五話 友へ・・・
このたびは、読んで頂ありがとうございます。
楽しんで頂ければ、嬉しいです。
【俺の過去】
俺に刀術・・・人の殺し方を教えてくれたのは、爺さんだ。
爺さんは、刀人だった、でも両親を失った俺の為に・・・刀を捨てた。
これは、あくまでも俺の予想だ・・・。
爺さんは俺に簡単な剣を教えてくれた。
きっと、完全に刀を捨てる事が出来なかったんだろう。
ずっと、訳の分からない孤独感を持っていた俺は剣に夢中になった、竹刀を握っている時だけは孤独を忘れる事が出来たからだ。
だけど、俺は試合をした事がなかった、あまり興味もない、ただ竹刀を持っていたかった。
秋子も、たぶんこの事は知らないと思う。
・・・中学に入ったばかりの頃だったかな・・・何時も鍵がかかってて、触るだけでも爺さんに怒られる代物があった、ぼろい木製の箪笥だ。
その箪笥の鍵が開いていた・・・
爺さんが鍵をかけ忘れたのだろうか・・・あの爺さんに限って、そんな失敗をするとは思えないんだけどな。
興味本意で俺は箪笥を引き出した・・・何も入っていなかった。
爺さんの失敗は、服をその中に入れておかなかった事だ、その所為で俺は、引き出しの奥行きが少し狭い事に気付いてしまう。
そして・・・俺は出逢ったんだ・・・
その鈍く、濁った輝きに。
飲み込まれた、銀色の光に、瞬きすら忘れて・・・ただの人を殺す道具の筈なのに、いや人を殺す道具だからこそ、なのか?
その時だった、爺さんが物凄い勢いで襖を開けて入って来た・・・刀を持つ俺を見るや、殴られた。
だけど・・・それからの日常の方が殴られるより辛かった。
忘れられないんだ・・・あの輝きが・・・何度も夢にみた、何度も爺さんにもう一度見せてくれと土下座した、箪笥を壊そうとした事もあった。
頭から離れないんだ・・・爺さんを殺してでも、見たい・・・そんな事を何度も考えては、自分を恥じた・・・。
そんな日が何日も続いた・・・ある時・・・爺さんに呼ばれて、和室に向かう・・爺さんに誘導され、爺さんの前に座る。
爺さんは俺の目を暫し見つめると・・・肩を落として、
「やはり・・・お前も・・・魅せられたか・・・」
爺さんは俺に問う・・・このまま進めば引き返せなくなる、後悔や恐怖が少しでも俺の心に在るのなら・・・このまま諦めろと。
だが残念ながら・・俺には恐怖も何も無かった・・・刀をもう一度みたい・・・それしか俺には・・なかった。
爺さんが条件をだす・・・人を殺める剣を教える・・・最後まで耐え抜け。
俺は竹刀から、得物を木刀に持ち返る・・・俺が教わったのは、反則も無ければ、志も無い・・殺すだけの剣だった。
だが・・・竹刀を握っていた時よりも・・・楽しかった・・のめり込んだ、何日も何日も無我夢中で没頭した。
気付けば、日常に・・・・俺の居場所は無くなっていた。
高校3年の夏、爺さんがポックリ逝っちまった・・・結局、爺さんは最後まで俺を、認めてくれなかった。
・・・・そんな時だ・・・奴らが・・・小林は俺の前に現れた・・・。
今思うと・・・爺さんが刀を捨てる事を【組織】が何故、許したのか分かる・・気がする。
爺さんは、今の俺から見ても、異常な程に腕が立つ、だがどんな剣客も歳には勝てない、奴らの目的は・・・最初から、【俺】だったのではないか・・・。
あくまでも、俺の想像だが、あの時・・・箪笥の鍵を開けたのは・・・【組織】かもしれない。
そして・・・事故に見せかけて・・・俺の両親を殺した・・・・。
今となっては、もう探りようが無いけどな。
それにもう興味もない。
無論・・・後悔も・・・ない・・・。
ここに一人、過去にトラウマを持った人間が居る。
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【僕の過去と現在】
僕には歳の離れた、兄がいた・・・どうしようもない兄さんだった。
僕が何か質問しても、ろくな答えを返してくれない。
何時もふざけてばかりで、決して良い兄じゃなかった。
父さんや、母さんとは喧嘩ばかりだったし・・・。
でも・・・僕にだけは、優しい兄さんだった。
嫌な事が有ると、必ず僕は兄さんの部屋に行って泣いていた。
兄さんは始めの内は、僕を馬鹿にするけど、決して五月蝿い、黙れ、出てけ、なんて言わなかった。
・・・それで・・・最後に必ず
「好きなだけ・・・泣いたら出てけよ」
こう言うと僕の、隣に座って無言で傍にいてくれた。
・・・・僕は・・兄が大好きだった・・・。
でも、兄は周りの人達と少し違っていた、上手く言葉に出来ない、何時も僕達を眩しそうに見ていたんだ。
それが嫌だった、何時も・・何処か遠い目をして・・僕達を見ているんだ。
兄さんと僕は、同じ世界に居るはずなのに、僕と兄では見える景色が違うんだ・・・。
君と始めてあった時、僕は証拠も無いのに確信したんだ・・・君は僕の兄と、似ている。
僕は怖いんだ、君が眩しそうに・・・秋子や亜紀や僕を見ている事が。
君と僕達は、同じ世界、同じ場所に・・・居る筈なのに・・・。
このまま・・・何もしなかったら・・君は僕達の前から消えてしまう気がするんだ。
君と兄を、僕が重ねている、その事は分かっているんだ。
それでも、兄とは違う・・・君と言う存在が僕の中で確かに在るんだ。
兄さんのように、君を・・・消えさせる訳には・・・いかないんだ。
僕は・・・君を必ず、この日常に連れ戻す!!!
でも・・・どうすれば良い。
僕だって馬鹿じゃない、彼が裏で何かをしている、その事は分かる。
間違いなく、彼1人で出来る事じゃない・・・何かしらの大きな権力が関わっている筈だ。
僕一人で、抗えるのか、秋子や亜紀を巻き込む事だけは出来ない。
考えるんだ、僕に出来る事を・・・
・・・1つだけ出来る事を、思いついた。
彼を、彼自身を変えるんだ。
彼の考えを、変えることが出来れば・・・何か、状況が変わるかもしれない。
彼が僕達を、帰る場所じゃなくて、【居場所】として居たいと思う事が・・・もし出来たら。
自分が物凄く、愚かな事を考えていると分かっている。
彼から秋子と言う存在を奪ったのは・・・僕なんだ・・・。
僕にとって・・・秋子と亜紀は・・・何者にも、かえられない大切な人なんだ。
それに・・・鈴木君・・君は彼女の事を、本当は女性として見た事はないだろ。
兄が・・・僕を、帰る場所としか見ていなかったように、君は彼女を帰る場所としか見ていないんだ。
現に今、君の帰る場所は・・・僕達、【家族】なんだから。
でも僕は、君を失いたくない、だってそうだろ君は・・鈴木君は・・僕の・・友達・・・だから。
僕に・・・出来る事は・・・彼と、朝・・共に駅まで散歩する事だけだった。
・・・僕の兄は・・・突然・・・行方不明になった・・・。
兄が消える前の日・・・僕は・・・兄に・・怪我をさせた・・もし・・それが原因で、兄さんが消えたのなら・・・僕は・・。
鈴木君・・・君だけは・・・消えないでくれ・・・こんな思い・・もう誰にもさせたくないんだ。
秋子にも、亜紀にも・・・僕自身も。
【朝、月曜日 アパート前】
何時ものように、彼は先に出て待っていてくれた、この時ホッとする、まだ彼が消えていない事に。
僕は彼に声を掛ける。
「鈴木君、おはよう」
「ど、どうも」
なんか鈴木君の様子が変だ、
「おはよう、ございます、ヨウイチサン」
「なんか、変だよ・・変なものでも食べた?」
「い、いや・・・秋子から聞いていないんすか、大人の真実?」
「ん? ああ、君が亜紀に言った事か」
「ま、まあそうなんですけど・・・すんませんでした」
「よく分かんないんだけど、なんて言ったの?」
「え! 言うんですか・・・」
「ささっどうぞ、言って」
「あーえーと、大人は偉くなれば、成るほどに真実を隠す、真実を隠すために嘘をつく、そしてまた罪を重ねる・・・だったかな」
「・・・・」
「あ、あのヨウイチサン?」
暫く沈黙が続くと、洋一は突然笑い出す、
「な、なんすか急に?」
「い、いや・・昔、子供の頃、兄さんに同じ事言われてね、まさか此処まで同じとは・・・」
本当に似てるな・・・見た目は全然違うのに。
「とりあえず、もうそんな事言っちゃ駄目だよ、次は怒るからね、わかった?」
「はい、もう言いません、二度と」
二人は歩く駅に向かって・・・その姿は・・・何処か、あの日の兄弟に似ていた。
【友へ】
・・・君が、もし日常に戻れることが出来たら・・・
・・・その時は、後悔するんだ・・・
・・・秋子は絶対に渡さないからね・・・
・・・だから・・・どうか・・・消えないでくれ・・・
・・・ここは・・・君の・・・居場所なんだから・・・
・・・その時・・僕達は・・・本当の・・・
・・・【友達】になるんだ・・・
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
この話は本当は、本来の五話の一部だったんですが、長くなったので五話にしました。
今回は主人公の過去と、洋一の心情を書きました。
一話のあとがきで、全7話の予定と書きましたが、全九話の予定になりました。
こんな、作者の作品ですが、これからもどうか宜しくお願いします
次回は、明日か明後日には投稿できると思います。