アニメ化も決まった大人気ラブコメ漫画家の俺が公式寝取られ同人誌をネットの海に放とうとしたらブチギレた編集さんと幼馴染に分からせ食らって悲しすぎる件について
寝取られは脳にいいという言説を聞いたことはあるだろうか。
まあないだろうな、だって俺が今さっき考えたばかりだもん。
俺の脳内にしか存在しないものを、世の中の人間が聞いたことがあるはずない。
「フッ、まあ俺が証明してみせればこの仮説は真実になるんだがな……この、作者直々に描いたラブコメヒロインたちの非公式寝取られ同人誌でなァッ!!!」
そう叫ぶと、俺は一晩で描きあげた100ページを超える自作の寝取られ同人原稿の入ったタブレットを高々と掲げた。
おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名前は杉原学。
寝取られが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方ない、どこにでもいるただの大人気ラブコメ漫画家兼ごくごく平凡な彼女のいない高校生である。
ん? 高校生でラブコメ漫画家がどこにでもいるわけ無いだろだって?
いいんだよ、俺にとっては前者は全く重要じゃないからな。
そもそも俺はNTR漫画家になる気満々だったのだ。
だが高校生という身分であるため、流石に18禁ものを描いてることがバレるのはまずいだろうという理性が働いた結果、泣く泣くラブコメ漫画家としてデビューした。
とりあえず知名度を稼いでおきたかったからな。
寝取られの素晴らしさを広げるためには一般層を取り込んでおくのはとても大事なことだ。
より多くの人間の脳を破壊し、寝取られの虜にするのが俺の生まれ持った使命なのだから。
俺のラブコメを好きになったやつらの性癖を、寝取られで上書きする。
そしたらそいつらも寝取られが好きになる。
そいつらが俺のラブコメを布教して、それまた次のやつらも脳破壊して性癖を塗り替える。その繰り返しだ。
まさにNTRの無限ループ。呪いのビデオならぬ祝福の脳破壊である。
そしてやがて俺は彼らに崇め祀られ、新世界の寝取られの神となるのだ。最高かよ。
まあそんなわけで成人になったら即NTR漫画家に転向するつもりだったのだが……。
「デビュー作が早くも大ヒットしてアニメ化も決まったからこれからもラブコメを描けなんてあんまりだよっ!!?? NTRを描くのも許さないなんてありえねええええ!!! あのエセロリには人の心がないんかああああああっっっ!!!」
血涙を流しながら思い返すのは昨日の出来事だ。
デビューからついてくれた担当さん(20歳を超えてツインテールのエセロリ)にいつも打ち合わせで使っている喫茶店で、俺は鬼畜極まることをあのババアから言われたのである。
◇ ◇ ◇
「先生! ついに先生の作品のアニメ化が決まったッスよ! やったッスね!」
待ち合わせに遅れること数分。
息を切らせながら現れた担当さんに、俺は素っ気ない言葉を返していた。
「はあ、そうですか」
「え、なんスかその反応。先生は自分の作品がアニメ化するのに嬉しくないんスか……?」
「嬉しくないってわけではないですよ。漫画家として光栄なことだと思ってます」
「ならもっと喜んで欲しいんスけど……こっちとしても一緒に盛り上がりたいからそんな冷静な反応されると困るっていうか」
そう言って眉をひそめる担当さん。
見た目はどう見ても中学生くらいにしか見えないが、漫画への情熱は確かな人だ。
その気持ちは俺の寝取られへの想いに匹敵するかもしれない。
内心リスペクトもしている彼女に嘘を付くのは誠実さに欠けているというものだろう。
俺はゆっくりと口を開き、
「だって羨ましいんですもん」
「え? なにがッスか?」
「俺のラブコメヒロインで、寝取られものを描ける同人作家の人たちが」
本音を口にした。
数瞬、時が止まる。
そして抱えていた想いが溢れ出す。
「描きたいよおおおおおお!! 俺のヒロインたちを寝取られさせたいよおおおおお!! なんで作者の俺が寝取られを描けないのに同人作家の野郎たちは自由に描けるんだよおおおおおお!!! こんなの絶対おかしいよおおおおおおおおおお!!!」
「ハ、ハァ!? アンタそんなこと考えてたんスか!?」
「担当さん! お願いします!
俺に公式寝取られ同人誌を描かせてください! 他のどんな同人作家より、俺の方が優れたヒロインたちの寝取られを描ける自信があります!!!」
「んな自信いらないッスよ!?
頭イカれてんスか!? アニメ化するって言ってんのにそんなことやったら大炎上確定じゃないッスか!?」
「いいじゃないですか! 今の時代話題になったもん勝ちですよ! 悪名は無名に勝るってやつです!」
「有名になったからアニメ化するんスけど!? 前提がまずおかしいッスよ! 知名度上げたいのに悪名上げたくなんかねェェェ!
そもそもんなことやったらウチと編集長のクビが危ないッス! 先生だってタダじゃ済まないッスよ!?」
「別にいいですよ俺は。元々寝取られと心中するって決めてるんで。ネットに伝説の寝取られ作家として名前を刻めたら本望ですね。最悪寝取られを布教するVTuberとしてやり直せばいいだけですし」
冷静にそう話すと、何故かドン引きした目で編集さんが俺を見る。
「イ、イカれてる……打ち合わせのたびに寝取られ展開を入れようとしてくるしちょっとネジの外れた子だなと思ってたッスけど、ここまでとは……こ、こんなのウチの手には……いやでも間違いなく才能はあるし、なんとか矯正を……明らかに童貞だし、最悪ウチが筆下ろしをして性癖を塗り替えて……」
そして下を向いてなにやらブツブツ呟き始める。
なんだか不穏なことを漏らしているような気がするが、俺はまだ彼女から返事を聞かせてもらってない。
「で、描かせて貰えるんですか? 大丈夫なら早速執筆に取り掛かりたいんですが。全ページカラーで200枚くらいは余裕ですよ」
「…………描かせると思ってるッスか?」
敢えて気楽なノリで声をかけると、幽鬼のようにユラリと立ち上がる編集さん。なんだか紫色のオーラを纏っているように見えるのは、果たして俺の気のせいだろうか。気のせいだろうな、うん。
「え、駄目なんですか」
「駄目に決まってるでしょう!? ウチの目の黒いうちは、んなもん絶対描かせないッスよ!!」
「えー、皆は描くのに? 贋作じゃ所詮本物には勝てませんよ?」
「えーじゃない! そもそも競ってどうするんスか!? いい加減にしないとその腕捻り潰しますよ!!」
「そ、それは勘弁してください、俺もやしっ子なんで……筋力Dくらいしかないから、Aはありそうな担当さんに勝てる気しないし……」
「とことん失礼ッスねアンタ!? とにかく同人誌は禁止!
駄目! 絶対!!」
チッ、ケチンボめ。
まぁ仕方ない。本当に悔しいが、ここはひとまず我慢しよう。なぁに、あと数年すれば成年雑誌に転向して……。
「ふぅー……とにかく、先生の作品には編集部も期待して力を入れてるんス。上手くいくようなら2期も作れるし、今後数年、いやもっと先を見据えた展開も……」
「ちょっと待ってください」
聞き逃がせない言葉を耳にして、俺は思わず待ったをかける。
「なんスか先生。イチイチ話の腰を折るッスけど、またロクでもないこと言わないでしょうね?」
ジト目でこちらを見てくる担当さんだが、そんなことはどうでもいい。
担当さんの話が本当だとすれば、それは俺にとっては死活問題にほかならない。
「あの、もしかして俺まだまだあの作品描かないといけないんですか」
「そりゃそうッス。なんせ人気あるんスから」
「俺が成人しても描くんですか」
「そうッス。人気が続く限りは」
「俺、NTR漫画家になりたいんですけど」
「そうッスか。頑張ってください。人気続くまではさせませんし逃がしませんけど」
本気の目だった。
まるで猟犬のような鋭さ。チビりそうだ。
「に、逃さないんですか」
「金の卵を産むニワトリをみすみす逃がす編集なんていないッスよ。才能が枯れるまで搾り取ります。少なくともウチはそうするッス」
「そっ、そうッスか。凄いッスね」
本気の目だった。
まるで獲物を狙うアサシンの眼光。チビりそうだ。
「ち、ちなみに俺は搾り取られずに済むのかなー……なんて……ホラ、俺あんまラブコメの才能ないし」
「は? あんだけのもの描いといてそれ言います? ウチ、先生の原稿読んでガチで感動したんスけど。絶対この人の担当になりたいと思って編集長や先輩たちにも土下座して頼み込んだんだからそんなこと言わないで欲しいッス」
「えと……ラブコメ部分はあくまで寝取られの前振りっていうか……前菜? ホラ、俺はメインディッシュの方を美味しく食べたい派だからぶっちゃけどうでも……」
「は? は? は? は? は? は?」
「な、なんでもないです」
本気の目だった。
まるで理解出来ないものを見た魔術師のような殺意。チビりそうだ。
「と、とにかくひとつ言いたいことがあるんですが、いいですか?」
「ハァ。まぁとりあえず言ってみてください。巫山戯たことばかり耳にしましたが一旦水に流しますよ。アニメ化したし大抵の要求なら聞いてあげるッス」
「あ、ありがとうございます……」
先ほどまであった威圧感が急速に薄れていくことに安堵しながら、恐る恐る口を開く。
「え、えと。それじゃあ言うんですけど……」
「はい」
「に、人気落としていいですか。多分寝取られを描けばすぐに落ちると思います。俺は本気でNTR漫画を」
「殺すぞ」
本気の目だった。
まるでバーサーカーのような威圧感。チビりそうだ。
「ラブコメを、描け。描かないと殺す。寝取られ同人誌を描いても殺す。分かったか、おい。調子乗ってんじゃねーぞクソガキ」
これが大人。これが社会。これが無力か。
「…………はい」
己の弱さに嘆きつつ、こうして俺の正義は、担当さんという悪の前に屈したのだった―――
◇ ◇ ◇
「ククク……あの時は膝を屈したが、今は違う。そもそも俺は負けてなんかいない。そうだ、俺が戦うべきは俺自身にほかならないんだ。あの悔しさをバネに、こうして寝取られ同人誌を描きあげたんだからなァーー! やはり俺は不屈の男!
ただの一度の敗北なんざしてねェーー!!」
まるで凱歌の如く勝ち鬨の声をあげる俺。
そうだ、もはや俺を止める者などどこにもいない。
この部屋で、俺は唯一人勝利に酔う――――!
「というわけで、早速ネットにアップするか。念のために絵柄は多少変えてたしなぁにバレへんバレへん……」
「「なにがバレないの?(バレないんスか?)」」
「ほぇ?」
満面の笑みでタブレットを操作している最中、突如聞こえてきた声。それもふたつ。
「念のために来てみれば、やっぱりこのクソガキ……本当懲りないッスね、忌憚の無い意見ってやつッス」
「私は学がまた寝取られを書こうとしてるって編集さんに言われたから一緒に来たけど……それは駄目。学はラブコメを描くべき。幼馴染とゴールして裸ワイシャツで朝チュンしよ?」
徹夜したことによる幻聴だろうかと一瞬現実逃避しかけたが、そうは問屋が卸さないらしい。
ギギギと音が出そうなくらい震えながら振り返ると、そこには黒いオーラを出しながらドアを開けてこちらを見据える編集さんと幼馴染の燐子がいるではないか。
「…………言い訳を言って良いわけアルカナ、キ◯アアルカナ?」
「「………」」
ちょいと小粋なジョークを挟んで場を和ませようとしたが、ふたりの反応は皆無だった。
やはり大きな友達に人気があるからといって、女子であるふたりにプリキ◯アネタは駄目だっただろうか。
せめてミスティック小林のほうなら結果は……いや違う。現実逃避は辞めよう。
正確にはこちらのジョークには一切反応しないが、眼光だけは底冷えするような鋭さが増している。チビりそうだ。
(…………なるほど)
どうやらついに英霊になる時が来たらしい。
素直に観念し、天を仰ぐ。今の俺はきっと、死人のような顔をしていたに違いない。
「…………俺はね、NTR漫画家になりたかったんだ」
「「そう(そうッスか)」」
なんとか同情をひこうと演技混じりに疲れ切った感じで言ってみたが、全く感情の籠もっていない声で同時に頷くふたり。怖い。完全に見透かされてる。チビりそうだ。
「うん、でもNTR漫画家は成人限定で、大人にならないと名乗るのが難しいんだ、社会的な意味で」
「「そう(そうッスか)」」
「だから子供のうちは同人誌を描いてネットにアップしたいんだけど……しょうがないってことに、ならないカナ? キ◯アアルカナシャドウ?」
俺の質問に答えず、ふたりはゆっくりと近付いてくる。
なにも語らずとも、その目は「目の前の男をわからせる」と、ハッキリと告げていた。
「そっか、ならしょうがないな……」
うん、本当にしょうがない。
俺は襲いかかってくるふたりに観念し目を瞑りながら、静かに諦めるのだった―――
「しくしくしく……」
「大人を舐めるんじゃないッスよクソガキ」
「学。私たちの初夜、とっても良かったね。この経験を糧に、いっぱいいいラブコメを描こう。そしてまた朝チュンしよ?」
翌朝。はだけた裸ワイシャツとエセロリの趣味らしい拘束跡が残る姿でさめざめと泣く俺をよそに、ハードボイルドに煙草を吹かす担当さんと笑みを浮かべる幼馴染がそこにいた。
ああ──安心――なんて出来るはずもなく、俺は深いトラウマを深々と刻まれたのであった。
なお、余談ではあるが念のために手動以外でもタイマーで投稿出来るようにセットしていたため、彼女たちが俺を襲っている間に俺が描いた公式寝取られ同人誌がネットの海に羽ばたき、ガチ勢によって作者だと即バレし海外のネットニュースになるほど大いに大炎上してさらにわからせを食らったとだけ言っておく。
フッ、たまには勝ってしまっても構わんだろう……あ、ご、ごめんなさい。許し……あっ……
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