第十九話 熱帯夜のオーバーヒート
【佐藤 蓮の自室】
「……あ、暑い。死ぬ……」
蓮はパンツ一丁で、床に転がっていた。 外の世界は一月だというのに、蓮の部屋だけが室温四十五度を超えている。原因は、地下七階に発生した「灼熱の火山エリア」の熱気が、クローゼットの隙間から漏れ出しているせいだ。
「ちょっと蓮、なんとかしなさいよ……。私のPCが熱暴走で落ちたら、この部屋の隠蔽システムが全部パーよ」 アキラも顔を真っ赤にしながら、保冷剤を首に巻いてキーボードを叩いている。
「分かってるよ! でも、普通のエアコンじゃこの『魔力熱』は冷やせないんだ!」
蓮はフラフラと立ち上がり、壁に設置された**『十年前の古いエアコン』**を睨みつけた。 これにただ『Reality Patch』を当てるだけでは足りない。火山エリアの熱源そのものを叩かなければ、部屋が焼き尽くされる。
「アキラ、ハッキングでエアコンの『設定温度』の概念を書き換えろ。マイナスではなく、『熱エネルギーの強制変換』だ!」
「……なるほどね。熱を奪う代わりに、それを『動力』に変えるってわけ?」
アキラの指が火を吹くような速度で動く。 蓮が管理者タブレットをエアコンにかざし、アキラが並列でコードを流し込む。
《Reality Patch × System Hack:【次元冷却換気システム・零式】》 《特性:周囲の熱エネルギーを吸収し、氷属性の魔力弾として凝縮・排出する》
「よし、蓮! エアコンのルーバーをクローゼットに向けなさい!」
蓮がエアコンのリモコンの「パワフル」ボタンを押し込んだ瞬間。 ガコンッ! という異音と共に、エアコンから絶対零度の吹雪がクローゼットの中へと噴射された。
【地下七階:火山エリア】
蓮は、エアコンから伸びた「改造ダクト」を担いで、灼熱の溶岩地帯へと足を踏み入れた。 本来なら一歩で炭になる場所だが、蓮の周囲だけはエアコンの冷気で「キンキンに冷えた冷蔵庫」状態だ。
「熱いのは嫌いなんだよ……。お前ら、まとめて冷え冷えにしてやる!」
ダクトの先端から放たれるのは、部屋の熱を変換した**『超低温氷結レーザー』**。 襲いかかる溶岩の怪物たちが、次々と氷像に変わり、温度差で砕け散っていく。
だが、ここで予想外の事態が起きる。 蓮が火山エリアの熱を吸収しすぎたせいで、現実世界の「蓮の部屋」が今度は急激に冷え込み始めたのだ。
【蓮の部屋】
「……れ、蓮! 止めなさい! 今度は部屋がマイナス二十度よ! 凍死するわ!」 アキラの指が凍えて動かなくなる。
その時、最悪のタイミングでドアが叩かれた。
「蓮ー? なんだか廊下まで冷気が漏れてるけど……。あんた、冬なのにアイスでも作ってるの?」
「ヒィッ、母さん! 今、部屋で『超本格的な雪山登山シミュレーター』やってるだけだから! 入ってこないで、遭難しちゃうから!!」
「登山? あんた、部屋の中でどこに向かってるのよ……」
母親がドアを開けようとするが、ドアノブが凍りついていて開かない。 蓮は火山エリアの奥で、ボスである『マグマ・ドレイク』を「エアコンの霜取り機能」で瞬殺しながら、必死で叫んだ。
「アキラ! 早く熱バランスを調整しろ! 部屋が冷凍庫になる!」 「無茶言わないでよ! あんたがボスを冷やしすぎるからでしょ!」
地下の怪物を凍らせながら、自室での遭難を回避するために戦う二人。 最強の装備を手に入れながら、彼らは「ちょうどいい室温」という最も困難なミッションに直面していた。




