全国大会開幕戦 桜見VS林王4
「やられた……くそぉ……!」
「あそこ競り勝ってれば……!」
竜斗を中心にゴールを喜び合う桜見に対して、林王の方では失点の悔しさが守備陣から溢れ出ていた。
「大丈夫大丈夫! まだ立ち上がりにリードを許しただけだろ? 俺達の攻撃なら2点や3点は取れるはずだ!」
嫌なムードが漂い始めるチーム内で栗石は声を上げて励まし、気持ちの切り替えをさせていく。
此処で呑まれてしまえば、流れが完全に傾いて負けだと。
『さぁ、桜見の先制で試合が動き出して林王は攻めるしかない! 自慢の攻撃力が炸裂するのか!?』
『此処は栗石君を中心とした攻めが本領発揮してほしいですね』
試合が再開されて、林王の紫の波が桜見ゴールへ迫って来る。
次々とボールを繋いで迫るが──。
「(来た……!)」
『闇坂インターセプト! 栗石のパスを通さない!』
影二がターゲットへ忍び寄っていた時、栗石からのボールが来たので右足を伸ばしてパスを奪い取った。
「(くそ! 何時の間に居たんだ!?)」
多くの敵と味方で中盤は混戦となり、その中に影二は溶け込んで自らの存在を消す。
本人は狙って気配を消した訳ではないが。
「何か皆の動きが良くない? レベルアップしちゃった?」
「というより、桜見の運動量が落ちなくて林王の方がスタミナを消耗してる気がします」
ベンチで試合を見守る神奈、遊子から見て桜見の選手達がよく動き、林王の運動量が落ちているように思える。
「(お父さんの走り方やプレーの見直しが活きてるのかも……石立戦だと、この辺りでバテる人が結構いたから)」
関東大会決勝の時と比べ、桜見の選手内で足が重くなって鈍る選手は少ない。
再交代を活用してるのもあって、後半を戦うスタミナは残っていた。
ピィ────
『あーっと! またオフサイドに引っかかった林王! 中々スルーパスを活かす事が出来ない栗石!』
「はぁっ……はぁっ……」
此処まで攻守で走り回りプレーに関わり続け、時に声を出して励ましたりと奮闘を続けた栗石だが、彼にも疲労がついにやってくる。
「(桜見は……後半に落ちて来るはずなのに、何だこのスタミナは……!? 夏に体力強化の特訓をしてきたのか……!?)」
下調べでは桜見が終盤に落ちて来ると、データを手に入れていた。
しかし今の桜見は明らかにデータと異なり、後半の運動量が大きく落ちてはいない。
逆に林王の方が大きいぐらいだ。
「おい! しっかりしろって!」
ベンチで10分以上休んだおかげで、大きく声を出せるぐらいには回復してきた夏樹。
足が止まったり下を向くチームメイト達へ、前を向けとベンチから声を出す。
「(出すか……? いや、もう少しだ。残り5分か10分辺りで投入した方が良い)」
林王の監督は夏樹の状態を見た後で右手の腕時計を確認し、再交代のタイミングを待っていた。
オフサイドを取った後、セットされたボールに輝羅が向かう。
GKのキックで高く上げて竜斗の頭を狙うものと思われる。
次の瞬間、輝羅の口元に笑みが浮かぶ。
彼らの読みを嘲笑うかのように、右足で蹴られた球がグラウンダーで低空飛行のまま、放たれた矢の如く林王ゴール前へ向かう。
『神明寺輝羅、これは低いボール! 受け取った赤羽、前を向く!』
目の前に居た桜見や林王選手達の間を通過して、針の穴を通す正確なコントロールだけでなく、速さも兼ね備えた球は瞬きする間も与えない。
あっという間に最前線の竜斗へ渡り、前を向くと目の前の海本を前に左足でシュートに行こうとする。
それを海本はブロックに飛び込むが、竜斗は左足で小さく右へと転がすキックフェイントで躱す。
前が空いた瞬間、本命の右足を振り抜く。
豪快なシュートに関田の広げた両手も及ばず、大きくゴールネットが揺れ動いた。
『2点目ー!! 後半なんと赤羽2ゴールをマーク! それもアシストしたのはGKの神明寺輝羅だ!!』
『今のパスはまた凄いですね……! これはプロレベルじゃないですか?』
1点目の時よりも更に盛り上がる試合会場。
またしても竜斗の周囲に人が集まり、ゴールを喜んでいた。
「輝羅、さっすがぁ〜♪」
「これくらい当然だって♪」
与一は輝羅へ抱きつき、双子同士で追加点にはしゃぐ。
2ー0、後半の15分に林王を突き放すゴールを決めて、桜見が勝利を大きく手繰り寄せる。
一方、ダメ押しに等しいゴールを決められた林王に重苦しい雰囲気が、フィールドの選手達だけでなくベンチからも漂う。
「(FKが蹴れるのは見たけど、あんなパスまで出せるのは聞いてねぇぞ……!)」
「(つか桜見こんな強かったのか……!?)」
林王の選手達は大半が、想定以上だった桜見の実力に驚かされてしまう。
加えて優勝候補と言われた自分達が2点も先行され、そのショックも小さい物ではないせいか。
「しっかりしろ! 前を向け! 呑まれてるぞ相手に!!」
林王の選手達の様子を見て監督が選手達に叫ぶ。
「そうだ、終わってないぞまだ! 諦めるのは早い!」
2点ビハインドに栗石まで折れかけていたが、どうにか監督の言葉で前を向く事が出来た。
『(もう手遅れだよねぇ?)』
『(無理に前を向いてるって感じがするなぁ、大抵の選手達)』
必死に彼らが前を向く心も与一、輝羅が掌握している。
栗石や何人かの選手達が諦めていないものの、他の者は心が折れかかった状態。
なら徹底的にへし折ってやろうと、双子は揃って悪い笑みを見せていた。
『此処も大橋が頭で跳ね返す! 宮村クリア!』
「その調子ー! 10番以外を頼むよー♪」
与一は守備で良いプレーを見せた大橋、宮村の2人を褒める。
動きの重い林王選手達を他に任せ、与一の方は栗石に目を向けて逃さない。
「ほら、どうする? またスルーパス狙っても良いんだよ?」
「っ……!」
「出せないか、1番頼れる彼が下がったら何も出来ないよね♪」
容赦無い与一の言葉を次々と浴びせられ、栗石はギリッと歯を食いしばるしかなかった。
この試合でスルーパスは1本も決めていない。
与一がそれを誘ってくるのは、蹴らせてオフサイドで奪うもりだろう。
そう思って栗石は悔しさを抱えながらも、誘いには乗らない。
「(くそぉ……夏樹が出てくれば!)」
自分のパスを最も活かして決めてきたのは夏樹。
彼さえ戻ってくれば、忌々しく立ち塞がる厄介な壁を破れる。
ボールがタッチラインを割って、林王のスローインとなった時──。
『林王は選手交代、此処でついに南田夏樹が戻ります!』
『これはまだ分かりませんね。彼の足が復活して桜見を揺さぶっていけば、2点追いつく可能性ありますから』
「(好き放題やってくれやがって神明寺兄弟め……!)」
自分がいない間に2点を取られ、チームが劣勢に追い込まれると夏樹はギラッと与一、輝羅の顔をそれぞれ見た。
『(まだ彼やる気満々みたいだよー)』
『(だったら最後に彼の意地を跳ね返していこうか)』
双子はゴールを狙って来るであろう、夏樹の目を見ていた。
絶対追いついて自分達を叩き潰してやろうという、勝利にギラついた目。
神明寺兄弟は彼の挑戦を真っ向から受けて立つ。
神奈「やっぱり兄さん達、主人公って感じしないね」
与一「相手の方が最後まで諦めないとか、なってるからなぁ〜」
輝羅「僕らは点を取られないから何時も追われる方になっちゃうから。それで敵役っぽくなっちゃうよねー」
神奈「かと言って点を取られる気は無いでしょ?」
与一「全く無いよ」
輝羅「そんなの1点もやるつもりないって。次回は桜見と林王の終盤戦! 彼の意地はどうなるかなー?」




