第十七話 サイクロン・オーバーロード
【地下六階:浮遊する廃都】
クローゼットの先は、重力が希薄な空中エリアだった。 崩壊したビルがラピュタのように浮遊し、その間を巨大な怪鳥が飛び交っている。
「……無理だ。いくら俺でも、この距離をジャンプで渡るのは不可能だぞ」 蓮はクローゼットの縁で立ち往生していた。
「ちょっと、どきなさい。あんたの『適当なパッチ』じゃ効率が悪いのよ」 後ろからアキラが、愛用のノートPCを小脇に抱えて現れた。彼女の手には、蓮が物置から引っ張り出してきた『国内メーカー製のサイクロン掃除機』握られている。
「おい、それは俺の愛機(掃除機)だぞ! 壊すなよ!」
「壊さないわよ。……書き換えるだけ」
アキラは蓮の『管理者タブレット』に自作のハッキング用デバイスを直結した。 画面上を高速で流れる文字列。彼女はパッチの基幹プログラムを強制的にハックし、掃除機の「吸引」という概念そのものを再定義し始めた。
「――スクリプト、インジェクション(注入)。重力質量を反転、吸引ベクトルを推進エネルギーに変換。……出力制限、解除!」
《Reality Patch × System Hack:【超重力推進機】》 《特性:吸い込んだ空気を魔力圧縮し、核融合並みの推進力を生み出す》
「……よし、完成。背負いなさい」 「え、これ背負うの? 掃除機を?」
蓮が恐る恐る背負うと、掃除機のノズルが二本、両肩から翼のように突き出した。
「スイッチ、オン」
キィィィィィィィン!!
部屋中に凄まじい吸引音が響き、床のゴミどころか、蓮の身体がふわりと浮き上がった。 「うおぉっ!? なんだこれ、パワーがさっきまでと次元が違う!」
「当たり前でしょ。私が『吸う』と『吐く』の論理をループさせたんだから。エネルギー効率は無限よ。さあ、さっさと行ってきなさい」
アキラに背中を押され、蓮は空中エリアへと飛び出した。 今までの「なんちゃって装備」とは違う。アキラのハッキングによって、掃除機は**音速を超えるドッグファイトを可能にする「飛行兵装」へと進化したのだ。
「これならいける! ――行くぞ、焼き鳥ども!」
蓮は掃除機のノズルを逆噴射させ、襲いかかる怪鳥たちの群れの中へと、超高速の弾丸となって突っ込んでいった。




