事言える立場じゃないかもしれない・・・でも言わせてくれ」



「僕は・・・君の事を・・・家族だと思っている」


・・・・家族・・・ってなんだ?


「一郎・・・あんたが本当に辛い時、私達に・・・話だけでも聞かせてよ」


「・・・いちろう・・・泣いちゃやだ・・・」


・・・俺が・・・家族・・・此処が・・・居場所でも・・・良いのか


「・・・俺は・・・」


此処に居たい・・・彼がそう言い掛けた時、突然携帯が鳴る。



鈴木は恐る恐る、携帯を開く・・・メールだ・・・そこにはただ一言


『君の手は・・真っ赤ッ赤』






忘れてた・・・・俺は・・・人殺しだった。







時は同じく、ある建物の一室。


不気味に笑う男がいた。


「君は・・何時まで其処にいる積もりだい^^」


「しかし・・・あの家族・・困ったな^^」


「彼が剣を捨てれる筈がない、そう思っていたけど^^」


「家族・・か、下手したら彼を日常に連れ戻しちゃうかもしれない^^」


「此処は一つ、手を打つか・・・」






小林が目を開く。


其処に何時もの薄ら笑いはない。



「鈴木君・・・僕達が何故、大きなリスクを犯してでも、こんなお金にならない事をしているか、知っているかい?」



「今後・・・君のような化け物が、必ず必要になるんだ」


「でもまだ君は・・・人である事を捨てきれていない」


「あの家族を殺したりはしないさ、だけど少し巻き込むよ、でも君が悪いんだ」


「何時までも其処に居る・・・君が悪いんだ・・・」


「一郎君・・・全てを捨てて・・・鬼になれ・・・それが君に残された・・・ただ一つの【道】だ」





おわり




此処まで読んで頂、誠にありがとうございます。


とりあえず、この作品の主人公がどんな人物か書いたのですが、上手く書けたか心配です。


主人公の名前なんですが、適当に考えたんですが、読者の皆様の中に名前の元になった選手のファンの人が居たら、申し訳ありませんでした。


次回はまだ何も書き始めていないので、時間が掛かると思います。


では、また宜しくお願いします。

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