全国大会準決勝 桜見VS名西寺6
『おっと、どうしたんでしょうか桜見は? 壁を作らず何やら話しているようですが……』
『番名君のキックは凄まじいですからね。それに対しての入念な打ち合わせでしょうか』
輝羅の方に桜見の選手は集まっていた。
守護神による暴挙のような行動を止める為に。
「お前それ、不味いだろ!? あいつのキック受けたのに壁無しは無ぇって!」
「いくら凄くても漫画みたいな真似事は無理でしょ〜!」
竜斗や楽斗が止めようとするが、輝羅の気持ちに変化は無い。
「別に外ギリギリからのFKじゃないし、あの距離からは行ける。壁はブラインドになってボールとか相手の蹴り足が見え難くなっちゃうよ」
あの距離から直接狙われても止める自信があるらしく、壁は逆にマイナスだと考えていた。
輝羅の実力は知っていて、此処まで無失点なのは彼の力が大きい。
それは全員が分かっている。
しかし相手はパワーに溢れるキャノンシュートを可能とする烈気で、あまりに危険な賭けだと思ってしまう。
「壁はむしろ他へのパスとか注意向ける方に回せるから、不安なら相手のキック以外の可能性潰しちゃおう♪」
こういう状況でも与一は明るい笑顔を崩さず、烈気の直接狙うキック以外を想定して動くべきと皆に伝えた。
壁に立たない分、自由に動ける者が増えるというメリットも存在する。
「……」
「ヤミー、挽回する方法教えよっか?」
「え……?」
ミスを引きずる影二は与一に肩を叩かれると、振り向いて向き合う。
そこで与一は彼と話し始める。
「(中々覚悟が決まらんのやろなぁ。ま、決めても決めんでも直接ブチ込む事に変化無いけどな)」
烈気は桜見ゴールから少し離れた位置で、既にキッカーとして立っていた。
彼のイメージとしては壁の上を越えて、そのままのスピードで桜見ゴールへ迫り、GKは取れずにゴール。
そういった場面を思い描いている。
「ん……?」
考え事をしている時、スタンドからの声がざわざわしていて何やら騒がしい。
珍しい事でも起きたのかと、烈気が伏せていた顔を上げると──。
「なんやこれ……!?」
それはサッカーをやってきて初めて見る光景。
烈気の前に誰も壁として立っていないのだ。
『これは……? 桜見、誰も壁として立とうとしません。それぞれ散ってます』
『GKが壁でボールが見え難くなるというのはなくなりましたが、そうですね……私も実際見るのは初めてで中々コメントが見つかりません……!』
フィールドの異様な光景に、スタンドはざわつく。
「普通、壁は立つやろ」
「あえて立たせずキッカーの動揺を誘ってるんとちゃう?」
「いや〜、奇策やなこれ」
観客から様々な憶測が飛び交う中、桜見のゴールマウスに立って守る輝羅は身構えていた。
「 (ほら、邪魔な壁はいないから撃って来なよ。君のキック力なら狙える距離なんだよね?)」
輝羅は烈気が直接狙って来るキックを誘う。
「はぁ……開会式から兄妹でパフォーマンスして、おもろいと思っとったけどなぁ。まさか漫画みたいなもんまでやるとは……」
30m先のゴールマウスで構えている輝羅を見て、烈気はニヤッと笑う。
「ホンマにおもろいなぁ、神明寺……!」
その心は直接狙ってやろうと、パスを考えていなかった。
烈気は位置から離れて助走を取る。
「(ほんなら遠慮なく、ガラ空きの所をストレートのバズーカ砲で行ったろやないか! 後悔しても遅いで!!)」
絶対ゴールを取る、強い思いと共にセットされたボールへ向かって走り出す。
『助走をつけて番名、狙ったぁ!!』
勢いを付けた烈気は右足を振り上げ、渾身の力が籠ったインステップキックでボールを飛ばす。
蹴られた球は弾丸と化して桜見ゴールへ低い弾道で向かい、左下の枠へ行った。
瞬時にコースを読んでいた輝羅はサイドステップからのダイブで、ボールに飛びつく。
両手で掴み取った時、前半に感じたシュートの重さが襲うも輝羅が掴んだ球は決して離さない。
ボールが零れる事なく、完璧なキャッチでセーブに成功する。
『キャッチした! 神明寺輝羅、壁をどかして直接FKをセーブしてみせた!!』
『あの凄まじいキックを取りますか……ん?』
その時、皆がキャッチした凄さに驚く暇を与える事なく、輝羅は素早く立ち上がるとボールを持ったまま前方へダッシュ。
ボールを手で持つ事が許されないエリアの外まで迫った時、手放して宙に舞う球を右足で蹴り飛ばす。
『おっと!? すぐ出したGK! 一気に名西寺側へボールが飛ぶ!』
低空飛行で敵味方の選手達の間を通過していき、ボールは烈気がいないDFラインの裏へ落ちる。
そこにはマークされている竜斗に代わってボールへ迫る者がいた。
『桜見の選手が1人反応して抜け出している! 14番、闇坂だ!』
「(え!?)」
「(あいつ、何時から!?)」
竜斗や他の選手達に注意していた市岡、千林のDF2人は影二が上がっていた事に気づかず。
持ち前の影の薄さが活きて、影二はボールに追いつくと名西寺ゴールへ真っ直ぐ向かう。
気づいた千林が必死に追いかけるも、距離があって間に合わない。
走りながらも黒石に止めてくれと心の中で願っていた。
「(前……出て来てる……!)」
相手のGKが前へ出て来る姿を影二は見ており、すかさず足元のボールを右足で擦り上げるように蹴る。
前へ出て来た黒石の頭上を越えていき、ボールは弧を描きながら無人のゴールマウスへ吸い込まれた。
『桜見先制点ー!! 決めたのは闇坂影二! GKから出た球へ真っ先に反応して飛び出していた!』
『彼の上がりはまさにシャドウですね……!』
「ヤミー! ナイスゴールー!」
「強豪相手に上手いの決めるじゃんか!」
得点を決めた影二へ竜斗、楽斗達が駆け寄って抱きつくとスタンドからも歓声が沸く。
「(あ……僕今、人生で1番目立ってる……!)」
普段は影に潜む少年が表舞台で活躍し、今は華やかなスポットライトを浴びていた。
影二の顔から自然と笑みが零れる。
「(やられた……! 俺の上がってる間を狙っとったんかい、あのGK!)」
ゴールを割られた名西寺、その中で烈気は輝羅の方へ目が向く。
自分の不在時を狙っていたのだと。
チャンスを掴みかけて止められた直後、失点を食らった事に驚きと同時に悔しさも込み上がってくる。
「(作戦通り行けたねー♪)」
与一はセットプレーの前に影二へ上がるよう伝えて、それが竜斗を追い越してDFの裏へ抜けるプレーに繋がった。
ゴールマウスを守る輝羅と親指を立てて、作戦成功と笑う。
与一「ちなみに壁なしの戦術は現実でも海外でやったらしいんだよねー」
輝羅「最近は現実が漫画を越える、とかあるけど壁0枚も広く使われたりしてー?」
竜斗「とりあえず遠めからな。流石に近距離だとPKとあんま変わらねぇから!」
楽斗「俺達からすればヒヤヒヤもんだよ〜」
輝羅「さぁ〜、この先にもっと近い位置で壁なしFKあるのかな〜?次回も桜見と名西寺の試合となりまーす!諦めない名西寺の猛攻に僕達、桜見の守備は守れるか!?」
与一「韓国のイケメンと終盤戦といこうかー♪」




