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四話 君の声を




車は走る・・・誰かの居る場所へ。



車の運転手は小林じゃない、何時も別の人間に代わる、今回も始めてみる男だ。


小林は後方の座席・・俺の隣でさっきから何か喋っている。



「ね~ 一郎君、聞いてる?^^」


「・・・何だ」


「まったくも~、僕の話、聴いてよ^^」


「今から俺が何をするのか・・お前は分かっているのか・・・」


「だから~ 此処からは君にも見せる訳にはいかないから、目隠ししてよ^^」


そう言うと小林は俺に目隠しを渡してくる。


なんだ・・さっきから、その事を言ってたのか、


俺は目隠しをして、ついでに携帯も渡す。



「見えてない? 絶対に見えてない?」


「五月蝿い、少し黙ってろ・・・」


「一郎君、短気すぎ僕だって仕事で言ってんだからさ、もう^^」


小林はそう言うと何も喋らなくなった。




静かに車は走り続ける。





【刀人】


俺達の事を・・侍や武士なんて言う輩が居る・・でも違う、俺達はただ・・・刀に魅せられた人間だ。


俺達には、信念も無ければ、護るべき主君も居ない。


俺達は・・刀人、と言うらしい。


でも・・そんな言葉、気に入らない。


だから俺達は自分の事をこう呼ぶ・・・




【愚者】





刀に魅せられて・・衝動が抑えられなくなった、ただの・・愚か者・・・屑だ・・・


俺はこんな自分が恥ずかしい・・斬りたいと言う衝動一つ抑える事の出来ない自分が。


生まれてから、ずっと孤独を感じていた、自分が周りの人間と、何処か・・ずれている事に。


はじめて刀を・・・その深く、鈍い輝きが眼球に焼きついた、その時にその原因に気付いた。


そして・・・俺は、より一層・・・孤独に成った。


でも・・そんな屑が俺だけじゃない、それを知った時・・・俺は救われた、一人じゃないと。


名前も知らない、普段何をしているのかも知らない。


それでも嬉しかった・・・俺の事を知ってくれる者達が居てくれたなんて、そいつらに逢いたい。


逢って話がしたい・・・いや、俺達に話なんか必要ない・・・そんなもの要らない。


だって・・・俺達には刀があるんだから・・・。







暫し時が流れ・・・車が止まる。


どうやら目的の場所に着いたらしい。


小林は俺に話しかける


「一郎君、お疲れ様~^^」


「着いたよ~ 目隠し取って良いよ~^^」


俺は目隠しを外し、車から降りる。


そこは何処かの山中。


目の前に古びた石段が在る。


車から小林が出てきて、俺に


「相手は、反対側の石段から上ってくるからね^^」


「・・ああ・・・」


「それじゃぁ~ 御武運を~^^」






俺は皮で出来た入れ物から、刀を取り出して腰に・・。


ゆっくりと石段を登り始める。






【賭け合い】


俺達、刀士は3つの物を賭けて太刀合う・・


【金】・・賭ける物は金、一度勝利すれば俺が数年生きるだけの金が手に入る、俺自身、必要な時はやる・・だが此処に愚者は居ない・・得物は木刀。





【刀】・・賭ける物は刀、刀人の中には刀を集めている者も居る、俺は自分の刀にしか興味ないから滅多にしない・・此処にも愚者は居ない・・得物は木刀。





【命】・・賭ける物は命、此処には愚者しか居ない・・金も、刀も手に入らない・・・でも・・此処には俺の【日常】が在る・・。



何時も小林は俺を此処に導いてくれる。






男は黙って登り続ける。


もう直ぐだ・・・否応に足が速くなる・・・行かなくては、相手を待たせる訳にはいかない。



男は最後の一段を踏む・・周囲を見渡す・・木が無くなって、無骨な広場になっていた。


そこまで広い場所じゃない。


中央に松明が2つ・・まだ・・お前は来ていない・・・少し急ぎ過ぎたようだ。




男は小さく深呼吸をする、此れから・・・俺達の世界が始まる。





やがて・・・反対側の石段より、足音が聞こえてくる・・・


・・・少しして姿が見える。


歳は・・・35前後か?


遂に始まるんだ・・・


俺達、愚者だけに許された、この場所で。


俺達、愚者だけに許された、この一時が。


2人は静かに中央へ歩み寄り、互いに頭を下げる


会話はない・・・ただ一言・・・


「いざ、勝負!!」

「いざ、勝負!!」



同時に刀を抜く、


男の眼球は・・・ギラギラと深く、鈍く、濁った輝きを放っていた。



・・お前達だけが俺を分かってくれる


・・お前達だけが俺の気持ちを分かってくれる


・・お前達だけが俺の苦しみを分かってくれる


・・お前達だけが俺の絶望を分かってくれる


・・・・・愚者だけが・・・俺の・・・孤独を・・・分かってくれる。




だって・・・そうだろ・・・愚者は・・・俺にとって・・・始めて出来た・・・



【友達】だから。



俺達の日常が始まる・・・






友が俺に向かって斬り掛かる、俺はそれを振って払う、即座に友に一太刀を・・


友は仰け反りながらも、俺の一手を受ける、友の体勢が整う前に、俺は刀で友を押し切る・・・


俺はすかさず、友の手元を狙い斬る、だが友は刀を上手く動かし、それを防ぐ・・


そのまま間を空けず刃を擦りながら俺に斬り掛かる・・・


俺は回避に移ったが間に合わず、肩に浅い一太刀を貰う。




斬られた・・・




友が間を空けず俺に突きを仕掛ける、片足を動かしそれを避ける、


・・・もっとお前の声を俺に聞かせてくれ・・・


俺はその瞬時、友の隙を突いて反撃、


・・・今まで、どんな人生を歩んできたんだ・・・


友は頭を下げて俺の一振りを避ける、


・・・辛かったか、苦しかったか・・・


体勢を下げたまま俺を斬り上げる、


・・・寂しかったか、孤独だったか・・・


俺は一歩後ろに下がり、友の振り上げを回避ける、


・・・俺も寂しかったんだ、1人だったんだ・・・


瞬時、友に突きを仕掛ける、それが友の肩に突き刺さる。



友を刺した・・・


俺は友に語りかける、友も俺に語りかける。


夜空には松明の明かりと、2人の語り合う音が響き渡る。





『なぁ、もっと俺に語りかけてくれ』


『俺はもっと、あんたと話しをしたいんだ』


『あんたの声を俺に聞かせてくれ』


『俺に答えてくれ』


『俺の声を聞いてくれ』


『あんたの事を、俺に教えてくれ』






松明がパチパチ、と火花を散らす。


二人の顔に笑みが浮かぶ。


この時・・・この時の為に俺達は生きているんだ。


この瞬間が俺の人生の全てなんだ。





聞かせてくれもっと・・・お前の・・・声を・・・。



刀と刀・・・ぶつかって音が鳴る。




友が斬り掛かろうとした瞬間、友の懐に入り込む、そのまま体をぶつける、友は後方によろける、その隙を突いて斬る


・・友は一度倒れたが、フラフラと立ち上がる・・・なかなか俺に仕掛けてこないので、友の刀を払い斬る、友は何とかそれを避ける、すぐさま俺は刀を返し、次の一手を・・・。













『さっきから・・・・・俺ばっかり・・・話してるじゃ・・・ないか・・・』


『なあ・・・聞こえているのか・・・』


『・・・』






友は俺の一手を受ける・・・鍔迫り合いとなる・・・だが友は刀にばかり気を取られていた・・・


俺は友の足元を払うように蹴る・・・友は地面に転倒する・・・。











『俺を・・・1人に・・・しないでくれ・・・・』









転倒した君に・・・俺は刀を持ち替えて・・・そのまま地面に突き刺した・・・。












朝陽が上る、暖かい日差しが男を照らす。





だけど・・・男は肩を落とし、天を仰ぐ・・・


其処には・・・一人立ち尽くす男と・・・・地面に崩れた友の姿があった・・・・・。




男は泣いていた・・・声を上げる事も無く・・・表情を変える事も無く・・・涙を流す事も無く・・・




・・・・一人・・・・其処に立っていた・・・・



友は逝ってしまった・・・君は・・・俺を・・・残して。


昔はもっと・・沢山話が出来たんだ・・でも最近は直ぐに終ってしまう。


何故だ・・・なんでお前達は・・・こんなに・・・脆くなったんだ。



男はポケットから紙を取り出すと・・・血の付いた刀身を刃先に向けて拭く


そうすると、静かに鞘に刀身を帰す・・・。



男は友の亡骸に一礼すると、そのまま肩を落としながら、来た石段を降りる。


男はゆっくりと石段を降る、来た時はあれ程に速く感じたのに


・・・

・・





最後の一段を降りた・・・。


その途端、小林が何時もの癪に障る薄ら笑いで俺に話しかける


「いや~ 良かった、遅いからてっきり負けちゃったと思ったよ^^」


「・・・悪いが・・・少し・・黙れ・・・」


「も~ 何時も事が終った後は、何故か機嫌が悪いんだから^^」


男は何も答えずに、そのまま車に乗り込む。


小林も後を追って、男の隣に座る。


こいつは、何時も事が終った後に必ず言う事がある


「一郎君・・ご苦労様、君が生き残ってくれて、僕は嬉しいよ・・・」


何故か小林はこの時だけは・・・笑わない。


俺はこいつの言葉に対して、何時もこう返す


「お前のその顔を見ると、気持ち悪くなる・・・。」






暫く車が走ると、再び俺に目隠しを渡してくる。


小林は懲りずに、また喋りだす


「どうする・・・何なら、ボロビルまで送るよ^^」


「そうして貰えると、助かる・・」


どうせなら行きも、ボロビルまで来てもらえると、もっと助かるんだけどな、正直刀を持ったまま、街中を歩くのは・・・肝が冷える。




周りは目隠しで暗いから少し眠くなってきた・・・寝るか。


隣で小林が喋っているが、無視して寝る。


・・・・

・・・

・・




小林に別れを告げて、ボロビルの自室へ。


刀の手入れを終らせて、シャワーを浴びる。


風呂場で傷を確認・・・数ヶ所、浅く斬られた、でもこれ位なら問題ないだろ、小林に医者を頼む必要もない。


今日の様な賭け合いで、大怪我を負った時は、アパートに帰らず数週間、此処で過ごす。


・・でも、ここ数年・・・其処までの怪我を負っていない。


風呂から上がり、新たに支給された黒服を箪笥にしまい鍵をかけ、普段着を着る。


少し街を散歩してから帰ろう・・・


日常から愚者になるのは簡単なんだけど、日常に戻るのは難しい。


スイッチを切り替えないと。





ボロビルを出て鍵をかける、そのまま歩き始める。


「朝の10時半か・・・」


そう言えば今日は日曜か、亜紀家に居るかな?


この前、秋子が言うには悪い事したらしいからな・・・なんかお詫びの品でも買っていくか。


そんな事を考えていた時にゲーセンが目に入る。


「・・・久しぶりに、挑戦して見るかな」


鈴木はゲーセンに向かって歩き始める。



ガラスケースの中にある、ぬいぐるみが目当てだ。


こう見えても昔はプロとして荒らしたもんだ。


100円入れる


失敗、


失敗、


失敗、


失敗、


失敗、


な・・・何故だ、そんな馬鹿な、この俺にがぎって・・・


事実を受け入れられない。


100円入れる


失敗、


失敗、


失敗、


なにが起きている・・さては何者かの策略だな。


ふふふ・・・


鈴木は不気味に笑い出す。


俺を誰だと思っているんだ・・俺は諦めない、その意志だけで国を動かした男だぞ。


俺のど根性見せてやる・・・。


失敗、


失敗、



「きょ、今日はこの位で勘弁してやる」


鈴木の手にはやけに不細工な、ウサギのぬいぐるみが・・・。


最近のゲーセンはボッタクリだ・・・こんな気持ち悪い、ぬいぐるみが5000円とは。


鈴木はウサギの耳を持ったまま歩き始める・・・。


駅まで行き、電車に揺られる。







13時頃アパート近くの駅で下りる、15分位で到着するのだが、ダルイ。


少し寝よう・・・調度良く、市民公園が目に入る。


ここのベンチで昼寝しよ・・・・・


・・・・

・・・

・・


「バチン!!」


「うへ、! なんだ!」


突然ビンタで起こされた。


寝ぼけ眼に焦点を合わせると、秋子が立っていた。


「あんた、こんな昼間から何やってんの」


呆れ顔で、俺に説教とはいい度胸だ、この野郎!


「うるせ、寝て遊ぶのが、俺の仕事なの!」


「一郎・・・自分で言ってて、恥ずかしくないの?」


う・・大人の対応された。


「い、良いだろ別に・・・」


言い訳を考えていたら、足の方から俺に


「いちろう、こんなとこで寝てたら風引くよ」


小学生に本気で心配される俺って・・


「俺は風を引いた事が無い、生まれてこの方・・・どうだ凄いだろ」


本当だ・・・死にかけた事は、何度か有るけどな。


俺の自慢話に秋子は笑顔で


「亜紀、こう言う人の事なんて言うか知ってる?」


亜紀は元気一杯に手を上げて


「は~い、私知ってるよ、馬鹿は風邪を引かな~い」


「亜紀、凄い偉いね~ こう言う大人に成っちゃ駄目だよ」


「は~い。」



こいつら・・・親子揃って俺を馬鹿にしやがって。


「違う! 馬鹿は風邪を引かないんじゃない、引いても気付かないんだ!!」


「そう言えば一郎、小学生の時に風邪じゃないって言い張って、インフルエンザでクラスを学級閉鎖に追い込んだ事あったよね?」


・・・あれ・・・そんな事あったけ?


「あ・・一郎、馬鹿だから覚えてないよね・・御免ね」


・・・どうせ馬鹿ですよ。


「ふん、もう寝るもん、あっち行け・・・グスン」


俺はベンチに横になり、体を縮める。


「ママ・・いちろうが可哀想だよ・・・」


おお、亜紀なんて優しい子。


「だって、一郎、昨日の事で朝、逃げたんだもん」


ん・・・逃げたって?


「俺は逃げたりしないぞ、自分の将来が心配で現実逃避なんてしたことないぞ」


「・・・・あんた・・昨日の事・・忘れたの・・・」


秋子が急に怖くなった。


「きのう・・・昨日? なんかあったけ?」


「あんたが私の娘に言った事」


ああ・・・大人の真実の事か。


「あ、あれはお前にアパート前で怒られて水に流したんじゃ?」


秋子は笑顔で


「洋一さんに、全部言ったから・・・明日の朝・・逃げちゃ駄目だよ」


・・・まじか・・・そこまで悪い事なのか・・・大人の真実。


俺、今まで洋一さんに怒られた事、ないんだけどな・・・どうしよう怒られたら・・・。


「ちょっと待ってくれ・・・俺も反省しているんだ・・ほら、御詫びの品」


枕にしていた、ぬいぐるみを差し出す


「・・・い、一郎・・あんた、なんてセンスしてるの・・・私、本気で引くんだけど」


「なんだと!! 5000円もしたんだぞ」


「5000円って、あんた・・馬鹿にも程かあるわよ・・・」


「みてくれは、こんなだけどな、よく見ると可愛い気がするぞ」


亜紀に不細工な、ぬいぐるみを渡す


亜紀は笑顔で受け取ってくれた。


「ありがと、いちろう」


この子はなんていい子なんだ・・・秋子にはもったいない。


「そうだね、見てくれは兎も角、一郎が亜紀に物を買うなんて始めてだもんね、ありがとね一郎」


「そうだぞ秋子、俺をもっと崇め、敬え」


「・・・明日、逃げんなよ、駄目郎」


・・・明日なんて・・・来なければ良いのに・・・。






暫く2人と話をして、3人で家路に着く・・・。


此処は・・俺にとって・・・幸せで満ちている・・・でも・・それでも俺は1人なんだ・・・


俺には幸せな、帰る場所が在る。


でも・・・此処は・・・俺の居場所じゃない・・・


此処には【人】しか居ない。


ここに居る愚者は・・・・俺一人なんだ・・・


だから俺は自分が愚者である事を隠す。















俺は・・・今、この時が・・・幸せなんだ・・・。









「そう言えば一郎、昨日の夜、何処か行ってたの?」


「何でそんな事、知ってんだよ」


「洋一さんに聞いたの、帰り道にあんたと会ったって」


「別に・・ただのバイトだ」


「あんた、昨日バイトの日じゃないでしょ・・・」


「・・・」


「・・・友達に逢いに行ってた・・・」


「・・・ふーん・・そうなんだ・・・」


「にしては・・元気・・ないね・・」


「・・・元気だよ・・・楽しい・・一時だったさ・・」


「・・・そう・・良かったね」


「・・・・・ああ。」









・・・なんで・・あんたは何時もそうやって・・何処か遠い目をして、私達を見てるの・・・


・・・馬鹿・・・。





おわり















ども読んで頂ありです、今回この作品で初の斬り合いでした、癖の強い作品だと思うのですが、どうか次回も宜しくです。

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