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ホーム・ウィッチ・エスケープ  作者: らゐをふ


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1/1

踊るフルエバ

 この街で、とっても偉い人の誕生日。

 私と妹は、午前中だけそのイベントに顔を見せることが出来た。



 妹はとても好奇心旺盛で、常に見ていないと何をやらかすか分からない。

 今も、豪華な食べ物を何とか独り占めしようとしている。

「お姉ちゃん助けて!コイツら私の食べ物奪おうとしてくる!」

「やめなさい『フルエバ』!それはみんなの食べ物よ!」

「いいじゃん!どうせ残して捨てるくらいなら私の胃袋にズドンよ!」

 この様に、何をしでかすのか分からない。


 口の周りを油でベッタベタにして説教を頂くフルエバ。連帯責任として私も怒られた。説教をよそにフルエバをチラッと見てみる。反省どころか次のターゲットを探してキョロキョロしていた。

 私たちには自由が無い。普段は一つの部屋を掃除して、寝て、部屋の前に置かれているパンとサプリで簡単に食事を摂る。十年間はずっとそう過ごしてきた。居なくなってしまった姉から引き継いだ生活だ。

「お姉ちゃん?」

 視線に気づき笑顔を返すフルエバ。呆れた笑いを返すと説教の声が大きくなった。

 この妹と共に閉じ込められているのだ。私たち姉妹は。


 その夜、部屋で暴れ狂うフルエバ。まだ食べてみたい物があった、説教が意味わからなかった、暴れたい理由は山ほどあると。

 腕を上に挙げたまま部屋を出て行ってしまう。止めねばと追いかける。妹を追う為なら仕方ないよね。

 一度外に出て裏側の教会に忍び込む私とフルエバ。イベントの会場もここだった。今は大人達が何かに祈りを捧げている。フルエバの捕り損ねた食べ物も祀られている。指を指して勿体無いと叫ぶフルエバの口を塞いだ。

 それでも暴走は止まらない。演奏されているオルガンの元へ虫の様に駆けていく。

「静かでつまんない!もっと音出せ!」

 演奏者に跳んでキックをかますフルエバ。曲が止まるも元から静かな曲だった為気付かれなかった。ギリギリ届く鍵盤に腕を伸ばし、私が「止めろ」と叫ぶ前にはもう、音が出てしまった。


 ……オルガンの音はそこまで大きく響かない。だがフルエバの初めてとは思えない演奏に、みんながそちらを向いてしまった。

 1秒に幾つの音が詰め込まれているのだろう。ハイスピードで奏られるぐちゃぐちゃしつつも綺麗な音色は、怒りを抑えて感動するものだった。

 蹴られた演奏者は事を大きくしないように、フルエバを隠しながら弾き直し始めた。みんなの見えていない所で、4つの手が鍵盤上で踊っていたのだ。

 演奏者の視線が私を見つける。めっちゃウィンクしている。意味がわからなかったけど、両目を瞑ったタイミングでフルエバを下から引き剥がした。剥がした後も目を瞑って指と肩を動かし続けている。そして逃げるように部屋に戻った。


「生きた心地がしない…」

「楽しかった!」

 満足に弾けたのなら良かった。疲れてベッドにダイブする私。フルエバは何かを思いついた様に一人作業に集中し始めた。

 見てなきゃ、そう思う束の間睡魔に襲われ今日の私の冒険はここで終わった。



 寝る前より綺麗になっている。特に部屋の隅。フルエバはそこで寝ていた。

 企んでることは思いつく、きっと抜け穴を作る気だ。前から隙間風が吹いていた場所でやることなんてそれくらいだろう。

 閉じ込められたなんて言ったが、実はそこまで厳格にそうであるわけでは無い。

 …私が、怖いんだ。何も知らない世界で、文字も読めないまま外に出るのが。

 でもフルエバは違う。私と同じ生き方をしているのは勿体無いと思ってしまう。

「叶うといいね」

 ブランケットをかけて、おでこにキスをした。

 部屋の前にあるパンを回収しようとすると、フルエバが蹴った演奏者が外で寝ていた。キスではなく腹に拳を入れた。

「ぐへっ」

 情けない声と共に起きる。私はいつ殴られてもいいように戦闘体制を取った。

「その…昨日はありがとう」

 拳では無く感謝が飛んで来た。声と姿から察するに私たちより少しだけ年上の少年だ。

「君…君たちは何者なんだい?」

 溜め息をはき、台詞を整理して一呼吸で言った。

「『魔法使いの餌』」

 私だって、この世界から逃げたい。

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