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最終話 うそつき








平和は俺達にとって、生き難い世の中だ。


でも、そんな日常は幸せに溢れていた。





そこは俺にとって、ただ一つの帰る場所だった。


だがそこは、俺のような屑が、居て良い場所ではない。


本当は、分かっていたんだ、俺に逃げ場なんて無いって。




それでも・・・愚かで、惨めな俺は・・・まだ其処にいた。


人殺しである事を隠して。




俺は、あの人達を巻き込んでしまった。












【愚者達の挽歌】












小さなビルの一室。


殺風景な部屋があった・・・。


其処には一人の男の姿が在る。


辺りは暗く、中央に蝋燭の炎が一本。


服装は闇に溶け込めるよう全身黒、男の目は不気味な輝きに染まっていた。


男は炎を静かに見つめ、心から湧き上がる怒りと恐怖を見の内に隠す。


・・・怒りで我を忘れては・・・何も出来ない。


心に隠した余計な感情を研ぎ捨て・・・純粋な、ただ殺すと言う殺気にする。


男はただ炎を見つめる。


此処で待っていれば、必ず組織は何かしらの行動を起こす筈だ。


時間だけが刻々と過ぎていく・・・




携帯の音が鳴る・・・。


男は慌てる事もなく、電話にでる。



「こんばんは、一郎君・・・気分はどうかな?^^」


「・・御託はいい・・・要求を言え・・」


男の声には一切の感情が入っていない


「流石だね・・・怒り散らす君より・・・無感情の君の方が・・・怖い・・」


「今さっき、俺が言った事を忘れたのか・・・さっさと要求を言え・・・」


「・・・分かったよ・・・」


「君には今から、ある人と斬り合って貰う・・・そして勝利を収めるんだ・・」


「勿論、得物は真剣だ・・・勝敗は、殺したら勝ち・・・」


「敗者に待ち受ける運命はただ一つ・・・【死だ】・・・」


「そいつを殺す・・・そしたら亜紀を、あの家族の下に帰せ・・・それが俺の条件だ・・・」


「・・・分かってるよ・・・勿論、帰すさ・・・」


「亜紀に傷一つ付けれてみろ・・・・俺は、この命尽きるまで・・・組織の人間を殺し続けてやる・・・」


「僕達も君に死んで貰っちゃ困るんだ・・・そんな事、絶対にしないよ・・・」


「それに、君が望むなら・・・あの家族と、共に生きてもいいよ、僕達はもう、巻き込んだりしないからね」


「車を下に用意してある、準備が出来たら何時でも乗ってくれ」


電話を切る




男は、黒のロングコートを着る。


手に持った携帯の待ち受け画面を、暫し見つめる・・・。


それは三人家族の画像だった。


携帯をそこに置き、刀の入れ物を持つと、そのまま古ビルを後にする。





車には、当たり前だが小林は居ない、知らない男が運転席に座っていた。


「準備は宜しいですか?」


「・・ああ・・」


「今回は何時もとは別の場所で、命を賭け合って頂きます・・・目隠しは結構ですので」


「・・・どうでも良い・・・さっさと行け・・・」


車は走り出す・・・・。





街は輝いている・・この中で俺達は生きている。


俺達にとって・・・平和ほど、生き難い世界はないんだ・・・。


だけど俺は、この世界に生まれてこれて・・・良かった・・・今は本気で、そう思う。





暫くして車は止まる。


見覚えのある廃工場が不気味に男を迎える・・・。


運転手は車から降りると


「では・・・御武運を・・・」


男は返事をする事もなく中へ・・・。





工場内は幾つかに別れており、男は何時も金の賭け合いをしている場所に向かう。



そこには1人の人影が・・・


月明かりに照らされ、その顔が見える。


「・・・あんたが・・・相手か・・・」


知っている人物だった


「君は・・・縁があったら、また話そうと言ったね・・・楽しみにしていたよ・・・」


「鈴木君・・・君と語り合う日を、ずっと待っていた・・・無論、刀人として・・・」


「いや、君たちからすれば・・・愚者だったかな・・・」


鈴木は相手の男を、ただ見つめていた。


「あんた・・・俺と同じ人間だったのか・・・松岡さん」


「私と君は、違うよ・・・・君はまだ・・・人間だ」


暫し沈黙・・・



「・・・まあ、良いさ・・・俺達に話など必要ない・・・そうだろ?」


松岡は笑いながら


「そうだ・・・お前にも、私にも・・・そんなものは必要ない・・・」





お互いに、鞘から刀身を抜刀する・・・。


刀を中心に持っていく・・・相手はかなりの使い手だ・・・下手に仕掛けるのは止めよう。


松岡の動きに注目して、防御に重点を置く。




俺達の日常が、始まる。




瞬時、松岡は身の内に隠していた、鋭い殺気を放ち、男にそれを突き刺しながら斬りかかる。


男は自らの殺気で、それを返すと、そのまま松岡の一撃を受ける。



受けた瞬間、男は自分の刀を緩め、相手の刀を流す。


流されて松岡は前方に体勢を崩す。


男はその隙を狙い、斬り掛かる。




だが松岡は、それを読んでいた。


体勢を崩した、その瞬時に片足を一歩前に出し体勢を整える、そのまま向きを返し、男の刀を受ける。


刀の刃を擦りながら、体を落とし姿勢を低くしたまま男に体当たりを仕掛ける。


男は後方によろける、松岡は即座に斬り掛かる。



男は、自らの意思でそのまま背中から地面に倒れ、松岡の一振りを避ける、すぐさま相手の足元を払うように蹴る。


松岡は飛び上がり、男の払い蹴りを避けると、重力を利用して、転がっている男に向け、突きを仕掛ける。


男は横に回転して、松岡の突きを避けると、すぐさま起き上がり、相手との間合いを離す。






松岡は男に話し掛ける


「小林君の言っていた通りだ・・・既に君は一線を越えている」


「どう言う意味だ?」


「君に斬り掛かる寸前に、私は君に殺気を放っていた、しかし君は自分の殺気で、それを返している」


「それが・・・どうした・・・」


「並みの刀人なら、その殺気を返す事は出来ない」


「その殺気が体に突き刺されば、刀人は倒れたり気絶する」


「もっとも私や君は一瞬硬直するだけだがな」


「君は普段の殺し合いじゃあ、その殺気を使わないね?」


「何故なら・・・君は愚者と少しでも、長く語り合いたいからだ・・・違うか?」


「・・・それが如何した・・・」


松岡の眼つきが変わる。


「お前は・・・愚者、いや友を愚弄していると気付いていないのか?」


「・・・」


「お前は私達にとって、大切な場所を汚している、それに気付かないのか!!!」





松岡は男に斬り掛かる、男はそれを避け、すぐさま反撃。


だが松岡は、それを読み後ろ蹴りで男を、蹴り飛ばす。


男は吹き飛び地面に倒れる。


だが松岡は追い討ちを仕掛ける事もなく、叫ぶ


「貴様!!! 斬り合いに手を抜くとは何事だ!!!」


松岡の瞳に狂気が宿る。


「良いか、相手は己が人生、その全てを賭けてお前に挑んできたんだ!!!」


「貴様も、人生の全てを賭けて、相手に応えるのが!!!」


「礼儀ではないのか!!!!!」


男は松岡に斬り掛かる、松岡は其れを受ける。


「黙れ!!!!」


「あんたに、何が分かる!!!」


「やっと出逢えたんだ・・・友達に!!!」


男は松岡の刀を、回転させて払う、松岡に隙が出来る、男はそこを狙い斬る。


松岡はその瞬間、後方に一歩下がり、男の一振りを避ける。


「始めは楽しかったさ!!!!」


「あいつ等は俺に応えてくれた、俺と話をしてくれた!!!!」


男は松岡に飛び掛り、松岡と共に地面に倒れる。


「だけど、あいつ等は脆くなっちまった!!!簡単に死んじまう!!!!」


男は松岡に跨ったまま、刀を振り上げる。


「俺が簡単に、殺しちまったら!!!!!」


「俺はまた!!!!一人になっちまうだろうがーーーー!!!!!!!」


男は松岡に刀を振り下げる。




その瞬間、松岡は体を捻りながら、男の首もとの服を掴み投げ飛ばす。


「小僧!!!! 孤独を恐れるな!!!!」


「斬った肉と、断ち斬った骨の感触は貴様の手に残り!!!!」


松岡は男に斬り掛かる。


男は片方の膝を地面に付けながら、松岡の刀を受け鍔迫り合いとなる。


「友の血は!!! お前の刀、その刀身に宿る!!!!」


「貴様の友達は!!!! お前と共に其処に居るはずだ!!!!」


男は自分の刀を緩め、松岡は前方によろける、そのまま刀の柄(持つ所)の先で松岡の腹を打つ。


「ぐぅ!」


松岡は地面に崩れる。


男は立ち上がると、止めを刺す事もなく、そのまま少し離れ間合いを取る。


「そんな事、俺には分からねぇよ・・・オッサン、それじゃあ俺は寂しいままだ」


松岡は立ち上がる。


「私も・・・お前も・・・所詮・・・ただの人殺しだ・・・」


「だがな・・・私達は・・・それを自ら望んだんだ」


「この道を歩むと決めたのは・・・お前、自身じゃないのか?」


「ならば・・・歩もうではないか・・・」


「たとえ・・・この剣道の果てに・・・何も無かったとしても・・・」



松岡は何もない所で、片手で刀を軽く振るう。



「私達はな・・・刀人等と言う名前ではない・・・ただの・・・」


「時代遅れの・・・【剣士】だよ・・・」


男は・・・その言葉に鳥肌が立った・・・。


「・・・剣士・・・」


「今は平和の世の中だ・・・剣士にとって・・・とても生き難い世界だ」


「だが・・・この世界にも・・・私達と同じ者共は、それなりに居るんだ」



「鈴木君・・・こんな話を、君は聞いた事があるか?」


「私達、剣士はな剣の道を歩いていると、何時か必ず壁に行くてを阻まれるんだ」


「その壁は、高くて飛び越える事は、不可能だ・・・」


「だから何かを犠牲にして・・・壁を壊すしかないんだ」


男は松岡に


「あんたは・・・何を犠牲にしたんだ?」


「・・・私が・・・犠牲にしたものか・・・」


「・・・私はな・・・妻と娘を、日常に残してきた・・・」


「いや、捨てたと言うべきか・・・」



男は・・・松岡を見る・・・


「あんたに・・・後悔は・・・無いのか?」


「・・・既に覚悟は決めていたよ・・・」


「私は・・・幸せよりも・・・剣士として・・・この道を歩き続けると決めたんだ・・・」


「君はどちらを選ぶ?」


「今の幸せを選ぶか・・・それとも、その犠牲の上で、この道を歩き続けるか」






松岡の纏う空気が変わる。


物凄い威圧の空気が男に、襲い掛かる。


「一つ言っておく・・・此処から先!!!」


「生半端な、貴様の覚悟では生き残れないぞ!!!!」


「小僧っ!!! 覚悟を決めろ!!!!」


「死して!! 幸せを取るか!!!!」


「それとも生き残るために!!! 全て失うか!!!」





・・・これが・・・俺の歩む道、その先を行く者の姿か・・・・。




・・・俺も・・・先へ・・・行きたい・・・・。




松岡は男の顔を見ると、笑顔になる。


「その目・・・貴様の答え、確かに受け取った!!!!」


「さあ、貴様の目の前に在る、その壁を壊せ!!!!!」





「そして、今こそ目覚めろ!!!!!!」







【剣豪と言う1人の化け物となれ!!!!!】






・・・け・・ん・・ご・・う・・・




その言葉を聞いた・・・その時、男の中で・・・・何かが・・・・












・・・・・壊れた・・・・・














男は剣豪に斬り掛かる・・・。


遂に始まる剣士達の目指す場所。


2人だけの・・・極限の一時・・・。









【死合】が始まる






男の一太刀を剣豪は受ける、受けた瞬間にその一振りの襲撃を流しながら、そのまま斬り掛かる。


男は片足を軸にして回転しながら、剣豪の刀を避ける。


回転の所為で、一瞬剣豪が視界から外れる、再び視界に剣豪が映った時、男は剣豪の背後に回っていた。


剣豪は背後を男に取られた、即座に男は剣豪の背中に斬りかかる。


剣豪は刀ごと両腕を背中に持って行き、男の一太刀を何とか受ける。






暫し二人は刃を合わせたまま動かない。


状況から言うと、男の方が有利だ、剣豪は今だ男に背後を取られたままだ。


剣豪の向きからでは男は視界に映らないが、男からは剣豪が背中を向けたまま、丸見えだった。



さっきまで、刀と刀がぶつかり合う音が響いていたが、今はとても静かだ・・・・。






先に動いたのは男だ、もう一度片足を軸にして回転しながら剣豪に斬りかかる。


剣豪は刀を前に戻し、男の攻撃を受けようとした。


しかし、男は回転しながら姿勢を低くしていた。


剣豪が予想していた角度とは別の角度からの斬り上げだった、剣豪は対処に遅れ、腕を浅く斬られた。





・・・体中の感覚が研ぎ澄まされる・・・


・・・頭の中に情報だけが入ってくる・・・


・・・体が勝手に動く・・・








・・・・・・楽しい・・・・・。





男が剣豪に突きを仕掛ける、剣豪は其れを振って払う、男に隙が出来る。


剣豪がその隙を突き、斬り掛かる。


男は一歩後ろに下がり回避に移る、だが剣豪はそれを読んでいた。


斬りかかる際の、踏み込みを伸ばしていた。


男の下がりが足りなかった、胸から脇腹辺りまでを斬られた。




・・・しまった、読みが浅かったか・・・





男は次第に死合にのめり込む。


相手の心理を読み、行動を予測する。



自分の予想どうり相手が動く。


予想を反し、此方の手の内を読まれる。




今までに感じた事のない感覚が、男を支配する。


刀で語り合いを、している訳でもないのに・・・・。



・・・楽しい・・・楽しい・・・楽しい・・・


俺は・・・殺し合いが・・・楽しい・・・。






気が付くと・・・俺も剣豪も体中が血だらけになっていた。


・・・息が切れている・・・。




・・・あれ・・・俺・・・何で・・・笑ってるんだ?



その笑顔は、幸せに包まれていた時の安らかな者ではない・・・。


目の前の剣豪の顔を見れば分かる。





男の眼には狂気が宿っていた。


男の顔は・・・既に人のそれではない・・・まさに・・・鬼、その者。




俺は・・・今猛烈に・・・この目の前の男に・・・・勝ちたい。





二人は同時に構えを解く。


すると、もう一度構え直す、お互いにもっとも得意とする構え。


剣豪は上段。


俺は脇構え。



二人は同時に走リ出す。



剣豪は上段から勢いをつけて振り下ろす。


俺は走りながら、体勢を思いっきり落とし、刀を片手で持つ、離した手を精一杯伸ばしながら・・・


下から上へ、剣豪の腹を目掛けてえぐり込むように掌を打ち込む。


それが剣豪の腹に当たり、剣豪は体勢を崩す。





そのままの勢いで、片手に持った刀で剣豪を突き刺した・・・・。


「ぐッっ!! 流石だ・・・だが、まだ甘いぞ!!」


片手で突き刺したから、致命傷まではいかなかったのか?





剣豪は俺に突き刺されたまま、振り上げていた刀を、振り下ろす。





俺は肩を斬られた。





・・・・だが、松岡は刀を浅く止めていた・・・


そのまま振りぬいていれば、俺は致命傷は免れなかったというのに。


「何で・・・もっと深く俺を斬らないんだ!!!」


「これ以上斬ったら・・・君は剣士として・・・死んでしまうだろ・・・」






松岡は突然、俺を押し飛ばす。


俺の刀は松岡に突き刺さったままだ・・・・。


「・・・私は・・・君に・・・殺される訳には・・・いかないんだ・・・」


「最後は・・・自分の・・・腕で・・・終らせる・・・」


男は呆然と松岡を見つめる。


「鈴木君・・・少し私の話を・・聞け・・・」


「・・・何だよ・・・」


「・・洋一君と言ったかな・・彼の・・兄を・・・」


「・・・殺したのは・・・私なんだよ・・・」


男は眼を見開く


「・・私は・・妻と・・娘を捨てた・・・」


「・・・その事に後悔はないさ・・・私が自分で・・・決めた道だからね・・・」


「・・・私自身・・何時か罰が下ると・・・思ってたんだ・・・」


「だが・・・自分への・・罰が・・・娘に飛び散ってしまった・・」


「・・私は・・娘の夫の・・・大切な人を・・・殺してしまった・・」




・・・嘘・・・だろ・・・




「あんた秋子の、父親なのか?」


「・・そんな者・・・名乗る資格は・・・私には無いよ・・・」


「鈴木君・・・覚悟しておくんだ・・・この道の果てには・・・何も無いよ・・」


「・・それでも・・私達は・・愚かだから・・・目指してしまうんだ・・・」


「まるで・・・光に・・・集まる・・・虫のように・・・」


松岡は俺と、殺し合う前から、もう死んでいたのか、剣士として・・・。


「・・・先輩として・・・一つアドバイスだ・・・」


「君の剣に・・意味と・・・名前を・・・付けるんだ・・・」


「そうしたら・・・私とは・・・違う最後を・・・迎えられるかも知れないぞ・・」








俺の剣に・・・意味と名前・・・


「最後に・・・聞きたい・・・事がある・・・」


「何だよ」













「亜紀という子は・・・良い子か?」












「・・・ああ、優しくて・・・良い子だ」


「・・・そうか・・・」


そう言うと松岡は、少し笑った。



「私は・・・最低な人間だ・・・だけどな・・」


「・・・この道を・・・歩めて・・・良かった・・」


「さて・・・此処からは・・・君の剣に・・・宿って・・」


「・・君の・・生き様でも・・・拝むとするかな・・・」


「少し・・・君の刀を・・・借りるよ・・」


そう言うと松岡は、俺の刀を持って。








・・・そのまま深く突き刺した・・・。





おじさん・・・俺も・・・あんたと同じ・・・屑だよ・・・。


俺は・・・この道から、抜け出せそうに無い・・・。







体中が痛い、斬り合いの時は、ぜんぜん痛くなかったのに。



「・・・ああ・・・そうだ・・・亜紀探さないと・・・」


俺は、どうしようもないな・・・・殺し合いに夢中になって・・・



・・・亜紀の事忘れるなんて・・・。



亜紀を探さなきゃ・・・亜紀・・・探さなきゃ。


男は立ち上がり、フラフラと歩き始める。








命よりも大切な刀を其処に忘れて。












朝日が・・・もう・・・そんなに時間がたっていたのか。



廃工場の外に出ると、小林が立っていた。


「流石だね・・・君の勝ちだ・・・良く・・・生き残ってくれた」


「・・・亜紀は・・・」


「そこの車の中で、よく眠ってるよ」


男は無言で車に向かう。


「なんなら家まで、送っていこうか?」


「いい、俺が送っていく・・・」


「大丈夫なのかい? 君、結構ボロボロだよ?」


「心配ない・・・これくらい・・・」


お前らと・・・亜紀を一緒に居させたくない・・・。


・・・・俺も含めてか・・・・。



男は車のドアを開ける。


亜紀が眠っていた。


「その子には、ずっと眠って貰っていたから、誘拐されていた時の記憶は無いよ」


それでも俺の所為で誘拐された事実は変わらない。




男は亜紀に手を伸ばす・・・。


神よ・・・この時だけ、彼女に触れる事を見逃してくれ。


罰なら何時か受けるから。



男は亜紀を背中に背負う。


そうすると静かに歩き始める。










亜紀・・・重い・・・生まれた時は、あんなに小さかったのに。


速く、あの二人に逢わせてやるからな。


男は歩き続ける。



暫くすると・・・。


「・・い・・ち・・ろう?」


「・・亜紀・・・起きたか?」


「・・・うん・・」


「お前、何処か痛い場所とかないか?」


「・・・あたま・・少し痛い・・」


「・・・そうか・・・悪かったな・・・怖い思いさせちまって」


「大丈夫だよ・・亜紀ね、ずっと夢見てたの」


「嫌な夢だったろ」


亜紀は首を振る。


「楽しい夢だったよ・・・」


「・・亜紀とね・・お父さんと・・ママ・・あと、いちろうでご飯食べてる夢なの」


「はは、そんな夢がお前は楽しいのか?」


亜紀は顔を鈴木の背中にくっつける。


「ねえ、また一緒に皆でご飯食べようよ・・・」


「・・・・」


「・・・いちろう?」


「・・・・・そうだな、また皆で・・・食べよう・・・」


「・・・本当?」


「・・ああ・・・食べよう、俺と亜紀と洋一さんと秋子の4人で」


亜紀は笑顔を見せる


「亜紀ね・・・公園でお弁当もってお外で食べたいな」


「お、良いな・・・それは楽しみだ」


「帰ったら秋子に聞いてみるか?」


「・・・うん・・・」




男は亜紀を背負いながら歩き続ける。


「・・・いちろう・・・」


「・・ん、何だ?」


「亜紀、もう自分で歩けるよ」


「・・・良いんだ・・・もう少し、このままでいさせてくれ」


「・・・なんか、今日のいちろう・・・優しくて気持ち悪いよ・・・」


「うるせ、俺は本当は優しい人なの」



「うん・・知ってるよ・・・いちろう、本当は優しいもん・・」


「おい、照れるだろ・・・そんな事言うな・・・」








・・・・もうすぐ家に着く。








一郎は亜紀を地面に降ろす。



「なあ、亜紀」


「・・・なに・・・いちろう?」


「此処からは一人で・・・帰れるな?」


亜紀はいちろうの顔を見上げる。


「いちろう・・・何処か行くの?」


「・・・少し・・・用事が出来てな・・・」


そう言うと、一郎は来た道を戻り始める。


「いちろう!!!」


鈴木は立ち止まる


「・・帰って・・・くる?」


「・・・・ああ・・・直ぐに・・・戻るよ・・・」


一郎は振り向かない


「いちろう・・・亜紀の方向いてよ」


「・・・直ぐに・・・帰るから・・・」


「・・・ばか・・・いちろう、なんで泣いてるの・・・」


「泣いてない」


「泣いてるもん」


「泣いて・・・ない」



亜紀は歩いて・・・後ろから一郎の服を掴む。



「ママとお父さん・・・待ってるよ・・・いちろうも帰ろうよ」


「言っただろ・・・用事があるんだよ・・・」


「行っちゃ・・・駄目だよ」


「行かないでよ」




「・・・・お兄ちゃん・・・・」






亜紀・・・俺を・・・そんな風に・・・呼ばないで・・・・。



一郎は無意識に振り向き亜紀を抱きしめていた。


「亜紀に・・・お願いがあるんだ・・・」


「・・なに?」


「俺の部屋の机の上に、洋一さんへのプレゼントがあるんだ」


「それを・・・亜紀の書いた似顔絵と一緒に渡してくれないか?」


「・・・・うん、わかった・・・」


一郎は亜紀に自分の部屋の鍵を渡す。


「亜紀、今回の事は全て、俺の所為だ・・・絶対に亜紀の所為じゃない」


「俺が居なくなるのも・・・俺が自分で決めた事なんだ・・・」


「いちろう・・・帰ってくる?」


「ああ・・・帰ってくるから・・・」


「そしたら・・・また、皆でご飯食べような」


「・・・約束だよ・・・」


「・・・ああ・・・約束だ・・・」


一郎は立ち上がる


「亜紀・・・お父さんと、お母さんの言う事ちゃんと聞くんだぞ」


「・・・うん」



一郎は歩き始める。


亜紀は一郎の後姿を見ながら


「・・・いちろうのばか・・・」














「・・・うそつき・・・」

















俺は・・・最低の大人だ・・・でも、これで・・・・良かったんだ。


鈴木は歩く・・・もう・・・そろそろ限界だ・・・倒れそう。


道に不気味な笑みを浮かべる男が立っていた。


「やあ、一郎君・・・別れはすんだかい?^^」


「ああ・・・終った」


「はい、これ」


小林は男に刀を渡す。


「駄目じゃないか、もう君にはこれしか残ってないのに、忘れちゃ^^」


男は無言で小林から刀を取る。


刀身を紙で拭き、鞘に帰す。


「小林・・・悪いが・・・医者を呼んでくれ」


「お安い御用さ^^」


「とりあえず、車に乗ってなよ^^」


「ああ・・そうさせてもらう」


「あ、そうだ、言うの忘れてた^^」


「何だ?」


「今日から君の生活は、組織が管理するからね・・・食事も睡眠も、何もかも^^」


「今迄みたいに、好きなもの食べれないから・・・何か食べたいものある?」


男は少し考える・・・。


「・・・・特に無い・・・」


「そうなのかい? なんだ折角、僕が美味しいもの食べさせてあげようと思ったのにな^^」


「あ、そうだ・・・小林・・・あれが食べたい・・・」


「お、なんだい?」


「・・・カップラーメン・・・」


「なんだよ、そんなもので良いのかい^^」


「ああ・・それでいい」


「分かったよ、用意しておくよ^^」


「・・・頼む・・・元祖だぞ・・」


「はは、了解^^」







少しして車は走り出す。















・・・もう・・俺に、失う者なんか何も無い・・・


・・・なら・・ただ一つ残った、この剣の道・・・ただ突き進むのみ・・・。














・・・鈴木・・・一郎か・・・この名前は・・・俺に・・もう相応しくないな・・・


・・・俺には・・・綺麗過ぎる名前だ・・・此処に置いて行こう。






あの・・・幸せな・・・日常の記憶があれば・・・俺は・・これからも生きていける。















・・・・さようなら・・・俺の愛した・・・人たち・・・・。


























・・・・数年後・・・・・



木下家。


平日の朝・・・。


「お母さん、お父さんは?」


「お父さんなら、何時もの場所であいつの事、待ってるよ」


「・・・一郎、何時になったら・・・帰ってくるんだろ・・・」


秋子は笑いながら亜紀に


「あいつ・・・馬鹿だから、帰る道が分からないんだよ」


「でも、きっと何時か帰ってくるよ・・・そうでしょ、亜紀?」


亜紀も笑顔で


「うん・・・一郎の帰る場所は、此処しかないもんね・・」


それに・・・約束したもん、また・・・皆でご飯食べるって。







だから・・・速く帰ってきて・・・お兄ちゃん。










洋一は・・何時もの日課・・・もう相方が消えて何年たつかな・・・。


鈴木君・・・僕は・・・ずっと待っているぞ。


洋一の首には・・・地味なネクタイが巻かれていた。



















夜が来る・・・。


暗く、深い山の中。


1人の男が立っていた。


狭い広場の中央には、松明が2つパチパチと音を鳴らしていた。



男は夜空を見上げる・・・満天の星空。


・・・自分は・・祖父に剣を教わった・・・


・・・秋子の父親には・・・剣士としての覚悟を・・・。




剣に意味を・・・、か。


自分は剣に意味と名を持たせた。


我が剣の名は【黒視光点流】と言う。


我が剣の意味は・・・絶望の先に見えた、小さな希望。




自分の剣が・・・もし何時か・・・誰かの一点の光になる事が出来たら・・・その者の為に・・・全てを掛けて応えよう。



もっとも自分は、所詮ただの・・・人殺しだ。


活人剣など・・・夢のまた・・・先の夢・・・。





向こうの石段から・・・足音が聞こえてきた。


男の瞳が狂気に染まる。


今は・・・相手に全力を持って応えるのみ。




互いに礼を・・・。


互いに刀を抜く・・・。





刀と刀・・ぶつかって音が鳴る。


その音は・・・まるで歌のように・・・・





その歌は・・・まるで愚者達の挽歌のように・・・夜空に鳴り響く。



















石段の下・・・小林は車の中に居た。


・・・もう直ぐ・・・運命の時が来る。


・・・君達のような剣豪が・・・必ず・・・必要になる。


・・・君は・・・それまでに・・・もっと強くなるんだ・・・。






愚者達の挽歌・・・おわり










最後まで、私の変な小説を読んで頂、本当にありがとうございました。


最後の場面で小林が、変な事を言ってますが、作者は何も考えていません。


とりあえず、この作品の続きを何時か書こうと思っているので、その為です、もっとも、まだ何も考えていませんが。


さて・・・次回作・・・やっぱりヒロインがいる話が書きたいですね。


ただな・・・主人公が人殺しだと、幸せな最終回にしないって自分宣言してるから。


次回作の主人公は人殺しじゃない主人公にします。


自分が主人公に真剣を持たせると必ず人殺しになってしまうので・・・どうしよう。


いっその事、別ジャンル行くか・・・恋愛とか・・・俺には無理だ、難しすぎる。


でもな・・・ヒロインいるとなると、幸せな最後にしたい


私のバットエンド好きはもう病気です


好みの話は、最後主人公が死ぬ話しです。


去年、田村さんが演じた・・・時代ドラマの、もみの木〇残ったの様な、最終回が何時か書きたい。


うひょ~、バット最高!!


でも、一つくらいハッピーで終る話を書きたい今日この頃です。


ただ、一つ問題がありますハッピーエンドってどんな最後??


どんな風に終らせたら良いのか私、分かりません。


不幸な最後なら思いつくのに・・・。


なんてたってバット私大好きですから。


でも幸せな最終回が書きたい・・・。


今の作者の心境はこんな感じです。


次回どうなるか分かりませんが、また宜しくです。

(途中で挫折して、今まで通り、人殺しの話しになるかもしれません)


追伸・・・次回は前作の様に、一通り書き終わってから投稿しようと思っています、どうも一話書き終わるごとに投稿するのは、作者の力量では無理があります。


どうしようもない刀好きですが、今後ともどうか宜しくです。


では、さよならさよならさよなら。



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