第二十三話 美しき公務員の追跡と、最弱の演技
【東京都・探索者管理庁・多摩支部】
「……ですから、あのダイヤモンド級の核は、たまたま地面に落ちてたのを拾っただけだって言ってるじゃないですか」
蓮は、冷房の効いた応接室で、居心地悪そうにパイプ椅子に座っていた。 目の前には、一通の豪華な賞状と、一〇〇万円の小切手。そして、それ以上に眩しい「壁」が立ちはだかっている。
「佐藤蓮さん。偶然で『アビス・キングスライム』が自壊し、その核がF級探索者のバケツに飛び込む確率は、宝くじに三回連続で当たるより低いんですよ」
眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせるのは、政府の公務官、三沢。 二十五歳。整った容姿に、隙のないスーツ姿。だが、その微笑みは獲物を狙う鷹のように冷徹だ。
「さあ、この『特別功労賞』を受け取って、当時の状況を詳しく教えていただけますか? あなたの『真の実力』についても」
「……実力なんてないですよ。俺、見ての通り運動不足のニートですし。今日もここまで歩いてくるだけで、足の筋肉が限界なんです」 蓮はプルプルとわざとらしく膝を震わせ、弱々しくお茶を啜った。
【まとわりつく「政府の監視」】
なんとか賞状を押し返し、逃げるように役所を出た蓮だったが、三沢は諦めなかった。 スーパーで半額のパンを選んでいる時も、公園のベンチで休んでいる時も、彼女は「偶然ですね」と爽やかな笑顔で現れる。
「佐藤さん、そんなに安いパンばかりでは栄養が偏りますよ。あ、そのパンを食べる体力があるなら、一つ『確認』させてください」
「ひっ……! 三沢さん、仕事はいいんですか!? 公務員でしょ! 税金の無駄遣いですよ!」
「これも立派な仕事です。『未登録の特級戦力』を放置するのは、国家の損失ですから」 三沢は蓮との距離を一歩詰め、彼の目を覗き込んだ。
「あなたのデータ、アキラというハッカーの隠蔽工作が混じっている形跡があります。……身に覚えは?」
(……やべぇ、アキラの仕事を見抜いてやがる。この女、ただの美人公務員じゃない!) 蓮の背中に冷や汗が流れる。アキラもヘッドセット越しに「蓮、この女……政府のサイバー班に直通の権限持ってるわよ。かなりキツイわ」と焦っている。
【三沢の提案:ダンジョン同行】
「佐藤さん。そこまで『弱い』と言い張るのなら、証明してください」 三沢は手帳を閉じ、不敵に笑った。
「明日、私が指定する難易度Eの練習用ダンジョンに同行していただきます。もちろん、私はただの観測者として。あなたが本当にスライム一匹に苦戦する『最弱のF級』だと証明できれば、もう二度と付きまといません」
「……本当ですか? 本当に二度と来ない?」
「ええ。公務員に二言はありません」
「(……よし、勝った。明日、徹底的に無能なフリをしてやる)」 蓮は心の中でガッツポーズをした。
だが、三沢の思考は違っていた。 (……佐藤蓮。あなたがどんなに隠しても、あの『目』は本物の強者のものです。明日、わざとピンチを演出して、あなたの『本性』を引きずり出してあげます……!)
一人は「全力で弱く見せる」ために。 一人は「全力で正体を暴く」ために。 最弱(を装う最強)と、美しき監視者による、化かし合いのダンジョン攻略が始まろうとしていた。




