アイコンタクト
「練習試合で勝ち負けは重要ではない……そう思っているからと緩めてはいないだろうな?」
王坂中学の監督は厳しい顔を浮かべ、部員達へ静かに問い掛けた。
彼らの方は加減をしている訳ではなく、目の前の強大な壁が破れないだけの事。
特に小さなDFとGKに出場している選手達は脅威を感じる。
「確かに小柄だが優れた実力の持ち主だが総合力ではこちらが勝っている。焦らずDFを崩し、絶好のシュートチャンスを作れば必ず得点出来る」
監督も双子を見ていて、彼らが並外れた実力者である事は分かった。
都内でトップレベルを誇る王坂を相手に前半0で凌ぐチームなど、去年の公式戦でも滅多にいない。
「相手はどうやら能力の高い奴が2人くらい居るみたいだけど、此処は作戦で崩しに行くぞ」
キャプテンを務める大木田から、後半で相手を崩して決めると宣言があれば王坂の面々は頷いて応える。
中学サッカーにおいて王坂は東京の名門。
全国制覇を視野に入れる彼らとしては此処でもたついてる場合ではなく、練習とはいえ勝って終わりたい所だ。
その彼らは気づいていない。
自分達の心が要注意と見ている相手2人に見通されている事には──。
ピィ────
後半戦の笛が鳴り響き、王坂ボールのキックオフで開始。
3ー6ー1のシステムで中盤を固め、その長所を活かすプレーが早くも飛び出す。
「(速っ!?)」
中盤の王坂選手達による素早いショートパスでの繋ぎ。
この速さに寄せていった霧林は驚かされてしまう。
ボールを止めずに動かしまくり、的を絞らせず与一を翻弄しようと彼らの作戦は実行されていた。
「惑わされるな! 10番マーク!」
後方から輝羅の声が選手達に飛ぶ。
指示を受けて1人が10番の指令塔、松田のマークへ迫る。
「皆ー、怖くないよー! 止められるってー!」
続けて与一からパンパンと手を叩く音が発せられ、皆を鼓舞していく。
速いと戸惑う味方達の心を感じ、安心させる事に努めた。
「(確かに冷静に見れば……!)」
「(素早いパスで繋がってるけど、中心になってるのは松田!)」
桜見の選手達は落ち着いて王坂のパスワークを観察すれば、主にそれを担っているのが松田と見抜き、楽斗や宮村が彼のマークへ集中する。
「くっ!?」
自分にマークが付き纏い、松田は一瞬嫌そうな顔を見せた。
「11番には前に立ってー!」
続いて与一は真野へのマークを指示。
スピードのある相手は直線で抜かれて独走されるのが最も厄介なので、可能な限り走るコースを遮るように立った方が良い。
「っ!」
立ち塞がるに目の前へ立つ桜見の室岡を見て、真野から余裕そうな顔が消える。
スピードで攻める真野にとっては嫌なマークの付き方となっていた。
これにはベンチの王坂監督も腕を組むと難しい顔を浮かべてしまう。
「(取れる……!)」
影二が音も無く忍び寄ると王坂のパスをカット。
「良いよー! ヤミー輝いてるー♪」
輝羅から褒められる声を受けながら影二は楽斗へパスを出して、カウンターのチャンスへと繋げる。
「左! 相手の11番気をつけろ!」
大木田の中で序盤にあった攻撃が過ぎり、霧林へのマークを左サイドに指示を出すと自らは竜斗に付く。
「(得点狙うなら、やっぱ竜斗に繋げるしかない!)」
ボールを持つ楽斗はゴールが遠めながらも狙おうかと考えたが、シュートコースは見えて来なかった。
此処はシュート技術やパワーの優れる竜斗へ繋げる方が確実。
楽斗からパスが出されて竜斗はボールをトラップするも、直後に背後から強烈な圧が迫りくる。
前は向かせんと大木田が体をぶつけ、竜斗に対して厳しい守備。
「ぐぅっ……!」
「(前は向かせないからな赤羽!)」
体格差のある相手に当たられ、竜斗はボールをキープしきれず零してしまう。
これを王坂が取れば傾きかけていた流れは再び引き戻された。
「落ち着いてー!ディレイで遅らせようー!」
ボールを奪いに行かず、パスやドリブルのコースに立って攻撃を遅らせる守備戦術が与一の口から実行するよう出てくる。
王坂は速攻に出ようとしていた。
その心を与一が読んで速攻を決めさせない。
「何をやってるんだ……!」
思うようにボールが来なくて攻撃出来ない事に業を煮やしたか、レオードが前線から下がって来る。
そこで右手を上げてパスを要求すると、田中からボールを送ってきた。
『(与一、あいつ狙って来るよ)』
『(みたいだね、ゴールを奪ってやるっていう気持ちがめっちゃ強く出てるし)』
レオードの姿を見て与一と輝羅が心の中で会話をする。
双子での作戦会議を終えてから、与一は相手エースに忍び寄っていく。
「ヘイ!」
右手を上げてボールを要求するレオード。
パスが送られるとキープした状態で与一と対峙する。
大柄だが巧みなステップ、ボール捌きでフェイントを仕掛けていく。
その動きを与一は飛びつかず冷静な目で動きを見極めていた。
「(此処までついてくるか! このチビ想像以上にやる──)」
目の前の相手をフェイントで翻弄出来なくて、かなりの強敵だと認識した瞬間、与一は左足でレオードの球を捉えた。
与一の足がボールを弾き、零れ球を影二が取る。
「ヤミー!」
「!」
与一からボールを要求する声が聞こえ、彼がレオードを追い越して走る姿が見えた。
影二は右足で素早く与一へパスを出す。
「(逃がすか!!)」
直後に動いていたのは与一だけではなく、レオードも同じ。
反転して追いかけて行くと彼が球を受け取った直後を狙い、右の肩口から突っ込む。
「うぉぉ!?」
ヒュッ ドサァッ
レオードのショルダーチャージが与一に激突する、その瞬間に与一は右のサイドステップで躱し、勢い余ったレオードは派手に芝生の上で転倒。
自分からぶつかって転がった為、主審はファールを取らずにプレーは続行される。
『(与一、、楽斗フリー!)』
『(分かった!)』
心の中での輝羅からコーチングを受けた与一。
迷う事なく中央でフリーとなっている楽斗へ正確なパスが出された。
ボールを受け取り楽斗は前を見る。
「(左──空いてる!)」
積極的に点を取ろうと王坂は攻め上がっていた。
そこからボールを奪った事で、相手の守備が整う暇を与えていない。
王坂ゴール前の左スペースが空いてしまってるのは、そのせいだ。
楽斗が前線にいる竜斗を見れば彼ら2人の目が合い、互いのする事が分かったのか共に行動を起こす。
「!」
左のスペースを狙って楽斗が右足のスルーパスを出した瞬間、竜斗がそれに反応してのスタートダッシュ。
これに大木田は一瞬遅れてしまう。
「オフサイド!」
王坂DF野坂がアピールして右手を上げるが、そのラインを見ている線審の旗は上がらない。
共にサッカーをやって数年、その積み重ねが2人のアイコンタクトを可能として、竜斗は大木田より一歩先にボールへ追いつく。
大木田が寄せて来る前に、相手GK板野がコースを狭めようと来る前に、竜斗は右足を振り抜いてシュートを放った。
ボールはヒュンッと板野の左肩口を掠め、豪快にゴールネットに突き刺さると大きくネットを揺らす。
「やったぞぉ──!!」
去年何も出来ず、完敗を喫した相手から会心のゴール。
得点を決めて叫ぶ竜斗に、桜見イレブンが駆け寄って喜びの輪が作られていった。
その中で与一と輝羅の目が合うと、双子は右手の親指を立てて小さく笑う。
与一「サッカー部の初ゴールが生まれたよー!」
輝羅「最初の時より皆良い顔するようになったねー」
与一「僕らの桜見での初戦だから、勝って終わらせないとー!」
輝羅「次回、王坂の終盤の猛攻を跳ね返せるのか? その先に待っていたのは……!? お楽しみにー♪」




