第十四話 匿名の救世主と偽装の聖域
【佐藤蓮のマンション・廊下】
「……おかしい。数値が消えた?」
政府の調査員・カザマは、蓮の部屋のドアの前で首を傾げた。数秒前まで確かに反応があった魔力波形が、突如として「完全な無」に変わったのだ。
「部屋の中、確認しますか?」 同行の隊員が手をかけた瞬間、カザマの端末に緊急アラートが走る。
『警告:多摩エリアに強力な電磁ノイズ発生。付近の電子機器が全て誤作動中!』
「……クソッ、ジャミングか! 座標がズレた。ターゲットはここじゃない、隣のブロックだ! 移動するぞ!」
カザマたちは慌てて階段を駆け下りていった。
【蓮の部屋】
「……ふぅ。危なかったわね」 アキラが、キーボードから指を離して鼻で笑った。彼女は政府のレーダーに「偽の波形」を流し込み、この部屋の存在をデジタル的に消去したのだ。
「お前……マジで天才だな。……それより、見ろよこれ」 蓮はモニターを指差した。そこには新宿駅のライブカメラ映像――自衛隊が巨大なボスの前に壊滅しかけている光景が映っていた。
「ここが落ちたら、この街のインフラも終わる。……俺の光回線が切れるのは困るんだよ」
蓮は『Damazon』を開き、溜め込んでいた三〇〇〇万ポイントを一気に叩き込んだ。
「アキラ、配送先を『新宿駅・防衛本部』に設定できるか?」 「簡単よ。ついでに送り主の名前も隠蔽してあげるわ」
【新宿駅・防衛本部】
「もうダメだ……弾薬が底を突いた……」 指揮官が絶望に目を閉じた、その時。
上空から、黄金の輝きを放つ数百個の段ボール箱が、まるで雨のように降り注いだ。
「な、なんだ!? 敵の攻撃か!?」 「いえ、箱の中に……物資が入っています! 『魔力回復ポーション(DXココア味)』! 『対怪獣用・高熱焼夷手榴弾』! それに、この大量の布は……」
『魔改造済み・対物理防衛マント(迷彩仕様)』。
箱には、一枚の付箋が貼られていた。 『ネットが切れると困るので、さっさと掃除してください。――名無しの引きこもりより』
「……救世主か、あるいは……」 指揮官は震える手でポーションを煽り、再び剣を抜いた。 「全軍、反撃開始! 匿名の援軍を無駄にするな!」
【蓮の部屋】
「……ふん。三〇〇〇万、一瞬で溶かしたわね」 アキラが呆れたように言うが、その口元は少しだけ緩んでいた。
「また稼げばいいさ。……さあ、邪魔者が消えたし、地下五階の攻略、再開するか」
蓮は漆黒の木刀を手に取り、クローゼットの奥へと視線を向けた。 世界を救うつもりなんてない。ただ、自分の平穏な「引きこもりライフ」を維持するためだけに、彼は最強の支援者として世界を裏から操り始めていた。




