第二十四話 接待攻略と、想定外の「将軍」
【指定練習ダンジョン:地下三階】
「はぁ、はぁ……三沢さん、もう無理です。これ以上進んだら、僕のひ弱な足が棒になって折れます……」
蓮はわざとらしく肩で息をし、壁に寄りかかった。実際には、地下百階層まで無酸素で走れるスタミナがあるが、今は「運動不足の引きこもり」を完璧に演じている。
「佐藤さん、まだ入って十五分ですよ? しかも今のスライム、逃げ腰でしたよね。……なぜあんなに必死に悲鳴を上げて逃げ回るんですか?」
三沢は、蓮に追いかけられて「恐怖のあまり自爆」したスライムの残骸を冷ややかな目で見ていた。彼女の疑惑は深まるばかりだ。
(……やべぇ。殺気が漏れてたか。次はもっとヘナチョコに動かないと) 蓮は内心で焦りつつ、次のフロアへ踏み出した。
【罠:仕組まれた(?)窮地】
フロアの中央に、ポツンと置かれた宝箱。 「あ、宝箱だー(棒読み)。三沢さん、あれ開けてみましょうよ。僕、怖いから三沢さんが開けてください」
蓮は三沢を罠の方へ誘導する。三沢もまた、蓮のボロを出すために「あえて」隙を見せるつもりで箱に手をかけた。
カチッ。
「……あら?」 三沢が呟いた瞬間、足元の床が青く発光した。『広域拘束の罠』。 幾重もの魔力の鎖が三沢の体を縛り上げ、彼女をその場に縫い付けた。
「きゃっ!? ……佐藤さん、大変です! 動けません! 助けてください!」
三沢は(演技半分、計算半分で)悲鳴を上げる。 これで蓮が超常的な力で鎖を断ち切れば正体判明。そうでなければ、自分が隠し持ったナイフで自力脱出するつもりだった。
(……よし。ここはパニックになって逃げ出すフリをすれば「無能認定」完了だ!) 蓮が情けない声を上げようとした、その時。
【イレギュラー:戦慄の足音】
ドォォォォォォォォン!!
ダンジョン全体が、これまでとは比較にならない衝撃で揺れた。 三沢の顔から余裕が消える。
「……何? この魔力濃度……E級ダンジョンに出る数値じゃないわ!」
通路の奥から、重厚な金属音が響いてくる。 現れたのは、通常のオーガを二回りは上回る巨躯。全身を黒鋼の鎧で固め、巨大なハルバードを携えた「戦場の支配者」。
『オーガ・ジェネラル』。
本来、B級以上のトップ探索者がパーティを組んで挑むべき「将軍」クラスの魔物だ。
「なぜ……初心者の演習場に、こんなものが……っ!」 三沢は必死に鎖を解こうとするが、拘束の術式が強力すぎて動けない。
オーガ・ジェネラルは、その濁った瞳で獲物(三沢)を捉えた。 巨大なハルバードが振り上げられ、空気を切り裂く風圧だけで周囲の石壁が砕ける。
「佐藤さん、逃げて……! 応援を呼んで……!」
三沢が叫ぶ。 その時、蓮の目は、もはや「無能なニート」のものではなかった。
背後で、蓮のポケットに入っていた『ダマゾン』の端末が静かに震える。 《緊急警告:周辺に高エネルギー反応。管理者権限を限定解除しますか?》
三沢の目の前に、死を運ぶ刃が迫る。 蓮は、腰に下げた「百均の折りたたみ傘」に手をかけた――。
(続く)




