お好み焼きで交流
「ほら、此処が穴場や」
烈気の案内で神明寺兄妹の3人は大通りから狭い路地の通りへ出て、そこにもお好み焼き屋はあった。
趣を感じさせる老舗感の漂う店は王球という名で営業中。
そこに烈気は慣れた様子で店へ入っていく。
「ただいま〜、帰ったで〜」
「おお烈気お帰りぃー」
「おう、烈坊ちゃんのお出ましやぁ〜」
店内には中年の男性と女性がお好み焼きを焼いており、常連らしき年配客達へと振る舞う姿が見られた。
「確かにお好み焼き屋だけど〜。ひょっとしなくても此処って君の家かな〜?」
「ええ勘しとるやないか、やっぱ神明寺の血筋はちゃうなぁ」
「いや、勘も何も「ただいま」と「お帰り」でネタバレかましてるからねー?」
与一に対して良い勘だと褒めたが、その烈気に輝羅は軽くツッコミを入れる。
「アカンアカン、ツッコむなら勢い良く来てくれんと! ボケが笑い起こせんまま活きんてー」
「気ぃつけや坊ちゃん、今の間は大阪のプロの劇場やと大スベリやで?」
ツッコミが甘いと烈気だけでなく、常連客も一緒になって教えていた。
「そうなんですかー? お笑いって難しいなぁ〜」
「いや、輝羅兄さん。私達お笑いを学びに来たんじゃないからね?」
何時の間にか笑いを学ぶ場になりつつある状況に、神奈は静かにツッコミを入れていた。
「ああ、親父! この子ら美味いお好み焼きを食べに東京から来たお客さんやから、食わせたってくれへん?」
「おー、烈気が友達連れてきた思たら東京からのお客さんかい」
「せや、それもあのサッカーで有名な神明寺弥一の子や!」
「なんやてぇ!?」
神明寺弥一の子、それを聞いてお好み焼きを焼いている烈気の父親はギョッと驚く。
「何か父さんだけじゃなく僕達も有名になってきたっぽいかなー?」
「多分この前の雑誌取材が影響してるんだと思う」
常連客も珍しそうな目を向けて、与一と神奈は自分達が注目されている事に気づいた。
「皆、此処じゃ目立つから奥の席に行きぃ」
「あ、はい。お姉さんありがとうございます♪」
「あら、子供やのに上手やなぁ〜!」
気遣ってくれて烈気の母親が奥の席に案内してくれると、輝羅が笑顔で礼を言う。
お姉さんと言われて向こうは満更でもなさそうだ。
「親父が神明寺弥一のファンなもんでなぁ……その子供の君ら連れて来たら喜ぶかと思たんや」
奥の席で神明寺兄妹と共に座り、烈気は彼らを街中で見つけた時に此処へ連れてくる事を思いつく。
彼にとっては幸運な事にお好み焼きを欲していたので、実家のお好み焼き屋へスムーズに案内が出来た。
「あ、此処のお好み焼きはちゃんと美味いから間違いないで! そこは嘘つかへん!」
「分かってるってー♪」
烈気の心を覗けば、自分の家のお好み焼きが1番美味いと思っている事は与一にすぐ分かる。
それなら自慢のお好み焼きを堪能してみたいと興味が湧く。
「お好み焼きお待ちぃー!」
「「わ〜」」
鉄板の上で焼き上がったばかりの、お好み焼きが丸々1枚大皿に乗った状態で運ばれてきた。
初めて見る本場のお好み焼きを前にして、双子は目を輝かせる。
「これは……食欲を唆る香り、いただきます」
「「いただきまーす♪」」
たっぷりかかった店の特製ソースの匂いが食欲を強く刺激させ、3人は手を合わせてから箸で食べ始めた。
「めっちゃ美味しい〜♡」
「ん〜、豚肉にキャベツにエビと相性最高〜♪ソース良い〜♡」
「1枚じゃ足りないかも……美味しい」
それぞれが美味しく感じて食が止まらなくなり、夢中になってしまう。
「せやろー? うちの自慢のお好み焼きや。遠慮せんで食べぇ」
自分の家の自慢であるお好み焼きを美味しそうに食べてもらい、烈気の方は誇らしい気持ちになりながら、自らも出されたお好み焼きを食す。
恵まれた体格を持つ彼にとって、大きな1枚を1人で完食するのは余裕だった。
「はぁ〜、お好み焼きと焼きそばの組み合わせ最高〜♪」
「特にソースが絡むと一段と美味しくなったり、もっと早く大阪来ればよかった〜」
美味しく大阪名物を堪能した双子、隣では神奈も満足している様子。
「その上お好み焼きはアスリートにとっての必要な栄養素がとれるんや。美味しく強くなるって最高やろ」
新幹線で与一が言っていた豆知識を烈気も胸を張って説明する。
既に聞かされているが、神奈は伏せて彼の話を聞く。
「良いんですか? 私達は名西寺にとって厄介な敵と思われますが……」
「今は敵でも、この先で仲間になるかもしれんやろ。日本代表とかな」
神奈の言うように今は桜見と名西寺は優勝を争うライバル同士。
だが、それより先を烈気は見据えていた。
もっと広い世界を。
「親父がサッカーに興味持ち始めたんは若い頃、U-20ワールドカップを見てからでなぁ。それまでは野球一筋やったそうや」
「それって、うちの父さんが居た時の?」
「御名答。異次元の魔術師ディーンのいるエグい強さを持ったイタリア相手に優勝した時で、そん時に見た神明寺弥一のプレーに惹かれたそうや」
以前にテレビで再放送として流れたのを3人は見た事がある。
歴代最強の高校世代と言われていたU-20日本代表、その中で弥一を中心に日本は決勝でイタリアと戦っていた。
そして日本の優勝、最強のカテナチオを打ち破った者達として彼らの名は世界に知れ渡る。
烈気の父親は、その時見た弥一の姿に衝撃を受けたのだろう。
「君ら双子のプレーも中々どえらいもんやったで? 関東天下の石立相手に下剋上達成しとるし、どっかの世代とかで絶対選ばれるやろ」
「そういう君も選ばれる自信ありそうだねー」
与一は烈気の心を見ていた。
自分の力に自信を持っていて、自らも日本代表に選ばれる事を信じて疑わない。
「選ばれたら同じ釜の飯を食う仲や。今から仲良うしといて損はないと思うで? かと言って全国で当たったら加減はせんけどな」
「それ、口元に青のり付いてなかったら決まってたのになぁ〜」
「え? あ、マジか! 女子の前で俺むっちゃダサいやん!」
綺羅にお好み焼きを食べた後だろう、口元の青のりを指摘されて烈気は慌てながら綺麗に取る。
「そういう兄さん達も付いてるし」
「嘘〜? って神奈も口元にソースの後」
「 ……! お手洗い行ってくる……!」
与一に今の自分の状態を伝えられた神奈は恥ずかしくなって、顔を赤くすると席を立って汚れを落としに向かう。
「じゃあ、お会計しとこうかなー。すみませーん、此処キャッシュレス行けます〜?」
「うちは現金やけど代金はええわ! 烈気の友達やし、それに神明寺弥一の息子にお好み焼きご馳走したのは自慢なるしなぁ!」
輝羅がスマホを使って代金を払おうとすると、烈気の父親からはタダで良いと言われる。
「あ、代わりに色紙へサイン頼むわ! 君ら有名になるんやったら超レアになって店の目玉になりそうや!」
「え〜、そんなレアかは分かんないですけど良いですよ♪」
お好み焼きがタダになるならサインの1枚ぐらい、お安い御用と与一、輝羅は2人で1つの色紙にサラサラっとサインを書いていく。
『此処のお好み焼きと焼きそばマジ美味い! 神明寺与一&輝羅』
「何時の間にこんなサインが……」
神奈が戻って来ると、店の壁には新たに双子のサインが飾られていた。
「流石親父やなぁ、商魂逞しいわぁ」
「効果あるかは分かんないよー?」
父親の商売根性に感心する烈気の横で輝羅は父親と違い、自分達のサインで客は来ないのでは、と考えている。
「ま、それでも君らの活躍次第でお宝に化けるかもしれんやろ。ほな本戦で会えたらええな」
「いきなり1回戦で当たらない事を祈るよー」
「もうフラグ立っとるっぽいでそれ」
お好み焼きをご馳走してもらった烈気や家族、そして常連客達に挨拶を済ませて3人は宿泊するホテルへ戻っていった。
この後、勝手に抜け出してお好み焼きを食べに行った事に関して、顧問の遊子から注意を受けたのは言うまでもない。
与一「先生に怒られた〜」
神奈「当たり前だと思うよ……勝手に行動してご飯食べに行っちゃったし」
輝羅「この分だと、こっそり抜け出して大阪観光も無理そうだ〜」
与一「とりあえず大阪の名西寺みたいな強豪校が全国に居るんだねー」
輝羅「そうなるねー。次は全国大会の開会式! 僕達の相手は誰になるかなー?」
与一「これでいきなり名西寺になったりしてねー」




