第十五話 持たざる者の志願兵
【都内・臨時探索者徴募センター】
「――次、瀬戸カイト君。入りなさい」
新宿駅の惨状から数日。街の至る所に貼られた『緊急探索者募集』の張り紙を見て、カイトはここにいた。 裏山で死にかけたあの日、彼は悟ったのだ。一人で野良を続けても、いつか飢え死ぬか食い殺される。なら、国に「戦力」として買ってもらう方がマシだと。
「……君、裏山でコバルト・ウルフを単独で? しかも装備はホームセンターのナイフ一本か」 面接官の自衛官が、信じられないものを見る目でカイトの履歴書(自称)を見た。
「はい。……死にたくなかったんで」 「……いい目だ。君のような『適応者』を待っていた」
カイトは、即日、新設された『臨時特殊探索部隊』へと配属された。
【新宿駅大迷宮・地下二階「改札の隘路」】
「第一班、前へ! 重装歩兵がタゲを取れ!」
怒号が飛び交う新宿駅地下。カイトは今、国から支給された最新の戦闘服に身を包み、精鋭部隊の一角にいた。 だが、その「戦闘服」には見覚えのない紋章が入っている。蓮がダマゾンで送り届けた、あの『魔改造済み・対物理防衛マント』だ。
「これ……すごいな。ゴブリンの爪が掠っても、傷一つ付かない」 カイトは自分の肩に触れた。裏山で肉を削られたあの時とは大違いだ。
「瀬戸! ぼうっとするな、来るぞ!」
通路の奥から、無数の『スクラップ・グール』が溢れ出してきた。かつての駅利用者の無念が形を成したような、金属片を纏ったアンデッドだ。
「……掲示板の情報の通りだ。こいつらは胸のライトが弱点!」
カイトは、国から貸与された魔導合金の剣を構え、地を蹴った。 蓮のように空を飛ぶことも、レーザーを撃つこともできない。一歩ずつ踏み込み、泥臭く剣を振るう。
「おおおぉぉぉ!」
カイトの剣がグールの胸を貫き、核を砕く。 周囲の隊員たちも、蓮が送った『魔力回復ポーション(DXココア味)』を飲み干し、疲弊した体に活力を無理やり叩き込んで戦い続けていた。
「助かったぜ、瀬戸。……しかし、このマントといいポーションといい、誰が送ってきたんだろうな」 隣で戦うベテラン隊員が、一息つきながら呟いた。 「噂じゃ、ネットで有名な『名無しの引きこもり』が、国に内緒で空から降らせたって話だが……」
「……あの人だ」 カイトは、自分に戦い方を教えてくれた掲示板の「師匠」を思い浮かべた。 自分たちがこうして生き残れているのは、間違いなくその人物の気まぐれな善意のおかげだ。
「(いつか……いつか、あんたに追いついて、礼を言う)」
カイトは剣に付いた汚れを拭い、さらに深部へと続く暗い階段を見つめた。 彼にとって、新宿ダンジョン攻略は単なる「仕事」ではなく、自分を導いてくれた「見えざる英雄」への恩返しになりつつあった。
【一方、佐藤 蓮の自室】
「……あ、あいつ、俺のアドバイス通りに動いてるな。よしよし」 蓮はモニター越しに、政府の通信を傍受したアキラの横で、カイトの戦いぶりを眺めていた。
「何その親心。あんた、自分のレベル上げはどうしたのよ?」 アキラが呆れたようにポテトチップスをかじる。
「……いや、ほら。俺がわざわざ行かなくても、あいつらが頑張ってくれれば、俺の部屋の平穏が守られるわけだし。これは投資だよ、投資」
「はいはい。……あ、蓮。地下六階の入り口、変な反応が出てるわよ。たぶん、次は『空中戦』ね」
「……まじか。掃除機、もう一台改造するか……」




