次の世代を担う者達
1回戦の試合が終わり、32チームが半分の16チームとなり次は全国制覇ベスト8を懸けた試合。
桜見の2回戦の相手は仙台の若水口中学。
天候が今日も快晴と、夏の太陽を浴びながらの試合となる。
「ねぇ、先輩達って頼りになるよね?」
会場に着いてロッカールームで3年の先輩達が荷物を置いてる時、若葉は側に居る海東、室岡へ声を潜めて言う。
「頼り切ってるつもりはねぇけど、まぁ……3年の力は正直でかいよ」
「そのおかげあって、僕も活躍させてもらってるからね」
若葉に言われずとも、海東と室岡の2年達も頼ってしまってる自分が居ると思い、先輩達の存在の大きさを改めて感じた。
「──このままだと駄目じゃないかな?」
「え?」
2人が揃って若葉の目を見ると、彼は真剣な目で同級生達と向き合う。
自分達が先輩達に頼り過ぎている現状と共に。
「だって来年は先輩達もういないんだよ? 頼り過ぎてたら来年僕達だけの時、もう誰にも頼れないし誰も助けてくれないんだよ?」
「……!」
来年の話をする若葉に海東、室岡は揃って気づく。
自分達が最上級生となり、桜見サッカー部を引っ張らなければいけない事に。
今の主力は3年ばかりで彼らは来年に全員高校生となって、桜見を去っていく。
そうなれば後輩達を導くのは自分達の役目だ。
「先輩達に連れてってもらってばかりじゃない、僕達で勝って先輩達を──桜見を優勝させるぐらいの気持ちでやらないと」
「……若葉、お前何時の間にか凄ぇ火がついてんなぁ」
「熱意が充分過ぎるぐらいに伝わったよ」
室岡が小さく笑みを浮かべ、海東は軽く息をついて右手で頭を掻く。
「俺達の代で弱いとか思われんのも癪だし、いっちょやるか」
「僕達2年もやれるんだって安心させないとね」
2年の3人は次の試合に向けて、自分達のモチベーションを高めた。
「(これは、利用しない手はないよねぇ……♪)」
密かに彼らの会話を近くで聞いていた輝羅は、楽しげな笑みを見せる。
それからすぐ、アップ前にミーティングが始まると輝羅は意見があると手を上げた。
「おう、どうした輝羅?」
「提案だけど今日は室岡、若葉、海東を揃ってスタメンで出すのはどうかなぁ?」
「!?」
竜斗へ2年達を出さないかと提案した輝羅に、1番驚いたのは本人達だ。
「前の試合で竜斗はハットトリック決めて滅茶苦茶警戒されてると思うし、若葉や海東が出て竜斗が今回はスーパーサブ的な位置っていうのも面白いやり方じゃないかなー」
3人のやる気だけで輝羅は彼らを推さない。
竜斗は林王戦で派手な活躍をした事により、向こうからのマークが厳しくなる可能性は極めて高いはず。
不意を突ける可能性を考えての起用である。
「なるほど……来年はお前らもチームを引っ張る身だし、全国の試合を経験するのはデカい。やれるか?」
「「はい!」」
竜斗の問いに3人が元気良く答え、試合への意欲を見せていた。
「という事は竜斗が控えになって、キャプテンは──」
「あ、じゃあ今回は僕やるー♪」
楽斗の口からゲームキャプテンを誰がやるのか、言おうとした時に与一から手を上げて、やりたいと言い出す。
「ううん、俺が副キャプテンなんだけど〜。まぁいいや。与一キャプテン任せた!」
本来なら副キャプテンの楽斗に役目が回ってくる所だが、彼は与一がやる事に反対はしない。
桜見は2年の3人がスタメン、キャプテンが与一という新たなチーム体制で2回戦を迎える。
『2回戦、優勝候補の林王を下した桜見と東北の強豪で知られる若水口の試合となります』
『桜見の方は大分変えましたね。キャプテンの赤羽君が下がり、2年の海東君や倉本君をスタメンにしてゲームキャプテンを与一君にしたりと、これは思い切った采配ですよ』
1回戦の時とは違い、与一がキャプテンマークを右腕に巻いて列の先頭に立つ。
「(好調の赤羽がスタメンじゃない?)」
「(怪我か体調を崩したのか?)」
「(温存して後半に出す気かも)」
相手の仙台代表、若水口の選手達は1回戦から変えて来た桜見を見て、それぞれが考えていた。
「よろしくー♪」
「おお(画面越しより小さいなぁ)」
コイントスで両キャプテンが対峙した時、若水口のキャプテンを努める右SDF御手洗拓士は実際の与一の小ささに内心驚く。
149cmと参加選手の中で1番小柄だ。
「(桜見は何時ものフルメンバーじゃないみたいだし、隙はありそうだ。此処は立ち上がりから攻撃に出るか)」
御手洗は桜見のスタメンの顔ぶれを見ており、初戦のスタメンに選ばれてない者を何人か見た時、まだ全国の舞台に不慣れだろうと思った。
コイントスで先攻を取り、作戦はこれで行く事が決まって円陣を組むメンバーにも伝えに向かう。
その心が与一に丸見えだと気づかずに。
「向こうのキックオフで速攻を仕掛けるみたいだよー。小さく呟いてたの聞こえてラッキー♪」
円陣を組む桜見メンバーへ与一は向こうの作戦を伝えた。
「おいおい、向こうから作戦のネタバレ言ってくるってあるのかよ」
それを聞いて霧林は若水口のキャプテンが相当抜けてると、敵ながら大丈夫かと思ってしまう。
「てな訳で最初から速攻に備えていこうー、桜見GOGOファイー!」
「違う違う違う、GOGOいらないってー!」
何時もの掛け声にアレンジを加えた与一に、楽斗からのツッコミが入る。
「力の抜ける円陣……」
竜斗の気合を入れる円陣とは違い、与一のはグダグダな円陣となっていた。
影二は密かに呟き、彼としては嫌いではないやり方だ。
「では桜見ファイー!」
「「オー!!」」
ぐだった儀式となるが、全国初のスタメンで緊張していた2年の海東や若葉にとっては結果的にリラックス効果が生まれる。
『(与一、ちゃんと心読んだ事を伏せたね)』
『(そういうのは父さんにキッチリ教わってるからー)』
2人は父、弥一から「心が読める事に関しては人に言っちゃ駄目」と教えられていた。
その力は自分達ぐらいしか持たず、言っても信じてもらえなかったり変な目で見られてしまうからだ。
それを理解し、双子は適当に理由を付けたりと誤魔化す事を覚えたり、同時に狡賢さも身に着けていく。
桜見イレブンは与一の言葉を信じて速攻を警戒する。
ピィ────
『若水口からのキックオフで試合開始、これは全体が前へと上がっていく!』
『いきなり攻撃に出てきましたね若水口は』
開始から中盤でボールを繋ぎながら、相手の黄色いユニフォームを着た選手達が一斉に前へ進む。
右の御手洗は味方FWを追い越す勢いで、右から上がっていた。
「(来てる、て事は!)」
相手キャプテンのサイドから迫る姿が見えた若葉は次のプレーを読む。
『右の御手洗も開始から上がってパスが、っと倉本インターセプトだ!』
『良い読みしてますね。相手の奇襲を落ち着いて見てますよ』
中盤から右へパスが出た時、若葉は来るだろうと御手洗に迫ってパスコースに飛び込んでいた。
ボールを取った若葉と同じサイドにいる室岡の目が合えば、彼は理解したかのように左サイドを走り出す。
『倉本から左サイドの室岡へ! 若水口の奇襲を潰した2年から2年に繋がる!』
『左の室岡君と倉本君、良い連係ですね。ゴール前チャンスですよ!』
若葉からのパスをトラップした室岡が海東と目が合う。
先程の若葉と同じくアイコンタクトを交わした後、室岡は左足でフワリとボールを浮かせた。
相手DFとGKの空いたスペースへと行き、海東がDFの裏を抜けて走る。
若水口のDFがオフサイドだと手を上げるが、旗は上がらない。
「ぐおおっ!!」
相手GKも飛び出してボールをクリアしようと迫り、海東は懸命に右足を伸ばした。
スパイクの爪先が球に触れると、前へ出て来たGKの左脇を抜けてボールが転がって進む。
これに相手DFが追っていくも、ゴールマウスの中にまで進んで主審がゴールを認める。
「いよぉぉぉし!!」
全国大会で初ゴールを決めた海東は嬉しさが爆発して叫ぶ。
「ソウー!」
「やったー!!」
先制点の海東へ室岡、若葉も駆け寄って2年達が抱き合って喜ぶ。
『(やる気のある選手は積極的に使うべきだね♪)』
『(モチベ高い選手は高いうちに使うもんだよねー♪)』
彼らのモチベーションの高さを最初から分かっていた与一と輝羅。
そういう気持ちも勝つ為に活用し、結果として先制点を決めてくれた。
開始僅か2分程の出来事だ。
与一「僕達の後輩もやるもんだねー」
神奈「それなんだけど、兄さん達が入った時から向こうはサッカー部にいたし、部としては向こうが先輩にならない?」
輝羅「あ〜、そういえば僕達は3年だけど部に入ったのって僕達が新しいからー……あっちが先輩になっちゃう?」
与一「というか竜斗も楽斗もヤミーも全員先輩になっちゃうじゃん〜」
輝羅「サッカー部としては僕達が1番後輩になるからなぁ。次回も桜見と若水口との試合、1点からどうなるかなー?」




