万引きから何かが始まることもあるだろう
「盗んだもの全部出してね」
名門桜丘学園に通う優等生佐々木優。彼女は今、コンビニで万引きしたところを店員につかまり、バックヤードに連行されたところだ
「これで全部です……」
万引きなど考えたことなどなさそうな、見るからに優等生なその少女が万引きをしたことに対して、大学生コンビニバイトである岩崎は少しばかり衝撃を受けていた
「すみません…出来心なんです…お願いですから警察には言わないでください…」
蛍光灯の白い光が少女の顔を照らす。泣いていた……
「何でこんなことしたか聞いていいか?」
優は机の上に並んだ自分の盗品を見つめ唇を噛んだ
「……家が厳しくて。門限もあるし、テストで一位じゃないと怒られるし。息抜きがしたかったんです」
その声は何処か落ち着いていた
「以降こういうことが無いように、ですんだら楽なんだけどねぇ」
岩崎は優の学生証を見る
「佐々木優さん、ね。桜丘学園って名門じゃないか」
岩崎の冗談めかした言葉に優は俯く
「学校には連絡させてもらうよ」
それを聞いた瞬間、優は青ざめた
「まって下さい!それだけは……お願いです、学校に連絡されたら内申に響いてしまうんです」
優は立ち上がりかけた。椅子がきしむ音が室内に響く。さっきまでの泣き顔とは違う、切迫した表情だった
「お金は全額お支払いします。商品の代金だけじゃなくて迷惑料も。ですからどうか大事にはしないでいただけませんか……」
深く頭を下げた。黒髪がさらりと落ちて、肩が震えていた
「佐々木さん、万引きってのは悪い事なんだよ。それをお金払うからって許しちゃったらさ、もしバレなかったら払わなくていいしバレたらお金払うだけでいい―ってことになっちゃうの。わかる?」
「それは……おっしゃる通りですけど……」
優は深く肩を落とした。顔には絶望が浮かんで見える
「……そうですね。お店側からすればそうなりますよね」
座りなおして膝の上で手を組んだ
「じゃあ、どうすれば許してもらえるんですか」
とても小さな声だった。岩崎は俯いてる優の顔を救い上げまじまじと見つめた
「君、よく見ると可愛いじゃん」
「!?」
優は体をびくっと引いて顔をそむけた
「な、なんですか急に。気持ち悪いこと言わないでください」
明確な嫌悪。優の目は一瞬で冷たくなった。先ほどまでの殊勝な態度が嘘のように声にとげが混じる。男性から容姿を褒められることに慣れていないのか、あるいはこの状況で言われたことへの生理的な拒否反応か
「要件がそれだけなら帰らせてください。学校への連絡ももう止めません。自分で受け入れます」
「勝手に帰るなよ?」
岩崎がテーブルを叩く
「ひっ……」
優は机を叩かれた音に肩をすくめた。それでも眼だけは逸らさない
「……脅すつもりですか。警察呼びますよ」
声は震えていなかった。「警察」という単語を出せるあたり肝は据わっている。だが鞄の持ちてをつかんだ指先は白くなるほど力が入っていた
優はじっと岩崎を睨む
「私が女子高生だからって変なこと考えてるなら、それこそ犯罪ですからね」
「変なこと……?」
「とぼけないで。今の言い方、顔、全部そうです。大人の男の人がこういう時どんなことをするかニュースで見たことあります」
休憩室のドアは岩崎の後ろにある。退路をふさがれた形だったが「力には屈しない」という彼女の芯がその場に踏みとどまらせていた
「誰かいますか!助けて下さい!」
「ちょっとちょっと!何大声出してるのさ!」
岩崎は優の口を押さえた
「助けて下さい!襲われる!」
優は手で押さえられながらも叫んだ
「襲われる……?君何かトンデモナイ勘違いしてないか?」
「何が勘違いだって言うんですか!?」
優はバタバタと暴れながら言う
「君にはここの従業員になってもらおうと思ったんだよ!」
「……従業員?」
優が上げかけていた手が宙で止まった。完全に虚を突かれた顔。脅迫や身体目的の最悪のシナリオを想定していた頭が全く別の方向からの提案に追い付いていない
「どういう意味ですか……万引きした人間を雇うなんて普通あり得ないでしょう」
優は乱れた服を整えながら自身の体を抱きしめた
「本当のことを言ってください……何か裏があるんじゃないですか」
岩崎はあっけらかんとした様子だった
「ないない。学生バイトは賃金が安いから雇うように店長から言われてるんだ」
暫く探るように岩崎の顔を見ていた
「……それ、普通に求人を出せばいい話じゃないですか」
「こんなブラック店舗に来る学生なんていないし来てもすぐ辞めるのさ。俺もここの店長にはプライベートで付き合いがあるからしぶしぶ働いてるだけだしな」
優は机に並んだ盗品をちらりと見る
「バイトしなかったら学校に言うってことですか。結局それ脅しですよね」
暫く熟考した末、溜息を吐いた
「条件を伺っても?」
「週に五日以上シフトに入ること。時給は最低賃金。代わりに学校、警察には一切連絡しない」
「働く期間はどれくらいでしょうか?まさか一生ここでとか言いませんよね」
「半年は入ってもらおうかな」
「半年……」
優は腕組みをしながら天井を見上げる
「仕事の内容は何ですか?私、バイトなんてやったことないですけど」
「レジ打ち、品出し、その他もろもろだが……まあ可愛くて愛嬌があれば多少雑でも大目に見てもらえるさ」
優はじーとした視線を岩崎に送る
「それ、女だから許されるって意味ですか。嫌いですそう言うの」
口ではそう言いつつ否定の言葉に力がない。半年の拘束と前科が付くリスク。天秤にかけるまでもなかった
「分かりました……やります」
それを聞いて岩崎は立ち上がった
「さ、じゃあ今日は帰った帰った。明日また学校終わりに来てくれ」
優も席を立つ
「あの、ありがとうございました」
少し恥じらいながらの言葉だった
「ありがとうございました?これは等価交換だからな。感謝されることではないよ……でもそうだな、佐々木さん。君万引きした理由はストレス発散だって言ったね?」
「……はい」
優は頭を下げた
「あまりこんを詰め過ぎないようににな」
「えっ……」
少し驚いた顔をしていた。説教の続きが来ると身構えていたのだろう。予想外の言葉に優の肩から少しだけ力が抜けた
「本当に、ありがとうございます。では明日きます」
セーラー服の少女が休憩室を去るとその部屋には散らばった盗品と岩崎の姿だけが残った
これは、二人の奇妙な生活の始まりの日だ
読んでいただきありがとうございました!短編書くのは初めてで新鮮でした!感想やアドバイスを頂けると幸いです!




